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第4章:帝国編

第120話 暗黒のオーラ

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 ラティア辺境伯は自軍を率いての帝都に向かっていた。今、帝都は切迫した危機的状況であるとの知らせを受けての強行である。

 勇者様に帝都の現状を知らされ、最初は半信半疑だったが、その状況を直に見せられては信じないわけにはいかない。勇者様の世界の技術には恐れ入るばかりだ。

 焦る気持ちからだろうか、これほど馬を飛ばしていると言うのに、まるでゆっくりと進んでいるのでは無いか?とさえ思えるほど気持ちだけが先走ってしまう。

 其れもそうだ。帝都には引退した両親と嫁いだ妹がいる。その事を考えると居ても立っても居られないのは仕方ないではないか。

 あの空飛ぶ乗り物で、私一人だけでも勇者様方と一緒に連れて行ってもらいたかったのは山々だったが、兵士たちも同じ境遇であるのだ。指揮官である私が身内可愛さで抜け駆けしてどうする。

「どうか無事でいてくれ…」

 今は勇者様方のお力を信じるしかない。心の中で皆の無事を祈りながら、出来うる限りの速さで駆け抜けて行く。

 本来は両国の戦争を止める事が大義ではあったのだが、それが最悪な形での回避となってしまった。それは、流石に想定外であったのだ。

 まずはこの事を、公爵へと大至急に知らせを入れる。

 早急に連絡が取れたのも通信のオーブを持たせてくれたオルロープ商会のご隠居のお陰だ。ご隠居は、帝都近くのギルドにも緊急事態を告げる連絡を入れてくれるそうで、本当に感謝してもしきれない。

 公爵の方はと言えば、直ぐにモントヴル王に告げてくれ、王国からも援軍を送りたい旨の申し出をもらったようだ。

 敵対国であり、その上、侵略しようとしていた側への暖かい取り計らいには、色んな意味で救われる思いだった。

 ラティア辺境伯は万感の思いを抱きつつ、馬上にて胸にかかったラウド聖教のアミュレットを強く握りしめるのだった。


 ◇◇◇


 城を守っているかのような結界が解除された事で、とうとう、そこに存在する”創造の世界ダンジョン”の全貌が露わになった。

 そして僕がその敷地内に一歩足を踏み入れた途端、ここのダンジョンの情報が怒涛の如く僕の中へと押し入って来る。

 僕の中に入って来た情報は、頭の中で何枚もの映像がパタパタと組み替えられ、それが次々と整理されて。それは何処の場所は何処に繋がり、また何処にループしているかが、まるでフローチャート図のような案配だ。

 またそれと同時に、別画面にて、詳細マップとしても表示されるのだ。

 そこには出現魔物や獲得アイテム等の情報が、いくつものコントロールパネルが整列しての、それはまるでゲーム画面のようだった。

 だが、ここで問題が生じたのだ。僕がこことリンクを繋げた途端、ラスボスである邪神とも繋がってしまった。

『見つけたぞ!』

 邪神はゆっくりと振り返り、僕に向かって手招きする。

 その醜悪さ、邪悪さは、エゴイズム、マキャベリズム、サディズム等々、非道徳で自己中心的。その負の感情が次々に流れ込んできた。存在自体がサイコパスの極みなのだ。

 そのどす黒いオーラの鎖が僕を包み込み縛り付ける。そして僕を暗黒面へと引きずり込もうとするのだ。

「(ううう、止めろ!離せ!)」

 声を発する事が出来ない。抵抗しようとしても、僕を縛り付ける鎖の力が更に強まって行き、身体に力が入らなくなり、どんどん意識が薄れて行く。

 そして、目の前が真っ暗になって―――。

 ◇◆◇

 ピチャ、ピチャ…

 「く、くすぐったい……。身体が、お、重い……。」

 何か重たいものが僕を押しつぶそうとしている。眼を開けると、そこにリンゴの顔がアップであり、僕の顔を必死で舐めている。その大きな前足は、僕の胸にあるペンダントの上に乗っかかっているではないか。

「(し、死ぬーーー!)お、重いよー!リンゴ」

 敷地に一歩踏み入った途端、苦痛の表情のまま固まってしまった僕を見たリンゴは、僕を押し倒し、胸にかけていた<プラティーニール>を起動させてくれたようだ。
 そして、ミーリアが僕の邪気を払いのけると、アリシアが咄嗟に<ヒーリング>をかけてくれたようだ。

 暗黒面に引き入れられそうになっていた僕は、リンゴとミーリア、アリシアの連携プレイのお陰で、何とか自分を保つ事ができたようだ。(だが、危なかった……。)

「ありがとう!」

 リンゴの頭を撫でながら、僕は三人にお礼を言う。

「レン、大丈夫か?」

 オッサンが声をかけてくる。

「はい、大丈夫です。頭は痛いですが…」

 リンゴに押し倒された時にできた後頭部のたんこぶに回復を掛けながら。

「大方の事は理解出来ました。ただ……」

 ただ……。という僕の返事に、『ん?どうしたんだ?』と言った風に腕を組んだ状態のオッサンが片眉を上げて怪訝そうに僕を見た。

「僕の存在を邪神に気付かれちゃいましたー」

 テヘペロって風に僕は「失敗しちゃいました~」って感じで頭をかいたのだった。


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