10 / 58
本編 第2章
第3話
しおりを挟む
「……だから、私は自分に自信が持てないの」
ちょっと、愚痴っぽい言葉だった。
「ラインヴァルト殿下が私のことを好きとおっしゃっても、信じられない。どうして、こんな私がって……」
ぼうっとする頭。口が勝手に動いて、自分の気持ちを言葉にしていく。頭はちっとも理解していない。
そんな私を見たからなのか。ミーナが息を呑んだのがわかった。……少し、困らせてしまったのだろうな。
「ごめんなさい。こんなことを突然言われても、困るわよね……」
苦笑を浮かべてミーナにそう声をかければ、彼女はゆるゆると首を横に振った。
「いえ、別にそういうわけではないのです」
ミーナが肩をすくめて、口をもごもごと動かす。多分、なんらかの言葉を探しているのだ。
それを理解して、私はなんだかおかしくなった。
「私はそう簡単には傷つかないから。……だから、直球に言って」
そう言うと、ミーナが一瞬だけ目を見開く。……が、すぐに「では」と前置きをして口を開いた。
「こんなことを言うのは、失礼だと承知しておりますが」
「……えぇ」
「テレジアさまのお母さまは、なにも分かっておりません」
……でも、告げられた言葉が予想外すぎて。私は目を真ん丸にした。ぽかんと口が間抜けに開いている。
「テレジアさまは、とても美しいですよ」
「……そ、んなの」
「私、テレジアさまと関わってまだ数十分しか経っていません。けど、私、思いましたから。……このお方は、努力されているんだって」
……なんて返せばいいかわからなくて、口ごもった。
「親として、子供の努力を認めるのは必要です。なのに、貶すことしかされないなんて……」
「……それは、私が、努力をしても結果が付いてこないから……」
「いいえ、テレジアさまはとても立ち振る舞いが美しいです。知っておりますか? 立ち振る舞いは、人の心が出るのですよ」
意味がわからなくて、呆然とする。そんな私に気が付いてか、ミーナは笑った。愛らしくて、可愛らしい笑みで。
「人の心が透けて見える……と、言えばいいのでしょうか。心の醜いお人は、それ相応の立ち振る舞いしか出来ません」
「心が、透けて見える……」
「はい。対するテレジアさまは、心の清らかさが出ておりますよ。きっと、ラインヴァルト殿下もそういうところをお好きになられたのですよ」
もしも、そうだったら。どれだけ、いいのだろうか。
目を瞑って、ぐっと唇を結ぶ。もしも、ラインヴァルト殿下のお気持ちが本物ならば。……どれだけ、幸せなのだろうか。
(いいえ、こんなことを思っても仕方がないわ。……あのお方は、本気だとおっしゃっていたじゃない)
信じないなんて、不敬だ。それに、私自身が心のどこかであのお方に期待している。
……好きになってもいいんじゃないか。頭の片隅で、誰かが囁いた。
(……でも、好きになってはいけない。私は、あのお方のお側にはいられない)
側室とか、そういう立場だったら問題はない。だけど、それじゃあ私の心が苦しい。
好きになった人の正妻になれないなんて、悲しすぎる。
(結局、私はどうすれば……)
頭の中がぐるぐると回って、思考回路もめちゃくちゃになって。
そう思って俯く私の肩を、ミーナがぽんっとたたいてくれる。
「出来ました。……では、行きましょうか」
「……行くって、何処に?」
彼女の言葉に、私は自然とそう問いかける。そうすれば、ミーナはにっこりと笑った。
「ラインヴァルト殿下の元に、ですよ」
「……え」
零れた私の声は、とても間抜けなものだった……と、思う。
それほどまでに、彼女の言葉は予想もしていなかったことだった。
ちょっと、愚痴っぽい言葉だった。
「ラインヴァルト殿下が私のことを好きとおっしゃっても、信じられない。どうして、こんな私がって……」
ぼうっとする頭。口が勝手に動いて、自分の気持ちを言葉にしていく。頭はちっとも理解していない。
そんな私を見たからなのか。ミーナが息を呑んだのがわかった。……少し、困らせてしまったのだろうな。
「ごめんなさい。こんなことを突然言われても、困るわよね……」
苦笑を浮かべてミーナにそう声をかければ、彼女はゆるゆると首を横に振った。
「いえ、別にそういうわけではないのです」
ミーナが肩をすくめて、口をもごもごと動かす。多分、なんらかの言葉を探しているのだ。
それを理解して、私はなんだかおかしくなった。
「私はそう簡単には傷つかないから。……だから、直球に言って」
そう言うと、ミーナが一瞬だけ目を見開く。……が、すぐに「では」と前置きをして口を開いた。
「こんなことを言うのは、失礼だと承知しておりますが」
「……えぇ」
「テレジアさまのお母さまは、なにも分かっておりません」
……でも、告げられた言葉が予想外すぎて。私は目を真ん丸にした。ぽかんと口が間抜けに開いている。
「テレジアさまは、とても美しいですよ」
「……そ、んなの」
「私、テレジアさまと関わってまだ数十分しか経っていません。けど、私、思いましたから。……このお方は、努力されているんだって」
……なんて返せばいいかわからなくて、口ごもった。
「親として、子供の努力を認めるのは必要です。なのに、貶すことしかされないなんて……」
「……それは、私が、努力をしても結果が付いてこないから……」
「いいえ、テレジアさまはとても立ち振る舞いが美しいです。知っておりますか? 立ち振る舞いは、人の心が出るのですよ」
意味がわからなくて、呆然とする。そんな私に気が付いてか、ミーナは笑った。愛らしくて、可愛らしい笑みで。
「人の心が透けて見える……と、言えばいいのでしょうか。心の醜いお人は、それ相応の立ち振る舞いしか出来ません」
「心が、透けて見える……」
「はい。対するテレジアさまは、心の清らかさが出ておりますよ。きっと、ラインヴァルト殿下もそういうところをお好きになられたのですよ」
もしも、そうだったら。どれだけ、いいのだろうか。
目を瞑って、ぐっと唇を結ぶ。もしも、ラインヴァルト殿下のお気持ちが本物ならば。……どれだけ、幸せなのだろうか。
(いいえ、こんなことを思っても仕方がないわ。……あのお方は、本気だとおっしゃっていたじゃない)
信じないなんて、不敬だ。それに、私自身が心のどこかであのお方に期待している。
……好きになってもいいんじゃないか。頭の片隅で、誰かが囁いた。
(……でも、好きになってはいけない。私は、あのお方のお側にはいられない)
側室とか、そういう立場だったら問題はない。だけど、それじゃあ私の心が苦しい。
好きになった人の正妻になれないなんて、悲しすぎる。
(結局、私はどうすれば……)
頭の中がぐるぐると回って、思考回路もめちゃくちゃになって。
そう思って俯く私の肩を、ミーナがぽんっとたたいてくれる。
「出来ました。……では、行きましょうか」
「……行くって、何処に?」
彼女の言葉に、私は自然とそう問いかける。そうすれば、ミーナはにっこりと笑った。
「ラインヴァルト殿下の元に、ですよ」
「……え」
零れた私の声は、とても間抜けなものだった……と、思う。
それほどまでに、彼女の言葉は予想もしていなかったことだった。
35
お気に入りに追加
483
あなたにおすすめの小説
王子として育てられた私は、隣国の王子様に女だとバレてなぜか溺愛されています
八重
恋愛
リオは女しか生まれない呪いをかけられた王族の生まれで、慣習通り「王子」として育てられた。
そして17歳になったリオは隣国との外交担当に任ぜられる。
しかし、外交公務で向かった隣国にて、その国の第一王子フィルに女であることがバレてしまう。
リオはフィルがまわりに秘密をばらさないか心配になり、しょっちゅうフィルのもとに通う。
フィルはそんなリオを冷たくあしらうが、ある日フィルはリオを押し倒す。
「男を甘く見るな」
急な恋愛展開をきっかけに、二人は急接近して……。
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
【完結】いくら溺愛されても、顔がいいから結婚したいと言う男は信用できません!
大森 樹
恋愛
天使の生まれ変わりと言われるほど可愛い子爵令嬢のアイラは、ある日突然騎士のオスカーに求婚される。
なぜアイラに求婚してくれたのか尋ねると「それはもちろん、君の顔がいいからだ!」と言われてしまった。
顔で女を選ぶ男が一番嫌いなアイラは、こっ酷くオスカーを振るがそれでもオスカーは諦める様子はなく毎日アイラに熱烈なラブコールを送るのだった。
それに加えて、美形で紳士な公爵令息ファビアンもアイラが好きなようで!?
しかし、アイラには結婚よりも叶えたい夢があった。
アイラはどちらと恋をする? もしくは恋は諦めて、夢を選ぶのか……最後までお楽しみください。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。
「悪役令嬢は溺愛されて幸せになる」というテーマで描かれるラブロマンスです。
主人公は平民出身で、貴族社会に疎いヒロインが、皇帝陛下との恋愛を通じて成長していく姿を描きます。
また、悪役令嬢として成長した彼女が、婚約破棄された後にどのような運命を辿るのかも見どころのひとつです。
なお、後宮で繰り広げられる様々な事件や駆け引きが描かれていますので、シリアスな展開も楽しめます。
以上のようなストーリーになっていますので、興味のある方はぜひ一度ご覧ください。
愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される
守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」
貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。
そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。
厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。
これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる