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みんな、あの人の前では恋する乙女
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アンナが間抜けな声を出せば、すぐさまオフェールアがくすりと笑う。
「ふふ……こういうときは”お気になさらず”とでも言っておきなさい。もしくは黙って微笑みなさい。たとえ相手の言っている意味がわからなくても、ね?」
名門貴族のオフェールアはまだデビュタント前だが、すでに社交場に出入りしているのだろう。
そして先輩という立ち位置で、アンナに社交界でのマナーを教えてくれているようだ。
学校では教えてくれない貴重なアドバイスをいただけて嬉しい。けれどアンナは、それに従うことはできない。
「……でも、お礼を言われる意味がわかりません」
しゅんと肩を落としてそう言ったアンナに、オフェールアは「そうね」と同意する。ただその目は出来の悪い生徒を見るそれだった。
てっきりお上品な言葉遣いで小言でもかまされるのかと思った。しかし予想に反してオフェールアは、ふっと肩の力を抜いて微笑んだ。
「欠片も気づいてくれないということは、わたくしの演技が上手すぎたのかしら?それとも貴方がただ鈍感なだけなのかしらねぇ……」
酷い言い草だ。
しかし含みのあるオフェールアの言葉を、出入り口にいる取り巻き達は理解しているようだ。
取り巻きその1、その2、その3は、離れた場所でふふふっと互いの腕を突き合いながら笑っている。
アンナはオフェールアも含めて彼女達と率先して仲良くなりたいとは思わない。でも仲間外れにされるのは気持ちの良いものでは無い。
「あのオフェールアさん、私にわかるように教えてくださいませんか?」
不機嫌な顔をして席を立っても良かった。
けれどオフェールアの口調も、この場の雰囲気も自分を陥れようとしているものではない。
だからアンナは勇気を出して聞いてみた。
「ええ、もちろんよ。貴方を除け者にする気はありませんから。......ねえアンナさん、あそこを見て今年の薔薇は特に美しいこと」
そう言ってオフェールアは日が差し込む方向に目を向ける。つられてアンナもそに目を向けた。
秋に咲く薔薇はつる薔薇のように華やかさは無いが、落ち着いた色彩と香りが強いのが特徴だ。
温室は薔薇以外にも沢山の花が咲いている。けれど一番香りを強く感じるのは、すこし離れた場所にある黒みを帯びた美しい濃い赤い薔薇”パパ・メイアン”。
アンナの故郷でも目にする薔薇であるが、一級の庭師が育てた温室のそれは色も形も香りも格段にすばらしい。
「……ほんとうに、綺麗ですわね。わたくしお花の中では一番薔薇が好き」
典型的な貴族のオフェールアと違い、アンナは婉曲な物言いや、腹の探り合いが苦手だ。
前置きだけで察することは到底不可能だから、できることなら早く本題に入ってほしい。
そんな気持ちが顔に出ていたのかどうかはわからないが、オフェールアはここでようやっと口を開いた。
「わたくしずっとお慕いしている人がおりますの」
「……へっ?」
唐突な発言にアンナはドキリとする。
「あの……それはカイ……いえ、殿下」
「違いますわ。全然違います」
「では、オフェールアさんがお慕いしている方は、どなた」
「ワイト様ですの」
アンナの言葉を遮って告白したオフェールアの口調は、とても静かなものだった。
けれど薄く笑みを浮かべている彼女の顔は、絵に描いた恋する乙女そのものでーーアンナは目を丸くしてしまった。
「ふふ……こういうときは”お気になさらず”とでも言っておきなさい。もしくは黙って微笑みなさい。たとえ相手の言っている意味がわからなくても、ね?」
名門貴族のオフェールアはまだデビュタント前だが、すでに社交場に出入りしているのだろう。
そして先輩という立ち位置で、アンナに社交界でのマナーを教えてくれているようだ。
学校では教えてくれない貴重なアドバイスをいただけて嬉しい。けれどアンナは、それに従うことはできない。
「……でも、お礼を言われる意味がわかりません」
しゅんと肩を落としてそう言ったアンナに、オフェールアは「そうね」と同意する。ただその目は出来の悪い生徒を見るそれだった。
てっきりお上品な言葉遣いで小言でもかまされるのかと思った。しかし予想に反してオフェールアは、ふっと肩の力を抜いて微笑んだ。
「欠片も気づいてくれないということは、わたくしの演技が上手すぎたのかしら?それとも貴方がただ鈍感なだけなのかしらねぇ……」
酷い言い草だ。
しかし含みのあるオフェールアの言葉を、出入り口にいる取り巻き達は理解しているようだ。
取り巻きその1、その2、その3は、離れた場所でふふふっと互いの腕を突き合いながら笑っている。
アンナはオフェールアも含めて彼女達と率先して仲良くなりたいとは思わない。でも仲間外れにされるのは気持ちの良いものでは無い。
「あのオフェールアさん、私にわかるように教えてくださいませんか?」
不機嫌な顔をして席を立っても良かった。
けれどオフェールアの口調も、この場の雰囲気も自分を陥れようとしているものではない。
だからアンナは勇気を出して聞いてみた。
「ええ、もちろんよ。貴方を除け者にする気はありませんから。......ねえアンナさん、あそこを見て今年の薔薇は特に美しいこと」
そう言ってオフェールアは日が差し込む方向に目を向ける。つられてアンナもそに目を向けた。
秋に咲く薔薇はつる薔薇のように華やかさは無いが、落ち着いた色彩と香りが強いのが特徴だ。
温室は薔薇以外にも沢山の花が咲いている。けれど一番香りを強く感じるのは、すこし離れた場所にある黒みを帯びた美しい濃い赤い薔薇”パパ・メイアン”。
アンナの故郷でも目にする薔薇であるが、一級の庭師が育てた温室のそれは色も形も香りも格段にすばらしい。
「……ほんとうに、綺麗ですわね。わたくしお花の中では一番薔薇が好き」
典型的な貴族のオフェールアと違い、アンナは婉曲な物言いや、腹の探り合いが苦手だ。
前置きだけで察することは到底不可能だから、できることなら早く本題に入ってほしい。
そんな気持ちが顔に出ていたのかどうかはわからないが、オフェールアはここでようやっと口を開いた。
「わたくしずっとお慕いしている人がおりますの」
「……へっ?」
唐突な発言にアンナはドキリとする。
「あの……それはカイ……いえ、殿下」
「違いますわ。全然違います」
「では、オフェールアさんがお慕いしている方は、どなた」
「ワイト様ですの」
アンナの言葉を遮って告白したオフェールアの口調は、とても静かなものだった。
けれど薄く笑みを浮かべている彼女の顔は、絵に描いた恋する乙女そのものでーーアンナは目を丸くしてしまった。
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