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聖女に接待はご不要です

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 趣向を凝らした王族専用の食堂に、『むごっ、ごほっ、ごほほんっ』と無作法な声が響く。

 声の主はキッシュを喉に詰まらせ悶絶しているサーシャだ。
 でも、当人とて好きでそんなことをしているわけではない。

 それは、ここにいる全員がわかっているので、誰も咎めることはしない。むしろ心配そうにオロオロとした様子で見守っている。ただ一人を除いて。

「サーシャさま、大丈夫ですか?!」

 アズレイトは自分の水の入ったグラスを手にしてサーシャの元に駆け寄った。そしてそれを手渡すと、今度はその背を優しく撫でる。

「おやまぁ、アズに身体を触れさせても嫌がらないとは、ぬしら随分と距離を縮めたのだな」

 なんか誤解しか生まない女王の発言に、サーシャは違う違うと反論したい。   

 そして、窒息死一歩手前の状態になったのは誰のせいだと詰め寄りたい。……さすがに、しないけど。ただジト目で睨むくらいは許されるだろう。
 
 そう結論付けたサーシャは、あらん限りの眼力でエカテリーナに訴える。けれど、相手は女王。はんっと鼻で笑われて終わりだった。

 ……さすが女帝。
 
 いっそ拍手を贈りたくなるほどの態度にサーシャは素直に敗北を認めた。

 けれど、これで終わりではなかった。

「聖女様、アズレイトは槍、剣、弓。それに体術はかなりの腕前であり、大変丈夫な種馬です。我が息子ながら、どの種馬にも負けないと自負しております」
「あのねサーシャさま、弟は顔だけじゃなく、頭も良いんですわ。一度命じれば二度目は勝手に動いてくれるし。調教する必要がない種馬なのよ。きっと閨でもこれまでの経験をもとに頑張ってくれると思うの」
「あのねあのね、聖女さま聞いてくださいな。お兄様はとぉーっても優しいの。どんなワガママでも良いよって言ってくれるのよ。だから、きっと閨でも大切に扱ってくれると思うわ。今晩にでもどうぞ試してみてくださいな。我が国では味見は違法ではありませんからね?」

 にこにこと笑いながらサーシャに話しかけるのは、王配殿下と王女2名ヴィクトリアとポリーナ。

 エカテリーナは美魔女と呼ぶべき、華やかな容姿の持ち主で、王配殿下のヴァフリッドも渋いイケメンである。そんな両親の子供は、もちろん美しい。

 ただ、口から出てくる言葉はどうよ?と言いたくなるもの。

 はっきり言ってハイクラスな方々の口から発せられるのはあまりに不釣り合いだ。

 でもサーシャは首を横に振ることもせず、断り文句を口にすることもせず、無言で水を飲む。ごくごくと、飲む。

 ちなみに家族全員から種馬扱いされた第一王子は、ちょっとだけ照れていた。

 いや、ちょっと待て。怒らんのかいっ。

 サーシャは思わず、心の中でツッコミを入れた。幸いにもグラスに口を付けていたので、今回は声に出すことななかった。
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