不健全な契約から始まる、健全な男女交際~ふしだら令嬢と、喰われた王子のたった一つの隠し事~

当麻月菜

文字の大きさ
上 下
28 / 33
みんな、あの人の前では恋する乙女

1

しおりを挟む
 カイロスの神聖魔法のおかげで、アンナはひと眠りした後は、もう歩き回れるくらいには元気になっていた。

 さすが、神の祝福を受けた者のみ使える癒しの魔法。
 
 効果抜群。副作用ナシ。ついでに料金ゼロ。有難い限りである。

 ただうっかり自力で女子寮に戻ったせいで、ルームメイトのマチルダには不審がられてしまった。

 無理もない。あれだけの高熱を短時間で下げる薬はマルグネス国中を探したって見つかるわけないのだから。 

 とはいえ、カイロスが神殿の巫女の血を引いているなんて口が割けても言えない。

 そのため自分でも引いてしまうほど挙動不審になってしまったアンナに、マチルダは悲し気に問うた。

「……ねえ、アンナ。もしかして殿下と裸になって熱を下げるようなことをしたの?」

「してない」

 アンナは食い気味に答えた。



***



 カイロスと仲直りをして2,3日はぎこちなさが残っていたが、次第に以前のように接することができるようになった。

 たったそれだけでも奇跡だと思うアンナをよそに、カイロスは喧嘩などなかったかのように相変わらず人前で際どい発言をかましてくれるし、スキンシップにも遠慮が無い。

 その度にアンナは、心臓がドタバタと忙しい。

 彼が耳元で囁かれるたびに、不意を突いて手を繋がれるたびに、ひっそりと胸に抱えている恋心は自分の意思とは無関係に育ってしまう。

 でも幸いカイロスに想いを気付かれることなく、木枯らしが吹く季節を迎えた今も二人の交際は傍から見たら大変順調である。

 ……と昨日までは思っていた。

「ーーねえアンナさん、この後少し時間がありまして?」

 一日の授業を終えるチャイムと共に、アンナにそう尋ねたのはカイロスの婚約者候補オフェールア・リッドだった。

 今日も今日とて左右対称の縦ロールを優雅に揺らしながら。

 ただその紫色の瞳は「ちょっとあんた顔貸しな」と、さながらスケバンのように物騒に光っていた。





 オフェールアがアンナを連れてきたのは、人気の無い温室内にあるティールームだった。

 晩秋だというのに薔薇が咲き乱れるここは温かく、テーブルの上には既に茶器が揃えられている。田舎貴族の自分を歓迎してくれているようにも見えるが、アンナはそれが怖くて仕方がない。

 しかも温室の出入り口には、オフェールアの取り巻きその1、その2、その3がしっかりとガードしている。つまりアンナは、逃げられない状況にいる。

「積もる話はあるけれど、まずはお茶を召し上がれ。私が一番好きな銘柄なの。貴方も気に入って貰えたら嬉しいわ」

 にこっと笑って、オフェールアは優雅にティーカップを持ち上げて一口飲む。

 これは毒など入っていないというアピールか。それとも本気で歓迎してくれているのだろうか。

 どちらにしてもお茶を飲まなきゃ先に進まない。アンナは覚悟を決めて一口啜る。疑ったことを恥じるくらいお茶は美味しかった。

「まずは、あなたに感謝とお礼をーーありがとう、アンナさん。カイロスを口説いてくれて」
「は?」

 唐突に語りだしたオフェールアに、アンナは間の抜けた声を出してしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya
恋愛
ルドヴィカは一度目の人生を虚しく終える時に神に願った。  神様、私を憐れむならどうか次の生は大事な方を守れるだけの知識と力を与えてください。 そして彼女は二度目の人生を現代日本で過ごす。 内科医として充実な人生を送っていたが、不慮の事故によりあえなく命を落とす。 そして目覚めた時は一度目の生の起点となった婚約破棄の場であった。 ------------------------------------ ※突然イメージ画像が挿絵で出ることがあります。 ※ストーリー内に出しているのはなんちゃって医学です。軽く調べて、脚色を加えているので現実と異なります。調べたい方、気になる方は該当学会HPなどで調べることをおすすめします。 ※※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

処理中です...