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 今更ながら失ったものの大きさに気付き、フェイルは唇を噛む。魔女の呪い針に刺された薬指までもがチクチクと痛む。

 だけれど、ルナーダに幻滅されてしまったら、そうじゃなくても自分は一生笑えないだろうとも思ってしまう。

 フェイルは、今思っていることを一言も口にはしていない。

 けれど、まるでフェイルの思考を呼んだかのように、ルナーダが立ち上がる。そして、フェイルの元まで来ると、膝を付き憂えた栗色の瞳を覗き込んだ。

「おい待て。まさか、まだ俺が薬のせいでこんなこと言ってるって思ってるのか?」 
「うん」

 即答したフェイルに、ルナーダは遠い目をした。

 でもすぐに気を取り直して、別の角度から質問をしてみる。

「ところでお前、惚れ薬って何なのか知っているのか?」

「好きでもない人に、好きって言わせる薬」

「はっ。ガキだな」

「なっ」

 フェイルは、ルナーダに子供扱いされることを、ことのほか嫌う。

 途端に顔を真っ赤にしてフェイルは反論しようとする。けれど、それよりも前に、ルナーダが口を開いた。

「惚れ薬ってのは、要は媚薬。男が女に飲ませるもの。んでもって、その効用は……あっ、いや、なんでもない」

「なんでそこでやめるの!?」

 フェイルの詰問に、ルナーダはあらぬ方向に目を泳がせた。

 【惚れ薬】など、綺麗な表現を使っているだけ。実のところそれは主に、性的な意味で男性が女性に使うものであった。

 無論、ルナーダはそんなことをフェイルに言えるわけない。なぜなら、次に『なんでそんなこと知ってるの?』なんて聞かれたら、とても困ってしまうから。

 だけれど、フェイルは教えてくれと目で必死に訴えてくる。

 ──……くそっ。

 ルナーダは、心の中で悪態を付いた。

 でも、可愛い可愛いフェイルに対して、きつい言葉を吐くことなどできるわけもなく、誤魔化しつつも説明することを選んだ。

「惚れ薬っていうのは……まぁ、アレだアレ。薬の力で相手を思うように従わすことができる薬なんだよ。本人が嫌だと言っても、従順になる。でも、見てみろ?俺は、お前の言葉に素直になっているか?ん??」

 フェイルは、今しがたのルナーダの説明を心の中で何度も咀嚼する。

 確かに、ルナーダは甘い言葉を吐いてくれたけれど、フェイルの思い通りになっていない。そもそも、従順になった人間が、従順にした人間に対して馬鹿などと言うわけがない。

 これはなかなか説得力のあるものだった。

「理解したか?」
「うん」
「じゃあ、この薬がイカサマ品だってわかったか?わかったよな!?」
「う、うん」

 最後はルナーダの気迫に押され、フェイルは、ややたじろぎながら頷いた。

 でもすぐに、こくこくと壊れた玩具のように何度も頷いた。

 そうすればルナーダは、ふうやれやれと額に浮かんだ汗をぬぐった。
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