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本編
第26話 『全て君の為』 ②
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ですが、私は必死にその心の弾みを抑えました。喜んでしまったら、終わりだと思ったからです。緊張がゆるみ、一瞬だけ喜んでしまいましたが、必死にその気持ちを押し殺しました。
そんな私の葛藤など知らないアイザイア様は、微笑みを深められます。しかし、その口から出たお言葉は、その微笑みが醸し出す優しさとは真逆のお言葉でした。
「……俺はね、このフェリシタル王国の王太子だ。だけどさぁ……この王国って、腐っていると思うんだよ」
アイザイア様は、そんなことをおっしゃって私の手を取られました。この王国が、腐っている? それは一体、どういうことなのでしょうか? わ、私はそんなこと思っていないし、知りません。そもそもそんなこと……思いたくも、ない。
「……この王国はね、腐っているんだよ。だから……モニカだけは、守らないといけないんだ」
アイザイア様が、そうおっしゃって私の手を握る力を強められました。私は、それに対して逃げることも、振り払うことも出来ずにただ立ち尽くすだけ。だって、どうすることも出来ないのです。だって、だって……この王国が腐っているなんて、私は信じたくなかったのです。それに、事実腐っていたとしても私にはどうすることも出来ないんです。私はまだ、王妃じゃない。王太子妃でもない。王太子殿下の婚約者というだけの令嬢なのですから。今はまだ、ただの公爵家の娘。
「……ねぇ、モニカ。……モニカは、何も知らないでいいんだ。純粋で、純白というような色が似合う素敵な女の子のままでいいんだ。だからさ……俺はキミを守ってあげたい。黒に染まってしまわないように、混ざって灰色になってしまわないように。ただ、守ってあげたいだけなんだよ」
「……そ、そんなの……」
「綺麗ごとだって言いたいの? 確かに、王妃としてはそれじゃあダメかもね。でもさ、そんなの関係ないでしょう? キミを守れるのならば、俺はどんなことだってする覚悟だよ。……すべてモニカの為、キミの為だからさ」
にっこりと笑われて、アイザイア様がそんなことをおっしゃる。それを、私はただ立ち尽くしながら茫然と聞くことしか出来ませんでした。だって、それを私におっしゃったとして、どうしろというのですか。ただ俯いて、その意味の分からない言葉、アイザイア様曰く『きれいごと』を聞いていることしか出来ません。
それに、そもそも私は守られるだけなのは嫌なのです。お隣に立って、立派になって、共に歩きたいと思っているのに。なのに、それをアイザイア様は許してくださらない。私のことを、未だに守られるだけの赤子だと思われている。
「……すべてモニカの為だよ。それ以外の理由なんて、必要ないでしょう? 俺はさ、モニカの為を思って行動しているんだ。それは、分かるでしょう?」
私の頬に手を当てられたアイザイア様が、他でもない私に言い聞かせるようにそんなことをおっしゃった。やっぱり、そんなの意味が分からない。……そんなきれいごとだけで、生きていけるとは到底思えない。
「……でも」
納得のできない私に対して、アイザイア様は露骨に一度だけため息をつかれると、その微笑みを一瞬にして消されました。残されたのは、光がないように見える瞳。それが、私はとても怖かった。アイザイア様が正気ではない気が、したから。
そんな私の葛藤など知らないアイザイア様は、微笑みを深められます。しかし、その口から出たお言葉は、その微笑みが醸し出す優しさとは真逆のお言葉でした。
「……俺はね、このフェリシタル王国の王太子だ。だけどさぁ……この王国って、腐っていると思うんだよ」
アイザイア様は、そんなことをおっしゃって私の手を取られました。この王国が、腐っている? それは一体、どういうことなのでしょうか? わ、私はそんなこと思っていないし、知りません。そもそもそんなこと……思いたくも、ない。
「……この王国はね、腐っているんだよ。だから……モニカだけは、守らないといけないんだ」
アイザイア様が、そうおっしゃって私の手を握る力を強められました。私は、それに対して逃げることも、振り払うことも出来ずにただ立ち尽くすだけ。だって、どうすることも出来ないのです。だって、だって……この王国が腐っているなんて、私は信じたくなかったのです。それに、事実腐っていたとしても私にはどうすることも出来ないんです。私はまだ、王妃じゃない。王太子妃でもない。王太子殿下の婚約者というだけの令嬢なのですから。今はまだ、ただの公爵家の娘。
「……ねぇ、モニカ。……モニカは、何も知らないでいいんだ。純粋で、純白というような色が似合う素敵な女の子のままでいいんだ。だからさ……俺はキミを守ってあげたい。黒に染まってしまわないように、混ざって灰色になってしまわないように。ただ、守ってあげたいだけなんだよ」
「……そ、そんなの……」
「綺麗ごとだって言いたいの? 確かに、王妃としてはそれじゃあダメかもね。でもさ、そんなの関係ないでしょう? キミを守れるのならば、俺はどんなことだってする覚悟だよ。……すべてモニカの為、キミの為だからさ」
にっこりと笑われて、アイザイア様がそんなことをおっしゃる。それを、私はただ立ち尽くしながら茫然と聞くことしか出来ませんでした。だって、それを私におっしゃったとして、どうしろというのですか。ただ俯いて、その意味の分からない言葉、アイザイア様曰く『きれいごと』を聞いていることしか出来ません。
それに、そもそも私は守られるだけなのは嫌なのです。お隣に立って、立派になって、共に歩きたいと思っているのに。なのに、それをアイザイア様は許してくださらない。私のことを、未だに守られるだけの赤子だと思われている。
「……すべてモニカの為だよ。それ以外の理由なんて、必要ないでしょう? 俺はさ、モニカの為を思って行動しているんだ。それは、分かるでしょう?」
私の頬に手を当てられたアイザイア様が、他でもない私に言い聞かせるようにそんなことをおっしゃった。やっぱり、そんなの意味が分からない。……そんなきれいごとだけで、生きていけるとは到底思えない。
「……でも」
納得のできない私に対して、アイザイア様は露骨に一度だけため息をつかれると、その微笑みを一瞬にして消されました。残されたのは、光がないように見える瞳。それが、私はとても怖かった。アイザイア様が正気ではない気が、したから。
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