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 もう一度、アイザックに会いたい。
 あの日、言葉にしてくれなかった答えをどうしても教えて欲しい。

 そう心に決めて、重い身体を引きずるように彼が現れそうな夜会や茶会を選んで出席をしてきた。けれども、彼の姿を見付けることはできなかった。

 自分はアイザックに、避けられている。

 3度目の夜会で彼が急遽欠席になったと誰かが口にしたのを聞いて、不安は確信に変わった。

 顔を合わせたら気まずいだろう。表面上はなにも無かったことにしても、いざその場に二人が居れば、あること無いこと囁かれるに違いない。

 そうならないためにアイザックは自分を気遣ってくれている。最後に笑い者にさせないと宣言してくれた通り、彼は今でも自分の為に心を砕いてくれている。

 会えない寂しさや辛さはあるにせよ、彼と繋がりを保てていることが素直に嬉しい。だって、それは可能性でもあるから。

 婚約を破棄された今でも、夢見てしまうのだ。何度も、何度も。アイザックと歩む未来を。馬鹿の一つ覚えのように。

 加えて半年たった今でも、彼は婚約発表をしていない。

 そうなると、どうしたって考えてしまうーーアイザックはもう一度自分とやり直したいと思っているのでは、と。

 だからあの日、聞けなかった答えを知りたい。その答えは、やり直す道しるべになるはずだから。

「ねえ見てごらん。月が隠れている。雨、降りそうだな」

 これから向かうのは、王城。王太子主催の夜会なら、アイザックとてさすがに欠席することは難しいだろう。

 そんなことを考えていると、向かいの席に座るメイソンが苦笑しながら夜空を指差す。

「……ええ、そうね。夜会の間はもってほしいわね」

 気の無い返事をしてもメイソンは、そうだねと言って無邪気に笑う。次いで、「なら明日は雨か」と呟き、うんざりした顔になる。

「癖毛には辛いんだよなー、雨って」
「そうなのですか?」
「ああ。俺の妹も癖毛なんだけど、明日は演劇を見に行くって言ってたから、今頃きっと癇癪起こしてるだろうな」
「まあ」
「だから今日は遅く帰ることにしよっかな。八つ当たりとはいえ、さすがに妹に向かって怒鳴るわけにもいかないし」

 あーあとぼやく割に、メイソンはどこか優しい表情を浮かべている。

 アイザックの友人とはいえ、メイソンとはこれまで交流が無かった。だから家族関係など知らなかったし、実のところ彼がどんな性格なのかも把握していない。

 でも、この短い会話のおかげで少し彼の為人ひととなりを知ることができた。

「もしよろしければ、今日のお礼に妹様にわたくしが使っている香油を贈らせてくださいませ。きっとお役に立てると思います」
「それは助かる。でも、妹に……だけ?」

 甘えるように身を乗り出し、上目遣いでこちらを見るメイソンにエステルは視線をさ迷わす。

「あいにく女性用の香油しかございませんので……それでよろしければ……」
「はっははっ、そうきたか」

 苦肉の策を口にした途端、なぜか爆笑するメイソンにエステルは首を傾げる。

 それがまた面白いのかメイソンは、とうとう腹を抱えて笑い出してしまった。

 流石にそれは失礼ではないか。思わず文句の一つでも言いたくなる。

 だが彼の笑い声は不思議と不快ではなく、気が済むまでそうしてもらおうとエステルは笑われるがまま、王城に到着した。
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