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妹リリーナの独白
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ここまで一気に語り終えたリリーナは、膝を抱えて顔を埋める。
あの時、自分の気持ちが言えなくとも、ちゃんと姉の顔を見て言い訳をすれば良かった。
姉アンジェラは苛立ちと怒りを前面に出してはいたが、妹である自分のことを多少なりとも理解しようとしていたのだ。
それなのに自分は逃げたのだ。
その結果アンジェラは、自分のことを”なんでも欲しがる妹”だと決めつけてしまった。
「ーーおい、自己嫌悪に陥るのは構わないが、話を終えてからにしてくれ」
優しさの”や”の字も無い言葉が耳朶に刺さり、リリーナはゆるゆると顔を上げる。
てっきり緑色の景色が視界に入るのかと思いきや、この上なく不機嫌なセルードの顔でいっぱいになってリリーナは小さく声を上げる。
「話は途中で終えるわ、人の顔を見て悲鳴を上げるわ……とことん無礼な奴だな」
「……申し訳ございません」
リリーナは俯き謝った。少し……ほんの少し言い返したい気持ちはあったけれど。
そんな気持ちが僅かに漏れてしまっていたのだろうか、セルードは乱暴にリリーナの顎を掴んで視線を合わせた。
「それとも貴方様が悲鳴を上げたのは、わたくしめのこの顔があまりに不細工だからですか?お嬢様」
わざと丁寧な口調で問いかけるセルードに、リリーナは慌てて首を横に振る。
「いいえっ。まさかっ」
「へえ?」
煽るような口ぶりに、リリーナは肩を震わせる。
そっと伺い見ると、セルードの瞳は分厚い眼鏡のレンズの奥で猫のように細くなっている。
それが猫というより獰猛な獣ーーヒョウやジャガーのように見えて、リリーナはたった一つだけ付いてしまった嘘を聞かれてもいないのに自白してしまった。
「セルード様を不細工だと思ったことはございません。ただ……」
「ただ?」
「今日はいつもより饒舌なので、それに少し驚いていると言いますか、怖いと言いますか……」
恐怖ゆえに白状してしまったが、少し考えれば言わなくても良いことだとわかった。
あとこんなことを話せば更にセルードは不機嫌になるだろう。そう思っていたけれど
「なるほど」
彼はなぜか満足そうに頷くとあっさり、顎を掴んでいた手を離した。
そして「ははっ」と乾いた笑い後を上げると、リリーナの隣に座り直す。
「話が途中で止まったので言わせてもらうが」
「はい」
「はっきり言ってここまでの話では、アンジェラ嬢が貴方に僕を押し付けて他の男の子供を宿した理由にはならない」
「はい。わかっています」
冷たく言い捨てるセルードに、リリーナは言い訳もせず同意する。
だが、すぐにこう言った。
「セルード様にお伝えしたいことは、まだあります」
「だろうな。そしてここからが本番ってことか?」
「そう受け止めていただければ……」
「なら、聞こう。続けてくれ」
既に語り始めてから長い時間が経過しているが、セルードはうんざりした表情を見せずに聞く姿勢を取ってくれた。
あの時、自分の気持ちが言えなくとも、ちゃんと姉の顔を見て言い訳をすれば良かった。
姉アンジェラは苛立ちと怒りを前面に出してはいたが、妹である自分のことを多少なりとも理解しようとしていたのだ。
それなのに自分は逃げたのだ。
その結果アンジェラは、自分のことを”なんでも欲しがる妹”だと決めつけてしまった。
「ーーおい、自己嫌悪に陥るのは構わないが、話を終えてからにしてくれ」
優しさの”や”の字も無い言葉が耳朶に刺さり、リリーナはゆるゆると顔を上げる。
てっきり緑色の景色が視界に入るのかと思いきや、この上なく不機嫌なセルードの顔でいっぱいになってリリーナは小さく声を上げる。
「話は途中で終えるわ、人の顔を見て悲鳴を上げるわ……とことん無礼な奴だな」
「……申し訳ございません」
リリーナは俯き謝った。少し……ほんの少し言い返したい気持ちはあったけれど。
そんな気持ちが僅かに漏れてしまっていたのだろうか、セルードは乱暴にリリーナの顎を掴んで視線を合わせた。
「それとも貴方様が悲鳴を上げたのは、わたくしめのこの顔があまりに不細工だからですか?お嬢様」
わざと丁寧な口調で問いかけるセルードに、リリーナは慌てて首を横に振る。
「いいえっ。まさかっ」
「へえ?」
煽るような口ぶりに、リリーナは肩を震わせる。
そっと伺い見ると、セルードの瞳は分厚い眼鏡のレンズの奥で猫のように細くなっている。
それが猫というより獰猛な獣ーーヒョウやジャガーのように見えて、リリーナはたった一つだけ付いてしまった嘘を聞かれてもいないのに自白してしまった。
「セルード様を不細工だと思ったことはございません。ただ……」
「ただ?」
「今日はいつもより饒舌なので、それに少し驚いていると言いますか、怖いと言いますか……」
恐怖ゆえに白状してしまったが、少し考えれば言わなくても良いことだとわかった。
あとこんなことを話せば更にセルードは不機嫌になるだろう。そう思っていたけれど
「なるほど」
彼はなぜか満足そうに頷くとあっさり、顎を掴んでいた手を離した。
そして「ははっ」と乾いた笑い後を上げると、リリーナの隣に座り直す。
「話が途中で止まったので言わせてもらうが」
「はい」
「はっきり言ってここまでの話では、アンジェラ嬢が貴方に僕を押し付けて他の男の子供を宿した理由にはならない」
「はい。わかっています」
冷たく言い捨てるセルードに、リリーナは言い訳もせず同意する。
だが、すぐにこう言った。
「セルード様にお伝えしたいことは、まだあります」
「だろうな。そしてここからが本番ってことか?」
「そう受け止めていただければ……」
「なら、聞こう。続けてくれ」
既に語り始めてから長い時間が経過しているが、セルードはうんざりした表情を見せずに聞く姿勢を取ってくれた。
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