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ご成婚の余波
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「こうなって来ると、やはり帰国ルートは辺境伯領を抜けて王都へ向かうルートが一番良いでしょうか? あわよくば神殿にも立ち寄れますし、当代の辺境伯であるサブリナ様からお話も聞けるかもしれません。あちらが今どういう状況なのかが分からないのが不安要素ではありますが……」
正式に届けを出して通行しようとする私達をいきなり拘束するなんて馬鹿なマネは流石にしないとは思うけど、なんせ反領主派の神殿の人間には人攫いの前科があるからな……。
「そうね。もし辺境伯領を通りたいという事なら、至急アレクに連絡を取ってみればどうかしら?」
「お義兄様に、ですか?」
確かにお義兄様は今もまだ辺境伯領に滞在しているはずだから連絡が取れるなら心強いけれど、それは難しい気がする。多分手紙は反領主派にチェックされているだろうし、そもそも私達も数日の内にアウストブルクを発つのだ。今から連絡を取って間に合うとは思えない。
「確かにお義兄様が助けて下さるなら心強いのですが、連絡が取れるかどうか……」
「それなら大丈夫よ。これはここだけの話にしておいて欲しいのだけど、精霊便を頼みましょう」
「精霊便、ですか?」
「そう、簡単に言ってしまえば、精霊達に伝言を頼むって事ね。フェイラー辺境伯領までなら、あっという間に伝えに行ってくれるわよ!」
ニコニコとそう教えてくれる王女殿下。
そうか、契約主がいない国の守護精霊達にも時々仕事を頼むって言っていたけど、こういう時に頼むのかな?
でも……。
「確かに精霊に頼めるならば確実ですが、肝心のお義兄様が精霊を認知出来ないのでは、伝言も伝えられないのではないですか?」
「あー、そうよね、そこからよね……」
先程と同じく、珍しく王女殿下が苦笑いで少し口ごもる。
「実は、ね。もう見えるのよ。アレクにも」
へ? いやそんな、まだ婚姻も結んでないのに……って、ま、まさか!?
「こっちで籍だけ先に入れちゃった!」
ああぁぁあーー!! お義兄様ーー!!
いつもは凛々しい雰囲気の王女殿下がテヘッとお茶目に笑う姿は可愛いらしくて、私的には何でも許せてしまいそうなのだが、お義兄様の心境はいかばかりか。
何故なら私は知っている。
お義兄様は実は中々のロマンチストなのだ。
結婚式の準備も凄いワクワクソワソワしながらしていたのが丸分かりだった。
……ちなみに、旦那様がそれを指でも咥えそうな程羨ましそうに見ていたのも丸分かりだったけど、私達の結婚式が微妙極まりない物だったのは、ほぼほぼ旦那様のせいですからね?
「まぁ、カーミラちゃん結婚したの!? おめでとう!」
何とも言えない空気の中、お母さんだけが嬉しそうにパチパチと拍手をしながら、『お式はいつかしらー』なんて呑気な事を言っている。
うーん、まぁおめでたい事ではあるもんね……。
「アナの……ウェディングドレス姿……」
私が考えを改めて、お祝いは言った方がいいのかな? なんて考えていると、隣からボソボソと怨嗟にまみれた小さな声が聞こえて来てビクッとした。
「もう! 旦那様、未練がましいですよ? 終わった事じゃないですか」
「い、いや私ではないぞ! 確かに結婚式に未練はあるが、それが自分の瑕疵である事は、その、理解している……」
言いながらしおしおと肩を落としていく旦那様。
旦那様ではない?
打ちひしがれる旦那様の向こう側をヒョイっと覗き込むと、そこには膝から崩れ落ちたかの様なお父さんの姿があった。
げっ! お父さん!!
「そうか、そうだよね……考えてみれば当たり前だ。アナがもう結婚しているという事は……結婚式も、もう終わってるんだね!?」
お父さんの目からぶわっと涙が溢れる。
とんだ流れ弾だ。
「あらやだ、そうよね! アナの結婚式を見そびれちゃったわ。せめて写真は無いの?」
「写真……は、無い、かなぁー」
結婚式の写真が無いなんて、不自然極まりない。
が、無い物は無いので仕方がない。
「じゃあ、せめてウェディングドレスはあるわよね!? アナがウェディングドレスを着ているところを見てみたいわ!」
「ウェディングドレスは、もう多分サイズが合わない、かな?」
結婚式の時は公爵家で受けた虐待のせいで痩せ過ぎだったし、あのウェディングドレスは私には絶望的に似合わないものだった。的確に私の長所を殺し、短所を際立たせるデザインだったのだ。
見立てたのがクリスティーナだというだけでお察し案件である。
お金を払うのはハミルトン伯爵家だったので、ドレス自体は非常に高価で素晴らしい物だったのがまたタチが悪かった。
本当に、クリスティーナの嫌がらせの手腕たるや凄まじいものだったので、是非その能力を別の形で生かして欲しい。
「えぇー、写真も無いし、ドレスも着られないの? あ、じゃあせめて、お話は沢山聞かせてっ! ね、ユージーン君! 結婚式の時のアナはどうだった? どんなドレスでどんなお式だったの?」
……やめてあげてー。
お母さんに悪気は一切なくキラキラした目で旦那様を質問攻めにしているけれど、旦那様の方は目が死んでいる。もう完全なオーバーキルだ。
そしてその隣には、既に屍と化したお父さん。
何このマイルドな地獄。
とりあえず早く決断してこの場から解放されようと思った私は、クルリと王女殿下に向き直るとこう言った。
「王女殿下、フェイラー辺境伯領経由で王都に戻る事にします! 至急、精霊便の手配をお願いできますか?」
うん、迷った時は、中央突破と行きましょう!
正式に届けを出して通行しようとする私達をいきなり拘束するなんて馬鹿なマネは流石にしないとは思うけど、なんせ反領主派の神殿の人間には人攫いの前科があるからな……。
「そうね。もし辺境伯領を通りたいという事なら、至急アレクに連絡を取ってみればどうかしら?」
「お義兄様に、ですか?」
確かにお義兄様は今もまだ辺境伯領に滞在しているはずだから連絡が取れるなら心強いけれど、それは難しい気がする。多分手紙は反領主派にチェックされているだろうし、そもそも私達も数日の内にアウストブルクを発つのだ。今から連絡を取って間に合うとは思えない。
「確かにお義兄様が助けて下さるなら心強いのですが、連絡が取れるかどうか……」
「それなら大丈夫よ。これはここだけの話にしておいて欲しいのだけど、精霊便を頼みましょう」
「精霊便、ですか?」
「そう、簡単に言ってしまえば、精霊達に伝言を頼むって事ね。フェイラー辺境伯領までなら、あっという間に伝えに行ってくれるわよ!」
ニコニコとそう教えてくれる王女殿下。
そうか、契約主がいない国の守護精霊達にも時々仕事を頼むって言っていたけど、こういう時に頼むのかな?
でも……。
「確かに精霊に頼めるならば確実ですが、肝心のお義兄様が精霊を認知出来ないのでは、伝言も伝えられないのではないですか?」
「あー、そうよね、そこからよね……」
先程と同じく、珍しく王女殿下が苦笑いで少し口ごもる。
「実は、ね。もう見えるのよ。アレクにも」
へ? いやそんな、まだ婚姻も結んでないのに……って、ま、まさか!?
「こっちで籍だけ先に入れちゃった!」
ああぁぁあーー!! お義兄様ーー!!
いつもは凛々しい雰囲気の王女殿下がテヘッとお茶目に笑う姿は可愛いらしくて、私的には何でも許せてしまいそうなのだが、お義兄様の心境はいかばかりか。
何故なら私は知っている。
お義兄様は実は中々のロマンチストなのだ。
結婚式の準備も凄いワクワクソワソワしながらしていたのが丸分かりだった。
……ちなみに、旦那様がそれを指でも咥えそうな程羨ましそうに見ていたのも丸分かりだったけど、私達の結婚式が微妙極まりない物だったのは、ほぼほぼ旦那様のせいですからね?
「まぁ、カーミラちゃん結婚したの!? おめでとう!」
何とも言えない空気の中、お母さんだけが嬉しそうにパチパチと拍手をしながら、『お式はいつかしらー』なんて呑気な事を言っている。
うーん、まぁおめでたい事ではあるもんね……。
「アナの……ウェディングドレス姿……」
私が考えを改めて、お祝いは言った方がいいのかな? なんて考えていると、隣からボソボソと怨嗟にまみれた小さな声が聞こえて来てビクッとした。
「もう! 旦那様、未練がましいですよ? 終わった事じゃないですか」
「い、いや私ではないぞ! 確かに結婚式に未練はあるが、それが自分の瑕疵である事は、その、理解している……」
言いながらしおしおと肩を落としていく旦那様。
旦那様ではない?
打ちひしがれる旦那様の向こう側をヒョイっと覗き込むと、そこには膝から崩れ落ちたかの様なお父さんの姿があった。
げっ! お父さん!!
「そうか、そうだよね……考えてみれば当たり前だ。アナがもう結婚しているという事は……結婚式も、もう終わってるんだね!?」
お父さんの目からぶわっと涙が溢れる。
とんだ流れ弾だ。
「あらやだ、そうよね! アナの結婚式を見そびれちゃったわ。せめて写真は無いの?」
「写真……は、無い、かなぁー」
結婚式の写真が無いなんて、不自然極まりない。
が、無い物は無いので仕方がない。
「じゃあ、せめてウェディングドレスはあるわよね!? アナがウェディングドレスを着ているところを見てみたいわ!」
「ウェディングドレスは、もう多分サイズが合わない、かな?」
結婚式の時は公爵家で受けた虐待のせいで痩せ過ぎだったし、あのウェディングドレスは私には絶望的に似合わないものだった。的確に私の長所を殺し、短所を際立たせるデザインだったのだ。
見立てたのがクリスティーナだというだけでお察し案件である。
お金を払うのはハミルトン伯爵家だったので、ドレス自体は非常に高価で素晴らしい物だったのがまたタチが悪かった。
本当に、クリスティーナの嫌がらせの手腕たるや凄まじいものだったので、是非その能力を別の形で生かして欲しい。
「えぇー、写真も無いし、ドレスも着られないの? あ、じゃあせめて、お話は沢山聞かせてっ! ね、ユージーン君! 結婚式の時のアナはどうだった? どんなドレスでどんなお式だったの?」
……やめてあげてー。
お母さんに悪気は一切なくキラキラした目で旦那様を質問攻めにしているけれど、旦那様の方は目が死んでいる。もう完全なオーバーキルだ。
そしてその隣には、既に屍と化したお父さん。
何このマイルドな地獄。
とりあえず早く決断してこの場から解放されようと思った私は、クルリと王女殿下に向き直るとこう言った。
「王女殿下、フェイラー辺境伯領経由で王都に戻る事にします! 至急、精霊便の手配をお願いできますか?」
うん、迷った時は、中央突破と行きましょう!
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