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みんな、あの人の前では恋する乙女
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カイロスの神聖魔法のおかげで、アンナはひと眠りした後は、もう歩き回れるくらいには元気になっていた。
さすが、神の祝福を受けた者のみ使える癒しの魔法。
効果抜群。副作用ナシ。ついでに料金ゼロ。有難い限りである。
ただうっかり自力で女子寮に戻ったせいで、ルームメイトのマチルダには不審がられてしまった。
無理もない。あれだけの高熱を短時間で下げる薬はマルグネス国中を探したって見つかるわけないのだから。
とはいえ、カイロスが神殿の巫女の血を引いているなんて口が割けても言えない。
そのため自分でも引いてしまうほど挙動不審になってしまったアンナに、マチルダは悲し気に問うた。
「……ねえ、アンナ。もしかして殿下と裸になって熱を下げるようなことをしたの?」
「してない」
アンナは食い気味に答えた。
***
カイロスと仲直りをして2,3日はぎこちなさが残っていたが、次第に以前のように接することができるようになった。
たったそれだけでも奇跡だと思うアンナをよそに、カイロスは喧嘩などなかったかのように相変わらず人前で際どい発言をかましてくれるし、スキンシップにも遠慮が無い。
その度にアンナは、心臓がドタバタと忙しい。
彼が耳元で囁かれるたびに、不意を突いて手を繋がれるたびに、ひっそりと胸に抱えている恋心は自分の意思とは無関係に育ってしまう。
でも幸いカイロスに想いを気付かれることなく、木枯らしが吹く季節を迎えた今も二人の交際は傍から見たら大変順調である。
……と昨日までは思っていた。
「ーーねえアンナさん、この後少し時間がありまして?」
一日の授業を終えるチャイムと共に、アンナにそう尋ねたのはカイロスの婚約者候補オフェールア・リッドだった。
今日も今日とて左右対称の縦ロールを優雅に揺らしながら。
ただその紫色の瞳は「ちょっとあんた顔貸しな」と、さながらスケバンのように物騒に光っていた。
オフェールアがアンナを連れてきたのは、人気の無い温室内にあるティールームだった。
晩秋だというのに薔薇が咲き乱れるここは温かく、テーブルの上には既に茶器が揃えられている。田舎貴族の自分を歓迎してくれているようにも見えるが、アンナはそれが怖くて仕方がない。
しかも温室の出入り口には、オフェールアの取り巻きその1、その2、その3がしっかりとガードしている。つまりアンナは、逃げられない状況にいる。
「積もる話はあるけれど、まずはお茶を召し上がれ。私が一番好きな銘柄なの。貴方も気に入って貰えたら嬉しいわ」
にこっと笑って、オフェールアは優雅にティーカップを持ち上げて一口飲む。
これは毒など入っていないというアピールか。それとも本気で歓迎してくれているのだろうか。
どちらにしてもお茶を飲まなきゃ先に進まない。アンナは覚悟を決めて一口啜る。疑ったことを恥じるくらいお茶は美味しかった。
「まずは、あなたに感謝とお礼をーーありがとう、アンナさん。カイロスを口説いてくれて」
「は?」
唐突に語りだしたオフェールアに、アンナは間の抜けた声を出してしまった。
さすが、神の祝福を受けた者のみ使える癒しの魔法。
効果抜群。副作用ナシ。ついでに料金ゼロ。有難い限りである。
ただうっかり自力で女子寮に戻ったせいで、ルームメイトのマチルダには不審がられてしまった。
無理もない。あれだけの高熱を短時間で下げる薬はマルグネス国中を探したって見つかるわけないのだから。
とはいえ、カイロスが神殿の巫女の血を引いているなんて口が割けても言えない。
そのため自分でも引いてしまうほど挙動不審になってしまったアンナに、マチルダは悲し気に問うた。
「……ねえ、アンナ。もしかして殿下と裸になって熱を下げるようなことをしたの?」
「してない」
アンナは食い気味に答えた。
***
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たったそれだけでも奇跡だと思うアンナをよそに、カイロスは喧嘩などなかったかのように相変わらず人前で際どい発言をかましてくれるし、スキンシップにも遠慮が無い。
その度にアンナは、心臓がドタバタと忙しい。
彼が耳元で囁かれるたびに、不意を突いて手を繋がれるたびに、ひっそりと胸に抱えている恋心は自分の意思とは無関係に育ってしまう。
でも幸いカイロスに想いを気付かれることなく、木枯らしが吹く季節を迎えた今も二人の交際は傍から見たら大変順調である。
……と昨日までは思っていた。
「ーーねえアンナさん、この後少し時間がありまして?」
一日の授業を終えるチャイムと共に、アンナにそう尋ねたのはカイロスの婚約者候補オフェールア・リッドだった。
今日も今日とて左右対称の縦ロールを優雅に揺らしながら。
ただその紫色の瞳は「ちょっとあんた顔貸しな」と、さながらスケバンのように物騒に光っていた。
オフェールアがアンナを連れてきたのは、人気の無い温室内にあるティールームだった。
晩秋だというのに薔薇が咲き乱れるここは温かく、テーブルの上には既に茶器が揃えられている。田舎貴族の自分を歓迎してくれているようにも見えるが、アンナはそれが怖くて仕方がない。
しかも温室の出入り口には、オフェールアの取り巻きその1、その2、その3がしっかりとガードしている。つまりアンナは、逃げられない状況にいる。
「積もる話はあるけれど、まずはお茶を召し上がれ。私が一番好きな銘柄なの。貴方も気に入って貰えたら嬉しいわ」
にこっと笑って、オフェールアは優雅にティーカップを持ち上げて一口飲む。
これは毒など入っていないというアピールか。それとも本気で歓迎してくれているのだろうか。
どちらにしてもお茶を飲まなきゃ先に進まない。アンナは覚悟を決めて一口啜る。疑ったことを恥じるくらいお茶は美味しかった。
「まずは、あなたに感謝とお礼をーーありがとう、アンナさん。カイロスを口説いてくれて」
「は?」
唐突に語りだしたオフェールアに、アンナは間の抜けた声を出してしまった。
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