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第1章:異世界転移編

第11話 魔の森からの出発(アリシア視点)

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 私、アリシアは、この森の管理及び案内人をしているハーフエルフだ。

 この森に一人残り、世界中に散っていった仲間たちに、この森の状況を知らせることが、私の一番の仕事なのだ。

 私が、この森に残り、管理人の役を志願したのは、ハーフエルフであるこの私を、暖かく受け入れてくれたこの森に、なんとか恩返しがしたかったという事もあるが、私自身のハーフエルフと言う特性とスキルが管理人の役に最適だと思ったからなのだ。

 私のスキルは、『範囲結界』で、狭い一定の範囲であれば、ある程度の結界を張る事ができ、魔素をシャットアウトできる事から、魔物の侵入を防ぐ拠点作りができるからだ。また、魔道具を併用すれば、意図しない者の侵入も防ぐ事が可能なのだ。

 最初、父は、大反対した。彼が心から愛した人、私の母は人間の女性だった。人間の寿命は短く、一緒にいれる時間もあっと言う間に終わる。そんな妻との忘れ形見である大事な自分の娘を、森に一人残す事は、忍びなかったのだ。それに、悪意あるものは、魔物だけではないのだ。いくら、私がそこそこ強いとして、何があるか解らない森に一人残すわけにいかないと。

 最初、私の幼馴染である、エルフのランディは、一緒に森に残ると言い張ったのだが、父に却下された。彼のスキル、『俊足と伝達』は、情報の拡散に最適で、彼がいないと、世界中のエルフへの連絡網が機能しないという事もある。

 それに、「まだ娘はやれん!」と訳の分からない事を叫んでいた。何を言っているのやら。

 だが、私の熱意と、決心に、とうとう最後は折れてくれた。しかし、条件付きでだが。

 それは、定期的に連絡をする事、また、父の派遣した冒険者を受け入れ、ダンジョン調査に同行させる事だ。

 あれから10年。こんな日が来ようとは、正直考えていなかったのだ。ほぼ、諦めていたと言っていいが、ほんのわずかではあるが望みは捨てきれなかった。

 その後ろ髪引かれる思いが、10年、この森から出る事を拒んでいたのだ。


 ◇◇◇


 翌朝、拠点にしていた小屋を出て、森を抜ける事にした。

 まずは、この状況をターラントにいるお父様に知らせ、今後どうしたらいいのかを相談し、長老さまへとお知らせできるよう、手配しなければならない。

 レンをこの森へと、寄こしてくれたのは女神様かも知れないと思うと、感謝しきれない思いだ。早く、皆にこの状況を知らせたい。気だけが焦る。気持ちが先行して落ち着かないのだ。

 今日、10年の時を経て、この森から出発する。この森の再生に向けてだ。

 ただし問題があるのだ、日が沈まない内に、この森を抜けなければならないのだが、一番の問題は、レンのスピードと体力だろう。

 彼を鑑定して解る事、レベルは15しかない。

 ダンジョン消滅に貢献してくれた少年、レンは、異世界から来たと言っていた。黒い髪に、黒い瞳、私が知っている人間とは、見た目が大きく違っているのだ。決して、不快な印象は受けなかったが、18歳で成人だと言うわりには、まだ幼く見える。どちらかと言えば、小動物のような愛らしさがある風貌だった。

 彼のスピードに合わせれば、この森を日が沈むまでに抜ける事は不可能だ。彼に聞いたら、肉体強化はできないようで、どうしたものかと考える。

 魔素量が少なくなりつつあったとしても、まだまだ濃いのだ。最悪、結界を張っての野宿となる可能性もあるなと、充分な準備をして出かける事にしたわけだ。

 彼と二人、歩いて森を進む。彼の体力では、適当な所で休憩を取らないといけないだろう。そんな私の気遣いを知ってか知らずか、彼は、楽しそうに見るもの全てに興味を抱き、あっちを見てはソワソワ、こっちを見てはウロウロと、色んな物を手に取ると、嬉しそうにバックへしまっている。

 頼むから、私の側から離れないでくれ!結界内から出ないでくれ!危なっかしい物を、拾わないでくれー!!心の中でそう叫んでいた。

 日も高くなってきた、そろそろお昼の時間だ。少し休憩がてら、食事にしようと彼に伝えると、嬉しそうに、彼のバックから、シートを出してきて、地面に引くと、大きな袋をどっかから出したかと思ったら、そこから色んな物を取り出す。その中に、私の小屋から持ってきたチーズもあった。

 そういえば、昨晩、私の小屋にあった、色んなチーズを彼はキラキラした眼で物色していて、その中から気に入ったものがあったら、持って行っていいとは言っていたのだ。


 彼は、簡易のかまどを作り、小さな鍋の中に、先ほどもぎ取っていた赤い実の果物を薄く切って並べてその上に白い粉を振って焼いている。

 そして、別に取り出した、固い殻の実を鉈で割ると、そこに入ってたドロッとした物を、昨晩、私があげたチーズを温めながら混ぜ合わせ、その中に白い粉や茶色の粒々を入れて、また混ぜ合わす。

 茶色のものは、細長くて黒い鞘の中から、ナイフで取り出した物のようだ。さっき、バニラだバニラだって、大騒ぎしながら小躍りしていたやつだ。


 そして焼いた赤い実を、皿に並べると、チーズを混ぜ合わした白い物を、その上に乗せ、紫色のベリーで、その皿を飾った。

 うわ、何か可愛いと、思わず凝視してしまった。

 言われるままに、一口食べて見ると、酸味のある甘い果物の上に、甘酸っぱいベリーと優しいチーズとミルクの風味が心地いい、とても美味しいものだった。今までに食べた事のない味。こんな魔の森の中で、こんなに甘くて美味しい物が食べられるとは、とても信じられなかった。夢心地のまま、ぼーっとしていたら、レンは、周りをキョロキョロとして、何かに眼を止めたようだった。

 どうも、魔素だまりに興味を持ったようだ。私は危ないから近づかないようにと慌てて注意したのだけど、彼は大丈夫だといいつつ、何かを行ったようだ。

「ちょっと待て、今、何をした!」

 魔素だまりの瘴気溢れる場所から、瘴気がさっぱり消えているじゃないか!
「この水は、まだ飲めないんですよねー」と言って、その水を二つのコップにつぐと何かを施している。

 そして、その内の一つのコップに入った水を美味しそうに飲んでから、もう一つのコップをこちらへ向けて、「飲みます?」そう言いながらニコニコと可愛い笑顔をこちらへ向けてくるのだ。

 鑑定してみたら、『綺麗で美味しい水』とあった。


 彼は、一体何者なんだ~!!!!

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