1 / 7
1
しおりを挟む
空は昨晩の雨が嘘のように、青色に澄み渡っている。
季節は、秋。
窓から木漏れ日の優しい光が、応接セットしかない狭い部屋に差し込んでいる。そして、ガラス越しに秋風が木の葉をさわさわ揺さぶっているのが見える。
そんな実りの季節に、アネッサは侍女のエリサと共に、婚約者であるライオット=シネヴァの屋敷に呼び出されていた。2ヶ月ぶりに。
シネヴァ邸には応接間がいくつかある。
ちなみにアネッサが通されたこの部屋は、玄関ホールのすぐ隣にある、格下を相手にする部屋だったりもする。茶の一つも出される気配は無い。
大事なことなので、2度言うけれど、アネッサはこの屋敷の主であるライオットの婚約者であるにもかかわらず、この狭っ苦しい応接間に通されたわけだ。
しつこいけれど、2ヶ月ぶりに婚約者を呼び出したというのに、だ。
どれを取っても、随分な仕打ちである。
けれどもこれは、軽いジャブに過ぎなかった。
そして、本題はここからで──。
乱暴なノックの音と共に、ライオット=シネヴァは、入室した。
その服装はジャケットも着ていなければ、タイすらしていない。部屋着と呼ぶにもどうよ?と言いたくなる恰好であった。
まかり間違っても、婚約者と会う恰好ではない。
そんな彼は2ヶ月も連絡不通だったことを詫びることもなく、あろうことか、こんなことをアネッサに向かって言い捨てた。
「アネッサ、君との婚約を破棄する」
途端に、部屋が冷気に包まれる。
まだ秋といっても木枯らしが吹くには早くて、少し動けば汗ばむ季節。だというのに、窓が凍り付かないのが不思議な程の冷気である。
そんな中、アネッサは長椅子に腰掛けたまま、微動だにしない。17歳という年齢に似つかわしくない程、凛と背筋を伸ばしている。
ただ気丈に振る舞おうとすればするほど、久しぶりに婚約者と過ごす時間の為に、ハーフアップにした流行りの髪型と、上品なブラウンピンクのドレスが痛々しく見えてしまう。
そして瞬きを忘れ、食い入るように婚約者を見つめるアネッサは、頭の中ではこんなことを思っていた。
破棄させて下さい。ではなく、破棄する───随分と一方的で、横柄な態度だけれど、お前何様?と。
そして、しばらくの間のあと、アネッサは口を開く。抑揚の無い声音で。
「理由を聞いても良いでしょうか?」
これはアネッサにとって、当然の権利。
なのだが、ライオットは心底面倒臭そうに鼻をならした。
「君より魅力的な女性が現れた。そして、その女性も私に気があるようだ。だから、俺はその女性を伴侶にすることにする。それだけだ。悪いがこの俺の隣に、君はふさわしくない」
ライオットは今、心臓を一突きで刺されて、20年という短い生涯に幕を降ろしても仕方がないことを口にしたのであった。
季節は、秋。
窓から木漏れ日の優しい光が、応接セットしかない狭い部屋に差し込んでいる。そして、ガラス越しに秋風が木の葉をさわさわ揺さぶっているのが見える。
そんな実りの季節に、アネッサは侍女のエリサと共に、婚約者であるライオット=シネヴァの屋敷に呼び出されていた。2ヶ月ぶりに。
シネヴァ邸には応接間がいくつかある。
ちなみにアネッサが通されたこの部屋は、玄関ホールのすぐ隣にある、格下を相手にする部屋だったりもする。茶の一つも出される気配は無い。
大事なことなので、2度言うけれど、アネッサはこの屋敷の主であるライオットの婚約者であるにもかかわらず、この狭っ苦しい応接間に通されたわけだ。
しつこいけれど、2ヶ月ぶりに婚約者を呼び出したというのに、だ。
どれを取っても、随分な仕打ちである。
けれどもこれは、軽いジャブに過ぎなかった。
そして、本題はここからで──。
乱暴なノックの音と共に、ライオット=シネヴァは、入室した。
その服装はジャケットも着ていなければ、タイすらしていない。部屋着と呼ぶにもどうよ?と言いたくなる恰好であった。
まかり間違っても、婚約者と会う恰好ではない。
そんな彼は2ヶ月も連絡不通だったことを詫びることもなく、あろうことか、こんなことをアネッサに向かって言い捨てた。
「アネッサ、君との婚約を破棄する」
途端に、部屋が冷気に包まれる。
まだ秋といっても木枯らしが吹くには早くて、少し動けば汗ばむ季節。だというのに、窓が凍り付かないのが不思議な程の冷気である。
そんな中、アネッサは長椅子に腰掛けたまま、微動だにしない。17歳という年齢に似つかわしくない程、凛と背筋を伸ばしている。
ただ気丈に振る舞おうとすればするほど、久しぶりに婚約者と過ごす時間の為に、ハーフアップにした流行りの髪型と、上品なブラウンピンクのドレスが痛々しく見えてしまう。
そして瞬きを忘れ、食い入るように婚約者を見つめるアネッサは、頭の中ではこんなことを思っていた。
破棄させて下さい。ではなく、破棄する───随分と一方的で、横柄な態度だけれど、お前何様?と。
そして、しばらくの間のあと、アネッサは口を開く。抑揚の無い声音で。
「理由を聞いても良いでしょうか?」
これはアネッサにとって、当然の権利。
なのだが、ライオットは心底面倒臭そうに鼻をならした。
「君より魅力的な女性が現れた。そして、その女性も私に気があるようだ。だから、俺はその女性を伴侶にすることにする。それだけだ。悪いがこの俺の隣に、君はふさわしくない」
ライオットは今、心臓を一突きで刺されて、20年という短い生涯に幕を降ろしても仕方がないことを口にしたのであった。
38
お気に入りに追加
1,517
あなたにおすすめの小説
【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」
みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」
ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。
「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」
王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。
婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~
四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?
【完結】欲をかいて婚約破棄した結果、自滅した愚かな婚約者様の話、聞きます?
水月 潮
恋愛
ルシア・ローレル伯爵令嬢はある日、婚約者であるイアン・バルデ伯爵令息から婚約破棄を突きつけられる。
正直に言うとローレル伯爵家にとっては特に旨みのない婚約で、ルシアは父親からも嫌になったら婚約は解消しても良いと言われていた為、それをあっさり承諾する。
その1ヶ月後。
ルシアの母の実家のシャンタル公爵家にて次期公爵家当主就任のお披露目パーティーが主催される。
ルシアは家族と共に出席したが、ルシアが夢にも思わなかったとんでもない出来事が起きる。
※設定は緩いので、物語としてお楽しみ頂けたらと思います
*HOTランキング10位(2021.5.29)
読んで下さった読者の皆様に感謝*.*
HOTランキング1位(2021.5.31)
かわりに王妃になってくれる優しい妹を育てた戦略家の姉
菜っぱ
恋愛
貴族学校卒業の日に第一王子から婚約破棄を言い渡されたエンブレンは、何も言わずに会場を去った。
気品高い貴族の娘であるエンブレンが、なんの文句も言わずに去っていく姿はあまりにも清々しく、その姿に違和感を覚える第一王子だが、早く愛する人と婚姻を結ぼうと急いで王が婚姻時に使う契約の間へ向かう。
姉から婚約者の座を奪った妹のアンジュッテは、嫌な予感を覚えるが……。
全てが計画通り。賢い姉による、生贄仕立て上げ逃亡劇。
私知らないから!
mery
恋愛
いきなり子爵令嬢に殿下と婚約を解消するように詰め寄られる。
いやいや、私の権限では決められませんし、直接殿下に言って下さい。
あ、殿下のドス黒いオーラが見える…。
私、しーらないっ!!!
穏便に婚約解消する予定がざまぁすることになりました
よーこ
恋愛
ずっと好きだった婚約者が、他の人に恋していることに気付いたから、悲しくて辛いけれども婚約解消をすることを決意し、その提案を婚約者に伝えた。
そうしたら、婚約解消するつもりはないって言うんです。
わたくしとは政略結婚をして、恋する人は愛人にして囲うとか、悪びれることなく言うんです。
ちょっと酷くありません?
当然、ざまぁすることになりますわね!
【完結】結婚しておりませんけど?
との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」
「私も愛してるわ、イーサン」
真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。
しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。
盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。
だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。
「俺の苺ちゃんがあ〜」
「早い者勝ち」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\
R15は念の為・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる