上 下
11 / 17
妹リリーナの独白

6

しおりを挟む
 ここまで一気に語り終えたリリーナは、膝を抱えて顔を埋める。

 あの時、自分の気持ちが言えなくとも、ちゃんと姉の顔を見て言い訳をすれば良かった。

 姉アンジェラは苛立ちと怒りを前面に出してはいたが、妹である自分のことを多少なりとも理解しようとしていたのだ。

 それなのに自分は逃げたのだ。

 その結果アンジェラは、自分のことを”なんでも欲しがる妹”だと決めつけてしまった。

 
「ーーおい、自己嫌悪に陥るのは構わないが、話を終えてからにしてくれ」

 優しさの”や”の字も無い言葉が耳朶に刺さり、リリーナはゆるゆると顔を上げる。

 てっきり緑色の景色が視界に入るのかと思いきや、この上なく不機嫌なセルードの顔でいっぱいになってリリーナは小さく声を上げる。

「話は途中で終えるわ、人の顔を見て悲鳴を上げるわ……とことん無礼な奴だな」
「……申し訳ございません」

 リリーナは俯き謝った。少し……ほんの少し言い返したい気持ちはあったけれど。

 そんな気持ちが僅かに漏れてしまっていたのだろうか、セルードは乱暴にリリーナの顎を掴んで視線を合わせた。

「それとも貴方様が悲鳴を上げたのは、わたくしめのこの顔があまりに不細工だからですか?お嬢様」

 わざと丁寧な口調で問いかけるセルードに、リリーナは慌てて首を横に振る。

「いいえっ。まさかっ」
「へえ?」

 煽るような口ぶりに、リリーナは肩を震わせる。

 そっと伺い見ると、セルードの瞳は分厚い眼鏡のレンズの奥で猫のように細くなっている。

 それが猫というより獰猛な獣ーーヒョウやジャガーのように見えて、リリーナはたった一つだけ付いてしまった嘘を聞かれてもいないのに自白してしまった。

「セルード様を不細工だと思ったことはございません。ただ……」
「ただ?」
「今日はいつもより饒舌なので、それに少し驚いていると言いますか、怖いと言いますか……」

 恐怖ゆえに白状してしまったが、少し考えれば言わなくても良いことだとわかった。

 あとこんなことを話せば更にセルードは不機嫌になるだろう。そう思っていたけれど

「なるほど」

 彼はなぜか満足そうに頷くとあっさり、顎を掴んでいた手を離した。

 そして「ははっ」と乾いた笑い後を上げると、リリーナの隣に座り直す。

「話が途中で止まったので言わせてもらうが」
「はい」
「はっきり言ってここまでの話では、アンジェラ嬢が貴方に僕を押し付けて他の男の子供を宿した理由にはならない」
「はい。わかっています」

 冷たく言い捨てるセルードに、リリーナは言い訳もせず同意する。

 だが、すぐにこう言った。

「セルード様にお伝えしたいことは、まだあります」
「だろうな。そしてここからが本番ってことか?」
「そう受け止めていただければ……」
「なら、聞こう。続けてくれ」

 既に語り始めてから長い時間が経過しているが、セルードはうんざりした表情を見せずに聞く姿勢を取ってくれた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約破棄裁判

Mr.後困る
恋愛
愛国心溢れる大公令嬢ヴィーナスは 自身の婚約者を誑かしたマーキュリー男爵令嬢を殺害した その裁判が今、行われる・・・

大好きな彼女と幸せになってください

四季
恋愛
王女ルシエラには婚約者がいる。その名はオリバー、王子である。身分としては問題ない二人。だが、二人の関係は、望ましいとは到底言えそうにないもので……。

いちゃつきを見せつけて楽しいですか?

四季
恋愛
それなりに大きな力を持つ王国に第一王女として生まれた私ーーリルリナ・グランシェには婚約者がいた。 だが、婚約者に寄ってくる女性がいて……。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

死に戻るなら一時間前に

みねバイヤーン
恋愛
「ああ、これが走馬灯なのね」  階段から落ちていく一瞬で、ルルは十七年の人生を思い出した。侯爵家に生まれ、なに不自由なく育ち、幸せな日々だった。素敵な婚約者と出会い、これからが楽しみだった矢先に。 「神様、もし死に戻るなら、一時間前がいいです」  ダメ元で祈ってみる。もし、ルルが主人公特性を持っているなら、死に戻れるかもしれない。  ピカッと光って、一瞬目をつぶって、また目を開くと、目の前には笑顔の婚約者クラウス第三王子。 「クラウス様、聞いてください。私、一時間後に殺されます」 一時間前に死に戻ったルルは、クラウスと共に犯人を追い詰める──。

令嬢が婚約破棄をした数年後、ひとつの和平が成立しました。

夢草 蝶
恋愛
 公爵の妹・フューシャの目の前に、婚約者の恋人が現れ、フューシャは婚約破棄を決意する。  そして、婚約破棄をして一週間も経たないうちに、とある人物が突撃してきた。

いくら何でも、遅過ぎません?

碧水 遥
恋愛
「本当にキミと結婚してもいいのか、よく考えたいんだ」  ある日突然、婚約者はそう仰いました。  ……え?あと3ヶ月で結婚式ですけど⁉︎もう諸々の手配も終わってるんですけど⁉︎  何故、今になってーっ!!  わたくしたち、6歳の頃から9年間、婚約してましたよね⁉︎

え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?

水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」 子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。 彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。 しかし彼女には、『とある噂』があった。 いい噂ではなく、悪い噂である。 そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。 彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。 これで責任は果たしました。 だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?

処理中です...