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第4章:帝国編

第105話 軍靴の響き

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 帝都の城の王座の間、その豪華な王座には皇帝ハウザーが座っている。その男は表情も乏しく精気がない。まるで生きているか死んでいるか分からない人形のようだ。その横には生母である皇太后となったマリアーネが寄り添っていた。

 皇太后マリアーネは側近の騎士に声をかける。

「サンチェスコ司教は何処に行ったの!」

「はい、エルフを連れてダンジョンへ行くとの事で、数日前にお出かけになられました」
「聞いてませんわ!役に立たない男ね。まぁいいわ。下がりなさい。ところで、お父様――」

 皇太后に声をかけられた執政官であるバルトハイム侯爵は恐怖で引きつった顔を自分の娘である皇太后へ向けた。彼の顔は真っ青である。

 このバルトハイム侯爵という男は、皇太后となった娘のお陰で男爵から侯爵へと異例の出世をした男だ。

「ところでお父様、もう準備は整ったのでしょうね。いつまで待たせる気?」
「あ、はい。元執政官の側近連中がなかなか言う事を聞かず、出軍を渋っておりまして」

 バルトハイム侯爵はダラダラと汗を書きながら娘に答える。

「なにをやってるのですか!言う事を聞かせるのがあなたの役目でしょう。お父様も今の地位に居座りたければ、さっさと自分の仕事をしなさい!後どれほど時間がかかりますの?」
「ああ、半月ほどありましたら、なんとか……」
「半月、何寝言を言ってますの?三日よ、三日で出軍しなさい」

 皇太后は実の父親を恫喝ともとれる強い言葉で叱咤するように言い放つ。

「言う事を聞かない貴族はさっさと打ち首にしなさい。分かったわね。お、と、う、さ、ま」

 強い言葉で脅したかと思うと、今度は玉座に座っている皇帝の顔を抱きしめて、甘ったるい声を出す。

「ねえ、私のかわいいハウザー、あなたもそう思うわよね」

 もう、本当に役に立たない人間たちだこと――。

 精霊樹が復活したって言うじゃない。あれが復活できるなんて聞いてないわよ。この国を乗っ取るのに時間を掛け過ぎたわね。もう少し強硬に行くべきだったわ。ああ、早くあのお方の為、早く最後のアレを見つけなければ。この息苦しいほどに偽善に満ちた駄肥のような世界。その世界に破壊の限りをつくす。

 そして、ベルディエル様の理想の地へと作り変えるために。


 ◇◇◇


 ハウザーを名乗る男を救い出した後、蓮によって地下ダンジョンから抜け出した一行はターラントへ向かっていた。そこで、皆と合流する事になったからだ。

 ハウザーは最低限の状態で死なない程度で生かされてはいたのだ。

 この世界の人体構造は地球人とは違う。それは、この世界には魔法やスキルと言った理屈では説明しがたい第六の感知能力、それを各自がそれぞれ生まれながらに持っているからなのだ。それは神のギフトと言い、今となれば女神の加護であった。

 役割は多少違っても、神経系のネットワークを司る脳はもちろん存在する。それは生命の神秘というものであろうか。

 だが、ハウザーはその脳の神経細胞のほとんどが死にかけていたのだ。その為、生きる意義や希望、生きる気力、そして考える事の全てを失いかけていたわけだ。
 しかしだ、第六の感知能力であるスキルという奇跡により、その死滅しかけた脳組織をフランソワの再生と、蓮の作る体力回復ポーションにて徐々にではあるが復活に向かう事になったのだ。

 やせ衰えた身体を元に戻すにはかなりの時間が必要ではあるが、脳の再生は早々に出来、普通に会話が出来るとこまで回復が進んだのだった。

「どうです?身体の具合は。体力が回復するポーションを少しづつでもいいから飲んでくださいね。身体が楽になると思いますから。そのうち、ちゃんとした食事が取れるようになったら、美味しいもの作りますね」

 その言葉を聞いてのハウザーは『ありがとう』と言いつつ、涙を流していた。

「どうだ?気分が良くなったら、あそこに閉じ込められた事の事情を話せるか?」

「はい、ようやく頭がスッキリしたようです。私が知ってる事の全てをお話します」

 そんなハウザーから、S級勇者一行は、驚愕の事実を聞くことになったのだった。

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