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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい

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 ─── 事の起こりは、今を去ること10日前のことだった。

 嵐の前触れのような横殴りの雨の中、レンブラント一行はログディーダ砦へと向かっていた。

 そして馬車の中では、レンブラントが安定のしかめっ面でいた。


「おい、いい加減それを返してくれ」
「はぁー……”貰ったものは、返せないもの”っていう言葉、知らないんですか?」

 まるで出来損ないの生徒に補修授業をする教師のような口調でそう言ったベルに対して、レンブラントは青筋を立てる。

「俺はそれをやった覚えは無い。危ないから、とっとと返せ」
「はっ、嫌ですよ。ロリコン軍人と同乗しているんですよ?護身用の武器は必要じゃないですか」
「誰がロリコン軍人だっ。いいか俺はまだ20代だ」
「誰しも過ぎ去った時間を取り戻したいと思うときはあります。でも、現実を受け入れてください」

 ゆるぎない信念をもってベルが年齢否定すれば、当の本人はついに激高してしまった。

「ふざけるな!いつ俺が年齢詐称したんだ!?言っておくが俺はあんたには、一度だって嘘はついていないぞっ。なのに、なんだんだっ。まったく……じゃないっ。とにかく危ないから返せ。あんたが刃物を持っているっていうだけで、こっちは冷や冷やしているんだ」
「あー……いつ刺されるかわからないからですか?とうとう本性を現しましたね。このド変態軍人」
「馬鹿か。あんたがうっかり怪我をするかもしれないから、だっ!」

 このやり取りで察してしまう者もいるかもしれないが、レンブラントのロリコン疑惑事件から数日経ってもベルはずっと軍の紋章が入った短剣を持ち続けている。

 そしてレンブラントは、日に何度も返せと訴えている。が、今のやり取りを繰り返すだけで、ベルは一向に返さない。

 レンブラントの名誉の名誉の為に言っておくが、彼はくれてやるのが惜しいから言っているわけではない。華奢な少女が殺傷能力を持つコレを手にしているのが、危なっかしくて見ていられないのだ。

 だからかなりキツイ口調でベルに訴えているのだが、けんもほろろに流されてしまっている。

 レンブラントは、なんだかんだいってベルの毒舌を受け入れるほど器が大きい。でも、そんな人間にだって限度がある。

 そんなわけでレンブラントは、二度目の奥の手を使うことにした。

「……悪いが、強硬手段を使わせてもらうぞ」
「は?───……なっ」
 
 レンブラントはいきなり立ち上がると、ぐいっとベルの方に身体を押し出した。

 ベルが大柄な男が不意に近づけば、びくりと身体を竦ませてしまうことを知っていて、敢えてそうしたのだ。そしてその隙に、短剣を取り戻そうと思った。

 これは大変卑怯な手ではあるが、効率的で不毛な言い争いをしなくて済む方法である。

 しかしレンブラントは、ベルに覆いかぶさった途端、チェスの終局で逆転負けをしたような表情になった。

「───……降参だ。その短剣はあんたにやる」

 レンブラントは態勢を変えないままそう言った。

 なぜならレンブラントの脇腹には、鞘の抜かれた短剣が付きつけられていたから。もちろん短剣を持っているのはベルである。

 ベルは信じられないことに、あの短い時間に短剣から鞘を抜き、レンブラントの脇腹ギリギリに刃を当てたのだ。

 これは簡単そうで、なかなか難しい。
 刃物に慣れていなければ鞘を抜くのに躊躇してしまうし、抜いたところで加減がわからず服を切ってしまう。

 でもレンブラントの軍服は、ほつれ一つない。
 それはベルが日ごろから、鍛錬を積み重ねてきた証拠でもある。

 というわけで、レンブラントはもう冷や冷やする必要はなくなり、名実ともに短剣はベルの私物となった。
 





 
「───……なぁーるほどねぇ」

 事細かに詳細を語り終えた途端、ダミアンは深く頷いた。

「ああ。そういうわけなんだ……っと」

 レンブラントは喉の渇きを覚えて、グラスを持つ。けれど、いつの間にか飲み干したようで、空になっていた。仕方がないので立ち上がりチェストに向かう。それから酒瓶を手にして戻ろうとした。

 だが途中で、神妙な顔になったダミアンから、こんなことを言われてしまった。

「あのさぁ、10個近く歳の差のある女の子を好きになったら、20代でもやっぱロリコンになるんじゃないの?」
「……言うに事を欠いてそれか」

 あまりに的外れな発言に、レンブラントは手にした酒をダミアンにぶっかけてやろうかと思ってしまった。
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