16 / 17
セルードの企み
3
しおりを挟む
アンジェラの言葉を借りるなら、セルードは見映えが悪かった。
だらしなく伸びた灰色の髪。ひょろりとした身長。分厚いレンズの丸眼鏡はダサイの権化。加えて服装は、清潔感こそあるが、恐ろしいまでに趣味が悪い。
……というのをセルードだって自覚している。
だが好き好んで、こんな格好をしているわけではない。
人並の美的感覚を持っているセルードは、こんな奇天烈な格好をすることにずっと苦痛を覚えていた。
でもセルードは、普通の状態の自分を社交界で知られてはならない。家門を守る為に自ら出来の悪い長男を演じなければならない理由があった。
とはいえ婚約者となったアンジェラには、そのことを伝えるべきだろうと判断していた。
協力までは求めない。でもこの姿は一時だけのこと。近い将来、連れて歩くのに支障が無い姿に戻るのでそれまでどうか待っていてほしいと願い出るつもりだった。
だがしかし、初対面でアンジェラは、自分の姿を見るなりこう言い放った。
「ダッヒ家は、鏡がないんですの?」
出会い頭に随分な挨拶を受けたセルードは、唖然とした。
それをどう受け止めたかわからないが、アンジェラは扇で口元を隠しつつこんな言葉を重ねた。
「……それとも家督を継げない貴方には、鏡すら支給されないのかしら………お可哀そうに」
憐憫の目を向けるアンジェラに、セルードの頬は引きつった。
ーーへぇ。言ってくれるじゃないか。
婚約者に向けてこんな無礼な態度を取ってくれるということは、はなからアンジェラは自分のことを見下している証拠だった。
セルードはカチンときた。
せめて直球で「どうしてこんなダサい恰好をしているんですか?」と聞かれた方がまだマシだった。
もしくは「わたくしの隣に立ちたいなら、もう少し身なりを人並みにしてくださいませ!」と怒鳴られても良かった。
……とはいえ、自分でもダサい恰好をしていると自覚があるセルードは、怒りをぐっと抑えて口を開く。
「同情していただけて嬉しいです、婚約者殿。ではこの哀れな男に、弁明の余地を与えていただけないでしょうか?」
半ば嫌味返しでそう問いかければ、あろうことかアンジェラは「は?」とすっとぼけた態度を取る。
そして意地の悪い笑みを浮かべて、テラテラと輝く唇を動かした。
「……あら?今、何か仰いました?ふふっ……わたくし、長男のくせに家督を継げなかった男の声は生まれながらに聞こえませんの。ごめんあそばせ」
一欠けらも悪いと思っていない口ぶりに、さすがのセルードも完全にキレた。
だらしなく伸びた灰色の髪。ひょろりとした身長。分厚いレンズの丸眼鏡はダサイの権化。加えて服装は、清潔感こそあるが、恐ろしいまでに趣味が悪い。
……というのをセルードだって自覚している。
だが好き好んで、こんな格好をしているわけではない。
人並の美的感覚を持っているセルードは、こんな奇天烈な格好をすることにずっと苦痛を覚えていた。
でもセルードは、普通の状態の自分を社交界で知られてはならない。家門を守る為に自ら出来の悪い長男を演じなければならない理由があった。
とはいえ婚約者となったアンジェラには、そのことを伝えるべきだろうと判断していた。
協力までは求めない。でもこの姿は一時だけのこと。近い将来、連れて歩くのに支障が無い姿に戻るのでそれまでどうか待っていてほしいと願い出るつもりだった。
だがしかし、初対面でアンジェラは、自分の姿を見るなりこう言い放った。
「ダッヒ家は、鏡がないんですの?」
出会い頭に随分な挨拶を受けたセルードは、唖然とした。
それをどう受け止めたかわからないが、アンジェラは扇で口元を隠しつつこんな言葉を重ねた。
「……それとも家督を継げない貴方には、鏡すら支給されないのかしら………お可哀そうに」
憐憫の目を向けるアンジェラに、セルードの頬は引きつった。
ーーへぇ。言ってくれるじゃないか。
婚約者に向けてこんな無礼な態度を取ってくれるということは、はなからアンジェラは自分のことを見下している証拠だった。
セルードはカチンときた。
せめて直球で「どうしてこんなダサい恰好をしているんですか?」と聞かれた方がまだマシだった。
もしくは「わたくしの隣に立ちたいなら、もう少し身なりを人並みにしてくださいませ!」と怒鳴られても良かった。
……とはいえ、自分でもダサい恰好をしていると自覚があるセルードは、怒りをぐっと抑えて口を開く。
「同情していただけて嬉しいです、婚約者殿。ではこの哀れな男に、弁明の余地を与えていただけないでしょうか?」
半ば嫌味返しでそう問いかければ、あろうことかアンジェラは「は?」とすっとぼけた態度を取る。
そして意地の悪い笑みを浮かべて、テラテラと輝く唇を動かした。
「……あら?今、何か仰いました?ふふっ……わたくし、長男のくせに家督を継げなかった男の声は生まれながらに聞こえませんの。ごめんあそばせ」
一欠けらも悪いと思っていない口ぶりに、さすがのセルードも完全にキレた。
21
お気に入りに追加
865
あなたにおすすめの小説
家に代々伝わる髪色を受け継いでいないからとずっと虐げられてきていたのですが……。
四季
恋愛
メリア・オフトレスは三姉妹の真ん中。
しかしオフトレス家に代々伝わる緑髪を受け継がず生まれたために母や姉妹らから虐げられていた。
だがある時、トレットという青年が現れて……?
すべてが嫌になったので死んだふりをしたら、いつの間にか全部解決していました
小倉みち
恋愛
公爵令嬢へテーゼは、苦労人だった。
周囲の人々は、なぜか彼女にひたすら迷惑をかけまくる。
婚約者の第二王子は数々の問題を引き起こし、挙句の果てに彼女の妹のフィリアと浮気をする。
家族は家族で、せっかく祖父の遺してくれた遺産を湯水のように使い、豪遊する。
どう考えても彼らが悪いのに、へテーゼの味方はゼロ。
代わりに、彼らの味方をする者は大勢。
へテーゼは、彼らの尻拭いをするために毎日奔走していた。
そんなある日、ふと思った。
もう嫌だ。
すべてが嫌になった。
何もかも投げ出したくなった彼女は、仲の良い妖精たちの力を使って、身体から魂を抜き取ってもらう。
表向き、へテーゼが「死んだ」ことにしようと考えたのだ。
当然そんなことは露知らず、完全にへテーゼが死んでしまったと慌てる人々。
誰が悪い、これからどうするのか揉めるうちに、自爆していく連中もいれば、人知れず彼女を想っていた者の復讐によって失脚していく連中も現れる。
こうして彼女が手を出すまでもなく、すべての問題は綺麗さっぱり解決していき――。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
【完結】何度ループしても私を愛さなかった婚約者が言い寄ってきたのですが、あなたとの白い結婚は10回以上経験したので、もう信じられません!
プラネットプラント
恋愛
ヘンリエッタは何度も人生を繰り返している。それでわかったことは、王子と結婚すると、絶望して自殺することだった。
婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~
四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!
夢草 蝶
恋愛
伯爵令嬢・ジゼルは婚約者であるロウと共に伯爵家を守っていく筈だった。
しかし、周囲から溺愛されている妹・リーファの一言で婚約者を交換することに。
翌日、ジゼルは新たな婚約者・オウルの屋敷へ引っ越すことに。
今夜、元婚約者の結婚式をぶち壊しに行きます
結城芙由奈
恋愛
【今夜は元婚約者と友人のめでたい結婚式なので、盛大に祝ってあげましょう】
交際期間5年を経て、半年後にゴールインするはずだった私と彼。それなのに遠距離恋愛になった途端彼は私の友人と浮気をし、友人は妊娠。結果捨てられた私の元へ、図々しくも結婚式の招待状が届けられた。面白い…そんなに私に祝ってもらいたいのなら、盛大に祝ってやろうじゃないの。そして私は結婚式場へと向かった。
※他サイトでも投稿中
※苦手な短編ですがお読みいただけると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる