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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい

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「……ベル、あんたは」
「気安く呼ぶのやめてくれませんか?」

 震える声でレンブラントが尋ねようとした途端、刃物より鋭い声で遮られてしまった。

 次いで「終わりましたか?」という言葉と共に手を離そうとする気配がして、レンブラントは慌ててベルの手を握る力を強めた。

 そして聞きたいことも言いたいことも色々あるが、一先ず手当てをすることを優先した。

 
 手のひらをあっという間に包帯に覆って、次いで額と頬に傷薬を塗る。

 額には厚めのガーゼを当て包帯でしっかり固する。頬はさすがに包帯を巻くことができないから、細心の注意を払ってガーゼを張り付ける。

 レンブラントは軍人だ。だから応急処置に長けている。しかし、これまで何度も傷の手当を受けてきたけれど、今回ばかりは拍手を贈りたくなるほど手際が良い。

 でも本当は、こんなことなんてしたくなかった。

(何が悲しくて惚れた女の傷の手当なんてしないといけなんだ。くそっ) 

 彼女に触れたくないわけではない。いや、むしろ触れたい。

 ベルの撫子色の髪を指で梳きたいと思うし、悪態ばかり吐く花びらみたいな唇を親指の腹で撫でて塞ぎたいとも思う。

 馬車が跳ねる度に揺れる華奢な肩に手を回して支えたいと思うし、いっそ己の膝に乗せてそのまま抱きしめたいと思っている。

 ただ、そこには他人の手で傷つけられた彼女に触れるという前提は含まれていないのだ。

 レンブラントは傷らだけのベルを見て、不意に泣きたくなる。

 負傷者なんてそれこそ嫌というほど見てきたというのに、初めて見た時の衝撃より胸が苦しく、言葉にできない激しい感情が暴れて始末に負えない。

 それでも、手当てする手は止めない。



「─── よし、終わったぞ」
「あ、どーも、ありがとうございました」

 ぺこっと頭を下げて、ベルは立ち上がろうとする。おそらく自分を追い出すべく扉へ行こうとしているのだろう。

(はっ、誰が出ていくか)

 レンブラントは心の中でそんな言葉を吐き捨てて、ベルをぎろりと睨みつけた。

「どこに行こうとしているんだ?まだ終わってないぞ」
「は?だって今、終ったって」
「ああ。手のひらと、額と頬はな。次は背中と脇腹だ。ほら、寝ろ」
「はぁあああ!?」

 とんっと華奢な肩を軽く押した瞬間、ベルは絶叫した。



***




「背中と脇腹の手当をする」


 それがどういうことか分かった途端、ベルの頭の中は大混乱をおこした。

 確かに背中と脇腹は、クルトに踏ん付けられたり蹴られたりした。きっと痣になっているだろう。でも、そんなもの慣れっこだし、打ち身なんぞ放置しておけばそのうち治る。

 いや、そうじゃない。一番問題なのは、背中と脇腹を手当てするっていうとは……

「裸になれっていうことですか!?いやー!! 最低っ、ド変態っ、ロリコン軍人は今すぐ出て行ってください!!」

 ベルは有らん限りの声で叫ぶと、レンブラントから距離を取ろうとした。

 けれど、レンブラントは素早い動きでベルをベッドにうつ伏せにする。

「あのなぁ。誰がロリコンで、変態なんだ」
「あなたしかいないでしょ!?自覚してください!!」

 ベルはうつ伏せにされながらも必死にもがく。

 だが、レンブラントは戸惑うことなく暴れるベルの腕を一つにまとめると枕の上に押しつけた。そして、反対の手で背中のボタンを外していく。

(さすが軍人、拘束するのがお上手だ。そして、さすが変態。器用に服を脱がせてくれますね……んなわけあるかっ)

 当然、ベルが賛辞を述べるわけがない。

 身動きが取れなくなっても、ベルは必死に暴れる。そしてなぜ背中にボタンが付いている服に着替えたのだろうと酷く後悔した。あと、そんな服を送ったダミアンを呪った。

 だが、レンブラントの手は止まらない。目にもとまらぬ速さで腰まであるベルの部屋着のボタンを全部外したと同時に、何の躊躇もなくそれを開けた。

 次いで、これまた戸惑うことなくシュミーズのリボンを解いてしまった。

「嫌だっ、変態! もう、離してってば!」
「ああ。傷の手当が済んだらな」

 以前と同じやり取りをしていることにベルは全く気付いていない。

 異性に服を脱がされるという人生初めての破廉恥事件で我を忘れてしまっているのだ。

 だからその場にいなかったはずのレンブラントが、どうして背中と脇腹に傷を負っているのを知っているのか……。

 それに気付かなければならなかったのに、引っ掛かりすら覚えることができなかった。 
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