上 下
46 / 60
第三章

9/ お詫びの品

しおりを挟む

 精霊のお陰で命拾いをして一月が経った。


『もう大丈夫なの?』
「ええ、すっかり元気よ」
『よかったねーリディ』
「ロロもララも心配かけてごめんね」

 目の前をパタパタと飛び回る妖精たちは嬉しそうに光を放っている。

『水の精霊が来てくれて良かったね』
『よかったの~』
「うん、あんなに遠くにいるのに助けに来てくれるなんて、思ってもみなかったわ」
『だって、リディアは精霊の愛し子だもん』
『いとしごなの』
「ありがと。精霊の国オーレアに産まれて良かった」
 リディアは心からそう思っていた。

「リディ」
 政務でいない筈のレオナルドの声がした。

「あら、どうしたの?」
『わーい、レニーだ』
『レニーきた』
 振り向くとレオナルドとドラフトの姿がそこにあった。
 レニーの後ろにいるドラフトは何か大きなものを抱えている。

「リディにプレゼントを持って来たぞ」
 レオナルドが眩しいくらいの笑顔でリディアに向けて両手を広げている。
「なに?」
 広げられた腕の中に飛び込み尋ねる。

「ドラフト」
「はい、殿下」

 レオナルドに呼ばれドラフトが抱えていた木箱をリディアの足元に下ろし蓋を開けた。
 妖精たちも興味津々でリディアにくっ付いてきている。
 何が入っているのかと思い覗き込んで見ると、どうやら革製の鞍のようだ。
「遠乗りにでも行くの?」
「まっ、似たようなもんだが」
「?」
「これは竜用の鞍だ」
「えっ、竜の?」
「そうだ。特別に作らせた。リディ用にな。リディを危ない目に遭わせてしまった詫びでもある」
 申し訳なさそうに言いながらもうっとりするような笑みを浮かべるレオナルドに、夫だというのにドギドキしてしまうリディア。
 だが、今はそれどころではない。

「……!」

 木箱から出された鞍は真っ白で宝石の装飾がされてある。
「これを付ければレニー竜の背に乗れるの?」
「そうだよ、乗りたかったんだろう?」
「え、ええ、そうだけど……」
 あまり突然のことでリディアは喜びと戸惑いが一度に押し寄せ、それ以上の言葉が出て来ない。
「なんだ、嬉しくないのか?」
「嬉しんだけど、何か信じられなくて」
「アハハ、そうか」
「でも急には乗れないわよね?」
「私の背中なら心配はいらないが、多少の訓練は必要だ」
「ホントに?」
 レオナルドが頷く。

「ありがとう、レニー。夢が叶うのね!」
 リディアがうれしさの余りレオナルドにぎゅっと抱き付く。
 レオナルドはリディアの頭をポンポンと叩くと、脇の下に両手を差し込み横に置かれた鞍の上にヒョイと乗せた。

「横乗りも出来るように作らせたが、座り心地はどうだ?」
「うん、いい感じよ」
 そう言いながらリディアは鞍のあちこちをペタペタ触りまくる。
「ここに掴まるのね」
 前に付いている金具を握り楽しそうに燥ぐリディアを見て、レオナルドとドラフトが微笑む。
「馬みたいな手綱はないんだ」
「当たり前だ。私の意志で飛ぶのだからそんなものは必要ないだろう?」
「そっか、そうよね(笑)」

「それでな、ここで練習をするわけにはいかないから竜の山の麓にある草原に行こうと思う」
「竜の山?」
「ああ、野生の竜たちがいる山だ」
「え、え、えっ!」
「運が良ければ、爺様と婆様に会えるかもしれないぞ」
「ほ、ホントに?いきたい、行きたいです!」
『僕も行きたい』
『ララもいくー』
「ふふ、そうか妖精たちもか。ハハハ、お前たちは怖いもの知らずだな。では、ファビアンに言って日程を組ませよう」
「はい、お願いします」
『『わーい!』』
 
――野生の竜を見ることが出来るなんて信じられないわ。あー、どうしよう。嬉し過ぎて死にそうよ。
 それに、竜の化身である先代の竜王と王妃にもお会いできるかもしれないなんて!
 
 リディアの表情がころころと変わるのを見て、レオナルドは楽しそうに笑う。

「凄いですね!妖精妃殿。竜の山へ行けるなんて。野生の竜なんて、殆ど見る機会はありませんからね」
「えっ、そうなの?ドラフトも見た事が無いの?」
「式典の際に前王と殿下が竜に変化されたお姿は拝見しておりますが、野生竜は未だ見た事はありせん。
 あっ、……一度だけございます。殿下が成人され前竜王が竜の山へ向かわれる時に、野生竜が二頭王城の上空に現れました。それも天の高いところで旋回していて豆粒の様でしたけれど」
「そうなんだ」

「リディ、野生竜は爺様が竜の山へ行くと知り迎えに来たのだ」
「凄い!」
「感動いたしました。その場にいた全員がそうだったと思います。竜が迎えに来たのを知ると前王は黒竜に変化し、番殿を背に乗せあっという間に竜たちと飛んでいってしまわれたのです」
「まあ、お婆様も黒竜の背に乗られたのね!」
「はい、凛々しいお姿は今でも目に焼き付いております。出来ることなら野生竜ももう一度見てみたいです」
「私も早くレニーの背に乗り、大空を飛んでみたいわ。ドラフトも一緒に竜のお山に行くでしょう?当然よね、私の専属護衛ですもの」
「えっ、宜しいのですか?」
「大丈夫よね、レニー?」
「ああ、勿論ドラフトも同行させるぞ」
「あ、ありがとうございます!殿下、妖精妃殿」

 頭を下げるドラフトは銀色の毛を逆立て、耳をピンと立て尾をブンブンと振っている。
 その姿が屈強な騎士とは真逆で可愛く見えてしまうリディア。
 思わず頭を下げ手の届く位置になった耳を両手掴んでモミモミしてしまう。

「気持ちいい~」
「うひゃ!妖精妃殿……」
「これ、リディ!」
「だって、ドラフトのことをモフモフするのって久しぶりなんだもの。もうちょっとだけ」
 ドラフトの頭からリディアの手を離そうとするが、甘えるように上目使いで言われてしまえばレオナルドも諦めるしかない。
「仕方ない……ドラフトそこに座れ。リディの気の済むまで撫でられていろ」
「で、殿下~」

 レオナルドはその場に腰を下ろすと胡坐をかいた。リディアに向けてここに座れと指で示せば笑顔のリディアがちょこんとそこに収まる。
 困り顔のドラフトも二人の目の前に腰を落とし頭をリディアに差し出した。
 幸せそうに耳や髪を撫でるリディアを見てレナルドは、自分で許したものの少し嫉妬してしまい後悔をする。
 ドラフトは情けない顔をしながらも、尾は嬉しそうにパタパタと地面を叩いていたのであった。

「ドラフト、良かったわね。野生竜を一緒に見に行けるのよ」
「はぁ。ウレシイであります」
「ねぇ、レニー。いつ頃行けるのかしら?」
「そうだな、二月ふたつき……無理に予定をねじ込んでも一月先になるな」
「そうよね。レニーも忙しいから仕方ないわ。ファビを困らせちゃうもんね」
 残念そうに言うリディアに、レオナルドの眉がぴくりと上がる。

「ん、いつからリディはファビアンの事をファビと呼ぶようになったのかな?」
「えっ?いつからって……。ファビアンが殿下と同じようにファビと呼んで欲しいって」
「くっ、ファビの癖に」
 その瞬間、嫉妬の矛先が目の前で撫でられ、だらしない顔をしているドラフトから、側近補佐である幼なじみのファビアンへと移った。

 その頃ファビアンは押し付けられた仕事をしながら背中に冷たい何かを感じ、ぶるりと身体を震わせていたのだった。

 リディアはワクワクしていた。
 レオナルドが竜になった姿の背に乗ること。
 野生竜に会える上に、もしかしたら先王夫婦にも会えるかもしれないこと。
 そして精霊の秘薬を飲み始めたこと。
 愛するレオナルドの子供が産めるようになるのだ。
 楽しみがてんこ盛りだけど、それには彼とカラダを合わせることも必須になってくる。
 不安はいっぱいだけれど、それ以上に未来は明るいと感じていたのだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

最後の大陸

斎藤直
ファンタジー
黄昏を迎えつつある世界。最後の大陸に同居する人類は、それでもなお共生する道を選ばず、醜い争いを続ける。 レイ・カヅラキは誰の言葉も信じないと断言する。 嘘、虚飾、嫉妬そして自尊心を嫌う彼の信念は、歪められた世界に風穴を開けることができるだろうか。 魔法も超絶パワーも奇跡もご都合主義もない世界。等身大の人間たちの物語。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

処理中です...