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本編 第2章
第25話
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「……な、にいって」
「ラインヴァルトさまには、コルネリアさまがいらっしゃるではありませんか!」
我慢できなかった。
ラインヴァルトさまに吐き捨てるようにそう叫んで、私はまた涙を拭う。零れて、溢れて、止まってくれない涙。
「コルネリアさまのほうが、ラインヴァルトさまにお似合いです。彼女は、周囲に認められている」
対して、私はどうだろうか。周囲から白い目で見られて、明らかに歓迎されていないムード。
……そりゃそうだ。一度婚約破棄された娘が王太子妃に……なんて、図々しいことこの上ない。
「私じゃ、あなたのお側にはいられない。……だから、どうか。私のことは、もう放っておいてください」
消え入りそうな声で、そう告げる。
……本当は、彼のお側にいたい。
その気持ちはあっても、それだけじゃ出来ない。やっていられない。
「テレジア」
「私、もう実家に戻ります。今まで、おいてくださりありがとうございました」
ペコリと頭を下げて、早口にそう言葉を紡いで。
ラインヴァルトさまのお隣を通り抜けようとして――彼に、腕を掴まれて引き寄せられる。
ぽすんと彼の胸に、鼻がぶつかる。驚いて顔を上げれば、私のことを見下ろすラインヴァルトさまが、いらっしゃる。
その目は、真剣そのものだった。合わせ、何処となく怒られているような気もする。
「なんで、俺の意見を聞いてくれない」
「そ、れは……」
後ろめたくて、視線を逸らした。
彼はお優しいから。絶対に、私を傷つける言葉はおっしゃらない。
私は、彼のそういうところに必ず甘えてしまうだろう。それが、わかっていたから。
「俺は、テレジアだけが好きなんだよ。……わかるか?」
彼が私の背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめてそう伝えてくる。
腕が震えていて、彼の不安を嫌と言うほどに伝えてきた。
「わ、わか、ら、ない……です」
でも、信じられなくて。首をゆるゆると横に振れば、彼は少し困ったような表情を浮かべた。
かと思えば、ふっと口元を緩める。
「わからないんだったら、何度でも言う。……俺が好きなのは、テレジアだけだ」
今度は、はっきりと、しっかりと。まるで、かみしめるように言葉を告げられた。
……驚いて、目を瞬かせる。どう、いう。
「あいつはは、所詮はただの幼馴染だ。本当に腐れ縁」
そんなの、信じられるわけがない。そう言おうとしたのに。言えなかった。
彼が、あまりにも真剣な目をしているから。
「こういう風に触れたいって思うのも、テレジアだけだ」
そうおっしゃったラインヴァルトさまは、流れるような動きで私の頭のてっぺんに口づけてくる。
一瞬で、ぶわっと私の顔に熱が溜まった。
「本当は唇に口づけたい。……でも、今はそういうときじゃないだろ」
「は、はい……」
恥ずかしくて、俯いて、頷く。ラインヴァルトさまは、声を上げて笑っていた。
「なんだろ、テレジアって、本当に可愛い」
「そ、そんなの……」
こんな醜い感情を抱く女が、可愛いわけがない。
そう思う私の気持ちは、どうやら彼には筒抜けだったらしい。彼は、「優しいな」と私に声をかけてくださった。
「テレジアは、他者を傷つけたくないんだよな。……だから、自分を責める」
「……そ、れは」
「けど、俺は嫉妬してくれて嬉しかった。……それは、真実だから」
「し、っと、なんて……」
これは嫉妬じゃない。
そう言おうとした。けれど、やっぱりこれは嫉妬なのだろう。
彼の側にさも当然のようにいられる、コルネリアさまに対しての――。
「気持ちは、しっかりとぶつけ合おうな。片方だけが我慢するなんて、平等じゃない」
「ラインヴァルトさまには、コルネリアさまがいらっしゃるではありませんか!」
我慢できなかった。
ラインヴァルトさまに吐き捨てるようにそう叫んで、私はまた涙を拭う。零れて、溢れて、止まってくれない涙。
「コルネリアさまのほうが、ラインヴァルトさまにお似合いです。彼女は、周囲に認められている」
対して、私はどうだろうか。周囲から白い目で見られて、明らかに歓迎されていないムード。
……そりゃそうだ。一度婚約破棄された娘が王太子妃に……なんて、図々しいことこの上ない。
「私じゃ、あなたのお側にはいられない。……だから、どうか。私のことは、もう放っておいてください」
消え入りそうな声で、そう告げる。
……本当は、彼のお側にいたい。
その気持ちはあっても、それだけじゃ出来ない。やっていられない。
「テレジア」
「私、もう実家に戻ります。今まで、おいてくださりありがとうございました」
ペコリと頭を下げて、早口にそう言葉を紡いで。
ラインヴァルトさまのお隣を通り抜けようとして――彼に、腕を掴まれて引き寄せられる。
ぽすんと彼の胸に、鼻がぶつかる。驚いて顔を上げれば、私のことを見下ろすラインヴァルトさまが、いらっしゃる。
その目は、真剣そのものだった。合わせ、何処となく怒られているような気もする。
「なんで、俺の意見を聞いてくれない」
「そ、れは……」
後ろめたくて、視線を逸らした。
彼はお優しいから。絶対に、私を傷つける言葉はおっしゃらない。
私は、彼のそういうところに必ず甘えてしまうだろう。それが、わかっていたから。
「俺は、テレジアだけが好きなんだよ。……わかるか?」
彼が私の背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめてそう伝えてくる。
腕が震えていて、彼の不安を嫌と言うほどに伝えてきた。
「わ、わか、ら、ない……です」
でも、信じられなくて。首をゆるゆると横に振れば、彼は少し困ったような表情を浮かべた。
かと思えば、ふっと口元を緩める。
「わからないんだったら、何度でも言う。……俺が好きなのは、テレジアだけだ」
今度は、はっきりと、しっかりと。まるで、かみしめるように言葉を告げられた。
……驚いて、目を瞬かせる。どう、いう。
「あいつはは、所詮はただの幼馴染だ。本当に腐れ縁」
そんなの、信じられるわけがない。そう言おうとしたのに。言えなかった。
彼が、あまりにも真剣な目をしているから。
「こういう風に触れたいって思うのも、テレジアだけだ」
そうおっしゃったラインヴァルトさまは、流れるような動きで私の頭のてっぺんに口づけてくる。
一瞬で、ぶわっと私の顔に熱が溜まった。
「本当は唇に口づけたい。……でも、今はそういうときじゃないだろ」
「は、はい……」
恥ずかしくて、俯いて、頷く。ラインヴァルトさまは、声を上げて笑っていた。
「なんだろ、テレジアって、本当に可愛い」
「そ、そんなの……」
こんな醜い感情を抱く女が、可愛いわけがない。
そう思う私の気持ちは、どうやら彼には筒抜けだったらしい。彼は、「優しいな」と私に声をかけてくださった。
「テレジアは、他者を傷つけたくないんだよな。……だから、自分を責める」
「……そ、れは」
「けど、俺は嫉妬してくれて嬉しかった。……それは、真実だから」
「し、っと、なんて……」
これは嫉妬じゃない。
そう言おうとした。けれど、やっぱりこれは嫉妬なのだろう。
彼の側にさも当然のようにいられる、コルネリアさまに対しての――。
「気持ちは、しっかりとぶつけ合おうな。片方だけが我慢するなんて、平等じゃない」
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