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5.【私は】【俺は】─── この時をずっと待っていた
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力任せに握っているからレンブラントの上着は、きっと皺になってしまうだろう。
しかしその持ち主は、ベルの手を振り払うことはしない。されるがままでいてくれる。しかも、混乱する気持ちを落ち着かせるかのように、そっと手を伸ばして背を撫でてくれる。
だからベルは、勇気を振り絞って、推定親族であるガドバルトに声を掛けることができた。
「......あのぉ、間違っていたらごめんなさい。もしかしてガドバルトさんは、私の」
「伯父だ。私は、君の産みの母親であるランネットの兄だ」
ベルの言葉を引き継ぐかのように、ガドバルトは早口で言った。もう迷いを振りきった顔だった。
対してベルは、更に混乱する。ただ何か返答すべきだろうと判断した結果、つい見たままを口にしてしまった。
「......あまりお母様と似ていないですね」
「ああ、私は父親似で、ランネットは母親似だからな」
「そうですか。あと、ガドバルトさんは、ダミアンさんとも似ていないような気がします」
「ああ、アレは妻に似た。性格は......どうだろう。妻はアレほどちゃらんぽらんではない」
「そうですか。まぁ......性格は受け継ぐものではないですから」
「そのようだな」
「ええ。そうです」
「......ああ」
二人の上滑りする会話に、レンブラントは堪えきれないといった感じで、拳を口許に当てぷっと吹き出す。
しかし鬼の形相でガドバルトに睨まれ、軽く咳払いをしてそっぽを向いた。でも、ベルの元から離れることはしない。背に回したても、ずっとそこにある。
「ベル、すまなかった」
「はい?」
背にあるレンブラントの手に意識を持っていかれていたベルは、不意にガドバルトから謝罪を受け、間の抜けた声を出してしまった。
「......えっと、ガドバルトさん......いえ、ガドバルトさまは何を謝っておられるのですか?」
謝られる心当たりが無いし、むしろこの窮地を救ってくれた一人でもある彼には感謝の気持ちしかない。そんな気持ちから、ベルはこてんと首を倒して尋ねてみる。
そうすればガドバルトは、痛みを堪えるような顔付きになる。
「私がつまらない意地を張っていたせいで、君を辛い目に合わせてしまった。......すまなかった」
「......つまらない意地?」
「ああ。ランネットが死んでから、君の父であるラドと......その......後妻の件で、少し仲違いをしてしまってな。ずっと連絡を経っていた。彼が死んだ後も、大人げ無く意地を張り続けてしまっていた。だから......結果として君を見捨てるような真似をしてしまっていた」
辛そうに語るガドバルトを見て、ベルは彼が自分と同じ気持ちでいたことを知る。
だから笑って、こう言った。
「そんなこと気にしないでください。私もついさっきまで父のこと嫌いだったんで」
「......嫌いだったのか?」
「はい。女にだらしなくて、嘘つきで、軍人だったから」
茶目っ気たっぷりにベルが亡き父を詰れば、ガドバルトは「酷い言われようだな」と苦笑した。
でもベルが本気でそう言っているわけでは無いことはわかっている。
父親を悪く言ったのは、彼女なりの気遣いであり、突然現れた叔父を精一杯受け入れようとしているからで。
だからガドバルトは、ベルと同じように笑った。
「そうか。ちなみに私は軍人ではない」
「そのようですね。だから、嫌う理由はありません」
更に笑みを深くしたベルは、レンブラントの上着から手を離し、まっすぐにガドバルトと向き合う。
「ガドバルト伯父様、私を探してくれて......そして、会いに来てくれてありがとうございました」
深く腰を折ったベルに、ガドバルトは泣き出す寸前の子供のようにくしゃりと顔を歪ませた。
しかしその持ち主は、ベルの手を振り払うことはしない。されるがままでいてくれる。しかも、混乱する気持ちを落ち着かせるかのように、そっと手を伸ばして背を撫でてくれる。
だからベルは、勇気を振り絞って、推定親族であるガドバルトに声を掛けることができた。
「......あのぉ、間違っていたらごめんなさい。もしかしてガドバルトさんは、私の」
「伯父だ。私は、君の産みの母親であるランネットの兄だ」
ベルの言葉を引き継ぐかのように、ガドバルトは早口で言った。もう迷いを振りきった顔だった。
対してベルは、更に混乱する。ただ何か返答すべきだろうと判断した結果、つい見たままを口にしてしまった。
「......あまりお母様と似ていないですね」
「ああ、私は父親似で、ランネットは母親似だからな」
「そうですか。あと、ガドバルトさんは、ダミアンさんとも似ていないような気がします」
「ああ、アレは妻に似た。性格は......どうだろう。妻はアレほどちゃらんぽらんではない」
「そうですか。まぁ......性格は受け継ぐものではないですから」
「そのようだな」
「ええ。そうです」
「......ああ」
二人の上滑りする会話に、レンブラントは堪えきれないといった感じで、拳を口許に当てぷっと吹き出す。
しかし鬼の形相でガドバルトに睨まれ、軽く咳払いをしてそっぽを向いた。でも、ベルの元から離れることはしない。背に回したても、ずっとそこにある。
「ベル、すまなかった」
「はい?」
背にあるレンブラントの手に意識を持っていかれていたベルは、不意にガドバルトから謝罪を受け、間の抜けた声を出してしまった。
「......えっと、ガドバルトさん......いえ、ガドバルトさまは何を謝っておられるのですか?」
謝られる心当たりが無いし、むしろこの窮地を救ってくれた一人でもある彼には感謝の気持ちしかない。そんな気持ちから、ベルはこてんと首を倒して尋ねてみる。
そうすればガドバルトは、痛みを堪えるような顔付きになる。
「私がつまらない意地を張っていたせいで、君を辛い目に合わせてしまった。......すまなかった」
「......つまらない意地?」
「ああ。ランネットが死んでから、君の父であるラドと......その......後妻の件で、少し仲違いをしてしまってな。ずっと連絡を経っていた。彼が死んだ後も、大人げ無く意地を張り続けてしまっていた。だから......結果として君を見捨てるような真似をしてしまっていた」
辛そうに語るガドバルトを見て、ベルは彼が自分と同じ気持ちでいたことを知る。
だから笑って、こう言った。
「そんなこと気にしないでください。私もついさっきまで父のこと嫌いだったんで」
「......嫌いだったのか?」
「はい。女にだらしなくて、嘘つきで、軍人だったから」
茶目っ気たっぷりにベルが亡き父を詰れば、ガドバルトは「酷い言われようだな」と苦笑した。
でもベルが本気でそう言っているわけでは無いことはわかっている。
父親を悪く言ったのは、彼女なりの気遣いであり、突然現れた叔父を精一杯受け入れようとしているからで。
だからガドバルトは、ベルと同じように笑った。
「そうか。ちなみに私は軍人ではない」
「そのようですね。だから、嫌う理由はありません」
更に笑みを深くしたベルは、レンブラントの上着から手を離し、まっすぐにガドバルトと向き合う。
「ガドバルト伯父様、私を探してくれて......そして、会いに来てくれてありがとうございました」
深く腰を折ったベルに、ガドバルトは泣き出す寸前の子供のようにくしゃりと顔を歪ませた。
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