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3.毒舌少女は捨てたいソレを手放せない

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 どうして、神様はこんなに意地悪なんだろう。
 どうして、思うようにいかないことばかりなんだろう。

 誰も傷つけたくない。死んでほしくない。
 守りたい。守らせて欲しい。

(たったそれだけのことしか望んでなんかいないのに、私には過ぎたる願いなのかなぁ……)

 ベルはレンブラントに背後から抱きしめられた状態で必死にもがき、暴れ、その腕に噛み付いた。

 でも、背後からの温もりは消えてくれない。手加減なくそうしているから、きっとものすごく痛いはずなのに。

「離して!!」
「無理だと言っているのが、聞こえないのか。いい加減諦めろ」

 静かにベルの言葉を否定するレンブラントの声はとても苛立っている。

 なのに、可能な限りベルの背中と脇腹の傷に身体が当たらないよう配慮してくれている。その配慮が妙に癪に触る。

 この人はまだまだ余裕があるのだ。ならその余力を、逃げることに使って欲しい。でも、彼は今、仕事中だ。
 
(ああ、そっか。なら、護衛対象を見捨てても咎められない理由を作ってあげればいいんだ)

 その年にしてはそこそこ冷静に物事を判断できるはずのベルは、不測の事態が続き過ぎてとても混乱していた。

 だがそれを指摘してくれる者はここにはいない。

 だからベルは、呆れるほど見当違いな方法を選んでしまった。

「私、変態ロリコン軍人に触られたくなんですよっ。気持ち悪いっ、不快なんですっ。今すぐどっか行って!!」

(───……ああ、半分くらいは本当のこととはいえ、我ながらなんてひどい言葉を吐いているのだろう)
 
 ベルは、僅かだけ良心が痛んだ。と同時に、激高したレンブラントが今すぐ自分を捨てて逃げてくれと必死に祈る。

 けれどベルの毒に慣れているレンブラントが、この程度で怯むことも、激高することも、まして見限ることもするわけがなかった。

「……黙れ」
「嫌だ!!」
「黙れっ」
「やだ!!」

 まだそんなことを言うのかと呆れ交じりの息を吐くレンブラントは、癇癪を起こすベルを抱き込みつつ、忙しく視線を動かす。

 この騒ぎでしっかり手練に場所を確認されてしまったのだろう。

 その証拠に雨音に紛れた足音はまっすぐこちらに向かってきている。しかも最悪なことに手練の数が増えている。 

 ダミアンの身に何かあったのだろうか。
 それともラルク達がいる軍管轄の宿屋の方でだろうか。

 得られる情報は皆無に近い。けれど今のレンブラントは、その僅かな情報だけで迅速な判断が求められている。

「……ベル、頼むから黙ってくれ」

 懇願に近い口調でレンブラントはベルに囁く。

 今すぐベルが口を噤んでくれなければ、強硬手段を取らなければならないからだ。

 だがしかし、ベルは激しく首を横にふる。そして再び「離せ」と叫び出す始末。

 レンブラントは咄嗟にベルの口を手のひらで覆う。すぐに「うーうー」と、言葉にならないうめき声が漏れる。

 これはどれだけ言っても無駄だと判断したレンブラントは、やむを得ず口封じの強硬手段を取ることにした。

 正面から抱きしめる形を取ったレンブラントは、片手でベルの口を塞いだまま、素早く反対の手で顎を掴んだ。

「黙らないあんたのせいだかからな。───……悪く思うなよ」

 ベルの耳に落とされたそれは、最後通牒にしては、随分と責任転嫁した内容だった。けれど、ベルはそれに対して文句を言うことができなかった。

 なぜなら、物理的に口を塞がれてしまったから。

 レンブラントの手のひらではなく───唇で。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 こういうのって、火事場泥棒って言うんでしょうか?? BY作者
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