上 下
98 / 131
第4章:帝国編

第98話 サプライズ

しおりを挟む
 僕は着いた日に結局はS級シーカー達には会えずじまいだった。

 明けて翌日、S級シーカー達は、ダンジョンから帰って来てから、すぐに温泉に行ったようだ。お昼前には帰ってくるから食事の用意を頼むと言われたらしい。

 それを聞いた僕は、彼らの為に腕を振るう事にしたのだ。そこで頼みこんで、オルロープ邸の厨房をお借りする事にしたのだった。

 そして、今、僕は、厨房で全員分の食事を作っている最中だ。

 オルロープ邸の料理人達は、何を作るのかを興味津々で、僕が出してきた色んな具材や調理器具を物珍しそうに見ている。

 本日は和食にしようと考えていたので、下準備を始める事にした。

 料理人達は、こいつはここで、一体何をするつもりだ?と言った風だ。鰹節を削るのを見て、なんでこんな汚げな木材を削ってるんだ?って感じなのだろう。

 すると一人の男、料理長だろうか?ちょっとでっぷりとした貫禄のある男が、昆布を見て僕に「この白い粉を吹いたような板はなんだ?」と問うてきたのだ。

「これは『こんぶ』って言うんです。海の海藻を乾燥させたものなのですが、これを煮る事で、二つのアミノ酸による旨味成分が抽出できるんですよ。そしてこっちは、魚を乾燥させた『かつおぶし』と言います。こんぶとはまた違う旨味成分が含まれているんです。これらを合わせる事で、味わいがより豊になるんですよ」

 そんな事を聞かれ説明しつつ、本日のメニューはどうしようかと考えた。こちらでは生魚は食べないだろうと思い、そこで魚料理をメインにする事にした。

 まずは、海鮮丼だ。大熊さんの知り合いが働く市場で、新鮮な魚介類を格安で譲ってもらったので、それをたっぷり使おうというわけだ。
 最初はお寿司がいいかな?と思ったのだが、お寿司を上手く握る技量は僕にはないので、そこで海鮮丼にしたわけだ。

 具には、マグロ、サーモン、イカ、甘エビ、ホタテ、トッピングにイクラとウニも乗せちゃおー。

 そして、椀物にはブリの赤だし。だしは昆布とかつお節で取った一番だしだ。

 揚げ物にはもちろん天ぷら。油にはこめ油を使う。今回は、エビ、イカ、なす、レンコン、椎茸の天ぷらを揚げる事にした。レンコンは、まぁ、僕のアピールです。
 天ぷらにはお好みで食べてもらおうと、ゆずを少し入れた塩と天つゆを用意する事にした。

 そして、出来上がったそれらをテーブルに並べて、僕は厨房にて彼らが帰ってくるのを今か今かと待つ事にしたのだ。

 実は、彼らはすでに察知出来る範囲まで来ていたので、到着と同時に出来上がるように、そこはちゃんと考慮していたりするのだ。


 ◇◇◇


 そして、それからすぐにS級シーカーたちが館へ帰ってきた。そして、テーブルに乗っている料理を見つけると、少し騒動になったようだ。

 まずは本城が、真ん中のどんぶりを見つけて。

「おい、なんだこれ!これは海鮮丼じゃないか!何故、こんな物がここにある?!」

「持って、それにこれは天ぷらじゃないの。わたくし、このエビ天が大好物なんですのよ。アーヴィンの幻覚じゃないわよね」

 フランソワも天ぷらを見つけて、アーヴィンに真剣な顔で詰め寄る。そんなフランソワにアーヴィンは苦笑いだ。

「さすがにこんな事するほど俺は暇じゃないよ」

「ほぉ、これは日本料理だな。と言う事は…。やはり例の…。」

 モーリッツは冷静だが、だがアランはと言えば。

「つべこべ言わず、早く食べようぜ。腹減ってるんだよ」

 彼らはそれぞれに異なる反応を見せているようだ。そんな反応の彼らにご隠居は話しかけた。

「では、本日の料理長をここでご紹介することにしましょう。どうぞ…レン様、こちらへ」

 その紹介の言葉を聞いて蓮は、厨房の隣にある食堂に入って来た。

「初めまして。料理をさせて頂きました新田蓮あらた れんと申します。日本から参りました。本日は新鮮魚の海鮮丼と椀物にブリの赤だし、そして揚げ物には天ぷらをご用意いたしました。日本の料理がお口に合うかは分かりませんが、どうぞお召し上がりください」

 蓮は自分が日本から来た事を告げ、そして丁寧にお辞儀をした。

「君か、君があの伝言を残したレンという少年か!」
「おお、それだったら、もしかして君は。地球への帰還方法を知っているのか?」
「はい、その事は後でゆっくりとお話するとして、まずはどうぞ」

 蓮は料理を介したサプライズだった事が功を奏したのか、昨日のようなガチガチになることはなく、案外と自然に話をする事が出来たようだ。
 その事がとても嬉しかったのだろう。今までだったら、もうガクブル状態で、肝心な事を何一つ話す事が出来ず、結局は下を向くだけだっただろうから。

 そんな蓮が、今、堂々とS級シーカー達の前で話をする事が出来ているのだ。

 S級シーカー達が、蓮の作った料理を美味しそうに食べる姿を見ている彼の姿は、今までにはない、とても自信にあふれているように見えたのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

人類最強は農家だ。異世界へ行って嫁さんを見つけよう。

久遠 れんり
ファンタジー
気がつけば10万ポイント。ありがとうございます。 ゴブリン?そんなもの草と一緒に刈っちまえ。 世の中では、ダンジョンができたと騒いでいる。 見つけたら警察に通報? やってもいいなら、草刈りついでだ。 狩っておくよ。 そして、ダンジョンの奥へと潜り異世界へ。 強力無比な力をもつ、俺たちを見て村人は望む。 魔王を倒してください? そんな事、知らん。 俺は、いや俺達は嫁さんを見つける。それが至上の目的だ。 そう。この物語は、何の因果か繋がった異世界で、嫁さんをゲットする物語。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

人の身にして精霊王

山外大河
ファンタジー
 正しいと思ったことを見境なく行動に移してしまう高校生、瀬戸栄治は、その行動の最中に謎の少女の襲撃によって異世界へと飛ばされる。その世界は精霊と呼ばれる人間の女性と同じ形状を持つ存在が当たり前のように資源として扱われていて、それが常識となってしまっている歪んだ価値観を持つ世界だった。そんな価値観が間違っていると思った栄治は、出会った精霊を助けるために世界中を敵に回して奮闘を始める。 主人公最強系です。 厳しめでもいいので、感想お待ちしてます。 小説家になろう。カクヨムにも掲載しています。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

処理中です...