上 下
17 / 17
セルードの企み

4

しおりを挟む
 あまりに礼を欠いたアンジェラの態度に、セルードはプツンとキレた。

 とはいえ、相手は女性だ。拳を使って制裁するなどもってのほか。

 せめて怒鳴りつけたいと思ったけれど、セルードはこんな容姿であるが中身は紳士だ。どんなに不快な相手であっても、それを許せない自分が邪魔して行動に移せない。
 
 実のところ、セルードがわざと野暮ったい恰好をして出来損ないの長男を演じているのは、王命なのだ。

 2年前のとある王城で開かれた夜会で、異国の姫君が一方的にセルードに惚れてしまった。だがしかし、その姫君はいずれは王子の妻になる予定のお方だった。

 しかも姫君の故郷はかなりの大国で、今回は戦争を回避するために婚姻を結ぶ。

 そのため何が何でも王子との結婚を実現してもらわなければならない。 

 幸い異国の姫君にセルードの名を知られることはなかった。そして熱して冷めやすい性格のようで、今は一目惚れした貴族令息のことなど忘れて、着々と王子の元に嫁ぐ準備を進めていると聞く。

 とはいえ万が一を考え、国王陛下は当面の間、セルードに容姿を偽り名も変えるよう厳命したのだ。

 そんな背景があるから、セルードは家督を継ぐことができなかった。名門貴族の当主となれば、どうしたって社交の場に出なければならないから。

 だからといって、これほどの屈辱を受けてもアンジェラの婚約者でいたいとは思わない。その結果、セルードは、貴族のしきたり通りに当主を通して、ネリム家の長女と婚約を破棄することを申し出た。

 ダッヒ家としては何が何でもネリム家と、縁を結びたいわけではない。婿養子として受け入れてくれる家であれば、正直どこでも良かった。

 次の世代が女当主となる家は少なからずある。だからそこと縁談を進めれば良いだけの事。最悪、どことも縁が無ければ身を隠せばいい。

 ……と思っていたのだが、アンジェラとの婚約破棄は受け入れられなかった。

 それはアンジェラが嫌だとごねたわけではない。

 ネリム家が財政難で、婿養子となるセルードの持参金を手放したくないという理由でもなかった。

 婚約破棄を拒んでいるのは、ネリム家当主であるデュエフの個人的な感情だった。

 デュエフは家族に対して寛大な心を持っている反面、完璧主義の人間だった。己に欠点があることを許せない性格だった。

 そして自分の髪と瞳と同じ色を持つアンジェラを、自分の分身のように思っていた。

 婚約破棄は、デュエフによれば欠点となるらしい。

 そのため自分の分身であるアンジェラが婚約を破棄されることを、どうしても許すことができなかった。 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(13件)

miso
2022.08.09 miso

一気に読んでしまいました。続きはあるのでしょうか…

解除
emi
2021.11.19 emi

でも、婚約解消前に妊娠しちゃったっていうのは、他に方法なかったにしても早すぎる。姉、優秀ってほんとかなと思えますね

解除
emi
2021.11.19 emi

妹もちゃんとねだったわけじゃないんだと言えばよかったと思うし、受け取ってるんじゃあ結局は一緒。レースがほつれてたってお気に入りのは本当はあげたくなんかないと思う。前述の姉の独白がうそじゃないなら、気に入ってるはず。

解除

あなたにおすすめの小説

彼氏に身体を捧げると言ったけど騙されて人形にされた!

ジャン・幸田
SF
 あたし姶良夏海。コスプレが趣味の役者志望のフリーターで、あるとき付き合っていた彼氏の八郎丸匡に頼まれたのよ。十日間連続してコスプレしてくれって。    それで応じたのは良いけど、彼ったらこともあろうにあたしを改造したのよ生きたラブドールに! そりゃムツミゴトの最中にあなたに身体を捧げるなんていったこともあるけど、実行する意味が違うってば! こんな状態で本当に元に戻るのか教えてよ! 匡! *いわゆる人形化(人体改造)作品です。空想の科学技術による作品ですが、そのような作品は倫理的に問題のある描写と思われる方は閲覧をパスしてください。

【短編集】エア・ポケット・ゾーン!

ジャン・幸田
ホラー
 いままで小生が投稿した作品のうち、短編を連作にしたものです。  長編で書きたい構想による備忘録的なものです。  ホラーテイストの作品が多いですが、どちらかといえば小生の嗜好が反映されています。  どちらかといえば読者を選ぶかもしれません。

【短編ホラー集】迷い込んだ者たちは・・・

ジャン・幸田
ホラー
 突然、理不尽に改造されたり人外にされたり・・・はたまた迷宮魔道などに迷い込んだりした者たちの物語。  そういった短編集になりはたまた  本当は、長編にしたいけど出来なかった作品集であります。表題作のほか、いろいろあります。

婚約破棄の翌日、彼女は亡くなったようです。

えんどう
恋愛
 王太子であるジョエルと婚約していた公爵令嬢のリシア・ルーベルクは夜会であらぬ罪を着せられ婚約破棄と国外追放を言い渡された。王太子と真実の愛とやらを誓い合う男爵令嬢を横目に会場を去った彼女は馬鹿な婚約者から解放されたことを喜んでいた──が、翌日、川に浮かんだ男爵令嬢の遺体が発見される。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

BL短編集②

田舎
BL
タイトル通り。Xくんで呟いたショートストーリーを加筆&修正して短編にしたやつの置き場。 こちらは♡描写ありか倫理観のない作品となります。

冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田
ミステリー
 刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!  そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。  機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!  サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか? *追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね! *他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。 *現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。

婚約者と兄、そして親友だと思っていた令嬢に嫌われていたようですが、運命の人に溺愛されて幸せです

珠宮さくら
恋愛
侯爵家の次女として生まれたエリシュカ・ベンディーク。彼女は見目麗しい家族に囲まれて育ったが、その中で彼女らしさを損なうことなく、実に真っ直ぐに育っていた。 だが、それが気に入らない者も中にはいたようだ。一番身近なところに彼女のことを嫌う者がいたことに彼女だけが、長らく気づいていなかった。 嫌うというのには色々と酷すぎる部分が多々あったが、エリシュカはそれでも彼女らしさを損なうことなく、運命の人と出会うことになり、幸せになっていく。 彼だけでなくて、色んな人たちに溺愛されているのだが、その全てに気づくことは彼女には難しそうだ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。