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本編
第45話 『どっちが……いいの?』 ③
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(……信じるとは、決めたけれど……)
アイザイア様へのお返事を書き終え、そのお手紙をヴィニーに手渡した後。私はお母様からのお手紙を見つめながら、いろいろと考えていました。お母様からのお手紙には、私を心配するような文字ばかりが綴られています。アイザイア様との関係は上手く行っていますか? ということや、王妃教育は辛くはありませんか? ということなど。いつも大丈夫と言っているのに、心配ばかりなのはきっと親心なのでしょうね。あぁ、お母様にもお返事を書こうかしら。明日の朝にでも、ヴィニーに渡して出してきてもらおう。私は、そう決めました。
残っていた便箋に、ペンを走らせていく。これは、お父様やお母様に近況を報告するためのものです。そう思えば、ペンがよく走りました。先ほどまで、何を書こうと迷っていたのが嘘みたいですよ。
「……ん?」
そして、お母様のお手紙をもう一度よく見直してみると、便箋の裏に何かが書いてあるようでした。便箋をひっくり返してみてみると、そこにはお父様の字で何かが書かれています。きっと、お母様のお手紙に付け足したのだわ。お父様はたまにそういうことをされるお方だから。そう思いながら、私はその文字を目で追っていく。そこに書かれていたのは――。
――ベアリング伯爵家に、気を付けておくように。
そんなお言葉、でした。
(お父様に、アラン様とのことは伝えていないはずなのですが……)
そう思いましたが、私がレノーレ様と折り合いが悪いことはお父様方も存じております。となると、レノーレ様と親しいアラン様のことも知っていると思われたのかもしれません。一時期は、アラン様の告白で確かに私の心は揺れました。でも、もう分かっているのです。アラン様の告白は、レノーレ様に協力するためのものだった。私の心を、かき乱すためのものだったのでしょう。
「……ベアリング伯爵家と、ビエナート侯爵家……」
最近評判の悪い二つのお家。そりゃあ、他にも評判の悪い貴族のお家は多いです。なんといっても、領民を虐げたりする貴族も少なくはないのですから。さらに、王宮内で今行われようとしている『粛清』のお話。その対象に、その二つのお家も入っている。今まで、高位貴族だからと見逃されてきた悪事の数々が、露見するかもしれません。……それは、きっと正しいことなのです。アイザイア様も、国王陛下も、正しいことをされているのです。しかし……。
「……間違いなく、恨まれるわ」
その行動は、間違いなく人から恨まれる行動です。たとえ、民たちから英雄扱いされ様とも、きっとその『粛清』の対象となった貴族は黙ってはいないでしょう。最悪、殺害を企てるかもしれません。そうなってしまえば、ある意味本末転倒ではありませんか。フェリシタル王国の王政に不満を持っている民は少ない。でも、貴族に不満を持っている民は多い。それを何とかしようとして、王家が破滅してしまっては、ダメじゃないですか。
「……アイザイア様も、国王陛下も正義感の強いお方だわ。だから……この現状を見逃せなかったのでしょうが、それでも……」
もっと、深く考えてから行動するべきだったのではないでしょうか? 私は、そう思ってしまいました。なんだか、今回のことは少しばかりおかしい気がするのです。普段のアイザイア様ならば、きっとこの『粛清』をもっと慎重に行うはずです。今の『粛清』も確かに慎重ですが、何処か危うい気がします。……ううん、私がこんなことを思ってもダメよね。私は、何も口出しできる立場ではないのですから。そう、自分に言い聞かせてみます。でも……不安は尽きないものです。
「……ううん、きっと大丈夫よ。だって、アイザイア様だもの。……ずっと、お側で見てきたじゃない。あの人を、信じなくちゃ……」
一時期は、信じられなくなった。それに、今だってまだ完全に信じられない節もある。だけど、信じるって決めたのだ。私は……アイザイア様に、着いていく。たとえ、愛されなかったとしても。たとえ、側妃や愛妾を娶られたとしても。たとえ、これが破滅の道だったとしても。私には……あの人しか、いないのだから。
「私は支えることしか出来ないもの。だから……信じるの、信じるのよ、私」
自分にそう言い聞かせて、私はまたペンを走らせる。
王国を揺るがす『粛清』。それが始まるまで……あと、一週間。
アイザイア様へのお返事を書き終え、そのお手紙をヴィニーに手渡した後。私はお母様からのお手紙を見つめながら、いろいろと考えていました。お母様からのお手紙には、私を心配するような文字ばかりが綴られています。アイザイア様との関係は上手く行っていますか? ということや、王妃教育は辛くはありませんか? ということなど。いつも大丈夫と言っているのに、心配ばかりなのはきっと親心なのでしょうね。あぁ、お母様にもお返事を書こうかしら。明日の朝にでも、ヴィニーに渡して出してきてもらおう。私は、そう決めました。
残っていた便箋に、ペンを走らせていく。これは、お父様やお母様に近況を報告するためのものです。そう思えば、ペンがよく走りました。先ほどまで、何を書こうと迷っていたのが嘘みたいですよ。
「……ん?」
そして、お母様のお手紙をもう一度よく見直してみると、便箋の裏に何かが書いてあるようでした。便箋をひっくり返してみてみると、そこにはお父様の字で何かが書かれています。きっと、お母様のお手紙に付け足したのだわ。お父様はたまにそういうことをされるお方だから。そう思いながら、私はその文字を目で追っていく。そこに書かれていたのは――。
――ベアリング伯爵家に、気を付けておくように。
そんなお言葉、でした。
(お父様に、アラン様とのことは伝えていないはずなのですが……)
そう思いましたが、私がレノーレ様と折り合いが悪いことはお父様方も存じております。となると、レノーレ様と親しいアラン様のことも知っていると思われたのかもしれません。一時期は、アラン様の告白で確かに私の心は揺れました。でも、もう分かっているのです。アラン様の告白は、レノーレ様に協力するためのものだった。私の心を、かき乱すためのものだったのでしょう。
「……ベアリング伯爵家と、ビエナート侯爵家……」
最近評判の悪い二つのお家。そりゃあ、他にも評判の悪い貴族のお家は多いです。なんといっても、領民を虐げたりする貴族も少なくはないのですから。さらに、王宮内で今行われようとしている『粛清』のお話。その対象に、その二つのお家も入っている。今まで、高位貴族だからと見逃されてきた悪事の数々が、露見するかもしれません。……それは、きっと正しいことなのです。アイザイア様も、国王陛下も、正しいことをされているのです。しかし……。
「……間違いなく、恨まれるわ」
その行動は、間違いなく人から恨まれる行動です。たとえ、民たちから英雄扱いされ様とも、きっとその『粛清』の対象となった貴族は黙ってはいないでしょう。最悪、殺害を企てるかもしれません。そうなってしまえば、ある意味本末転倒ではありませんか。フェリシタル王国の王政に不満を持っている民は少ない。でも、貴族に不満を持っている民は多い。それを何とかしようとして、王家が破滅してしまっては、ダメじゃないですか。
「……アイザイア様も、国王陛下も正義感の強いお方だわ。だから……この現状を見逃せなかったのでしょうが、それでも……」
もっと、深く考えてから行動するべきだったのではないでしょうか? 私は、そう思ってしまいました。なんだか、今回のことは少しばかりおかしい気がするのです。普段のアイザイア様ならば、きっとこの『粛清』をもっと慎重に行うはずです。今の『粛清』も確かに慎重ですが、何処か危うい気がします。……ううん、私がこんなことを思ってもダメよね。私は、何も口出しできる立場ではないのですから。そう、自分に言い聞かせてみます。でも……不安は尽きないものです。
「……ううん、きっと大丈夫よ。だって、アイザイア様だもの。……ずっと、お側で見てきたじゃない。あの人を、信じなくちゃ……」
一時期は、信じられなくなった。それに、今だってまだ完全に信じられない節もある。だけど、信じるって決めたのだ。私は……アイザイア様に、着いていく。たとえ、愛されなかったとしても。たとえ、側妃や愛妾を娶られたとしても。たとえ、これが破滅の道だったとしても。私には……あの人しか、いないのだから。
「私は支えることしか出来ないもの。だから……信じるの、信じるのよ、私」
自分にそう言い聞かせて、私はまたペンを走らせる。
王国を揺るがす『粛清』。それが始まるまで……あと、一週間。
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