上 下
15 / 17
セルードの企み

2

しおりを挟む
 リリーナの目は赤かったけれど、ぎゅっとスカートの裾を握る指先は白く強い決意を表していた。

「私は……自分がどこまで愚かな人間なのか知りたいのです。だからセルード様……どうか私の知らない現実を教えてください」

 わずかに声を震わせながら願い出たリリーナに、セルードは憐憫の目を向ける。

「やめておけ。貴方が思っているより辛い現実だ」
「そうかもしれません。でも……知りたいのです」
「はっ」

 思わず鼻で笑ってしまった。

 話せばこの少女はきっと泣く。下手をしたらこの先、生きていくのに支障をきたすだろう。

 ただでさえ、内気で何でもかんでも自分が悪いと思い込む面倒くさい性格だ。

 そんな彼女にありのままに伝えてしまえば、それこそもっと面倒くさい状況になる。それは家同士の問題云々ではないーー個人的に放っておけなくなるから。

「現実を知るより、さっさと家に帰って荷物をまとめた方が良い」
「え?」

 端的に助言をすれば、きょとんとした顔を返されてしまった。やっぱり面倒くさい。

 しかし気付けば、セルードは言葉を重ねていた。

「どこか友人の屋敷にでも……もしくは母方の親戚のところにでも身を寄せろ」
「……え?……あの……」

 更に意味が分からないと言いたげにリリーナは、首を傾げてその場から動かない。

 セルードは苛立った。

 もう一人の自分がこんな説明じゃ納得できるわけないだろうと呆れているが、それでも苛立つ気持ちが強くなる。

 それがとても不思議で、不快だった。

 けれども、実に不本意ながらリリーナを引きずって馬車に戻る気にもなれない。

「……くそっ」

 つい感情のまま舌打ちすれば、リリーナがびくっと身体を震わせる。

「この程度で怖がるなら、聞かない方が良い」
「いえ」

 気丈に答えるリリーナに、セルードはぐっと彼女に近づき顎を掴んだ。

「知れば後悔するぞ?」
「そうかもしれません……でも、無知な自分が嫌なんです。知らずに後悔するより、知って後悔することを選ばせてください」
「ったく、強情だな」
「ごめんなさい……でも教えてもらえる機会は……きっと今しかないですから」 

 そっと目を伏せるリリーナに、セルードは露骨に息を吐いた。根負けの溜息だった。

 セルードはリリーナの顎を掴む手を離し、反対の手で眼鏡を外す。次いで、鬱陶しい前髪をかき上げた。

「わかった。なら話そう」
「ありがとうござい……っ」

 笑みこそ浮かべていないが、感謝の意を表そうと顔を上げたリリーナは小さく息を呑んだ。

 眼鏡を外したセルードは、野暮ったさが消えてまるで別人だったから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼氏に身体を捧げると言ったけど騙されて人形にされた!

ジャン・幸田
SF
 あたし姶良夏海。コスプレが趣味の役者志望のフリーターで、あるとき付き合っていた彼氏の八郎丸匡に頼まれたのよ。十日間連続してコスプレしてくれって。    それで応じたのは良いけど、彼ったらこともあろうにあたしを改造したのよ生きたラブドールに! そりゃムツミゴトの最中にあなたに身体を捧げるなんていったこともあるけど、実行する意味が違うってば! こんな状態で本当に元に戻るのか教えてよ! 匡! *いわゆる人形化(人体改造)作品です。空想の科学技術による作品ですが、そのような作品は倫理的に問題のある描写と思われる方は閲覧をパスしてください。

【短編集】エア・ポケット・ゾーン!

ジャン・幸田
ホラー
 いままで小生が投稿した作品のうち、短編を連作にしたものです。  長編で書きたい構想による備忘録的なものです。  ホラーテイストの作品が多いですが、どちらかといえば小生の嗜好が反映されています。  どちらかといえば読者を選ぶかもしれません。

【短編ホラー集】迷い込んだ者たちは・・・

ジャン・幸田
ホラー
 突然、理不尽に改造されたり人外にされたり・・・はたまた迷宮魔道などに迷い込んだりした者たちの物語。  そういった短編集になりはたまた  本当は、長編にしたいけど出来なかった作品集であります。表題作のほか、いろいろあります。

婚約破棄の翌日、彼女は亡くなったようです。

えんどう
恋愛
 王太子であるジョエルと婚約していた公爵令嬢のリシア・ルーベルクは夜会であらぬ罪を着せられ婚約破棄と国外追放を言い渡された。王太子と真実の愛とやらを誓い合う男爵令嬢を横目に会場を去った彼女は馬鹿な婚約者から解放されたことを喜んでいた──が、翌日、川に浮かんだ男爵令嬢の遺体が発見される。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

BL短編集②

田舎
BL
タイトル通り。Xくんで呟いたショートストーリーを加筆&修正して短編にしたやつの置き場。 こちらは♡描写ありか倫理観のない作品となります。

冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田
ミステリー
 刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!  そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。  機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!  サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか? *追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね! *他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。 *現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。

婚約者と兄、そして親友だと思っていた令嬢に嫌われていたようですが、運命の人に溺愛されて幸せです

珠宮さくら
恋愛
侯爵家の次女として生まれたエリシュカ・ベンディーク。彼女は見目麗しい家族に囲まれて育ったが、その中で彼女らしさを損なうことなく、実に真っ直ぐに育っていた。 だが、それが気に入らない者も中にはいたようだ。一番身近なところに彼女のことを嫌う者がいたことに彼女だけが、長らく気づいていなかった。 嫌うというのには色々と酷すぎる部分が多々あったが、エリシュカはそれでも彼女らしさを損なうことなく、運命の人と出会うことになり、幸せになっていく。 彼だけでなくて、色んな人たちに溺愛されているのだが、その全てに気づくことは彼女には難しそうだ。

処理中です...