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本編 第8章

結末

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 それからはとんとん拍子に事が進んだ。

 オリヴァーは自らがリベラトーレを陥れたと自首し、リベラトーレは厳重注意の処分で済んだのだ。それはきっと、カザーレ侯爵夫妻が働きかけたというのも大きいだろう。それに合わせ、オリヴァーもリベラトーレは悪くないと進言してくれていた。

 そして、ヴェルディアナにかけられた呪いにはほんの少しの特殊性があったそうだ。それは――闇の魔力を持つ人間には発動しないというもの。それを聞いた時、ヴェルディアナはだからオリヴァーに触れられても発動しなかったのかと納得してしまった。

 オリヴァーに利用されていたというイザークについても無事保護され、彼は今医療施設に入院している。ヴェルディアナが見舞いに行くと、彼は今までのことを謝罪してきた。だからこそ、ヴェルディアナは「まぁ、許してあげます」と言ったものだ。

 その日、ヴェルディアナは朝からせわしなく動いていた。侍女服ではなくワンピースに袖を通し、髪の毛も軽く整える。ここに来てからこんなにもおめかしをするのは初めてかもしれない。そう思いながらヴェルディアナが仕度をしていると、外から部屋の扉がノックされる。

「ヴェルディアナ様。……リベラトーレ様が、お戻りになりました」

 ほかでもないラーレにそう声をかけられ、ヴェルディアナは足早に扉に近づきそのまま部屋を飛び出した。

 今日はリベラトーレが諸々の後処理を終えカザーレ侯爵家に戻ってくる日だった。リベラトーレは騒ぎを起こした責任として、研究所の所長に泊りがけでの資料整理を任されてしまったらしい。彼もそれくらいで除籍を逃れることが出来るのならばと受け入れたと聞いている。

 しかし、ヴェルディアナからすればそれはあまり良いことではなかった。リベラトーレの身体が心配だったし、何よりも会えないのが苦しかった。ここ最近では心が通じ合い、二人で仲睦まじく過ごしていたのも寂しいと思ってしまった要因だろう。

 そう思いながらヴェルディアナが早足で屋敷の中を歩いていれば、使用人たちが温かい視線で見守ってくる。彼ら一人一人に挨拶をしながらヴェルディアナが玄関に向かえば、ちょうど馬車が屋敷についたところだった。

「リベラトーレ様!」

 馬車から降りてきた人物に声をかければ、その人物は一目散にヴェルディアナの方にやってきて――その身体を抱きしめる。

「ヴェルディアナ」

 何処となくやつれてしまっただろうか? そう思うヴェルディアナを他所に、リベラトーレはヴェルディアナの目元に溢れた涙を指で拭う。その後、小さく「……ただいま、帰りました」とあいさつをくれた。

「……おかえり、なさいませ」

 ここはヴェルディアナの家ではない。けれど、今はこの言葉が正しいと思った。そのためそう言葉に出せば、まるで新婚夫婦の様でどちらともなく照れてしまう。

 そのまま何も言わずに抱きしめ合う。しかし、さすがにしびれを切らしてしまったのかリベラトーレはヴェルディアナの身体を優しく解放してくれた。

「……その、聞いてほしいことが、あります」

 そして、彼は何処となく真剣な面持ちでそう言ってくる。その言葉にヴェルディアナが息を呑めば、リベラトーレは勢いよく頭を下げてきた。そして――。

「俺と、俺と正式に結婚してください!」

 ……いや、なんとまぁ格好のつかないプロポーズだろうか。

 一瞬ヴェルディアナはそう思ってしまったが、また目元に涙があふれてきてしまい、視界がうるんでいく。それを見たリベラトーレはヴェルディアナが嫌がっていると判断したのだろう。慌てふためく。

 だからこそ、ヴェルディアナはそんな彼を一瞥し、口元をふっと緩めていた。

「……どうして、リベラトーレ様がそんな風に慌てられるのですか」
「で、でも……」
「私、嫌だって言ってませんよね?」

 肩をすくめながらそう言えば、リベラトーレの目が大きく見開かれる。その大きな青色の目がまるで美しい宝石のように見えてしまい、ヴェルディアナはそっと彼の耳元に唇を寄せた。

「……こんな私ですけれど、貴方の側に妻として居てもいいですか?」

 小さな声で、そう問う。

 そうすれば、リベラトーレはその顔を一気に明るくし――力いっぱい、ヴェルディアナのことを抱きしめてくる。

「ヴェルディアナ。……もう、絶対に放しませんから」

 リベラトーレのその言葉にはどうしようもないほどの決意がこもっている。それがわかるからこそ、ヴェルディアナはそっと「私も、貴方のことを今度は支え続けますから」と自分の気持ちを口にする。

「……その、ヴェルディアナ」
「……はい」
「俺、ヴェルディアナに触れたいです」

 ヴェルディアナにだけ聞こえるような音量でそう言われ、ヴェルディアナはその頬を一気に赤く染めた。けれど、嫌ではない。初めのころはあんなにも嫌だったのに。今ではその気持ちが煙のように消えてしまっている。

「……優しく、してくださいね」

 だからこそ、ヴェルディアナはそんなことを告げた。
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