8 / 33
仮初めの恋人と過ごす日々※なぜか相手はノリノリ
2
しおりを挟む
田舎貴族の平凡娘と、光り輝く第三王子が男女交際をしている。
それだけでもセンセーショナルな出来事だというのに、付き合い始めたきっかけは、アンナがカイロスを襲ったからというランラード学園設立以来の大スクープ。
おかげでたった数日で、アンナは有名人となった。
これまで地味の代名詞でいたことなど幻だったかのように。
望む望まないは別として、時のスターとなってしまったアンナは、クラスメイトから質問攻めの毎日である。
おかげで嘘を付くのがちょっと上手くなった。嬉しくない。あと、やっかみが怖い。
でも人の評価というのは、どういうふうに転がるのか予測がつかない。
幸いアンナに下された評価は、ふしだらさを凌駕する勇気ある令嬢というもの。英雄扱いだ。
おかげで靴を隠されるとか、ロッカーにゴミを入れられるなどという陰湿な嫌がらせは受けていない。
それと信じられないことに振られた側のオフェールアは、これまでの悪女が嘘だったかのように模範生のような生活を送り始めている。しかも過去嫌がらせを受けた生徒に対して、一人一人に謝罪をしたとかしないとか。
そんなこともあって、生徒達は概ねアンナに好意的である。
でも、アンナをとりまく世界が一変したのは事実だ。
カイロスの恋人になったアンナは注目の的だった。直接あれこれ聞かれることはデフォルトで、どこに行くにも何をするにしても絶えず人の視線に晒される。
しかもカイロスは仮初の恋人だというのに、とことんアンナを大事に扱う。
付き合い始めて1週間。お昼時になれば毎日ランチに誘い、節度あるスキンシップにも手を抜かない。絵に描いたような健全なる男女交際を演じてくれている。
アンナの切ない気持ちなんて、微塵も気付かずに。
「すまない。少し早く歩きすぎたか?」
「へ?……あ、だ、大丈夫です」
他のことに気を取られていたせいでノロノロ歩きになっていただけなので、アンナを歩く速度を上げる。しかし、
「無理はするな」
カイロスの手が腰に触れたかと思ったら、優しく引き寄せられてしまった。
途端に、そこかしこからキャーと黄色い声が聞こえてくる。
咄嗟に後ろを歩くワイトに救いの手を求めるが、彼は満面の笑みでグッと親指を立てるだけ。何それ、意味わかんない。
アンナの目は、死んだ魚のようになる。
カイロスはカイロスで、どこまでもマイペースだ。
エスコートする手を軽く揺らしながら「午前中の授業はどうだったか?」とか「わからないことがあれば、放課後に見てやるぞ」とか先輩風を吹かす。
ほんのちょっと前、カイロスに片思いをしていたアンナは、そんなふうに彼から言われたら、ときめきすぎて死んじゃうと思っていた。
でも実際そうなってみると、何かが違う。いや大分違う。
理想と現実のギャップにしょっぱい思いを抱えつつ、アンナはとにかく右足と左足を交互に動かすことだけに専念した。
それだけでもセンセーショナルな出来事だというのに、付き合い始めたきっかけは、アンナがカイロスを襲ったからというランラード学園設立以来の大スクープ。
おかげでたった数日で、アンナは有名人となった。
これまで地味の代名詞でいたことなど幻だったかのように。
望む望まないは別として、時のスターとなってしまったアンナは、クラスメイトから質問攻めの毎日である。
おかげで嘘を付くのがちょっと上手くなった。嬉しくない。あと、やっかみが怖い。
でも人の評価というのは、どういうふうに転がるのか予測がつかない。
幸いアンナに下された評価は、ふしだらさを凌駕する勇気ある令嬢というもの。英雄扱いだ。
おかげで靴を隠されるとか、ロッカーにゴミを入れられるなどという陰湿な嫌がらせは受けていない。
それと信じられないことに振られた側のオフェールアは、これまでの悪女が嘘だったかのように模範生のような生活を送り始めている。しかも過去嫌がらせを受けた生徒に対して、一人一人に謝罪をしたとかしないとか。
そんなこともあって、生徒達は概ねアンナに好意的である。
でも、アンナをとりまく世界が一変したのは事実だ。
カイロスの恋人になったアンナは注目の的だった。直接あれこれ聞かれることはデフォルトで、どこに行くにも何をするにしても絶えず人の視線に晒される。
しかもカイロスは仮初の恋人だというのに、とことんアンナを大事に扱う。
付き合い始めて1週間。お昼時になれば毎日ランチに誘い、節度あるスキンシップにも手を抜かない。絵に描いたような健全なる男女交際を演じてくれている。
アンナの切ない気持ちなんて、微塵も気付かずに。
「すまない。少し早く歩きすぎたか?」
「へ?……あ、だ、大丈夫です」
他のことに気を取られていたせいでノロノロ歩きになっていただけなので、アンナを歩く速度を上げる。しかし、
「無理はするな」
カイロスの手が腰に触れたかと思ったら、優しく引き寄せられてしまった。
途端に、そこかしこからキャーと黄色い声が聞こえてくる。
咄嗟に後ろを歩くワイトに救いの手を求めるが、彼は満面の笑みでグッと親指を立てるだけ。何それ、意味わかんない。
アンナの目は、死んだ魚のようになる。
カイロスはカイロスで、どこまでもマイペースだ。
エスコートする手を軽く揺らしながら「午前中の授業はどうだったか?」とか「わからないことがあれば、放課後に見てやるぞ」とか先輩風を吹かす。
ほんのちょっと前、カイロスに片思いをしていたアンナは、そんなふうに彼から言われたら、ときめきすぎて死んじゃうと思っていた。
でも実際そうなってみると、何かが違う。いや大分違う。
理想と現実のギャップにしょっぱい思いを抱えつつ、アンナはとにかく右足と左足を交互に動かすことだけに専念した。
0
お気に入りに追加
499
あなたにおすすめの小説
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される
琴葉悠
恋愛
エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。
そんな彼女に婚約者がいた。
彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。
エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。
冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる