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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい
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ベルは必死に考える。この危機的状況をどう打破すべきかを。
(いや、考えるまでもなかった。こりゃあ、自分が逃亡するしかないっ)
幸い路銀はある。こう言ってはアレだが、金さえあれば飛ぶ鳥も落ちる。
───……じり、……じりり。
ベルはレンブラントに気付かれぬよう距離を取る。けれどその瞬間、
「お嬢ちゃん、動くな。あんたはそこにいろ」
クルトに向けるそれよりは柔らかい。だが、かなり厳しい口調で制止を命じられ、ベルの足は待てを命じられた犬のように止まってしまった。
焦りから、ベルの喉がこくりと鳴る。
地面に這いつくばるクルトの背には相変わらずレンブラントの足が乗っかっている。
こんなところに立ち止まらずに、逃げるなら今しかないのはわかっている。でもレンブラントから逃げ切るのは、かなり難易度が高いのも事実だ。
それに今、仮に逃げ切ることができても、この先間違いなく彼は追ってくる。そして逃げ切れる自信は……悔しいが、無い。
だからベルは発想を切り替えた。
あと、クルトは厄災しか生まない存在なだけれど、諸般の事情でまだ生きていてもらわなければならないし。
ならば───こうするしかない。不本意だが。本っ当に不本意だけれどっ。
「レンブラントさんっ、兄に乱暴するのはやめてくださいっ」
ベルは今にも泣きそうな顔を作って、レンブラントの元まで掛け戻ると崩れるように膝を付いた。次いでその長い足にしがみつく。
それから視線が同じになったクルトに『逃げろ』と口パクで伝えようとし……ようとしたけれど、僅かな隙をついてクルトはレンブラントの足から逃げ出した。
「おいっ、待て!」
「駄目!レンブラントさん、追わないでっ」
レンブラントは咄嗟にクルトの後を追おうと足を動かそうとする。けれど、ベルがしがみ付いているせいで、バランスを崩してしまった。
幸い持ち前の身体能力で転倒することはなかったけれど、クルトは予想以上に逃げ足が早くみるみるうちに小さくなっていく。
「ベル!!」
空気を引き裂くような怒声が降ってきてもベルの腕は、レンブラントから離れない。
「……あ、あんな奴でも、私にとって兄なんです」
ベルは目を閉じて震える声でそう言った。
嘘であっても、こんなことを口にして胸糞悪いと内心吐き捨てながら。
「あんな奴でも、か……」
幸いにもレンブラントはそれを都合よく解釈してくれたようで、これ以上怒声が降ってくることはなかった。
ただ、バタバタと地面を蹴りながら、複数の足音が背後から近づいてきた。
「隊長っ」
「いた!」
「……っ」
声の主たちを振り返って確認しなくてもわかる。市場ではぐれてしまったラルク達だ。
「……ベル、いい加減その手を離せ」
「嫌ですっ」
ベルはぎゅっとレンブラントの足を掴んだまま、首を激しく横に振った。そして彼を見上げて”ラルク達に追う命令を下さないで”と目で必死で訴える。
その申し出は、ため息交じりに認可された。
「わかった。わかったから……離せ。俺は女を跪かせる趣味はない」
「……はい」
言質を貰えたベルは嫌々ながらも、手を離す。
そうすればレンブラントは膝を付いてベルと向き合う形を取った。と、同時に大きな手をベルに伸ばす。
「……ひっ」
ベルは小さく悲鳴を上げた。
レンブラントの言葉を借りるなら自分は公務執行妨害をしてしまったのだ。だから絶対に殴られると思った。
でも伸びた手は殴ることなく、ベルの頬直前で止まった。
「痛むか?……いや、この腫れならかなり痛むだろう。すぐに手当てが必要だ。宿屋に戻るぞ」
痛々し過ぎて、触れることすら憚られる。そんな顔をして、レンブラントはベルの顔を覗き込む。
けれど反対の手は、己の背に回し、ベルに気付かれぬよう部下達に指示を送っていた。
(いや、考えるまでもなかった。こりゃあ、自分が逃亡するしかないっ)
幸い路銀はある。こう言ってはアレだが、金さえあれば飛ぶ鳥も落ちる。
───……じり、……じりり。
ベルはレンブラントに気付かれぬよう距離を取る。けれどその瞬間、
「お嬢ちゃん、動くな。あんたはそこにいろ」
クルトに向けるそれよりは柔らかい。だが、かなり厳しい口調で制止を命じられ、ベルの足は待てを命じられた犬のように止まってしまった。
焦りから、ベルの喉がこくりと鳴る。
地面に這いつくばるクルトの背には相変わらずレンブラントの足が乗っかっている。
こんなところに立ち止まらずに、逃げるなら今しかないのはわかっている。でもレンブラントから逃げ切るのは、かなり難易度が高いのも事実だ。
それに今、仮に逃げ切ることができても、この先間違いなく彼は追ってくる。そして逃げ切れる自信は……悔しいが、無い。
だからベルは発想を切り替えた。
あと、クルトは厄災しか生まない存在なだけれど、諸般の事情でまだ生きていてもらわなければならないし。
ならば───こうするしかない。不本意だが。本っ当に不本意だけれどっ。
「レンブラントさんっ、兄に乱暴するのはやめてくださいっ」
ベルは今にも泣きそうな顔を作って、レンブラントの元まで掛け戻ると崩れるように膝を付いた。次いでその長い足にしがみつく。
それから視線が同じになったクルトに『逃げろ』と口パクで伝えようとし……ようとしたけれど、僅かな隙をついてクルトはレンブラントの足から逃げ出した。
「おいっ、待て!」
「駄目!レンブラントさん、追わないでっ」
レンブラントは咄嗟にクルトの後を追おうと足を動かそうとする。けれど、ベルがしがみ付いているせいで、バランスを崩してしまった。
幸い持ち前の身体能力で転倒することはなかったけれど、クルトは予想以上に逃げ足が早くみるみるうちに小さくなっていく。
「ベル!!」
空気を引き裂くような怒声が降ってきてもベルの腕は、レンブラントから離れない。
「……あ、あんな奴でも、私にとって兄なんです」
ベルは目を閉じて震える声でそう言った。
嘘であっても、こんなことを口にして胸糞悪いと内心吐き捨てながら。
「あんな奴でも、か……」
幸いにもレンブラントはそれを都合よく解釈してくれたようで、これ以上怒声が降ってくることはなかった。
ただ、バタバタと地面を蹴りながら、複数の足音が背後から近づいてきた。
「隊長っ」
「いた!」
「……っ」
声の主たちを振り返って確認しなくてもわかる。市場ではぐれてしまったラルク達だ。
「……ベル、いい加減その手を離せ」
「嫌ですっ」
ベルはぎゅっとレンブラントの足を掴んだまま、首を激しく横に振った。そして彼を見上げて”ラルク達に追う命令を下さないで”と目で必死で訴える。
その申し出は、ため息交じりに認可された。
「わかった。わかったから……離せ。俺は女を跪かせる趣味はない」
「……はい」
言質を貰えたベルは嫌々ながらも、手を離す。
そうすればレンブラントは膝を付いてベルと向き合う形を取った。と、同時に大きな手をベルに伸ばす。
「……ひっ」
ベルは小さく悲鳴を上げた。
レンブラントの言葉を借りるなら自分は公務執行妨害をしてしまったのだ。だから絶対に殴られると思った。
でも伸びた手は殴ることなく、ベルの頬直前で止まった。
「痛むか?……いや、この腫れならかなり痛むだろう。すぐに手当てが必要だ。宿屋に戻るぞ」
痛々し過ぎて、触れることすら憚られる。そんな顔をして、レンブラントはベルの顔を覗き込む。
けれど反対の手は、己の背に回し、ベルに気付かれぬよう部下達に指示を送っていた。
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