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聖女に接待はご不要です

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 ある程度身分のある女性の場合、ちょっとした段差でも椅子から立ち上がる時も、付添人に向け手を出す。
 そんでもって付添人のエスコートで歩き出したり、立ち上がったりするものだ。

 別にその女性が骨粗鬆症で、介護を必要としている人間だからではない。そういう無駄な行為が上流階級の流儀なのである。

 サーシャは人里離れた森の中でひっそりと生きてきたとはいえ、ライボスア国での地位は上から数えた方が断然早い。
 追放された過去があるとはいえ、聖女というのは超が付くほど、お偉いさんだったりもする。

 だからアズレイトは、礼節に則りサーシャをやんごとなきお方として扱っている。

 なのだが、そうされているサーシャには自覚がてんで無いし、自分がどれほど高位にあるのか知るつもりもない。
 そもそも、森の中で一人で生活しているサーシャにとって、そんなものを覚えたところで、毛ほども役に立たない。ルールもマナーも誰かがいてこそのものなので。
 
 そんなわけでサーシャは、王子様にエスコートされて王女に会うため謁見の間に移動しているというよりは、田舎者の自分が王子様にお子ちゃま扱いされ王女の元まで道案内されている気分でしかない。

 でも、どれだけ訴えてもアズレイトは自分の腕からサーシャの手を抜くことはしなかった。

 そして2人は、荘厳な王宮の回廊を歩きなが、こんなしょうもない会話をする。

「ねえ、子供じゃないんだから一人で歩けるし。手を離してくださいっ」
「ははっ。サーシャさま、それはなかなかユニークに富んだ発言ですね。ですが貴方様が子供じゃないから、こうしているのです」
「いやいやいやいや、どう見ても子供扱いでしょ?コレ」
「ははははっ。───……こりゃあ、筋金入りの世間知らずなお姫さまだな」
「あ゛なんか言った?」
「いいえ、なにも。あ、サーシャさま到着しました」

 王宮の警護に勤める衛兵がぎょっとするような緩いやり取りをしていたが、アズレイトの言葉でサーシャはピタリと足を止めた。

 これまでロクに王宮内の景色を見ていなかったが、さすがにこれだけ大きなものなら否が応でも視界に入る。

 ───ゴクリ。

 思わずサーシャは唾を呑み込んだ。

 金の彫刻を施した扉は、こちらの侵入を拒んでいるかのように見える。

 見た目は、金の蔦が絡まるように彫刻をされ芸術的にはすばらしい。けれど、扉を開ける前からこの奥にいる御仁のオーラが伝わってくるような気がしてならない。

 絶対におっかない人種なのだろう。なにせイケメンの首をフランクに跳ねることができる人種なのだ。

「あー……帰りたい」

 ものっすごい本音がサーシャの口から飛び出した。

 けれど、その言葉は声として発したけれど、扉を開ける音でかき消されてしまった。

 そして、左右2名の衛兵の手で扉が更に大きく開き、ゆっくりと玉座へと続く道ができる。晩秋を思わせる唐紅色の絨毯が、ずっとずっと先にいる女帝へとサーシャを誘う。

 絢爛豪華な椅子に腰かけて、サーシャの到着を待つその人物は、アズレイトと同じプラチナブロンドの髪だった。
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