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仮初めの恋人と過ごす日々※なぜか相手はノリノリ
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こちらに気付いたカイロスは、大股で近づいてくる。
何か話しかけようとしたカイロスであったが、アンナの胸元に自分のネクタイが締められていないことを目にして露骨にムッとした顔になる。
けれどアンナの体調が悪いことに気付いた途端、焦燥感を丸出しにして駆け寄った。
「おいっ、何やってんだ!」
怒声と共にカイロスの腕が伸びてきて、強引にマチルダと引き剥がされる。
「......え?......何って......その......」
「殿下、アンナはわたくしの歌を聴いたらすぐに部屋に戻りますから。そう頭ごなしに怒ってあげないで」
「うるさい」
オロオロするアンナに代わりマチルダが間に入ってくれたが、カイロスは聞く耳を持たない。
ただアンナの額に触れる手はどこまでも優しい。
「すごい熱じゃないかっ。こんな状態で歌なんて耳に入るわけがないだろう」
「わたくしもそう言ったんですけどねぇ。聞かないと留年するって言い張って……この子」
「はぁ?......こいつ馬鹿なのか??」
「馬鹿ではないわ。愚かで可愛いだけですわ」
本人を前にしてよくもまあそこまで言ってくれるもんだと、アンナはカイロスとマチルダに文句の一つでも言いたい。
しかしカイロスはアンナに喋る間を与えず、横抱きにする。
「医者......いや、保健室に連れていくぞ」
「そうしてくださいませ。殿下ならアンナも嫌とは言わないでしょうから。じゃあ、わたくしは開幕式がありますから、お先に」
「ああ」
「アンナ、お利口さんに寝てるのよーーじゃあね」
「......ぅえ......ま、マチ......あぁ......ふぇ......」
頬を軽く撫でてひらりと去っていくマチルダを、アンナは声にならない声で呼び止める。
「ったく、そう見せつけてくれるな。病人相手にこれ以上怒鳴り付けたくはない」
「......ひぃん」
親友に手を伸ばそうとするアンナに、カイロスはなぜそこまで怒るの?と聞きたくなるくらい激怒していた。
ただアンナを抱く腕はとても丁寧で、労りが滲み出ている。
「急いで保健室に行くが、お前はもう寝てろ。着いたら手当てしてやるから」
歩き出したカイロスの言葉に、アンナはパチパチと瞬きを繰り返す。
「カイロスさんは、出席しないんですか?」
「当たり前だ。こんな状態のお前を見捨てて行けるか」
「......そんな、私は、大丈夫」
「黙れ。これ以上喋るなら、熱を下げるためにお前の服をひんむいて、俺も裸で添い寝してやるぞ」
「......」
想像すら絶する発言に、アンナは口を閉じる。
その固く結んだ唇は、一生黙っている覚悟すら伝わるもの。
「おい、そこまで嫌がるもんか?」
更に不機嫌になったカイロスの言葉が降ってきても、アンナはむぎゅっと口を閉じて、ついでに目も閉じる。
暗闇の中、カイロスが歩く振動が伝わってくる。たくましい胸に自分の頬が当たる。彼の愛用のコロンだろうかベルガモットと香りが微かに漂ってくる。
そんな中、恋人を横抱きにする第三王子の姿を目にした生徒がキャアキャアと黄色い声をあげる。
いつもなら騒ぎ立てる生徒を前にして、顔を真っ赤にするか死んだ魚の目になるアンナだけれども、今日に限っては全て他人事のように感じていた。
何か話しかけようとしたカイロスであったが、アンナの胸元に自分のネクタイが締められていないことを目にして露骨にムッとした顔になる。
けれどアンナの体調が悪いことに気付いた途端、焦燥感を丸出しにして駆け寄った。
「おいっ、何やってんだ!」
怒声と共にカイロスの腕が伸びてきて、強引にマチルダと引き剥がされる。
「......え?......何って......その......」
「殿下、アンナはわたくしの歌を聴いたらすぐに部屋に戻りますから。そう頭ごなしに怒ってあげないで」
「うるさい」
オロオロするアンナに代わりマチルダが間に入ってくれたが、カイロスは聞く耳を持たない。
ただアンナの額に触れる手はどこまでも優しい。
「すごい熱じゃないかっ。こんな状態で歌なんて耳に入るわけがないだろう」
「わたくしもそう言ったんですけどねぇ。聞かないと留年するって言い張って……この子」
「はぁ?......こいつ馬鹿なのか??」
「馬鹿ではないわ。愚かで可愛いだけですわ」
本人を前にしてよくもまあそこまで言ってくれるもんだと、アンナはカイロスとマチルダに文句の一つでも言いたい。
しかしカイロスはアンナに喋る間を与えず、横抱きにする。
「医者......いや、保健室に連れていくぞ」
「そうしてくださいませ。殿下ならアンナも嫌とは言わないでしょうから。じゃあ、わたくしは開幕式がありますから、お先に」
「ああ」
「アンナ、お利口さんに寝てるのよーーじゃあね」
「......ぅえ......ま、マチ......あぁ......ふぇ......」
頬を軽く撫でてひらりと去っていくマチルダを、アンナは声にならない声で呼び止める。
「ったく、そう見せつけてくれるな。病人相手にこれ以上怒鳴り付けたくはない」
「......ひぃん」
親友に手を伸ばそうとするアンナに、カイロスはなぜそこまで怒るの?と聞きたくなるくらい激怒していた。
ただアンナを抱く腕はとても丁寧で、労りが滲み出ている。
「急いで保健室に行くが、お前はもう寝てろ。着いたら手当てしてやるから」
歩き出したカイロスの言葉に、アンナはパチパチと瞬きを繰り返す。
「カイロスさんは、出席しないんですか?」
「当たり前だ。こんな状態のお前を見捨てて行けるか」
「......そんな、私は、大丈夫」
「黙れ。これ以上喋るなら、熱を下げるためにお前の服をひんむいて、俺も裸で添い寝してやるぞ」
「......」
想像すら絶する発言に、アンナは口を閉じる。
その固く結んだ唇は、一生黙っている覚悟すら伝わるもの。
「おい、そこまで嫌がるもんか?」
更に不機嫌になったカイロスの言葉が降ってきても、アンナはむぎゅっと口を閉じて、ついでに目も閉じる。
暗闇の中、カイロスが歩く振動が伝わってくる。たくましい胸に自分の頬が当たる。彼の愛用のコロンだろうかベルガモットと香りが微かに漂ってくる。
そんな中、恋人を横抱きにする第三王子の姿を目にした生徒がキャアキャアと黄色い声をあげる。
いつもなら騒ぎ立てる生徒を前にして、顔を真っ赤にするか死んだ魚の目になるアンナだけれども、今日に限っては全て他人事のように感じていた。
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