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彼女が王子の恋人になったわけ
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最初にカイロスに助けてもらったのは、今を去ること二年前。
入学したばかりのアンナは、上級生の男子生徒が語る自分への下品な評価をたまたま廊下で聞いてしまったのだ。
彼らは田舎貴族の娘である自分なら簡単に落とせるし、地方は貞操観念が低いからちょっと声を掛けたら簡単にヤレるだろうと笑いながら語っていた。
アンナは予鈴のチャイムが鳴ったのにその場から動けなかった。
自分が名も知らない上級生達にどういうふうに見られているのか知って鳥肌が立つ。今まで覚えたことの無い不快感で気持ち悪くて、とても悔しかった。
そんな中、やたらと良く通る低い声が響いた。
「おい、くだらねえこと言ってんじゃねえ」
怒りを凝縮した冷たい声音は、自分に向けられたものじゃないとわかっていても身体が強張るほど怖かった。
廊下の角で身を隠していたアンナは、それでも恐る恐る声がする方に顔を覗かせる。
そこには青いネクタイをした銀髪の美男子が立っていた。
「自分より格下だからヤレそうだと?そんなんだからお前ら童貞なんだよ」
嘲るように笑いながら、銀髪男子生徒は順繰りに下品な話題を口にしていた男子生徒達を見る。
言われた側の彼らは悔しそうな顔をしていたが、反論することはしなかった。おそらく図星だったのだろう。次第に、決まり悪そうな表情に変わっていく。
「狭い世界しか知らねえお前らの価値観じゃあ、一生モテないぞ。ははっ」
最後にとどめを刺すような言葉を吐いて、銀髪の男子生徒はこちらに向かって歩いてくる。
すれ違いざま目が合った。でも深緑色の瞳はアンナの姿を留めることなく通り過ぎて行った。アンナも彼の瞳があまりに奇麗すぎて思わず息を呑んでしまったためお礼を伝えることができなかった。
それからすぐ、自分の名誉を守ってくれた銀髪の男子生徒の名をルームメイトが教えてくれた。
カイロス・フェル・ロークランジャ。マルグネス国の第三王子。
その名と肩書を知ったときにはもう、アンナは恋に落ちていた。決して手が届かぬ相手だとわかっていながら。
それからずっと密かにカイロスを想い続けてきたアンナであるが、まさかこの事件の二年後、再び自分の窮地を救ってくれた彼から恋人になろうなどと提案されるなんて、夢にも思わなかった。
本当に。
入学したばかりのアンナは、上級生の男子生徒が語る自分への下品な評価をたまたま廊下で聞いてしまったのだ。
彼らは田舎貴族の娘である自分なら簡単に落とせるし、地方は貞操観念が低いからちょっと声を掛けたら簡単にヤレるだろうと笑いながら語っていた。
アンナは予鈴のチャイムが鳴ったのにその場から動けなかった。
自分が名も知らない上級生達にどういうふうに見られているのか知って鳥肌が立つ。今まで覚えたことの無い不快感で気持ち悪くて、とても悔しかった。
そんな中、やたらと良く通る低い声が響いた。
「おい、くだらねえこと言ってんじゃねえ」
怒りを凝縮した冷たい声音は、自分に向けられたものじゃないとわかっていても身体が強張るほど怖かった。
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そこには青いネクタイをした銀髪の美男子が立っていた。
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嘲るように笑いながら、銀髪男子生徒は順繰りに下品な話題を口にしていた男子生徒達を見る。
言われた側の彼らは悔しそうな顔をしていたが、反論することはしなかった。おそらく図星だったのだろう。次第に、決まり悪そうな表情に変わっていく。
「狭い世界しか知らねえお前らの価値観じゃあ、一生モテないぞ。ははっ」
最後にとどめを刺すような言葉を吐いて、銀髪の男子生徒はこちらに向かって歩いてくる。
すれ違いざま目が合った。でも深緑色の瞳はアンナの姿を留めることなく通り過ぎて行った。アンナも彼の瞳があまりに奇麗すぎて思わず息を呑んでしまったためお礼を伝えることができなかった。
それからすぐ、自分の名誉を守ってくれた銀髪の男子生徒の名をルームメイトが教えてくれた。
カイロス・フェル・ロークランジャ。マルグネス国の第三王子。
その名と肩書を知ったときにはもう、アンナは恋に落ちていた。決して手が届かぬ相手だとわかっていながら。
それからずっと密かにカイロスを想い続けてきたアンナであるが、まさかこの事件の二年後、再び自分の窮地を救ってくれた彼から恋人になろうなどと提案されるなんて、夢にも思わなかった。
本当に。
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