89 / 104
第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ
第82話 巨人を断つ雷
しおりを挟む
海賊船へ物凄い勢いで向かうマシンノイドの光をツァニスも察知していた。
「あれは……!」
あれこそ自分に相応しい強敵だと認識した。
半壊したヴィラージュ・オールを引きずって、海賊船へ向かおうとする。
『ツァニス坊、待て』
ザイアスから通信が届く。
「グレイルオス様、いえ、キャプテン! 何故ですか!?」
『――あいつは俺の獲物だ』
「――!」
ザイアスの返答に、ツァニスは絶句する。
ザイアスの顔と声がとても先程まであった海賊船長としての余裕と威厳などといったものが微塵も無く、少年のような若々しさと力強さに満ち溢れていた。
「デューブロンテ……!」
ツァニスは思い出したようにその単語を口にする。
「かつて火星や金星との戦争で一騎当千の活躍をし、その名を轟かせた皇族一の大英雄とまでいわれた御方!」
ツァニスもまた英雄に憧れてやまない少年の眼差しで海賊船を見つめた。
「さあ、くるがいい!」
ザイアスは海賊船のデッキに立ち、カットラスを振るう。
『――!』
シュクセシオンの操縦席のモニター越しからでも、ただならぬ気配としてギムエルは感じ取った。
ガタン!!
轟音を立てて、シュクセシオンは海賊船の船の甲板に立つ。
「俺がこの船の船長! キャプテン・ザイアスだ!!」
『キャプテン? ならば貴様かケラウノスを放つ海賊というのは!?』
「ああ、そうだ!」
ザイアスはカットラスを振るい、雷を迸らせる。
『ならば貴様を討ち取り、この海賊船を沈めてやる!!』
「出来るものならやってみろ!!」
カットラスを引き抜いて一閃する。すると、斬撃がシュクセシオンの胴部をかすめる。
「……フ!」
それが挨拶代わりだ、と言わんばかりにザイアスは一笑する。
「お、おのれぇぇぇぇぇぇッ!!」
シュクセシオンもランスとプラズマライフルを引き抜く。
「フン!」
ザイアスはその様子を鼻で笑い、ケラウノスで逆にプラズマライフルを撃ち抜く。
『クッ!!』
ギムエルは怯んだが、すぐに立て直してランスをザイアスへ振るう。
カキィィィィン!
ザイアスはその身を覆いつくすほどの巨大なシュクセシオンのランスを難なく受け止める。
だが、その衝撃を完全に殺していた。
『――!』
ギムエルはキィと睨み、ランスを振るう。
甲板でヒトが持つカットラスとマシンノイドのランスが激突する。
それはさながらヒトが宇宙に進出する以前から語りづがれる巨人族と神々の戦いのようであった。
「無茶しやがって! どうすればいいんだ!?」
ダイチはブースターを吹かして、ソルダとシュヴァリエの追っ手を振り切る。が、このままエリスだけを連れ出して逃げるわけにもいかないし、エリスもそれを望んでいないことぐらいわかる。
「このまま、突っ込みなさい!!」
「突っ込むってな」
ダイチが戸惑っていると、不意にマップデータが送られてくる。
「これは……!」
『話は全部聞かせてもらったでー!』
イクミが通話に割り込んでくる。
「イクミ!?」
「またタイミングの良いところに。はかっておったのか?」
『通話ぐらいは聞かせてもらってたからな』
(おい!)
イクミは得意顔で盗聴宣言して、ダイチは内心「おい!」とツッコミを入れる。
『その所長はん、マーカー思いっきりつけとったから追うのは楽やったで』
ピコン、とマップの中に赤点が点滅する。
「さすがね! ダイチ、ここに突っ込むのよ!」
「はあ、ちょっと待て!」
いくらなんでもこのまま攻め込むのは危険すぎる。
「まだ捕まっているヒトがいるのよ! 放っておけないわ!」
エリスの脳裏には死なせてしまったハイアンの顔が浮かぶ。
結局、両親も混乱の中で助け出せたのかどうかもわからない。
その婚約者も助け出さなくては、窮地を救ってくれた彼に申し訳が立たない。そんな責任感にとらわれていた。
エリスの事情を知る由もないダイチも、彼女の必死さが伝わってくる。
それに、捕まった火星人を放っておけないのは同意できる。
「仕方ねえ! しっかり捕まってろよ!!」
「誰に言ってるのよ!? フルスロットルで行きなさい!!」
「おう!」
ダイチはヴァ―ランスの腕に乗っているエリスに構わずブースターを吹かす。
エリスは指に捕まって、激しい揺れと向かい風の中、平然としている。
(なんてバランス感覚だ。心配することなかったんじゃねえか……)
ダイチは感心する。
バババババババババン!!
背後から追いかけてくるソルダがマシンガンを発砲してくる。
ダイチは右へ迂回し、収容所の塔を回って追撃をかわそうとする。
「ダイチ! もう一度ブーストじゃ!」
「ああ、あれ大丈夫なのかよ!?」
収容所に一気に辿り着くために一度使用したが、相当な無茶をした感覚はある。
もう一度使ったらバラバラになるのでは
「大丈夫じゃ! 妾も制御してみせる!!」
「制御って……」
フルートもこのヴァ―ランスの操縦者としてGFSにも登録されている。
おかげでこの機体はカタログスペック以上のパワーとスピードを発揮しているような気がしてならない。
そのチカラを頼りにしすぎたら、恐ろしいことになる予感がする。
軌道エレベーターを破壊する程の大出力になった【バスタービームライフル】のように。
「使わんと振り切れんぞ!」
「ああ!」
それは言われるまでも無く事実であった。
このまま振り切れずにやられるか、一か八かのブーストで勝負を仕掛けるか。
「一か八かだ!」
ダイチは決断し、ブーストを起動させる。
「ブースト・オン!!」
二度目のブーストに身体がバラバラになるかもしれない感覚にとらわれる。
腕、足、頭と身体の感触を確かめる。
大丈夫だ。このまま飛べるはずだ。
「いけえええええ!!」
ダイチは前のめりになる。そうすることで少しでもスピードが出る気がした。
音を置き去りにするほどの速度を出しているせいで、マシンガンの音は聞こえてこない。だが、振り切れている実感はある。
そして、確実に所長のマーカーへと近づいている。
障害物になる棟や橋を【アサルトランチャー】で破壊して進む。
「はは、やるわね!!」
エリスは滅茶苦茶楽しそうにしている。
ダイチとしてはブーストが止まらない為、やむを得ずやっていることでいたたまれない気持ちでいっぱいだった。
こんなことはさっさと終わらせてしまいたい。ダイチはそう思い、さらにブースターを吹かせる。
「目的地はすぐそこじゃ!」
「ああ!」
次の塔の先がゴロン所長のいる拠点だとマーカーは告げている。
ブオオオオオオオン!!
そこへシュヴァリエが立ち塞がる。
「くそ、またお前か!!」
ダイチは最早見慣れてきたマシンノイドに悪態をつく。
『心配いらへん! 助っ人がようやくきたで!』
「助っ人!?」
シュヴァリエがビームに撃ち抜かれる。
『遅れてごめん!!』
マイナが駆るアシガルが見える。ライフルをもっていることから彼女が撃ってくれたのだろう。
『グッドタイミングだろ!』
クライスのブレードでシュヴァリエの腕を斬り落とす。
「マイナ! デラン!!」
『おう! ちゃんと助け出したみたいんだな!!』
『ま、簡単に死ぬようなヒトじゃないと思ってたけど!』
「この! 好きに言ってくれちゃって!」
手に捕まっているエリスは猛烈に言い返す。
「よし、もう一息じゃ!」
「ああ!」
ダイチはブースターを吹かせ、目標地点へ飛び出す。
「見えた!」
エリスの指差す先にステンドガラスの天井に覆われた木星人達がいた。おそらくあの中にいる誰かがゴロン所長なのだとダイチは察した。
「このまま、突っ込め!」
「おう!」
ダイチは威勢よく返事し、ステンドガラスへブレードを突き出し、割り込み入る。
「おおぉぉぉぉぉぉぉ、なんてことしやがるぅぅぅぅぅぅッ!!?」
顔を知らないダイチでも、「あいつか!」とわかるほどの悲鳴という存在感を示す。
「そこのひげぇッ!!」
エリスはヴァ―ランスの指から飛んで、ゴロンヘ殴りかかる。
バシィン!!
ゴロンは思いっきり顔面を殴られてぶっ飛ぶ。
「ゴフガッ!?」
「フン、どうよ!」
「きさまぁぁッ、よくもよくもぉぉぉッ!! 火星人の分際で! 分際で! 分際でぇぇぇぇッ!!」
ゴロンは耳を塞ぎたくなるわめき声を上げて立ち上がる。
「思いっきり殴ったのに、頑丈なのね」
「ブランフェール収容所所長は伊達ではなぁぁぁぁいッ!!」
ゴロンが叫ぶと、周囲に護衛の衛兵が集まってくる。
「者ども! この小娘の身体を一片たりともこの世に残すなぁぁぁぁ!」
カチャカチャカチャカチャカチャ
銃や剣を構える。
「させるか!」
ヴァ―ランスのアサルトランチャーを撃つ。
大半の衛兵はそれで吹き飛ぶ。
ヒトにこんなものを撃っていいの、と躊躇いはあった。しかし、エリスを助けるに迷ってはいられなかったし、そんな余裕を持てる状況ではないとの判断でもあった。
「やるじゃん、ダイチ!」
「お、おおう!」
エリスに褒められると、こそばゆい気持ちになる。
「ダイチよ、このバスターを使えばよいのではないか?」
フルートはそんな提案をしてくる。
だが、【バスタービームライフル】を使うのはいくらなんでも躊躇ってしまう。
あんな想定以上の大出力のビームを放つと、所長や衛兵どころかこの収容所ごと吹き飛ばしかねない。そうなったら、火星人は助け出せない。
だが、これを使えば敵を倒せる。しかし、それは目的をも蹂躙する破壊の手段だ。
「いや、使うわけにはいかねえ!」
ダイチはそれだけ答えて、サーベルで衛兵達をなぎ倒す。ヒトに対してはこれで十分すぎる脅威となることをダイチは思い知る。
そこにソルダ達が通路から駆けつけてくる。
「こいつ!」
ダイチはすかさずハンドガンでソルダを撃ち落とす!
「ええい、何をやっている!! たかが火星の機体に!!」
ゴロン所長はわめく。
「火星、火星って、ヒトの故郷をバカにするいい加減にしなさい!」
「うるさい! 火星は我が偉大なる木星に敗北した敗戦星ではないか!!」
「だからって、あんたが敗戦する運命には変わりないでしょ!」
「何をぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
ゴロン所長は電磁鞭を振るう。
バチン!!
これをエリスはあっさり拳で払いのける。
「はあッ!?」
「もう、それは見飽きたわ!」
エリスはうんざり気味に言い、拳を打ち鳴らす。
「バ、バカな! 俺の鞭使いはクリュメゾン一なんだぞ!」
「それがなんだっていうのよ! 宇宙は広いのよ!!」
エリスは拳をゴロンの腹に叩き込む。
「ゴフッ!?」
さらに回し蹴り、顔面への突きと一気に畳みかける。
「ガァァァァッ!!? 貴様ら、何をしている!? 早く、こいつを、こいつを倒さないか!!」
ゴロンは叫び、衛兵たちは集まる。
「ヒートアップ!!」
だが、エリスの熱気と闘志におされて、あっさりなぎ倒される。
「ていりゃぁぁぁぁッ!」
渾身の拳打を打ち込む。
ゴロン所長は勢いよく床を転がり、最後は壁にめり込む。
「しょ、所長……」
その無残な姿を見上げた衛兵達は呆然とする。
「やったか、エリス!?」
「ええ、もちろん!」
力強くそう答えたところで、ダイチは「さすがだ」と感心する。
「これで、大勢は決したようじゃな」
「そうだな。キャプテン達はどうなったんだろうな?」
『いや、そっちはな』
イクミが通信で会話に入ってくる。
ズドン!!
そして、新しく映し出された立体スクリーンからいきなり爆音が鳴り響く。
「うお、なんだこれ!?」
ガキィン! ガキィン! ガキィン! ガキィン! ガキィン!
それは海賊船の甲板で、さっきまでダイチが立っていた場所だ。
そこでザイアスとオレンジ色の塗装した異形の巨人がカットラスとランスをぶつけあっている。
凄まじい光景であった。
動きと勢いを見るだけでオレンジ色の巨人はジェアン・リトスよりも数段上だということがわかる。
その攻撃を易々と受け切って見せているザイアスはやはり只者ではない。
「すげえ……!」
ダイチは思わず感嘆の声を漏らす。
「うむ、キャプテンという男、相当強いな」
強い、なんて言葉言い表していいのかすらわからない。それだけ彼の力はすさまじい。
スパッ!
ザイアスがカットラスを一閃すると、オレンジ色の巨人の腕が斬り落とされる。次にケラウノスによって足を焼かれる。
腕を斬り落とされた隙を突かれてしまったことにより、一気に形勢が決まってしまった。
「ぐあ!」と叫ぶ操縦者の悲鳴が聞こえてきそうだ。
「これで終わりだぜえええええッ!!」
ザイアスは威勢よく掛け声を上げる。
そこから振り下ろされるカットラスはケラウノスを纏っており、まさに神の雷による裁きといっていい。
ザシュゥゥゥゥッ!!
真っ二つに両断されて、崩れ落ちる。
「ま、お前もよくやったほうだぜえ」
ザイアスはニヤリと笑い、カットラスをしまう。
「こ、こんな、バカな……」
ケラウノスの直撃を受けて薄れゆく意識の中でギムエルは現実を受け入れることが出来なかった。
「あれは……!」
あれこそ自分に相応しい強敵だと認識した。
半壊したヴィラージュ・オールを引きずって、海賊船へ向かおうとする。
『ツァニス坊、待て』
ザイアスから通信が届く。
「グレイルオス様、いえ、キャプテン! 何故ですか!?」
『――あいつは俺の獲物だ』
「――!」
ザイアスの返答に、ツァニスは絶句する。
ザイアスの顔と声がとても先程まであった海賊船長としての余裕と威厳などといったものが微塵も無く、少年のような若々しさと力強さに満ち溢れていた。
「デューブロンテ……!」
ツァニスは思い出したようにその単語を口にする。
「かつて火星や金星との戦争で一騎当千の活躍をし、その名を轟かせた皇族一の大英雄とまでいわれた御方!」
ツァニスもまた英雄に憧れてやまない少年の眼差しで海賊船を見つめた。
「さあ、くるがいい!」
ザイアスは海賊船のデッキに立ち、カットラスを振るう。
『――!』
シュクセシオンの操縦席のモニター越しからでも、ただならぬ気配としてギムエルは感じ取った。
ガタン!!
轟音を立てて、シュクセシオンは海賊船の船の甲板に立つ。
「俺がこの船の船長! キャプテン・ザイアスだ!!」
『キャプテン? ならば貴様かケラウノスを放つ海賊というのは!?』
「ああ、そうだ!」
ザイアスはカットラスを振るい、雷を迸らせる。
『ならば貴様を討ち取り、この海賊船を沈めてやる!!』
「出来るものならやってみろ!!」
カットラスを引き抜いて一閃する。すると、斬撃がシュクセシオンの胴部をかすめる。
「……フ!」
それが挨拶代わりだ、と言わんばかりにザイアスは一笑する。
「お、おのれぇぇぇぇぇぇッ!!」
シュクセシオンもランスとプラズマライフルを引き抜く。
「フン!」
ザイアスはその様子を鼻で笑い、ケラウノスで逆にプラズマライフルを撃ち抜く。
『クッ!!』
ギムエルは怯んだが、すぐに立て直してランスをザイアスへ振るう。
カキィィィィン!
ザイアスはその身を覆いつくすほどの巨大なシュクセシオンのランスを難なく受け止める。
だが、その衝撃を完全に殺していた。
『――!』
ギムエルはキィと睨み、ランスを振るう。
甲板でヒトが持つカットラスとマシンノイドのランスが激突する。
それはさながらヒトが宇宙に進出する以前から語りづがれる巨人族と神々の戦いのようであった。
「無茶しやがって! どうすればいいんだ!?」
ダイチはブースターを吹かして、ソルダとシュヴァリエの追っ手を振り切る。が、このままエリスだけを連れ出して逃げるわけにもいかないし、エリスもそれを望んでいないことぐらいわかる。
「このまま、突っ込みなさい!!」
「突っ込むってな」
ダイチが戸惑っていると、不意にマップデータが送られてくる。
「これは……!」
『話は全部聞かせてもらったでー!』
イクミが通話に割り込んでくる。
「イクミ!?」
「またタイミングの良いところに。はかっておったのか?」
『通話ぐらいは聞かせてもらってたからな』
(おい!)
イクミは得意顔で盗聴宣言して、ダイチは内心「おい!」とツッコミを入れる。
『その所長はん、マーカー思いっきりつけとったから追うのは楽やったで』
ピコン、とマップの中に赤点が点滅する。
「さすがね! ダイチ、ここに突っ込むのよ!」
「はあ、ちょっと待て!」
いくらなんでもこのまま攻め込むのは危険すぎる。
「まだ捕まっているヒトがいるのよ! 放っておけないわ!」
エリスの脳裏には死なせてしまったハイアンの顔が浮かぶ。
結局、両親も混乱の中で助け出せたのかどうかもわからない。
その婚約者も助け出さなくては、窮地を救ってくれた彼に申し訳が立たない。そんな責任感にとらわれていた。
エリスの事情を知る由もないダイチも、彼女の必死さが伝わってくる。
それに、捕まった火星人を放っておけないのは同意できる。
「仕方ねえ! しっかり捕まってろよ!!」
「誰に言ってるのよ!? フルスロットルで行きなさい!!」
「おう!」
ダイチはヴァ―ランスの腕に乗っているエリスに構わずブースターを吹かす。
エリスは指に捕まって、激しい揺れと向かい風の中、平然としている。
(なんてバランス感覚だ。心配することなかったんじゃねえか……)
ダイチは感心する。
バババババババババン!!
背後から追いかけてくるソルダがマシンガンを発砲してくる。
ダイチは右へ迂回し、収容所の塔を回って追撃をかわそうとする。
「ダイチ! もう一度ブーストじゃ!」
「ああ、あれ大丈夫なのかよ!?」
収容所に一気に辿り着くために一度使用したが、相当な無茶をした感覚はある。
もう一度使ったらバラバラになるのでは
「大丈夫じゃ! 妾も制御してみせる!!」
「制御って……」
フルートもこのヴァ―ランスの操縦者としてGFSにも登録されている。
おかげでこの機体はカタログスペック以上のパワーとスピードを発揮しているような気がしてならない。
そのチカラを頼りにしすぎたら、恐ろしいことになる予感がする。
軌道エレベーターを破壊する程の大出力になった【バスタービームライフル】のように。
「使わんと振り切れんぞ!」
「ああ!」
それは言われるまでも無く事実であった。
このまま振り切れずにやられるか、一か八かのブーストで勝負を仕掛けるか。
「一か八かだ!」
ダイチは決断し、ブーストを起動させる。
「ブースト・オン!!」
二度目のブーストに身体がバラバラになるかもしれない感覚にとらわれる。
腕、足、頭と身体の感触を確かめる。
大丈夫だ。このまま飛べるはずだ。
「いけえええええ!!」
ダイチは前のめりになる。そうすることで少しでもスピードが出る気がした。
音を置き去りにするほどの速度を出しているせいで、マシンガンの音は聞こえてこない。だが、振り切れている実感はある。
そして、確実に所長のマーカーへと近づいている。
障害物になる棟や橋を【アサルトランチャー】で破壊して進む。
「はは、やるわね!!」
エリスは滅茶苦茶楽しそうにしている。
ダイチとしてはブーストが止まらない為、やむを得ずやっていることでいたたまれない気持ちでいっぱいだった。
こんなことはさっさと終わらせてしまいたい。ダイチはそう思い、さらにブースターを吹かせる。
「目的地はすぐそこじゃ!」
「ああ!」
次の塔の先がゴロン所長のいる拠点だとマーカーは告げている。
ブオオオオオオオン!!
そこへシュヴァリエが立ち塞がる。
「くそ、またお前か!!」
ダイチは最早見慣れてきたマシンノイドに悪態をつく。
『心配いらへん! 助っ人がようやくきたで!』
「助っ人!?」
シュヴァリエがビームに撃ち抜かれる。
『遅れてごめん!!』
マイナが駆るアシガルが見える。ライフルをもっていることから彼女が撃ってくれたのだろう。
『グッドタイミングだろ!』
クライスのブレードでシュヴァリエの腕を斬り落とす。
「マイナ! デラン!!」
『おう! ちゃんと助け出したみたいんだな!!』
『ま、簡単に死ぬようなヒトじゃないと思ってたけど!』
「この! 好きに言ってくれちゃって!」
手に捕まっているエリスは猛烈に言い返す。
「よし、もう一息じゃ!」
「ああ!」
ダイチはブースターを吹かせ、目標地点へ飛び出す。
「見えた!」
エリスの指差す先にステンドガラスの天井に覆われた木星人達がいた。おそらくあの中にいる誰かがゴロン所長なのだとダイチは察した。
「このまま、突っ込め!」
「おう!」
ダイチは威勢よく返事し、ステンドガラスへブレードを突き出し、割り込み入る。
「おおぉぉぉぉぉぉぉ、なんてことしやがるぅぅぅぅぅぅッ!!?」
顔を知らないダイチでも、「あいつか!」とわかるほどの悲鳴という存在感を示す。
「そこのひげぇッ!!」
エリスはヴァ―ランスの指から飛んで、ゴロンヘ殴りかかる。
バシィン!!
ゴロンは思いっきり顔面を殴られてぶっ飛ぶ。
「ゴフガッ!?」
「フン、どうよ!」
「きさまぁぁッ、よくもよくもぉぉぉッ!! 火星人の分際で! 分際で! 分際でぇぇぇぇッ!!」
ゴロンは耳を塞ぎたくなるわめき声を上げて立ち上がる。
「思いっきり殴ったのに、頑丈なのね」
「ブランフェール収容所所長は伊達ではなぁぁぁぁいッ!!」
ゴロンが叫ぶと、周囲に護衛の衛兵が集まってくる。
「者ども! この小娘の身体を一片たりともこの世に残すなぁぁぁぁ!」
カチャカチャカチャカチャカチャ
銃や剣を構える。
「させるか!」
ヴァ―ランスのアサルトランチャーを撃つ。
大半の衛兵はそれで吹き飛ぶ。
ヒトにこんなものを撃っていいの、と躊躇いはあった。しかし、エリスを助けるに迷ってはいられなかったし、そんな余裕を持てる状況ではないとの判断でもあった。
「やるじゃん、ダイチ!」
「お、おおう!」
エリスに褒められると、こそばゆい気持ちになる。
「ダイチよ、このバスターを使えばよいのではないか?」
フルートはそんな提案をしてくる。
だが、【バスタービームライフル】を使うのはいくらなんでも躊躇ってしまう。
あんな想定以上の大出力のビームを放つと、所長や衛兵どころかこの収容所ごと吹き飛ばしかねない。そうなったら、火星人は助け出せない。
だが、これを使えば敵を倒せる。しかし、それは目的をも蹂躙する破壊の手段だ。
「いや、使うわけにはいかねえ!」
ダイチはそれだけ答えて、サーベルで衛兵達をなぎ倒す。ヒトに対してはこれで十分すぎる脅威となることをダイチは思い知る。
そこにソルダ達が通路から駆けつけてくる。
「こいつ!」
ダイチはすかさずハンドガンでソルダを撃ち落とす!
「ええい、何をやっている!! たかが火星の機体に!!」
ゴロン所長はわめく。
「火星、火星って、ヒトの故郷をバカにするいい加減にしなさい!」
「うるさい! 火星は我が偉大なる木星に敗北した敗戦星ではないか!!」
「だからって、あんたが敗戦する運命には変わりないでしょ!」
「何をぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
ゴロン所長は電磁鞭を振るう。
バチン!!
これをエリスはあっさり拳で払いのける。
「はあッ!?」
「もう、それは見飽きたわ!」
エリスはうんざり気味に言い、拳を打ち鳴らす。
「バ、バカな! 俺の鞭使いはクリュメゾン一なんだぞ!」
「それがなんだっていうのよ! 宇宙は広いのよ!!」
エリスは拳をゴロンの腹に叩き込む。
「ゴフッ!?」
さらに回し蹴り、顔面への突きと一気に畳みかける。
「ガァァァァッ!!? 貴様ら、何をしている!? 早く、こいつを、こいつを倒さないか!!」
ゴロンは叫び、衛兵たちは集まる。
「ヒートアップ!!」
だが、エリスの熱気と闘志におされて、あっさりなぎ倒される。
「ていりゃぁぁぁぁッ!」
渾身の拳打を打ち込む。
ゴロン所長は勢いよく床を転がり、最後は壁にめり込む。
「しょ、所長……」
その無残な姿を見上げた衛兵達は呆然とする。
「やったか、エリス!?」
「ええ、もちろん!」
力強くそう答えたところで、ダイチは「さすがだ」と感心する。
「これで、大勢は決したようじゃな」
「そうだな。キャプテン達はどうなったんだろうな?」
『いや、そっちはな』
イクミが通信で会話に入ってくる。
ズドン!!
そして、新しく映し出された立体スクリーンからいきなり爆音が鳴り響く。
「うお、なんだこれ!?」
ガキィン! ガキィン! ガキィン! ガキィン! ガキィン!
それは海賊船の甲板で、さっきまでダイチが立っていた場所だ。
そこでザイアスとオレンジ色の塗装した異形の巨人がカットラスとランスをぶつけあっている。
凄まじい光景であった。
動きと勢いを見るだけでオレンジ色の巨人はジェアン・リトスよりも数段上だということがわかる。
その攻撃を易々と受け切って見せているザイアスはやはり只者ではない。
「すげえ……!」
ダイチは思わず感嘆の声を漏らす。
「うむ、キャプテンという男、相当強いな」
強い、なんて言葉言い表していいのかすらわからない。それだけ彼の力はすさまじい。
スパッ!
ザイアスがカットラスを一閃すると、オレンジ色の巨人の腕が斬り落とされる。次にケラウノスによって足を焼かれる。
腕を斬り落とされた隙を突かれてしまったことにより、一気に形勢が決まってしまった。
「ぐあ!」と叫ぶ操縦者の悲鳴が聞こえてきそうだ。
「これで終わりだぜえええええッ!!」
ザイアスは威勢よく掛け声を上げる。
そこから振り下ろされるカットラスはケラウノスを纏っており、まさに神の雷による裁きといっていい。
ザシュゥゥゥゥッ!!
真っ二つに両断されて、崩れ落ちる。
「ま、お前もよくやったほうだぜえ」
ザイアスはニヤリと笑い、カットラスをしまう。
「こ、こんな、バカな……」
ケラウノスの直撃を受けて薄れゆく意識の中でギムエルは現実を受け入れることが出来なかった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
史上最強の武人、ただの下っ端を目指す 〜『魔王』と『勇者』、相反する2つの呼び名を持つ少年は、前世の最高の武力を持って我が道を征く。
ゆうらしあ
ファンタジー
男の背後には、地を埋め尽くす程の武人が跪いていた。傑出したその才能、努力を怠らない性格……負けず嫌さから男は武の頂点へと登り詰める。
そうだった筈なのにーー。
(何処だ此処……)
汚い裏路地、細く小さな身体、彼は浮浪児へと転生していた。
しかもただの浮浪児では無くてーー。
『まだワシを地獄には連れて行かないで下さい……魔王様』
魔法が使われる今世ではオッドアイを持つ者は『魔王』と呼ばれる始末。
と言っても、浮浪児の魔王に食べ物がある訳でも無く、細い身体で何か出来る訳でも無く、魔法も使えない。
フラフラと生死を彷徨っていると、彼はある白髪の少女と出会う。
でもその子には『勇者』と言われたり、人攫いに遭ったり、国の存亡を賭けた戦いに参加する事になったりーー。
今世ではゆっくりと強さを追い求めたい魔王兼勇者の少年アレクは、波瀾万丈な生活を送って行く。
背後に何人モノ仲間を連れてーー。
※『◇』が話名に付いている場合、他者視点のみのお話になります。なろうでも掲載しております。
よろしくお願いします_:(´ཀ`」 ∠):
未来世界に戦争する為に召喚されました
あさぼらけex
SF
西暦9980年、人類は地球を飛び出し宇宙に勢力圏を広めていた。
人類は三つの陣営に別れて、何かにつけて争っていた。
死人が出ない戦争が可能となったためである。
しかし、そのシステムを使う事が出来るのは、魂の波長が合った者だけだった。
その者はこの時代には存在しなかったため、過去の時代から召喚する事になった。
…なんでこんなシステム作ったんだろ?
な疑問はさておいて、この時代に召喚されて、こなす任務の数々。
そして騒動に巻き込まれていく。
何故主人公はこの時代に召喚されたのか?
その謎は最後に明らかになるかも?
第一章 宇宙召喚編
未来世界に魂を召喚された主人公が、宇宙空間を戦闘機で飛び回るお話です。
掲げられた目標に対して、提示される課題をクリアして、
最終的には答え合わせのように目標をクリアします。
ストレスの無い予定調和は、暇潰しに最適デス!
(´・ω・)
第二章 惑星ファンタジー迷走編 40話から
とある惑星での任務。
行方不明の仲間を探して、ファンタジーなジャンルに迷走してまいます。
千年の時を超えたミステリーに、全俺が涙する!
(´・ω・)
第三章 異次元からの侵略者 80話から
また舞台を宇宙に戻して、未知なる侵略者と戦うお話し。
そのつもりが、停戦状態の戦線の調査だけで、終わりました。
前章のファンタジー路線を、若干引きずりました。
(´・ω・)
第四章 地球へ 167話くらいから
さて、この時代の地球は、どうなっているのでしょう?
この物語の中心になる基地は、月と同じ大きさの宇宙ステーションです。
その先10億光年は何もない、そんな場所に位置してます。
つまり、銀河団を遠く離れてます。
なぜ、その様な場所に基地を構えたのか?
地球には何があるのか?
ついにその謎が解き明かされる!
はるかな時空を超えた感動を、見逃すな!
(´・ω・)
主人公が作者の思い通りに動いてくれないので、三章の途中から、好き勝手させてみました。
作者本人も、書いてみなければ分からない、そんな作品に仕上がりました。
ヽ(´▽`)/
黄昏の国家
旅里 茂
SF
近未来である西暦2057年、日本国から世界で初めての、準政府組織オーイックスが誕生する。
全てにおいて、弱り切った現政府機関を持ち直し、時には時事介入する特殊な組織。
ブレーンの一人である高沢健司が、様々なプランを打ち立てて奮闘する。
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!
ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。
故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。
聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。
日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。
長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。
下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。
用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが…
「私は貴女以外に妻を持つ気はない」
愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。
その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。
飯屋のせがれ、魔術師になる。
藍染 迅
ファンタジー
才能も、体力も、金もない少年は努力と想像力だけを武器に成り上がる。
学者、暗器使い、剣士、魔術師……。出会いが事件を呼ぶ。
王子暗殺の陰謀を鋭い推理で解決したステファノであったが、暗殺犯一味に捕らえられ監禁された所で九死に一生を得る。
身を護るために武術の手解きを受け、瞑想と思索により「ギフト:諸行無常」を得る。
ギフトに秘められた力を得るため、「いろは歌」の暗号を解き、ステファノは「イデア界」とのリンクを獲得した。
ついに「魔術」を覚えることができた。
しかし、「この世界の魔術は外法である」と喝破する師に出会い、魔術とは似て非なる「魔法」を学び始める。
王族と侯爵家の推薦を得て、ステファノはついに「王立アカデミー魔術学科」に入学を果たす。
だが、入学早々ステファノはあちこちでやらかし波乱を巻き起こすのであった……。
📕魔術学園奮闘編、好評連載中!
前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです
珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。
老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。
そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる