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本編
第41話 『すれ違う二人』 ②
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「……はぁ」
自室に戻った後、私は一人ため息をついていました。自室に戻ると、後悔という名の波が私の心に押し寄せてきます。後悔をする理由は簡単です。アイザイア様と、言い争いという名の喧嘩をしてしまったから。
「モニカ様。少しばかり、落ち着きましたか?」
そんなことを考えていた私の前に、ヴィニーが紅茶を出してくれます。どうやら、本日は落ち着くようなブレンドを選んでくれたらしいです。まだ温かく、湯気が上がっているカップを手に取ると少し、心が落ち着きました。
それと同時に、何故あんなことを言ってしまったのだろうか、と思ってしまいます。なんだか、まるで自分の心に歯止めが利かなくなっているような気も、してしまいます。……意味が、分からない。だって、今まで――……。
「――喧嘩なんて、したことがなかったじゃない」
その言葉を口に出したとき、私はとてつもない不安に襲われました。
喧嘩を、したことがなかった? 言い争いを、したことがなかった?
それって、裏を返せば……私の意見を、言っていなかったということではないの? ずっと、アイザイア様に私が合わせてきただけじゃないの? そう、思ったからです。
だって、お父様とお母様は仲睦まじいですが、言い争いや喧嘩は度々していらっしゃいます。ですが、次の日にはけろっと仲直りをされている。お父様とお母様曰く「言い争いや喧嘩は、コミュニケーションの一環」だということです。
時折不満をぶつけあわないと、すれ違いが続いていつの間にか修復不可能な関係になってしまう。だからこそ、言い争いや喧嘩をすることは大切だ。「喧嘩をするほど仲が良い」なんて言葉も、異国にはあるぐらいだっておっしゃっていた。
なのに、私は今まで言い争いや喧嘩をすることはなかった。自らの意見を言うことも、あまりなかった。その理由は簡単。私が……邪険な雰囲気を苦手とするからだ。邪険だったり、険悪だったり。そんな雰囲気を浴びると、肌がピリピリと痛むような気がしたからです。だから、出来る限り争いごとは避けていたい。そう、思ってきた。
そして、それはアイザイア様に対しても一緒でした。アイザイア様にも、嫌われたくなくて、愛想を尽かされたくなくて。だから、私は自らの気持ちに蓋をし続けてきた。……ですが、それっていいことだったのでしょうか? 少なくとも、お父様やお母様から言わせれば「あまりいいことではない」でしょう。むしろ、ダメなことだと言われてしまいそうです。両親は、私とアイザイア様が仲睦まじく過ごすことを、望んでいらっしゃいますから。
(あんなタイミングで、本音をぶつけたのも初めてなのよね……)
喧嘩になりそうな雰囲気になると、私は常々逃げてきた。だから、あんな風に本音をぶつけ合うことはなかった。そのため、ああいうのはある意味新鮮な気がした。
「……モニカ様」
そんなことを私が考えていると、ヴィニーが不意に私の頭をなでてくれました。普通の貴族ならば、怒るような行為でしょう。しかし、私にとってそれは最も落ち着く行為で。いつも姉の様に慕っているヴィニーだから、許せる行為で。だから、猫の様に目を細めました。すると、ポロポロと涙が出てくる。今更、悲しくなってしまったのかもしれない。
「ヴィニー! わたしっ、わたしっ!」
今更、悲しくなって、辛くなって。それって、どれだけ都合のいい考えの人間でしょうか。そう思うけれど、涙は止まってくれなくて。私は、ただヴィニーに縋りつくように泣きじゃくりました。ただ、悲しかった。アイザイア様と喧嘩をしたことが、言い争いをしたことが、辛かった。悲しかった。アイザイア様のお心がレノーレ様に向かってしまったのも、悲しかったし辛かった。その所為で、あんなことを言ってしまった。今更気が付いても、遅いのかもしれない。それでも……まだ、遅くないと信じたい。
「……モニカ様。大丈夫、大丈夫ですよ。まだ、間に合いますから、ね? あんな喧嘩一つで壊れるような関係ではないでしょう、アイザイア様とモニカ様は。それに……アイザイア様だって、何か理由があるからこそ、レノーレ様とお会いしているのですよ」
ヴィニーが、そんな慰めの言葉を私にかけてくれる。頭をなでてくれる。
本当に、私は愚かだったのかもしれない。自分の意見を隠して、不満が爆発したときだけ、あんな風に八つ当たりをして。どれだけ、私は身勝手な女だろうか。そんなことを、思ってしまう。
「……モニカ様。今は、お好きなだけ泣いてくださって結構ですよ。そして……ちゃんと、アイザイア様と仲直りをしに行きましょうね」
そんな優しい言葉をかけられた時、私の涙腺は崩壊してしまった。ただ、ヴィニーに縋りつきながら涙をこぼすだけ。だけど、なんだか幼い頃に戻ったような、そんな感覚にもなる。
悲しくて、辛くて。これが恋なんだって、初めて気が付いた。
私は……少しだけ、成長したの、かもしれない。
「……はぁ」
自室に戻った後、私は一人ため息をついていました。自室に戻ると、後悔という名の波が私の心に押し寄せてきます。後悔をする理由は簡単です。アイザイア様と、言い争いという名の喧嘩をしてしまったから。
「モニカ様。少しばかり、落ち着きましたか?」
そんなことを考えていた私の前に、ヴィニーが紅茶を出してくれます。どうやら、本日は落ち着くようなブレンドを選んでくれたらしいです。まだ温かく、湯気が上がっているカップを手に取ると少し、心が落ち着きました。
それと同時に、何故あんなことを言ってしまったのだろうか、と思ってしまいます。なんだか、まるで自分の心に歯止めが利かなくなっているような気も、してしまいます。……意味が、分からない。だって、今まで――……。
「――喧嘩なんて、したことがなかったじゃない」
その言葉を口に出したとき、私はとてつもない不安に襲われました。
喧嘩を、したことがなかった? 言い争いを、したことがなかった?
それって、裏を返せば……私の意見を、言っていなかったということではないの? ずっと、アイザイア様に私が合わせてきただけじゃないの? そう、思ったからです。
だって、お父様とお母様は仲睦まじいですが、言い争いや喧嘩は度々していらっしゃいます。ですが、次の日にはけろっと仲直りをされている。お父様とお母様曰く「言い争いや喧嘩は、コミュニケーションの一環」だということです。
時折不満をぶつけあわないと、すれ違いが続いていつの間にか修復不可能な関係になってしまう。だからこそ、言い争いや喧嘩をすることは大切だ。「喧嘩をするほど仲が良い」なんて言葉も、異国にはあるぐらいだっておっしゃっていた。
なのに、私は今まで言い争いや喧嘩をすることはなかった。自らの意見を言うことも、あまりなかった。その理由は簡単。私が……邪険な雰囲気を苦手とするからだ。邪険だったり、険悪だったり。そんな雰囲気を浴びると、肌がピリピリと痛むような気がしたからです。だから、出来る限り争いごとは避けていたい。そう、思ってきた。
そして、それはアイザイア様に対しても一緒でした。アイザイア様にも、嫌われたくなくて、愛想を尽かされたくなくて。だから、私は自らの気持ちに蓋をし続けてきた。……ですが、それっていいことだったのでしょうか? 少なくとも、お父様やお母様から言わせれば「あまりいいことではない」でしょう。むしろ、ダメなことだと言われてしまいそうです。両親は、私とアイザイア様が仲睦まじく過ごすことを、望んでいらっしゃいますから。
(あんなタイミングで、本音をぶつけたのも初めてなのよね……)
喧嘩になりそうな雰囲気になると、私は常々逃げてきた。だから、あんな風に本音をぶつけ合うことはなかった。そのため、ああいうのはある意味新鮮な気がした。
「……モニカ様」
そんなことを私が考えていると、ヴィニーが不意に私の頭をなでてくれました。普通の貴族ならば、怒るような行為でしょう。しかし、私にとってそれは最も落ち着く行為で。いつも姉の様に慕っているヴィニーだから、許せる行為で。だから、猫の様に目を細めました。すると、ポロポロと涙が出てくる。今更、悲しくなってしまったのかもしれない。
「ヴィニー! わたしっ、わたしっ!」
今更、悲しくなって、辛くなって。それって、どれだけ都合のいい考えの人間でしょうか。そう思うけれど、涙は止まってくれなくて。私は、ただヴィニーに縋りつくように泣きじゃくりました。ただ、悲しかった。アイザイア様と喧嘩をしたことが、言い争いをしたことが、辛かった。悲しかった。アイザイア様のお心がレノーレ様に向かってしまったのも、悲しかったし辛かった。その所為で、あんなことを言ってしまった。今更気が付いても、遅いのかもしれない。それでも……まだ、遅くないと信じたい。
「……モニカ様。大丈夫、大丈夫ですよ。まだ、間に合いますから、ね? あんな喧嘩一つで壊れるような関係ではないでしょう、アイザイア様とモニカ様は。それに……アイザイア様だって、何か理由があるからこそ、レノーレ様とお会いしているのですよ」
ヴィニーが、そんな慰めの言葉を私にかけてくれる。頭をなでてくれる。
本当に、私は愚かだったのかもしれない。自分の意見を隠して、不満が爆発したときだけ、あんな風に八つ当たりをして。どれだけ、私は身勝手な女だろうか。そんなことを、思ってしまう。
「……モニカ様。今は、お好きなだけ泣いてくださって結構ですよ。そして……ちゃんと、アイザイア様と仲直りをしに行きましょうね」
そんな優しい言葉をかけられた時、私の涙腺は崩壊してしまった。ただ、ヴィニーに縋りつきながら涙をこぼすだけ。だけど、なんだか幼い頃に戻ったような、そんな感覚にもなる。
悲しくて、辛くて。これが恋なんだって、初めて気が付いた。
私は……少しだけ、成長したの、かもしれない。
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