上 下
31 / 62
本編

第31話 『不安だらけ』 ①

しおりを挟む
 あの日から一週間程度経った日のこと。私は、あの日以来露骨にアイザイア様を避けていました。理由なんて簡単、会いたくなかったから。日が経てば、日が経つほど、会いにくくなるのは分かっていました。それでも、会おうとは思えなかった。また、八つ当たりしてしまいそうでしたから。

 そして、今日もいつも通りアイザイア様の生活時間をずらし、王宮内を空き時間に散歩していました。もちろん、アイザイア様の生活空間には入っていません。もしも、会ってしまえば今まで避けてきたことも、問い詰められてしまいそうだったからというのも関係しています。

(……でも、やっぱり)

 そろそろ、会ってお話するべきなんじゃないか。そう、思ってしまいます。しかし、会うという勇気が出なくて、またその気持ちはしぼんでいく。どうしても、会えない。会って、八つ当たりなんてしたくないから。そんなお互いが不幸になるしかない道しかないのならば、もういっそ合わない方が良いんじゃないか。そう、思ってしまったんです。

 そんな時、不意に見慣れた金色の髪が視界の端に入りました。そのお姿を見たとき、私は心の中で「まさか……」と呟いていた。嫌な予感が、していました。ここは、普段アイザイア様が滅多に訪れない場所。人目にもあまりつかないため、アイザイア様を始めとした五人の王子様方は滅多にここにやりつかないのに。なのに……どうして、ここにいらっしゃるのだろうか。いいや、王宮はアイザイア様の生活スペースなのだから、いらっしゃっても当然なのですが……。それでも、ここで王子様を見かけたことは一度もなかったので……。

「……追って、みようかな」

 ここで鉢合わせてしまったのも、何かの縁だ。もしかしたら、神様が仲直りしなさい、話し合いなさいと言ってくれているのかもしれない。そう前向きにとらえた私は、アイザイア様の後を追うことにしました。でも、堂々と追うことは出来ません。だから、物陰に隠れながらゆっくりとアイザイア様の後を追いました。他の人から見れば明らかな不審者です。ですが、幸いにも今は一人。王宮内ならば警備がしっかりしているから、と一人で行動していたのが功を奏していたようです。

(いったい、どこに行かれるのかしら……)

 心の中でそんなことを思いながら、アイザイア様の後を追います。すると、何やら人影がアイザイア様のおそばに駆け寄りました。その人影は、ドレスを身に纏っていらっしゃることから、女性だということが分かります。遠くから目を凝らして、私はその人影の正体を掴もうとします。アイザイア様はその人影を引きはがし……何かをおっしゃっているようです。見られたらまずいとか、そう言うことでしょうか?

(……やっぱり、そう言うことだよね)

 もしかしたら、これは密会現場なのかもしれません。私は、そう思ってしまいました。だって、こんな人の居ない場所で二人きりで女性と会っているとなれば、密会に違いありません。つまり……アイザイア様は、私のことが好きではないということなのでしょう。私のことは、恋愛対象外だ、ということなのでしょう。所詮、私はアイザイア様にとって妹のような存在。そういう、こと……。

(あの人影は、レノーレ、様?)

 そんな時、特徴的な縦ロールが視界に入り、その人影が誰なのか理解しました。あの背丈も、あの豪華な装飾品がつけられたドレスも、派手派手な縦ロールも。すべてが、レノーレ様の特徴と合致します。……その時、あの噂が頭をよぎりました。

『アイザイア様はレノーレ様とお会いしている』

 その噂が、頭の中でループする。その度に、私は傷ついてしまった。……どうして、どうして。そう、思ってしまったからです。私たちは恋人同士ではないというのに。所詮、政略結婚の相手でしかないというのに。

(なんだか、やっぱり胸が痛い気がするわ……)

 胸元を押さえながら、私は柱に隠れお二人を観察していました。気が付かないうちに頬を伝っていた涙は、一体何だったのか。それがわかることは、ありませんでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今ならもれなくもう一本ついてきます!!

丸井まー(旧:まー)
BL
ド淫乱淫魔のアーネは、男狩りが趣味である。ある日、魔王城の訓練場で美味しそうな男達を観察していると、警備隊隊長のリザードマン・ヴィッレに捕まった。訓練場から放り出されたアーネは、ヴィッレを喰おうと決意する。 リザードマン✕淫魔。 ※♡喘ぎ、イラマチオ、嘔吐、鼻から精液、男性妊娠、産卵、お漏らし、潮吹き、ヘミペニス、前立腺責め、結腸責め、フィスト、ピアッシング注意。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

美形アイドル達の寮母やることになったんだけど皆ヤンデレになっちゃった件

月夜の晩に
BL
美形アイドルグループの寮母係をやることになった平凡受けくん。次々とアイドル攻めくんたちをヤンデレにしてしまう。最後受けくんは監禁から逃れることは出来るのか!?

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

婚約破棄?それはなんですか?

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢のジュリアは、婚約相手であった王子アレックスから婚約破棄を告げられた。 「その理由は何ですか?」 「君は別の男と仲良くしていただろう?浮気だ!」 アレックスはみもふたもない言いがかりをジュリアに押し付けた。しかし、これは嘘であり、アレックスが他に気に入った女を見つけたことで起きた悲劇。 「ああっ、むかつくわ!!!復讐してやる!!!」 真相を知ったジュリアは激怒した!復讐の物語が静かに始まる。

美形な兄に執着されているので拉致後に監禁調教されました

パイ生地製作委員会
BL
玩具緊縛拘束大好き執着美形兄貴攻め×不幸体質でひたすら可哀想な弟受け

浮気疑惑でオナホ扱い♡

恋愛
穏和系執着高身長男子な「ソレル」が、恋人である無愛想系爆乳低身長女子の「アネモネ」から浮気未遂の報告を聞いてしまい、天然サドのブチギレセックスでとことん体格差わからせスケベに持ち込む話。最後はラブラブです。 コミッションにて執筆させていただいた作品で、キャラクターのお名前は変更しておりますが世界観やキャラ設定の著作はご依頼主様に帰属いたします。ありがとうございました! ・web拍手 http://bit.ly/38kXFb0 ・X垢 https://twitter.com/show1write

悪霊令嬢、渋々生まれ変わったら悪霊になるきっかけになった元婚約者の孫に溺愛されました

甘寧
恋愛
義姉に婚約者を奪われ、婚約者と継母に騙された挙句、殺されたカロリーナ。 霊体になり、元婚約者を殺した事がきっかけで悪霊の仲間入りに。 悪霊になった事で好き勝手していたが、ある日、神様を名乗る丸々太った白スズメに出会い渋々転生。 転生先で出会ったのは、まさか元婚約者の子供の子供(孫)。 そして、何故かこの孫が私に執着しだして…… 過去に囚われ中々正直になれない令嬢と、どこか怪しげな雰囲気が漂う令嬢が気になって仕方ない令息とのお話。

今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!

ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。 苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。 それでもなんとななれ始めたのだが、 目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。 そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。 義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。 仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。 「子供一人ぐらい楽勝だろ」 夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。 「家族なんだから助けてあげないと」 「家族なんだから助けあうべきだ」 夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。 「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」 「あの子は大変なんだ」 「母親ならできて当然よ」 シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。 その末に。 「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」 この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。

処理中です...