上 下
129 / 131
第4章:帝国編

第129話 最後の戦いへ

しおりを挟む
 ラストダンジョンの最後の間へと僕たちは踏み入った。たぶん、そこは帝都の城、皇帝の間のようだ。そして、その奥の玉座に座る一人の男。

 豪華な玉座に優雅に座る男、その姿形は、どう見ても皇帝ハウザーだった。

 だが、そこに本物のハウザーがいるはずもないのだ。それは多分、邪神が変化《へんげ》したものなのだろう。

 邪神が力を取り戻すまでのアバターということか。ハウザー本体に憑依し利用されなかったのは、もしかしたらマリアーネの最後の母性だったのかもしれない。今となっては知る術はないけれど。

 その男は入って来た僕たちを一瞥いちべつすると、つまらなそうにそっぽを向き、ひじ掛けに置いた手を一振りする。

 魔法の鎖"グレイプニール"を発動させたのだろう、周囲に邪悪なオーラが渦巻きだした。その禍々しいオーラは鎖となり僕たちを縛り上げようと襲い掛かる。

 邪神は僕たちがその鎖に絡まれてがんじがらめになって動けなくなる。と、そう思ったのだろうが、その術はミーリアが放つ聖なるオーラ"プラティーニール"によって、なんなく解除されてしまう。

 その光景を横目で見た邪神は、驚愕の眼を見はった。そこでやっと、今起こった事の真相を察したのだろう。

『この期に及んで、クロフォーネめ!』

 今度は憤怒の形相でミーリアを睨みつける。

 そしてゆっくりとした動作で立ち上がると、ハウザーの姿は、暗黒のオーラが包み込み、そのオーラが晴れたそこに立っていたのは、本来の姿に戻った邪神ベルディエルそのものだった。

 その姿は精霊樹の中で精霊女神アルフォーニスから流れてきた記憶の断片で見た男神だった頃とは似ても似つかない、醜悪な悪魔へと変化していた。

 その悪魔は禍々しい巨大な斧をどこからか取りだすと、大きく一振りして構えた。
 そこで、リンゴが<咆哮>を放ち、モーリッツさんがゴーレムを召喚すると、僕を含めた六人の勇者&神獣にて最後の戦闘は開始された。

 真っ先にアランさんが突っ込み、その後を本城さんと僕が切りつける。すると、要所要所にアーヴィンさんが仕掛けた罠が邪神を弱らせると、数多く並べられた砲弾から一斉に砲撃を浴びせかけた。

 邪神は何度か"グレイプニール"を発動させるが、悉くミーリアに拒まれてしまった。
 そこで、まずはミーリアを始末しておこうと、彼女へ烈しい攻撃を仕掛けるも、それはミーリアを守るクライドをはじめとしたヴォーバルニャ組によって、難なく食い止められてしまう。

 長時間に及ぶ戦いは僕たち優勢で進んだのだが、邪神の体力はバケモノだ。その上、子飼いの魔物を次から次へと呼んでくる。その度毎、そちらに手を取られ回復されてしまうのだ。

 いくら攻撃し続けても中々最後が見えない事で、次第に僕の心に焦りが生まれてきた。そして――。

 邪神へと切り込もうとした足が出ず、なんと転倒してしまったのだ。<肉体強化>時間が切れて、とうとう僕の足に限界が来てしまったようだ。すると、転んだ僕に向かって邪神の巨大な斧が降り下された。慌てて横に転がってそれを回避する。

「わ! 危なかった!」

 周りを見ると、皆も同じように、肩で息をしている状態のようだ!

「やばいな、このままでは埒が明かない」

 奴の弱点か、せめて、残りの体力でも分かればなのだが……。

 薄々は気付いていたのだが、ここのダンジョンコアは邪神そのものだ。すなわち、邪神を倒せば、このダンジョンも崩壊するはずなのだ。

 邪神は僕が逃げた所に再び斧を降り下ろすも、それを必死で回避し、逃げ回り続ける。僕が邪神の気を引いている間に、他のメンバーはフランソワさんによって、回復を受けているようだ。

 邪神の相手は今僕一人で引き受けて、ギリギリの所で受流して逃げ回りながら、この拮抗状態を何とか出来ないものか? を必死で考えているのだが……。

 目を凝らすも相手の弱点は見えず、いいアイデアも浮かばない。さすが神って事だろう。

 だが、邪神の醜い形相を見ていて、僕はふと思い出してしまった……。記憶の断片で見た、二人でいる時の幸せそうな柔らかな笑顔と、すれ違いが生まれ、仲たがいした時の、女神のあの寂しそうな顔を。

 女神は男神を本当は消滅させたくないのかもしれない。だけど、もう、自分にはどうしようもない状態になってしまった事を憂いている感じだった。

 S級勇者たちであれば、時間はかかるだろうが、このまま行けば邪神を消滅させる事も可能だろう……。だが。

 何とか、もう一度、二人を会わせる事が出来ないだろうか? 話せは分かり合える! 平和ボケした日本人の僕はついついとそう考えてしまった。

 たぶん、最後は己自ら印籠を渡そうと、女神はここに来ているはずなのだ。

 邪神自体がコアだとしたら<シンクロ>すれば、邪神ベルディエルの深層世界へと干渉する事ができるはずだ。そこでなら。
 そこで僕は、こちらの情報が漏れないようにと解除していた<シンクロナイゼーション>を同期してみようか? と、ダメ元でそう考えた。

 だが、流石に僕だって学ぶのだ。ここで発動させてしまえば、十中八九取り込まれてしまい、邪神の側に立ってしまうかもしれない。自慢じゃないが、抗えない自信はある! かなしいかな。

 だが、今は僕は一人じゃない。頼れる仲間がいるから。皆にお願いする事にした。 それは、リンゴ、ミーリア、アリシアの聖なる力で守ってもらうってことを。

「お願いがあります! どうか、邪神とシンクロさせてください」

 僕がシンクロを発動し、邪神の深層世界へとアクセスをする事を伝え。僕の様子がおかしくなれば、仲間たちに引っ張り上げてもらいたい旨をお願いした。

「ええええ!」
「なんだって!」
「嘘だろ!」
「それって大丈夫なの?」

 皆は口々に驚き、慌てていたが、僕の決意を知って、渋々だが了承してくれた。

「分かった。レン、頼んだわよ。安心して、必ずあなたを引き戻すからね」

 そう言うアリシアにミーリアも頷く。リンゴは僕の身体にすり寄り、く~んと鳴いた。
 S級勇者たちも、戦いながら任せておけとのサインを送ってくる。

「後はよろしくお願いします。では、行ってきます!」

 そして<シンクロナイゼーション>を発動させた。

 すると、目の前の世界は一転する。

 そこは今までとは異なる異質な世界であり、このダンジョンのコアとなる邪神の心層世界が広がっていた。

 深層世界。心の奥深くに存在する無意識の領域であり、無意識での思考、感情、本能、記憶などの深層真理で構成された自分では意識していない心の奥底なのだ。

 まるで闇の世界。真っ黒な渦が巻きあがり、稲妻と雷鳴がとどろく恐ろしい混沌の世界がそこには広がっていた。それはまるで暗黒が渦巻くでブラックホールのようだ。

「うわぁあああ!」

 まただ、またまた引っ張られる!!!!

 必死で踏みとどまるも、その吸い込みの強さに引きずり込まれる。もうダメだと思った途端、僕の身体が強い力で引き戻される。僕の身体を引っ張っている存在……。

「リンゴ! お前もこっちに来れたのか?」
「うぉ~ん!」

 神獣リンゴは誇らしげに一声鳴くと、ゴロゴロいいながらすり寄ってきた。リンゴをわしゃわしゃしていると、『大丈夫でしたか?』との声が後方から響いた。

 振り返ると、そこには居たのは女神アルフォーニス様だった。

「やっぱり、来ていたんですね」

 女神は優しい微笑みを浮かべると……。

『ここまで連れてきてくれて、ありがとう。あとは私に任せてください』

 そう言うと、厳しい視線を前方に向けた。

 女神が視線を向けた先、全身に禍々しい暗黒のオーラを纏わせた不気味な男が立っていた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

悪役令嬢は、初恋の人が忘れられなかったのです。

imu
恋愛
「レイラ・アマドール。君との婚約を破棄する!」 その日、16歳になったばかりの私と、この国の第一王子であるカルロ様との婚約発表のパーティーの場で、私は彼に婚約破棄を言い渡された。 この世界は、私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だ。 私は、その乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 もちろん、今の彼の隣にはヒロインの子がいる。 それに、婚約を破棄されたのには、私がこの世界の初恋の人を忘れられなかったのもある。 10年以上も前に、迷子になった私を助けてくれた男の子。 多分、カルロ様はそれに気付いていた。 仕方がないと思った。 でも、だからって、家まで追い出される必要はないと思うの! _____________ ※ 第一王子とヒロインは全く出て来ません。 婚約破棄されてから2年後の物語です。 悪役令嬢感は全くありません。 転生感も全くない気がします…。 短いお話です。もう一度言います。短いお話です。 そして、サッと読めるはず! なので、読んでいただけると嬉しいです! 1人の視点が終わったら、別視点からまた始まる予定です!

「異世界で始める乙女の魔法革命」

 (笑)
恋愛
高校生の桜子(さくらこ)は、ある日、不思議な古書に触れたことで、魔法が存在する異世界エルフィア王国に召喚される。そこで彼女は美しい王子レオンと出会い、元の世界に戻る方法を探すために彼と行動を共にすることになる。 魔法学院に入学した桜子は、個性豊かな仲間たちと友情を育みながら、魔法の世界での生活に奮闘する。やがて彼女は、自分の中に秘められた特別な力の存在に気づき始める。しかし、その力を狙う闇の勢力が動き出し、桜子は自分の運命と向き合わざるを得なくなる。 仲間たちとの絆やレオンとの関係を深めながら、桜子は困難に立ち向かっていく。異世界での冒険と成長を通じて、彼女が選ぶ未来とは――。

ダンジョン経営初心者の僕は、未来の俺の力を借りてでも君を絶対に幸せにしてみせる

紺色ツバメ
ファンタジー
魔王の息子であるクレフ=クレイジーハートは、十四歳の誕生日を迎えたその日から、この世界にある一つのダンジョンの運営を任せられていた。 父から派遣された二人の側近、妹のミルメア=クレイジーハート、そして何人かの昔からの仲間とともに、ダンジョンに攻め入る勇者の相手をする、少し退屈で、しかし平穏な日々を送っていた。 そう、その日までは。 これは、彼が縁もゆかりもなかった世界の姫君を勇者よろしく守ることになるまでの、 七十二時間ほどの、短い、お話。

【読み切り版】婚約破棄された先で助けたお爺さんが、実はエルフの国の王子様で死ぬほど溺愛される

卯月 三日
恋愛
公爵家に生まれたアンフェリカは、政略結婚で王太子との婚約者となる。しかし、アンフェリカの持っているスキルは、「種(たね)の保護」という訳の分からないものだった。 それに不満を持っていた王太子は、彼女に婚約破棄を告げる。 王太子に捨てられた主人公は、辺境に飛ばされ、傷心のまま一人街をさまよっていた。そこで出会ったのは、一人の老人。 老人を励ました主人公だったが、実はその老人は人間の世界にやってきたエルフの国の王子だった。彼は、彼女の心の美しさに感動し恋に落ちる。 そして、エルフの国に二人で向かったのだが、彼女の持つスキルの真の力に気付き、エルフの国が救われることになる物語。 読み切り作品です。 いくつかあげている中から、反応のよかったものを連載します! どうか、感想、評価をよろしくお願いします!

異世会男子の聖女物語〜能力不足の男として処刑放逐した召喚者は実は歴代最強勇者(男の娘判定)だった!〜変装の為の女装だ!男の娘言うな!

KeyBow
ファンタジー
召喚時に同名の幼馴染と取り違えられ、勇者と聖女がテレコになった。男と言うだけで処刑の為追放される。初期に与えられたギフトは異空間収納と一日一度限定の時間遡行のみ。生き延びられるか?召喚される前に、異世界で知り合った謎の美少女達と逃避行をする為に女装している夢を見たのだが・・・

Shapes of Light

花房こはる
ファンタジー
この世界の人間達は皆魔力を所有している。その魔力の保有量は人それぞれ差があり、魔力が多いものほど人生に於て優位な立場に立てる。 また、他の者の魔力を奪い自分のモノにする事も可能だ。いわゆる弱肉強食の世界。 ここ、『アシオン』の現王も他の魔力を奪うことで、力を増大させこの王の座に着いた。 人の道として他のモノを奪うなど道徳的にも御法度と言えるのだが、この王の即位後、王自らの行為を正当化するため『他の者から魔力を奪うことを可とする』と言う新たな法を立法した。 そのため今の王になってから、いったいどれほどの人の命が魔力の奪い合いで消えてしまったのか。 そんな悪王に半ば強制的に仕えさせられている「カイル」は、勅令により赴いた地で樹木の魔物に襲われている「シン」と言う少年を助ける。 シンは、この国では見たこともない風貌と紫の瞳を持った異国の少年だった。 そのシンは魔力量が桁違いに多く、その力を欲する王に目を付けられてしまう。そしてシンは、魔力を魔石として取り出されそうになる。 魔石とは、奪い取った魔力を石のように具現化したものだ。その魔石を服用すれば、魔力を奪ったときと同じようにその魔力を使うことができる。 だが、その魔石を作るためにはかなりの魔力を濃縮して作るため、通常なら数人分の魔力で魔石は1個から2個ほどしか作ることが出来ない。 魔力をすべて魔石に変えられた者の末路は、消滅しかない。

罪咎《ざいきゅう》の転移者 ~私の罪と世界の咎~

曇天
ファンタジー
女子高生、七峰 凛《ななみね りん》は超能力者だった。 ある予知で能力を使い目覚めると、モンスターに襲われる少年トレアと出会いそこが魔法のある異世界だとしる。 凛はその世界で生き自らの過去と能力に向かい合っていく。

処理中です...