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本編 第2話
02.
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主食である日持ちするパンは数種類ある。また、副菜であろう肉と野菜を煮込んだスープも三種類。あとは乳製品のヨーグルト。朝食としてはまさに理想的なメニューだ。……種類が多いのは、この際置いておくとして。
(全部、美味しそうだわ……)
そう思いつつ、アルティングルはパンを手に取る。そのままヨーグルトにくぐらせて口に運んだ。
「……美味しい」
ナウファルで食べていたものと種類は似ている。が、決定的に味が違う。
あちらは貧しいこともあり、基本的には薄味だった。しかし、ここで出てくる食事は味付けがしっかりしており、するすると胃袋に収まっていくような感覚だ。
「お口に合ったようで、よろしゅうございました」
女性にそう声をかけられて、アルティングルは「とっても美味しいわ」と素直に感想を述べる。
その際に笑みを浮かべれば、女性が露骨に驚いたような表情を作る。……もしかして、醜かったのだろうか?
「……ごめんなさい、不快だったかしら?」
少し困ったように眉を下げれば、彼女はゆるゆると首を横に振る。
「いえ、私たちのような侍女に笑いかける者は、あまりおりませんので……」
肩をすくめた彼女が、そう呟く。その言葉を聞いて、アルティングルは素直に驚く。でも、ある意味納得でもあった。
(そもそも、大国なのだものね。使用人と主の距離が開いていても、おかしくはないわ……)
まぁ、ナウファルでも似たような感じだったが。
心の中だけでそう付け足して、アルティングルはスープを口に運ぶ。とろみのついたスープは、大層美味だ。スープの中に入った肉類はよく煮込まれていて、とろけていく。野菜の類も同様。ただ、野菜本来の味をよく活かしていると思った。
三種類のスープは、全て味付けが違った。そのどれもが美味しくて、アルティングルはぺろりと平らげてしまう。
……さすがに、パンをすべて平らげることはできなかったが。
「ごちそうさまでした。とても、美味しかったわ」
最後に女性にそう声をかければ、彼女は深々と頭を下げる。
そして、流れ作業のように食器を片付けていく。その際に多数の女性が退出し、残ったのは二名の若い者だけだ。
「……ねぇ」
いくら待っても彼女たちがなにも言ってくれないので、アルティングルは自ら声をかける。そうすれば、一人が「はい」と返事をしてくれる。……なんだか、素っ気ない……というか。
(一線を、引かれているわね……)
そりゃあ、いわば主と使用人なのだから当然だ。……けれど。アルティングルは、彼女たちと親しくなりたかった。
少しでも、楽しい日々を過ごしたいのだ。
「その、この後宮でのマナーとか、教えてくれないかしら……?」
とりあえず、当たり障りのないことを言ってみよう。
その一心でそう問いかければ、女性の一人が「かしこまりました」と言って頭を下げる。
「まぁ、マナーもなにも、特別重要視することはありませんけれどね」
「……そう、なの?」
ぼそりと呟かれた言葉に、アルティングルは目を見開く。
「えぇ、そもそも、小国の皇女ごときがいられる場所ではないのですから」
「……あ」
彼女のその言葉に、アルティングルは悟った。
――自分は、嫌われているのだと。
(まぁ、当然と言えば、当然よね。だって、私は本当に小国の皇女だもの……)
第一皇女とかならばまだしも、自分は第七皇女だ。それに、出自が出自である。彼女たちは知らないであろうが、アルティングルからすれば、それも立派な理由のように思えた。
「そもそも、私たちのような名家の娘が後宮に入れないのに、あなたみたいな小国の皇女が入れるなんて、おかしいじゃない」
何処か八つ当たりのような声音だった。悪意と憎悪がふんだんに込められた声に、アルティングルは自然と身を縮める。
「ねぇ、なにしたの? 大臣にでも色仕掛けしたの?」
「そ、そんなことは……」
「そういえば、あなた、王妃殿下の勧めで入ったのですってね。……どういう風に王妃殿下を誑かしたのかしら?」
にやにやと笑った彼女たちが、ほんの少し恐ろしく感じる。
「まぁ、どうでもいいわ。……どうせ、あんたみたいな小娘が陛下の寵愛を得られるとは思えないしね。……大人しく国に帰ったらいかが?」
でも、それだけには頷けない。その一心で、アルティングルは手のひらをぎゅっと握りしめた。そのまま、顔を上げる。
「たとえ、寵愛が得られなくても。私は、ここにいなければならないのです」
凛とした強い声で、そう言い返す。……彼女が、怯んだように息を呑んだのがわかった。
「言っておきますが、私はどんなに嫌味を言われても、帰国することはないでしょう」
「な、なによ! 私たちが世話をしなきゃ、なにも出来ないような小娘でしょうに……!」
確かに、世間一般的に見ればそれは正しいのだろう。生憎、アルティングルが違うだけであって。
「大体、私たちはあなたの世話を自主的にしているのよ? 感謝されることはあれど、恨まれるのは筋違いだわ……!」
「そうよ。専属侍女の一人も連れてこれないような女のくせに……!」
どうやら、彼女たちは何処までもアルティングルを敵視しているようだ。
これに近い人間たちを、アルティングルは知っている。……自身の、異母姉たちだ。
(全部、美味しそうだわ……)
そう思いつつ、アルティングルはパンを手に取る。そのままヨーグルトにくぐらせて口に運んだ。
「……美味しい」
ナウファルで食べていたものと種類は似ている。が、決定的に味が違う。
あちらは貧しいこともあり、基本的には薄味だった。しかし、ここで出てくる食事は味付けがしっかりしており、するすると胃袋に収まっていくような感覚だ。
「お口に合ったようで、よろしゅうございました」
女性にそう声をかけられて、アルティングルは「とっても美味しいわ」と素直に感想を述べる。
その際に笑みを浮かべれば、女性が露骨に驚いたような表情を作る。……もしかして、醜かったのだろうか?
「……ごめんなさい、不快だったかしら?」
少し困ったように眉を下げれば、彼女はゆるゆると首を横に振る。
「いえ、私たちのような侍女に笑いかける者は、あまりおりませんので……」
肩をすくめた彼女が、そう呟く。その言葉を聞いて、アルティングルは素直に驚く。でも、ある意味納得でもあった。
(そもそも、大国なのだものね。使用人と主の距離が開いていても、おかしくはないわ……)
まぁ、ナウファルでも似たような感じだったが。
心の中だけでそう付け足して、アルティングルはスープを口に運ぶ。とろみのついたスープは、大層美味だ。スープの中に入った肉類はよく煮込まれていて、とろけていく。野菜の類も同様。ただ、野菜本来の味をよく活かしていると思った。
三種類のスープは、全て味付けが違った。そのどれもが美味しくて、アルティングルはぺろりと平らげてしまう。
……さすがに、パンをすべて平らげることはできなかったが。
「ごちそうさまでした。とても、美味しかったわ」
最後に女性にそう声をかければ、彼女は深々と頭を下げる。
そして、流れ作業のように食器を片付けていく。その際に多数の女性が退出し、残ったのは二名の若い者だけだ。
「……ねぇ」
いくら待っても彼女たちがなにも言ってくれないので、アルティングルは自ら声をかける。そうすれば、一人が「はい」と返事をしてくれる。……なんだか、素っ気ない……というか。
(一線を、引かれているわね……)
そりゃあ、いわば主と使用人なのだから当然だ。……けれど。アルティングルは、彼女たちと親しくなりたかった。
少しでも、楽しい日々を過ごしたいのだ。
「その、この後宮でのマナーとか、教えてくれないかしら……?」
とりあえず、当たり障りのないことを言ってみよう。
その一心でそう問いかければ、女性の一人が「かしこまりました」と言って頭を下げる。
「まぁ、マナーもなにも、特別重要視することはありませんけれどね」
「……そう、なの?」
ぼそりと呟かれた言葉に、アルティングルは目を見開く。
「えぇ、そもそも、小国の皇女ごときがいられる場所ではないのですから」
「……あ」
彼女のその言葉に、アルティングルは悟った。
――自分は、嫌われているのだと。
(まぁ、当然と言えば、当然よね。だって、私は本当に小国の皇女だもの……)
第一皇女とかならばまだしも、自分は第七皇女だ。それに、出自が出自である。彼女たちは知らないであろうが、アルティングルからすれば、それも立派な理由のように思えた。
「そもそも、私たちのような名家の娘が後宮に入れないのに、あなたみたいな小国の皇女が入れるなんて、おかしいじゃない」
何処か八つ当たりのような声音だった。悪意と憎悪がふんだんに込められた声に、アルティングルは自然と身を縮める。
「ねぇ、なにしたの? 大臣にでも色仕掛けしたの?」
「そ、そんなことは……」
「そういえば、あなた、王妃殿下の勧めで入ったのですってね。……どういう風に王妃殿下を誑かしたのかしら?」
にやにやと笑った彼女たちが、ほんの少し恐ろしく感じる。
「まぁ、どうでもいいわ。……どうせ、あんたみたいな小娘が陛下の寵愛を得られるとは思えないしね。……大人しく国に帰ったらいかが?」
でも、それだけには頷けない。その一心で、アルティングルは手のひらをぎゅっと握りしめた。そのまま、顔を上げる。
「たとえ、寵愛が得られなくても。私は、ここにいなければならないのです」
凛とした強い声で、そう言い返す。……彼女が、怯んだように息を呑んだのがわかった。
「言っておきますが、私はどんなに嫌味を言われても、帰国することはないでしょう」
「な、なによ! 私たちが世話をしなきゃ、なにも出来ないような小娘でしょうに……!」
確かに、世間一般的に見ればそれは正しいのだろう。生憎、アルティングルが違うだけであって。
「大体、私たちはあなたの世話を自主的にしているのよ? 感謝されることはあれど、恨まれるのは筋違いだわ……!」
「そうよ。専属侍女の一人も連れてこれないような女のくせに……!」
どうやら、彼女たちは何処までもアルティングルを敵視しているようだ。
これに近い人間たちを、アルティングルは知っている。……自身の、異母姉たちだ。
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