7 / 13
7
しおりを挟む
もう一度、アイザックに会いたい。
あの日、言葉にしてくれなかった答えをどうしても教えて欲しい。
そう心に決めて、重い身体を引きずるように彼が現れそうな夜会や茶会を選んで出席をしてきた。けれども、彼の姿を見付けることはできなかった。
自分はアイザックに、避けられている。
3度目の夜会で彼が急遽欠席になったと誰かが口にしたのを聞いて、不安は確信に変わった。
顔を合わせたら気まずいだろう。表面上はなにも無かったことにしても、いざその場に二人が居れば、あること無いこと囁かれるに違いない。
そうならないためにアイザックは自分を気遣ってくれている。最後に笑い者にさせないと宣言してくれた通り、彼は今でも自分の為に心を砕いてくれている。
会えない寂しさや辛さはあるにせよ、彼と繋がりを保てていることが素直に嬉しい。だって、それは可能性でもあるから。
婚約を破棄された今でも、夢見てしまうのだ。何度も、何度も。アイザックと歩む未来を。馬鹿の一つ覚えのように。
加えて半年たった今でも、彼は婚約発表をしていない。
そうなると、どうしたって考えてしまうーーアイザックはもう一度自分とやり直したいと思っているのでは、と。
だからあの日、聞けなかった答えを知りたい。その答えは、やり直す道しるべになるはずだから。
「ねえ見てごらん。月が隠れている。雨、降りそうだな」
これから向かうのは、王城。王太子主催の夜会なら、アイザックとてさすがに欠席することは難しいだろう。
そんなことを考えていると、向かいの席に座るメイソンが苦笑しながら夜空を指差す。
「……ええ、そうね。夜会の間はもってほしいわね」
気の無い返事をしてもメイソンは、そうだねと言って無邪気に笑う。次いで、「なら明日は雨か」と呟き、うんざりした顔になる。
「癖毛には辛いんだよなー、雨って」
「そうなのですか?」
「ああ。俺の妹も癖毛なんだけど、明日は演劇を見に行くって言ってたから、今頃きっと癇癪起こしてるだろうな」
「まあ」
「だから今日は遅く帰ることにしよっかな。八つ当たりとはいえ、さすがに妹に向かって怒鳴るわけにもいかないし」
あーあとぼやく割に、メイソンはどこか優しい表情を浮かべている。
アイザックの友人とはいえ、メイソンとはこれまで交流が無かった。だから家族関係など知らなかったし、実のところ彼がどんな性格なのかも把握していない。
でも、この短い会話のおかげで少し彼の為人を知ることができた。
「もしよろしければ、今日のお礼に妹様にわたくしが使っている香油を贈らせてくださいませ。きっとお役に立てると思います」
「それは助かる。でも、妹に……だけ?」
甘えるように身を乗り出し、上目遣いでこちらを見るメイソンにエステルは視線をさ迷わす。
「あいにく女性用の香油しかございませんので……それでよろしければ……」
「はっははっ、そうきたか」
苦肉の策を口にした途端、なぜか爆笑するメイソンにエステルは首を傾げる。
それがまた面白いのかメイソンは、とうとう腹を抱えて笑い出してしまった。
流石にそれは失礼ではないか。思わず文句の一つでも言いたくなる。
だが彼の笑い声は不思議と不快ではなく、気が済むまでそうしてもらおうとエステルは笑われるがまま、王城に到着した。
あの日、言葉にしてくれなかった答えをどうしても教えて欲しい。
そう心に決めて、重い身体を引きずるように彼が現れそうな夜会や茶会を選んで出席をしてきた。けれども、彼の姿を見付けることはできなかった。
自分はアイザックに、避けられている。
3度目の夜会で彼が急遽欠席になったと誰かが口にしたのを聞いて、不安は確信に変わった。
顔を合わせたら気まずいだろう。表面上はなにも無かったことにしても、いざその場に二人が居れば、あること無いこと囁かれるに違いない。
そうならないためにアイザックは自分を気遣ってくれている。最後に笑い者にさせないと宣言してくれた通り、彼は今でも自分の為に心を砕いてくれている。
会えない寂しさや辛さはあるにせよ、彼と繋がりを保てていることが素直に嬉しい。だって、それは可能性でもあるから。
婚約を破棄された今でも、夢見てしまうのだ。何度も、何度も。アイザックと歩む未来を。馬鹿の一つ覚えのように。
加えて半年たった今でも、彼は婚約発表をしていない。
そうなると、どうしたって考えてしまうーーアイザックはもう一度自分とやり直したいと思っているのでは、と。
だからあの日、聞けなかった答えを知りたい。その答えは、やり直す道しるべになるはずだから。
「ねえ見てごらん。月が隠れている。雨、降りそうだな」
これから向かうのは、王城。王太子主催の夜会なら、アイザックとてさすがに欠席することは難しいだろう。
そんなことを考えていると、向かいの席に座るメイソンが苦笑しながら夜空を指差す。
「……ええ、そうね。夜会の間はもってほしいわね」
気の無い返事をしてもメイソンは、そうだねと言って無邪気に笑う。次いで、「なら明日は雨か」と呟き、うんざりした顔になる。
「癖毛には辛いんだよなー、雨って」
「そうなのですか?」
「ああ。俺の妹も癖毛なんだけど、明日は演劇を見に行くって言ってたから、今頃きっと癇癪起こしてるだろうな」
「まあ」
「だから今日は遅く帰ることにしよっかな。八つ当たりとはいえ、さすがに妹に向かって怒鳴るわけにもいかないし」
あーあとぼやく割に、メイソンはどこか優しい表情を浮かべている。
アイザックの友人とはいえ、メイソンとはこれまで交流が無かった。だから家族関係など知らなかったし、実のところ彼がどんな性格なのかも把握していない。
でも、この短い会話のおかげで少し彼の為人を知ることができた。
「もしよろしければ、今日のお礼に妹様にわたくしが使っている香油を贈らせてくださいませ。きっとお役に立てると思います」
「それは助かる。でも、妹に……だけ?」
甘えるように身を乗り出し、上目遣いでこちらを見るメイソンにエステルは視線をさ迷わす。
「あいにく女性用の香油しかございませんので……それでよろしければ……」
「はっははっ、そうきたか」
苦肉の策を口にした途端、なぜか爆笑するメイソンにエステルは首を傾げる。
それがまた面白いのかメイソンは、とうとう腹を抱えて笑い出してしまった。
流石にそれは失礼ではないか。思わず文句の一つでも言いたくなる。
だが彼の笑い声は不思議と不快ではなく、気が済むまでそうしてもらおうとエステルは笑われるがまま、王城に到着した。
30
お気に入りに追加
690
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたから、言われるくらいなら。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢アマンダの婚約者ジェレミーは、三か月前編入してきた平民出身のクララとばかり逢瀬を重ねている。アマンダはいつ婚約破棄を言い渡されるのか、恐々していたが、ジェレミーから言われた言葉とは……。
2023.4.25
HOTランキング36位/24hランキング30位
ありがとうございました!
あのひとのいちばん大切なひと
キムラましゅろう
恋愛
あのひとはわたしの大切なひと。
でも、あのひとにはわたしではない大切なひとがいる。
それでもいい。
あのひとの側にいられるなら。
あのひとの役にたてるなら。
でもそれも、もうすぐおしまい。
恋人を失ったアベルのために奮闘したリタ。
その恋人がアベルの元へ戻ると知り、リタは離れる決意をする。
一話完結の読み切りです。
読み切りゆえにいつも以上にご都合主義です。
誤字脱字ごめんなさい!最初に謝っておきます。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
ただずっと側にいてほしかった
アズやっこ
恋愛
ただ貴方にずっと側にいてほしかった…。
伯爵令息の彼と婚約し婚姻した。
騎士だった彼は隣国へ戦に行った。戦が終わっても帰ってこない彼。誰も消息は知らないと言う。
彼の部隊は敵に囲まれ部下の騎士達を逃がす為に囮になったと言われた。
隣国の騎士に捕まり捕虜になったのか、それとも…。
怪我をしたから、記憶を無くしたから戻って来れない、それでも良い。
貴方が生きていてくれれば。
❈ 作者独自の世界観です。
【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
【完結】可愛くない、私ですので。
たまこ
恋愛
華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる