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本編
第10話 『ビエナート侯爵家での夜会』 ①
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「……モニカ。ビエナート侯爵家から招待されている夜会には、参加することにしたのか?」
「はい、お父様」
あの日から数日後。私は王宮を訪ねていらっしゃった私の両親と会っていました。それは、「お妃教育の合間にでも会えないか?」と両親に言われたため、急遽作られた時間。いつも通り許可を得て、中庭を使用し、両親とお茶をしています。世間話から始まり、本題に入る流れもいつもと同じ。
「モニカちゃん、無理していない? 何だったら、断ってもいいのよ?」
私のお母様、ローナ・エストレアはそうおっしゃって私のことを案じてくださいます。お母様は少々心配症であり、私と私の二人の弟のことをとても大切に思ってくださっています。だからこそ、今回参加することになっているビエナート侯爵家での夜会に、私が気乗りしないことも気が付かれていたのでしょう。
「……モニカが行くと言っているのだから、私たちが止める権利はない。……ローナ、お前は少し心配しすぎだ」
私のお父様、ライオネル・エストレアはそうおっしゃって目の前に出されている紅茶を一口飲まれました。黒色の短い髪と、鋭い金色の瞳が与える印象は「怖い」の一択でしょう。ですが、お父様自身はそこまで怖いお方ではなく、普通に家族思いでとてもお優しい人物です。
「……ですが、旦那様もモニカちゃんが心配だかr、本日王宮にやってきたのでしょう?」
「……余計なことは言うな」
お母様はその美しいさらさらとした茶色の髪を風に揺らしながら、お父様にそうおっしゃっていました。
――いつまで経っても、仲が良いな。
両親のそんな様子を眺めながら、私はそんなことを思っていました。そして、子離れ出来ていないな、とも思ってしまいます。
「お父様、お母様。私は大丈夫ですわ。……当日は遅れますが、アイザイア様もいらっしゃってくださるのですから」
だから、私はそう言ってただにっこりと笑いました。
確かに、私だってビエナート侯爵家での夜会に参加するのは気乗りしない。それどころか、出来れば行きたくないぐらいです。名門侯爵家とも名高いビエナート侯爵家で開かれる夜会。その夜会は、私にとって天敵とも呼べるご令嬢と必ず遭遇するという、地獄にも近い夜会だからです。
ビエナート侯爵家には一人の娘がいらっしゃいます。名を、レノーレ・ビエナート様。そのご令嬢は金色の長い髪をしっかりと巻き、ドリルのような髪型をしていらっしゃいます。青色の少々鋭い形の瞳は、人に威圧感を与えます。そんな彼女のことが、私は苦手でした。
レノーレ様は、私が生まれるまでアイザイア様の婚約者候補の筆頭でした。ですが、私が生まれたことによりその座をあっさりと失ってしまったのです。そのことを、幼い頃からご両親に言い聞かせられてきたというレノーレ様は、私を目の敵にし、何かと文句をおっしゃってきます。もちろん、一人ではなく取り巻きの方々を連れて。
「……確かに、気乗りはしません。ですが……いつまでも避けていてはいけませんから」
その言葉は、私の本心でした。悪意を持つ人間と接することも、大切なことなのです。そう、自分自身に言い聞かせます。これは、そう、お妃教育の一環なのです。そうとでも思っていないと、決意が揺らいでしまいそうでしたし。
「……あぁ、それならばいいんだ。……ただ、ビエナート侯爵家には今、数々の黒い噂が浮上している。そこだけは、気を付けておけ」
「……はい」
お父様のそのお言葉に、私は静かに頷きそう返事をしました。黒い噂の内容を、私が知る由もありません。それでも……前々から悪評高い家だったので、黒い噂が今更一つ二つ増えたところでおかしくはない。
そんなことを思った私は、お父様のそのお言葉を深くとらえることはしませんでした。
「……モニカ。ビエナート侯爵家から招待されている夜会には、参加することにしたのか?」
「はい、お父様」
あの日から数日後。私は王宮を訪ねていらっしゃった私の両親と会っていました。それは、「お妃教育の合間にでも会えないか?」と両親に言われたため、急遽作られた時間。いつも通り許可を得て、中庭を使用し、両親とお茶をしています。世間話から始まり、本題に入る流れもいつもと同じ。
「モニカちゃん、無理していない? 何だったら、断ってもいいのよ?」
私のお母様、ローナ・エストレアはそうおっしゃって私のことを案じてくださいます。お母様は少々心配症であり、私と私の二人の弟のことをとても大切に思ってくださっています。だからこそ、今回参加することになっているビエナート侯爵家での夜会に、私が気乗りしないことも気が付かれていたのでしょう。
「……モニカが行くと言っているのだから、私たちが止める権利はない。……ローナ、お前は少し心配しすぎだ」
私のお父様、ライオネル・エストレアはそうおっしゃって目の前に出されている紅茶を一口飲まれました。黒色の短い髪と、鋭い金色の瞳が与える印象は「怖い」の一択でしょう。ですが、お父様自身はそこまで怖いお方ではなく、普通に家族思いでとてもお優しい人物です。
「……ですが、旦那様もモニカちゃんが心配だかr、本日王宮にやってきたのでしょう?」
「……余計なことは言うな」
お母様はその美しいさらさらとした茶色の髪を風に揺らしながら、お父様にそうおっしゃっていました。
――いつまで経っても、仲が良いな。
両親のそんな様子を眺めながら、私はそんなことを思っていました。そして、子離れ出来ていないな、とも思ってしまいます。
「お父様、お母様。私は大丈夫ですわ。……当日は遅れますが、アイザイア様もいらっしゃってくださるのですから」
だから、私はそう言ってただにっこりと笑いました。
確かに、私だってビエナート侯爵家での夜会に参加するのは気乗りしない。それどころか、出来れば行きたくないぐらいです。名門侯爵家とも名高いビエナート侯爵家で開かれる夜会。その夜会は、私にとって天敵とも呼べるご令嬢と必ず遭遇するという、地獄にも近い夜会だからです。
ビエナート侯爵家には一人の娘がいらっしゃいます。名を、レノーレ・ビエナート様。そのご令嬢は金色の長い髪をしっかりと巻き、ドリルのような髪型をしていらっしゃいます。青色の少々鋭い形の瞳は、人に威圧感を与えます。そんな彼女のことが、私は苦手でした。
レノーレ様は、私が生まれるまでアイザイア様の婚約者候補の筆頭でした。ですが、私が生まれたことによりその座をあっさりと失ってしまったのです。そのことを、幼い頃からご両親に言い聞かせられてきたというレノーレ様は、私を目の敵にし、何かと文句をおっしゃってきます。もちろん、一人ではなく取り巻きの方々を連れて。
「……確かに、気乗りはしません。ですが……いつまでも避けていてはいけませんから」
その言葉は、私の本心でした。悪意を持つ人間と接することも、大切なことなのです。そう、自分自身に言い聞かせます。これは、そう、お妃教育の一環なのです。そうとでも思っていないと、決意が揺らいでしまいそうでしたし。
「……あぁ、それならばいいんだ。……ただ、ビエナート侯爵家には今、数々の黒い噂が浮上している。そこだけは、気を付けておけ」
「……はい」
お父様のそのお言葉に、私は静かに頷きそう返事をしました。黒い噂の内容を、私が知る由もありません。それでも……前々から悪評高い家だったので、黒い噂が今更一つ二つ増えたところでおかしくはない。
そんなことを思った私は、お父様のそのお言葉を深くとらえることはしませんでした。
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