好きな人に惚れ薬を飲ませてしまいました

当麻月菜

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「好きだよ、フェイル。世界中で一番君を愛してる」

 西の空は茜色に染まり、東の空には夜の色が迫ってきている。

 そんな夕暮れ時、二人っきりの部屋で16歳になったばかりのフェイネルに甘い言葉を吐くのは、この少女が長年片想いをしている騎士ルナーダだった。

 ルナーダは長身で、茶褐色の髪と意志の強そうな琥珀色の瞳に凛々しい眉。かなりの美丈夫であり、フェイルの家が営むパン屋で毎日、パンを買ってくれる。

 貴族の次男として生まれた彼は、自分か住む大きい屋敷でもっともっと美味しいパンを食べれるというのに、飽きもせず通ってくれる。

 そんなお得意様である彼は、フェイルより5つ年上。騎士らしくがっしりとした体躯で、手は豆だらけで大きく温かい。

 フェイルはルナーダの手が大好きだった。ぎゅっと握ってもらえると、どんなに辛いことがあってもたちまち笑顔になってしまうほど。

 なのに、もうそれは望めない。だってルナーダは、来月王都を離れてしまうから。

 一人前の王宮騎士になったルナーダは、病弱である彼の兄を支えるために、領地へと行ってしまう。そこでゆくゆくは騎士団長になる予定らしい。

 つまりフェイルは片思いのまま、この恋を終わらせないといけなくなったのだ。

 でもそう簡単に諦めきれないフェイルは、ルナーダに惚れ薬を飲ませてしまった。

 一ヶ月という短い間だけでも、彼の恋人でいられるように。
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