上 下
9 / 131
第1章:異世界転移編

第9話 森の案内人

しおりを挟む
 小屋まで戻ってくると、肉が焼けたいい匂いがする。それにアリシアは気が付いたようだ。

「何か、いい匂いがするのだが?」

 ハーブソルトが利いた、焼けた野ウサギの肉の、スパイシーで美味しそうな匂いが漂ってくる。

「アリシアは、肉は食べますか?」

「肉か?肉は結構好きだが。だが、肉にしては、刺激的な匂いがするが、何の肉なのだ?」

「えっとウサギです。ハーブが利いているので口に合うかは解りませんが、食べられますか?」

「喜んで。いいのか?しかし、ウサギとは中々珍しいな。魔素が充満するようになってから、弱い小動物達は、ダンジョンの近くから逃げ出したからな。迷ってきたのかもしれないな。それにしても肉とは久しぶりだ。」

 さっき作った、キノコと野ウサギの香草焼きと、野菜たっぷりコンソメスープをテーブルへ出した。

「ちょっと待っててくれ。」

 そう言うと、アリシアは小屋に入って行き、中からバスケットに入ったパンとチーズを持って来てくれた。

 そして、それをテーブルに乗せると、悪いと言いながら、僕が作った料理を鑑定したようだ。やはり、会ったばかりの人間が作ったものだ、それは仕方ない。鑑定し終わると、とても嬉しそうに、席に着いた。

「レンも、一緒に食べないか?一応、鑑定が出来るなら、こっちも鑑定をしておけ。しかし、誰かとの食事は久々だ。」

 お言葉に甘え、鑑定させてもらった。

 パンは固めのライ麦パンで、チーズは、グリュイエールに似ていてトロリと焼いてライ麦パンに乗せて食べれば、最高に美味しかった。ヨーデルを聞きながら、大きなブランコに乗ってる気がした。同じようにして、香草焼きを乗せて食べても言うことない。また、コンソメスープに付けて食べれば、柔らかくなり、スープの味がしみてこっちも申し分なかった。

 僕の作った料理を口にすると、驚いた顔をして、僕にすり寄ってきた。

「おい、これはなんだ、これはハーブなのか?変わった味だが、とてもスパイシーで美味しいじゃないか!胡椒も利いているとは、香辛料なんて貴重な物なんだぞ。こんなに使って大丈夫なのか?」

 本当に美味しそうに勢いよく食べてくれた。作った物を美味しい美味しいと食べてくれるのが料理する者にとって、一番嬉しいことなのだ。

 僕は一人暮らしなので、ずっと一人飯だ。たまにダンジョンで作る料理は、高位シーカー達は、偉そうな態度で、当たり前のように食う姿を見るだけだったから、アリシアのように、本当に幸せそうに食べてくれる姿をみて、美味しいは正義なのだと真摯に思った。

 二人で、食事を堪能しながら、色々と話した。僕が日本の事を話し、アリシアからはこの国の事を教えてもらった。また、この森が、以前はどんなに美しかったかと言う事も、嬉しそうに話してくれた。

 僕は、そのお返しに、スマホに入ってる日本の景色とか、両親や二人が飼ってる犬の写真を見せた。アリシアは、色んな写真を見て感嘆しているが、スカイツリーから見た東京の夜景に驚いて眼を回した。

 折角なので、スマホに入ってる日本の音楽も聴いてもらったが、軽快なポップや、哀愁漂う静かな曲は、とてもいい曲だと長い耳を傾け喜んでくれたが、しかし、ロックには、驚いてまたまた眼を回した。

 それから、ゲームをしてもらったら、音ゲーに夢中になってしまい、ハマったようで、なかなか返してもらえなかった。エルフの動体視力恐るべし。

 スマホの充電器は、ソーラーパネルでも蓄電出来るものを使用している。この世界でも使える事は確認しているので、気兼ねなく使えるのだ。


 アリシアから聞いた話、この森の見回り以外に、たまにやって来る冒険者達に、寝泊りする小屋を貸したり、この森とダンジョンの案内役もしているそうだ。僕はそれを聞いて、山小屋の管理者及びレスキュー隊のような存在なんだなと思った。

 ここから西に馬車で二日ほど行った所に、ターラントという名のそこそこ大きな街があり、その街の冒険者ギルドのマスターが、アリシアの知り合いで、身元のはっきりした信用のおける冒険者をこの森に派遣してくるらしい。その時に、一緒に食料やら日用品を持って来てくれるのだそうだ。

 彼らは、このダンジョンで魔物の魔石やドロップした素材を求めてやってくるパーティーで、この森やダンジョンは、高品質な装備やアイテムを落としてくれるのだとか。
 ただ、かなりの高難易度な為、高位の冒険者でないと攻略は無理なのだとか。

 ここより先、精霊樹までの道は、魔素量がとても多く、かなり狂暴な魔物や魔獣が多くいるのだ。ゴブリンやオーク、オーガの集落もあり、キングも存在している。また、サイクロプスやトロール、ドラゴン級の魔物も生息している。かなり危険な森なのだということ。

 ただ、ダンジョンは消滅し、ダンジョンから供給されていた魔素も、徐々に減っていくだろう。そうなると、魔物はこの森に存在出来なくなる。特に、多くの魔素が必要な巨大な魔物から弱体していくはずだと。

 アリシアは、精霊樹を復活させるため、色んな人たちの力が必要になってくる。そのために、この森を出て、ターランドへ向かおうと思っている事を僕に告げた。

「どうだ?良かったら、ターラントへ一緒に行かないか?あそこのギルドマスターは信用がおける。きっと君の助けになってくれると思うぞ。」

「私も、この森の恩人であるレンが、自分の世界に帰られるよう、何とか助力したいんだ。」

 アリシアは、僕の方を向いて、きっと、この国のダンジョンのどこかに、君の国と繋がっている場所があるはずだと、そう言ってくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

悪役令嬢は、初恋の人が忘れられなかったのです。

imu
恋愛
「レイラ・アマドール。君との婚約を破棄する!」 その日、16歳になったばかりの私と、この国の第一王子であるカルロ様との婚約発表のパーティーの場で、私は彼に婚約破棄を言い渡された。 この世界は、私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だ。 私は、その乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 もちろん、今の彼の隣にはヒロインの子がいる。 それに、婚約を破棄されたのには、私がこの世界の初恋の人を忘れられなかったのもある。 10年以上も前に、迷子になった私を助けてくれた男の子。 多分、カルロ様はそれに気付いていた。 仕方がないと思った。 でも、だからって、家まで追い出される必要はないと思うの! _____________ ※ 第一王子とヒロインは全く出て来ません。 婚約破棄されてから2年後の物語です。 悪役令嬢感は全くありません。 転生感も全くない気がします…。 短いお話です。もう一度言います。短いお話です。 そして、サッと読めるはず! なので、読んでいただけると嬉しいです! 1人の視点が終わったら、別視点からまた始まる予定です!

「異世界で始める乙女の魔法革命」

 (笑)
恋愛
高校生の桜子(さくらこ)は、ある日、不思議な古書に触れたことで、魔法が存在する異世界エルフィア王国に召喚される。そこで彼女は美しい王子レオンと出会い、元の世界に戻る方法を探すために彼と行動を共にすることになる。 魔法学院に入学した桜子は、個性豊かな仲間たちと友情を育みながら、魔法の世界での生活に奮闘する。やがて彼女は、自分の中に秘められた特別な力の存在に気づき始める。しかし、その力を狙う闇の勢力が動き出し、桜子は自分の運命と向き合わざるを得なくなる。 仲間たちとの絆やレオンとの関係を深めながら、桜子は困難に立ち向かっていく。異世界での冒険と成長を通じて、彼女が選ぶ未来とは――。

ダンジョン経営初心者の僕は、未来の俺の力を借りてでも君を絶対に幸せにしてみせる

紺色ツバメ
ファンタジー
魔王の息子であるクレフ=クレイジーハートは、十四歳の誕生日を迎えたその日から、この世界にある一つのダンジョンの運営を任せられていた。 父から派遣された二人の側近、妹のミルメア=クレイジーハート、そして何人かの昔からの仲間とともに、ダンジョンに攻め入る勇者の相手をする、少し退屈で、しかし平穏な日々を送っていた。 そう、その日までは。 これは、彼が縁もゆかりもなかった世界の姫君を勇者よろしく守ることになるまでの、 七十二時間ほどの、短い、お話。

【読み切り版】婚約破棄された先で助けたお爺さんが、実はエルフの国の王子様で死ぬほど溺愛される

卯月 三日
恋愛
公爵家に生まれたアンフェリカは、政略結婚で王太子との婚約者となる。しかし、アンフェリカの持っているスキルは、「種(たね)の保護」という訳の分からないものだった。 それに不満を持っていた王太子は、彼女に婚約破棄を告げる。 王太子に捨てられた主人公は、辺境に飛ばされ、傷心のまま一人街をさまよっていた。そこで出会ったのは、一人の老人。 老人を励ました主人公だったが、実はその老人は人間の世界にやってきたエルフの国の王子だった。彼は、彼女の心の美しさに感動し恋に落ちる。 そして、エルフの国に二人で向かったのだが、彼女の持つスキルの真の力に気付き、エルフの国が救われることになる物語。 読み切り作品です。 いくつかあげている中から、反応のよかったものを連載します! どうか、感想、評価をよろしくお願いします!

異世会男子の聖女物語〜能力不足の男として処刑放逐した召喚者は実は歴代最強勇者(男の娘判定)だった!〜変装の為の女装だ!男の娘言うな!

KeyBow
ファンタジー
召喚時に同名の幼馴染と取り違えられ、勇者と聖女がテレコになった。男と言うだけで処刑の為追放される。初期に与えられたギフトは異空間収納と一日一度限定の時間遡行のみ。生き延びられるか?召喚される前に、異世界で知り合った謎の美少女達と逃避行をする為に女装している夢を見たのだが・・・

Shapes of Light

花房こはる
ファンタジー
この世界の人間達は皆魔力を所有している。その魔力の保有量は人それぞれ差があり、魔力が多いものほど人生に於て優位な立場に立てる。 また、他の者の魔力を奪い自分のモノにする事も可能だ。いわゆる弱肉強食の世界。 ここ、『アシオン』の現王も他の魔力を奪うことで、力を増大させこの王の座に着いた。 人の道として他のモノを奪うなど道徳的にも御法度と言えるのだが、この王の即位後、王自らの行為を正当化するため『他の者から魔力を奪うことを可とする』と言う新たな法を立法した。 そのため今の王になってから、いったいどれほどの人の命が魔力の奪い合いで消えてしまったのか。 そんな悪王に半ば強制的に仕えさせられている「カイル」は、勅令により赴いた地で樹木の魔物に襲われている「シン」と言う少年を助ける。 シンは、この国では見たこともない風貌と紫の瞳を持った異国の少年だった。 そのシンは魔力量が桁違いに多く、その力を欲する王に目を付けられてしまう。そしてシンは、魔力を魔石として取り出されそうになる。 魔石とは、奪い取った魔力を石のように具現化したものだ。その魔石を服用すれば、魔力を奪ったときと同じようにその魔力を使うことができる。 だが、その魔石を作るためにはかなりの魔力を濃縮して作るため、通常なら数人分の魔力で魔石は1個から2個ほどしか作ることが出来ない。 魔力をすべて魔石に変えられた者の末路は、消滅しかない。

罪咎《ざいきゅう》の転移者 ~私の罪と世界の咎~

曇天
ファンタジー
女子高生、七峰 凛《ななみね りん》は超能力者だった。 ある予知で能力を使い目覚めると、モンスターに襲われる少年トレアと出会いそこが魔法のある異世界だとしる。 凛はその世界で生き自らの過去と能力に向かい合っていく。

処理中です...