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姉アンジェラの仕返し
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「ねえリリーナ。彼は人間よ。リボンやドレスとは違うの」
リリーナから強請られた瞬間、アンジェラはそう言って妹を嗜めなければならなかった。
なによりセルードは、ネリム家の婿になる男。妹に甘い両親だって、安易に譲れとは言えない。もちろんリリーナには、セルードを婿に迎えてアンジェラに代わり、ネリム家を継ぐ覚悟も技量も無い。
ただただ後先考えずに人の物を欲しがって、それで満足したいだけ。
もしかしたら飽きたら直ぐに捨てれば良いとすら思っているのかもしれない。
アンジェラは知っている。自分から奪った数々の品をリリーナがこっそり捨てていることを。
セルードは人間だ。容姿は平凡であるが、家柄の良い男性だ。もしリリーナの気まぐれで、彼が捨てられるような結果になれば、家同士の問題になる。
これまでずっと両親に愛されるために、そして時期女当主となるために血の滲むような努力を重ねてアンジェラにとって、家紋に泥を塗られるようなことをされれば自分の人生を否定されたような気持ちにすらなってしまう。
だから何としても、リリーナに思い留まるよう説得しなければならなかった。
……でも、しなかった。
アンジェラは笑ってリリーナにセルードを差し出した。
「どうか幸せになってね」
そんな祝福の言葉も付け加えて。
リリーナは黙って祝いの言葉を受け入れ、セルードも黙って妹を受け入れた。
その10日後ーーアンジェラとセルードは、正式な手順を踏んで婚約を破棄をした。
***
「あーもー、最高の気分ね!」
父親の書斎に呼ばれ婚約破棄の手続きが完了したと告げられたアンジェラは、自室に戻るなり喜びの声を上げてベッドにダイブした。
それでも興奮は冷めやらず、足をバタバタと泳がせ笑い声をあげる。
「アンジェラお嬢様、少々声が大きいですわ」
しっと人差し指を口元に当てて窘めるのは、侍女のキリ。こげ茶色の髪と瞳を持つ齢28歳の彼女は、12歳の頃からずっとアンジェラに仕えている。
「あははっ、大丈夫、大丈夫!だってリリーナはセルードの屋敷でしょ?なら、今だけは喜びを噛み締めたって良いじゃない」
人前では完璧な淑女然しているアンジェラであるが、キリの前だけでは素の自分を出す。
それはキリのことを信頼しているから。あと、たまにこうして無作法なことをしないと、自分の肩にのしかかる重圧に耐えきれないからで。
そんな諸々の事情を熟知しているキリは、無言で入口扉を確認する。幸い人の気配は無かった。
密室であることを確認したキリは、急いでアンジェラの元に戻ると満面の笑みをアンジェラに向けた。
「ではお嬢様、改めて……おめでとうございます」
「うん!」
がばっとベッドから身を起こしたアンジェラは、大きく頷くと共にキリに手を伸ばしてーー二人は豪快にハイタッチをした。
リリーナから強請られた瞬間、アンジェラはそう言って妹を嗜めなければならなかった。
なによりセルードは、ネリム家の婿になる男。妹に甘い両親だって、安易に譲れとは言えない。もちろんリリーナには、セルードを婿に迎えてアンジェラに代わり、ネリム家を継ぐ覚悟も技量も無い。
ただただ後先考えずに人の物を欲しがって、それで満足したいだけ。
もしかしたら飽きたら直ぐに捨てれば良いとすら思っているのかもしれない。
アンジェラは知っている。自分から奪った数々の品をリリーナがこっそり捨てていることを。
セルードは人間だ。容姿は平凡であるが、家柄の良い男性だ。もしリリーナの気まぐれで、彼が捨てられるような結果になれば、家同士の問題になる。
これまでずっと両親に愛されるために、そして時期女当主となるために血の滲むような努力を重ねてアンジェラにとって、家紋に泥を塗られるようなことをされれば自分の人生を否定されたような気持ちにすらなってしまう。
だから何としても、リリーナに思い留まるよう説得しなければならなかった。
……でも、しなかった。
アンジェラは笑ってリリーナにセルードを差し出した。
「どうか幸せになってね」
そんな祝福の言葉も付け加えて。
リリーナは黙って祝いの言葉を受け入れ、セルードも黙って妹を受け入れた。
その10日後ーーアンジェラとセルードは、正式な手順を踏んで婚約を破棄をした。
***
「あーもー、最高の気分ね!」
父親の書斎に呼ばれ婚約破棄の手続きが完了したと告げられたアンジェラは、自室に戻るなり喜びの声を上げてベッドにダイブした。
それでも興奮は冷めやらず、足をバタバタと泳がせ笑い声をあげる。
「アンジェラお嬢様、少々声が大きいですわ」
しっと人差し指を口元に当てて窘めるのは、侍女のキリ。こげ茶色の髪と瞳を持つ齢28歳の彼女は、12歳の頃からずっとアンジェラに仕えている。
「あははっ、大丈夫、大丈夫!だってリリーナはセルードの屋敷でしょ?なら、今だけは喜びを噛み締めたって良いじゃない」
人前では完璧な淑女然しているアンジェラであるが、キリの前だけでは素の自分を出す。
それはキリのことを信頼しているから。あと、たまにこうして無作法なことをしないと、自分の肩にのしかかる重圧に耐えきれないからで。
そんな諸々の事情を熟知しているキリは、無言で入口扉を確認する。幸い人の気配は無かった。
密室であることを確認したキリは、急いでアンジェラの元に戻ると満面の笑みをアンジェラに向けた。
「ではお嬢様、改めて……おめでとうございます」
「うん!」
がばっとベッドから身を起こしたアンジェラは、大きく頷くと共にキリに手を伸ばしてーー二人は豪快にハイタッチをした。
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