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日常編
お約束はお大事に!(前編)
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二人が買い物をする話です。
アダルト描写は軽いキスとハグのみとなっております。
今回は「いちゃいちゃしながら買い物をしている二人をスパイカメラで観察する」というイメージで書きました。
なので、話にめりはりがなくて、いちゃいちゃと買い物がず~~~~っと続いていくだけなので、読んでいるとダルいというかクドく感じてしまうかもしれません!
よろしくです~!
前後編で公開します。
「テオドール様……。一体、どうなさるおつもりですか?」
「え? 何のこと??」
真剣な面持ちで問いかけてくる、侍従のエヴァン。
僕は何のことだか分からなくて、間の抜けた返事をしてしまった。
今日は、晩餐会の予定が一つだけ入っているのみ。
夕方までは自由なので、昼食後の優雅な時間を、読書でもして過ごそうかと考えていたところだった。
「ラオネスの街を散策なさる件ですよ。テオドール様は……どなたとお約束をしていらっしゃいますか?」
「えっと、兄上が案内してくれるっていう話で……」
先日、兄に誘われて約束をしたばかりだ。
露店の食べ物も口にできるということで、楽しみにしていた。
「ええ。クロード様はご予定を調整して、散策の計画を進めておいでです」
「そうなんだ! 嬉しいな」
率直な気持ちを口にすると、エヴァンは榛色の目をすっと細めた。
「そのご様子だと、お忘れでいらっしゃいますね? 散策のお約束は、テュレンヌ卿ともなさっていますよ」
「ん……? ああっ!!!!!」
僕は、自室のソファから飛び上がらんばかりに声をあげた。
そうだった!!!!!
兄から散策に誘われて喜んでいたが、それよりも前。
ガディオ伯爵の犯罪行為にフレデリクが怒っていた時に、僕から言いだしていた。
王都の城下町に行った時と同じように、また二人で出かけようね、と……。
「ど、どうしよう……エヴァン……っ」
僕は困惑に満ちた目で、侍従を見上げた。
「このまま兄上と散策したら……フレデリクに対して、角が立っちゃうよね」
「そうですね……。御兄弟での散策時に、テュレンヌ卿は随行されるでしょうし」
「ああ……」
僕と兄が楽しくラオネスの街を歩く、その後ろ。
約束を破られたフレデリクが、静かに護衛をしているのを想像しただけで、罪深さに背筋が冷たくなってくる。
ううっ……何て迂闊なんだ、僕はっ!!
兄と恋人をダブルブッキングだなんて、無神経にもほどがある。
「ですが、状況からすると、クロード様と散策なさるのが自然でしょう」
「うん……。もう準備が進んでるみたいだし、領主に街を案内してもらうのが自然だよね……」
でも――
僕は瞼を伏せて俯いたまま、固まってしまった。
どうしよう……。
兄上と行った後に、フレッドとも行けば……。
いや。兄上との約束を優先させた時点で、何をしようがフレッドに失礼な気がする。
ああああああああっ……!
僕ってほんと……頭が弱すぎるっ。
「クロード様から散策のお誘いがあったと……私からテュレンヌ卿にお伝えしておきましょうか」
それなら、角は立ちづらいと思うけど……。
「……僕がちゃんと話して、素直に謝るよ。二重に約束しちゃったのは、僕なんだし」
「本当によろしいのですか?」
「うん。フレデリクが帰ってきたら、すぐに話すよ」
フレデリクは、今晩この館で開催される晩餐会の警備指導に行っていて、もうすぐ帰ってくるはずだ。
うう……。
一緒に街を見るのを楽しみにしてくれてただろうに……申し訳ないな……。
思いきりしょげていると、静かに思考に沈んでいたエヴァンが、そっと口を開いた。
「……街の散策はクロード様と……ということになりますが。それとは別に、テュレンヌ卿とお二人でお買い物をしていただく場は、ご用意することが可能ですよ。クロード様とお出かけになる前に、テュレンヌ卿とお買い物をなされば、少々形は変われど、お約束を違えてしまったことにはならないと思います」
「そんなこと、できるの……?」
エヴァンは微笑みながら頷いた。
「私にお任せください。ですから、テュレンヌ卿への謝罪は、お待ちいただけますか?」
「……分かったよ。すぐに謝らない方がいいの?」
「ええ。その方が楽しんでいただけるかと」
どういうことだろう……?
謝らない方が……楽しめる……??
疑問符ばかりの僕を前に、エヴァンは何やら頼もしい表情を浮かべた。
それから約一週間後の昼過ぎ。
僕とフレデリクは、領主館の廊下をそろって歩いていた。
「テオドール様……」
「ん?」
僕を見下ろしてくるアクアマリンの瞳に戸惑いが見てとれて、つい口元が緩みそうになる。
「今日の午後は、何もご予定はなかったと思うのですが。どちらに向かっていらっしゃるのですか?」
「知りたい?」
僕は、いたずらっぽい声音で返してみた。
何も言わずに自室から移動を始めたので、フレデリクは不思議で仕方がないはずだ。
……エヴァンのおかげで、フレッドへのサプライズが順調に進んでいるっ!
「今日はね~内緒の予定が入ってるんだよ」
「内緒……ですか?」
「そうですっ!」
戸惑い気味の騎士に笑顔を向けながら、廊下をずんずんと進んでいく。
今にもスキップをしてしまいそうなほどの、軽い足取りだ。
「ちょっとだけ話すとね……僕たちはこの館の、とある部屋に向かっております!」
「どなたかとお会いになるのですか?」
「会いはするけど……謁見の類じゃないよ」
惑わせるような僕の言葉に、フレデリクが小さく笑う。
「謎が深まる一方ですね」
「ふふっ。すぐに謎はとけるから」
並んで階段をおりて左側の廊下に足を向けると、目的地はすぐだ。
「エヴァン! お待たせっ」
多目的に使われる少し広い部屋の前に、侍従が立っている。
声をかけると、榛色の目が優しく細められた。
「もう準備は整っておりますよ」
「本当? じゃあ、もう入っていい?」
「はい。どうぞ、お二人で楽しまれてください」
僕たちの会話を聞いているフレデリクの周りには、疑問符がいっぱい見える。
サプライズは最終段階っ!
フレッド、喜んでくれるかなぁ……?
エヴァンがゆっくりと扉を開ける。
部屋の中に一歩踏み込むと、華やかな空間が僕たちを迎えた。
「第三王子殿下。本日は、ご用命いただきまして、誠にありがとうございます」
部屋の中央辺りに、三人の男女が立っている。
その真ん中にいるのは、ソレル商会ラオネス支店長リヴィオ・ソレル。
彼の挨拶と共に、三人が深く頭を下げた。
両サイドにいる人たちは、きっとソレル商会の従業員だろう。
「リヴィオさんっ! こちらこそ、僕の要望に沢山応えてくださって!」
僕は室内をぐるりと眺めた。
ソファやチェストといった調度品が一切置かれていない部屋の中。
溢れんばかりに、あらゆる商品が並んでいた。
目を引く多彩な服や装飾品に、上品なデザインの食器。
そして、息を飲むほどの輝きを放つ、数多の宝石たち。
目をみはる魅惑の品々が、キラキラと大迫力で視界を埋め尽くす。
「わぁ~! すごいですねっ。どれもこれも素晴らしいものなのが、一目で分かりますよ!!」
興奮気味に話す僕に、リヴィオが嬉しそうに微笑んだ。
「ありがたいお言葉を賜りまして、恐悦至極に存じます。殿下にご満足いただけるように、私どもの総力をあげて商品を取り揃えました。高名な職人の一品ものや、異国の珍しいものなど、希少な品も数多く置いておりますので、どうぞ心行くまでご覧になってくださいね」
「こんなに素敵なものが沢山あると、どれも欲しくなっちゃいますね」
「お気に召したものがございましたら、是非ともよろしくお願いいたします」
僕は勢いよく頷くと、隣にいるフレデリクを見上げた。
「今日はね、リヴィオさんに外商をお願いしたんだよ。驚いた?」
「ええ。素晴らしい品々に圧倒されました。どうして、私に教えてくださらなかったのですか?」
「フレデリクと一緒に楽しみたいなって思って計画したんだ。秘密にしたら、より喜んでくれるかなって」
うかがうような視線を向けると、白皙の美貌が優しくほころんだ。
「驚きと喜びで胸が高鳴っております」
「本当? よかったぁ! リヴィオさんには、わがままなお願いを全部聞いてもらったから、贅沢な時間が楽しめるよ」
「ご要望は多い方が、商人として心が沸き立ちますので。大歓迎ですよ」
笑みを深めたリヴィオ支店長はそう言って、背後の輝く商品たちに目を向けた。
「それでは、早速ではございますが、お品のご説明をさせていただきますね」
「よろしくお願いします!」
うう~!!
わくわくするっ!!
気持ちが高揚して、フレデリクにぎゅっと抱きつきそうになる。
その衝動をぐっとこらえて、リヴィオの背を追った。
「まず、こちらはお召し物でございます。御二方の魅力を引き立てるような意匠の品を、多数ご用意しております。布地も取り揃えてございますので、お好きな色でお仕立てすることもできます」
「どれも素敵ですね!!」
きらびやかな服や装飾品の中で視線を巡らせていると、リヴィオが分かりやすく織物の説明をしてくれた。
遠い異国の伝統的な絹織物なんかもあって、文化財かな? と言いたくなるほどだ。
「そして、隣が食器でございます。ご要望をいただきましたティーカップを中心に、良質なものを並べております」
「きれいなものが沢山っ。今日はお揃いで二客買いたくて」
「はい。どれも一対でお買い求めいただけるものばかりですよ」
支店長は優しく黒曜の目を細めて、ティーカップの窯元について話し始めた。
いわずもがな、一流の職人による品しかなくて、感激するばかりだった。
世界に一つしかない高級な食器を、僕なんかが使っていいのだろうか。
「最後に……こちらが宝飾品でございます。ブローチや指輪、カフスボタン等を置いております。裸石をお選びいただいて、装飾品への加工も可能でございますので。宝石はエメラルドとアクアマリンを中心に。特にアクアマリンは、土地柄もあり取り扱いが多いので、豊富な品ぞろえとなっております」
「土地柄? ラオネスではアクアマリンが人気なんですか?」
「ええ。正確には、湾岸の地域で、と申し上げた方がよいかもしれません。昔から、アクアマリンは海の守護石と呼ばれていて、漁師や船乗りの間では、豊漁や航海の安全を願うお守りとして大切にされてきました。ただの言い伝えと言えばそれまでですが、身につけて航海に出る海の男は多いのですよ」
「へぇ~! 初めて知りました! ラオネスでは、アクアマリンは縁起物なんですね」
「人魚が人間に恋をして流した涙がアクアマリンになった、という伝説もありますよ」
「うう……切ないっ!」
思わず胸に手を当てると、皆が穏やかに笑った。
「これだけの品を準備するだけでも、とても大変だったと思います。ソレル商会さんには、お世話になってばかりですね」
「私どもこそ、殿下には筆舌に尽くしがたいご愛顧をいただいております。本日も、商人として意気揚々とご準備させていただきました。皆で夢中になっておりましたので、手間など感じておりませんよ」
支店長の言葉に、従業員の二人が笑顔で頷く。
どちらも人好きのする笑顔だ。
ソレル商会の人達は、みんな笑顔が素敵だなぁ。
「それでは、ごゆるりとお楽しみください。何がご不明な点がございましたら、そちらのベルでお呼びいただければ、私がすぐに参りますので」
「分かりました。ありがとうございます!」
リヴィオたちは深く頭を下げると、静々と部屋を後にしていった。
エヴァンも一緒に退出したので、部屋には僕とフレデリクの二人きり。
「フレッド~~~」
僕はさっそく恋人に抱きついた。
「まさか、外商を頼んでいるとは思わなかったから、部屋に入った時には本当に驚いた」
「でしょ~? 二人でのんびりと買い物を楽しみたくて」
「対のカップまであって、嬉しいよ」
「僕たちの買い物だからね!」
そう言いながら、澄んだ光をたたえているアクアマリンの瞳を見上げた。
……楽しくてわくわくする買い物を始める前に。
きちんと話しておかないといけないことがある。
「あのね、買い物を始める前に……フレッドに謝らないといけないことがあるんだ……」
サプライズをするために延期していた、ダブルブッキングに対する謝罪。
これを有耶無耶にするわけにはいかない。
「テオから謝罪を受けることは、何もないと思うが」
「あるよ……。前にね、ラオネスの街を一緒に散策しようって約束したでしょ?」
「ああ。騒動が解決する前だったな」
「うん。僕ね、フレッドと約束してたのに、兄上とも約束しちゃってたんだ」
「……俺との約束を忘れてたってことか?」
「う……えっと、その通りです……」
そうだ。僕は大好きな人との約束を忘れていたダメ王子だ。
恋人の目を見ていられず、僕はうなだれた。
「ごめんなさい。不誠実なことをしてしまって……。兄上は、僕と出かける予定を、すでに組んでくれてて……」
「……テオ。顔を上げてくれ」
「…………」
ためいがちに顔を上げると、白皙の美貌が静かに僕を見下ろしている。
「クロード様が、テオと出かけようとしてるのは知っていた」
「え?」
「警備の相談があったからな」
「……じゃあ、僕が約束を二重にしてたのを分かってたの?」
「領主のクロード様が、テオを案内したいと考えるのは当然だからな。テオが不誠実とは思わないさ」
「でも……僕がどっちにもいい顔しちゃったのは事実だし……」
しゅんとする僕の頭を、大きな手がゆっくりと撫でる。
「そんなに落ち込まなくても――」
「だって……」
フレデリクは気づかわし気に微笑みながら、僕をそっと抱きよせた。
「なら、ごめんねのキスをしてくれないか? それで、この件はなしにしよう。な?」
「……この間みたいに?」
「そうだな。この間みたいに」
恋人の甘い視線が唇に落ちてくる。
僕はドキドキしながら、その視線に応えた。
「フレッド……ごめんね……」
つま先立ちをすると、しっかりと抱き支えられて、アクアマリンの目が柔らかく細められる。
瞼を閉じながら愛する人へ静かに口づければ、温かい唇の感触に、心が瞬く間に奪われていった。
「……テオ……」
ゆっくりと角度を変えて、何度も何度も優しく啄み合う。
互いの吐息が混ざり、唇を愛撫して溶けていく。
「ぁ……ん……」
心地よい交わりに、頭の中から色々なものが抜け落ちていって……。
心をとろかせてフレデリクの唇に夢中になっていると、チュっと可愛らしく啄まれて唇が離れた。
「……テオのごめんねは長いな」
「あっ……うう……フレッドとのキス、好きだから……長くなっちゃう……」
ごめんねのキスなのに、つい恋人の唇に酔っていた僕。
フレデリクは嬉しそうに口角を上げた。
「かわいい……」
「わっ……フ、フレッド……っ」
顔中に口づけられて、僕はくすぐったくて笑ってしまう。
「二人きりだと、買い物をしながらキスができていいな」
「ふふっ。キスばっかりしてると、買い物できないよ」
「俺が一番欲しいのはテオだ」
「……僕の全てはフレッドのものだよ?」
「もっと欲しい……」
燃えるような恋情を秘めたアクアマリンの瞳に一心に見つめられて、僕は頬を熱くする。
「欲張りな騎士様だね」
僕はフレデリクの唇の端に口づけると、逞しい腕を引っ張って、ソレル商会渾身の商品に改めて目をやった。
「僕はいつでも手に入るから。今日はこっち! ほら、服から見よう!」
僕たちは、きらびやかな服の前に立った。
「全部きれいだねぇ~。こっちにあるのはフレッド向けの服かな? リヴィオさんが選んでくれたって言ってたね」
銀髪碧眼の美丈夫に似合う、色鮮やかな一揃えが並んでいる。
購入後は、体に合わせて仕立て直してくれるのだろう。
布地だと一から作ってもらえるみたいだし。今更だけど、ものすごく贅沢だな……。
さすがは王子の外商!
なんて、他人事のように思っていると、フレデリクが真剣に僕の服を眺めはじめた。
「フレッドの服はこっちだよ」
「自分のものより、テオの服を選びたい」
はっきりと断言されて、僕は苦笑してしまった。
フレデリクは、自分が身につけるもの対しては割と無頓着だ。
気心地重視で、数がそろっていれば文句はないというタイプ。
普段は、テュレンヌ家ご用達の仕立て屋にお任せしているのだろう。
まぁ、僕もこだわりはないし。
いつも針子さんにお任せだから、同じようなものなんだけど。
「テオには、これがよく似合いそうだ」
しばらく服とにらめっこした後に、フレデリクが選び抜いたのは、ワインレッドの一揃えだった。
深みのある赤地に、金糸で鳥獣模様の刺繍が大胆にほどこされている。
非常に華やかで美しい一品だが、僕には気になることがあった。
……圧倒的なフリルやレース飾りだ。
上着がタイトな作りになっていて、シャツの飾りを最大限に魅せている。
胸元のジャボタイは非常にボリューミーで、その下にはたっぷりのフリル。
袖口には、細やかなレース飾りがこれでもかと重ねられていて。
豪華な人形だって、ここまでのものは着ないだろうという勢いだった。
「フレッド……」
僕はフリフリの服から、恋人に視線を移した。
「こんなにヒラヒラした服を着た男の人、社交界で見たことある?」
「こんなに可愛い服は、テオにしか似合わない」
質問に答えてませんがっ!
フレデリクの好みは非常にシンプルである。
華美な装飾はいらない。良質であればいい。
身の回りの持ち物も、一貫してそんな感じだ。
だけど、僕の服に関してだけは、その真逆。
人形や子供向けのような可憐なデザインの服を僕が着ると、フレデリクはとても喜ぶ。
フリフリでヒラヒラな第三王子を熱く支持しているのだ。
だから、こういった服をすすめてくるのは分かる。
分かるけど……っ!
「でも、さすがにここまでのは……」
「テオは可愛くて華やかな服がよく似合う。リヴィオ殿だってそう思っているから、これを手配したんだろう」
「そ、そうかなぁ……本当に似合う?」
「ああ。盛りすぎに見えるレース飾りも、テオが着れば、目をみはるほどに魅力的になる。テオの愛らしさや無垢な美しさを最大限に引き出すんだ。正直に言うと、俺の前でしか着て欲しくない。テオの可愛らしさは、いつだって俺だけのものにしておきたいから」
ひゃああああああああああっ!!!!!
僕は熱くなった頬を両手で押さえた。
「フ、フレッド……褒めすぎだよ」
服が似合うかじゃなくて、僕への甘い言葉になってるし……!
「思ってることを、素直に言っただけだ。嫌だったか?」
「嫌じゃないよ。嬉しい……」
「なら、この服を選んでくれないか? これを着たテオを夜会でエスコートしたい。皆がテオに見惚れるのは気に食わないが、俺の主君は世界一美しい王子なんだと自慢するんだ。そして、散々見せびらかした後に、ベッドの上でこの服を脱がせて……テオの体を独り占めにする。そこまでが、俺の望みだ」
わあああああああああああっ!!!!!
二人で買い物って、わくわくするだけじゃなくて、こんなにドキドキするの……!?
まだ始まったばかりなのに、心臓が高鳴りすぎて……ううっ……!
「耳まで紅くなってる。本当にかわいい……」
耳たぶを愛おしげに撫でられて、僕の恋心は早々に限界を迎えた。
「フレッドはずるいよっ」
僕は火照った顔を、目の前の分厚い胸に擦りつけた。
「僕のこと、いつもドキドキさせて……」
「それはテオの方だろ?」
「フレッドの方ですっ」
そう言って、ぎゅうぎゅうと強く抱きつくと、フレデリクは優しく笑った。
「……俺の望み、叶えてくれるか?」
「……うん……」
僕はいまだに熱い顔を上げて、白皙の美貌を見つめた。
「その代わり、フレッドの服は僕に選ばせてね」
「もちろん、脱がせてくれるんだよな?」
アクアマリンの瞳が、いたずらっぽく輝く。
「そっ、れは……ま、前向きに……検討し、ますっ」
しどろもどろになって答えると、声を出して笑われてしまった。
「もうっ。すぐ、僕のことをからかうんだからっ」
後半もこんな風にいちゃいちゃと買い物をしています。
二人の絆が深まるにつれ、フレデリクは嫉妬深くなっていて、テオドールは甘えん坊になっています。
ちょっと感情が動くたびに、フレデリクに抱きつくテオドールが可愛いですね!
アダルト描写は軽いキスとハグのみとなっております。
今回は「いちゃいちゃしながら買い物をしている二人をスパイカメラで観察する」というイメージで書きました。
なので、話にめりはりがなくて、いちゃいちゃと買い物がず~~~~っと続いていくだけなので、読んでいるとダルいというかクドく感じてしまうかもしれません!
よろしくです~!
前後編で公開します。
「テオドール様……。一体、どうなさるおつもりですか?」
「え? 何のこと??」
真剣な面持ちで問いかけてくる、侍従のエヴァン。
僕は何のことだか分からなくて、間の抜けた返事をしてしまった。
今日は、晩餐会の予定が一つだけ入っているのみ。
夕方までは自由なので、昼食後の優雅な時間を、読書でもして過ごそうかと考えていたところだった。
「ラオネスの街を散策なさる件ですよ。テオドール様は……どなたとお約束をしていらっしゃいますか?」
「えっと、兄上が案内してくれるっていう話で……」
先日、兄に誘われて約束をしたばかりだ。
露店の食べ物も口にできるということで、楽しみにしていた。
「ええ。クロード様はご予定を調整して、散策の計画を進めておいでです」
「そうなんだ! 嬉しいな」
率直な気持ちを口にすると、エヴァンは榛色の目をすっと細めた。
「そのご様子だと、お忘れでいらっしゃいますね? 散策のお約束は、テュレンヌ卿ともなさっていますよ」
「ん……? ああっ!!!!!」
僕は、自室のソファから飛び上がらんばかりに声をあげた。
そうだった!!!!!
兄から散策に誘われて喜んでいたが、それよりも前。
ガディオ伯爵の犯罪行為にフレデリクが怒っていた時に、僕から言いだしていた。
王都の城下町に行った時と同じように、また二人で出かけようね、と……。
「ど、どうしよう……エヴァン……っ」
僕は困惑に満ちた目で、侍従を見上げた。
「このまま兄上と散策したら……フレデリクに対して、角が立っちゃうよね」
「そうですね……。御兄弟での散策時に、テュレンヌ卿は随行されるでしょうし」
「ああ……」
僕と兄が楽しくラオネスの街を歩く、その後ろ。
約束を破られたフレデリクが、静かに護衛をしているのを想像しただけで、罪深さに背筋が冷たくなってくる。
ううっ……何て迂闊なんだ、僕はっ!!
兄と恋人をダブルブッキングだなんて、無神経にもほどがある。
「ですが、状況からすると、クロード様と散策なさるのが自然でしょう」
「うん……。もう準備が進んでるみたいだし、領主に街を案内してもらうのが自然だよね……」
でも――
僕は瞼を伏せて俯いたまま、固まってしまった。
どうしよう……。
兄上と行った後に、フレッドとも行けば……。
いや。兄上との約束を優先させた時点で、何をしようがフレッドに失礼な気がする。
ああああああああっ……!
僕ってほんと……頭が弱すぎるっ。
「クロード様から散策のお誘いがあったと……私からテュレンヌ卿にお伝えしておきましょうか」
それなら、角は立ちづらいと思うけど……。
「……僕がちゃんと話して、素直に謝るよ。二重に約束しちゃったのは、僕なんだし」
「本当によろしいのですか?」
「うん。フレデリクが帰ってきたら、すぐに話すよ」
フレデリクは、今晩この館で開催される晩餐会の警備指導に行っていて、もうすぐ帰ってくるはずだ。
うう……。
一緒に街を見るのを楽しみにしてくれてただろうに……申し訳ないな……。
思いきりしょげていると、静かに思考に沈んでいたエヴァンが、そっと口を開いた。
「……街の散策はクロード様と……ということになりますが。それとは別に、テュレンヌ卿とお二人でお買い物をしていただく場は、ご用意することが可能ですよ。クロード様とお出かけになる前に、テュレンヌ卿とお買い物をなされば、少々形は変われど、お約束を違えてしまったことにはならないと思います」
「そんなこと、できるの……?」
エヴァンは微笑みながら頷いた。
「私にお任せください。ですから、テュレンヌ卿への謝罪は、お待ちいただけますか?」
「……分かったよ。すぐに謝らない方がいいの?」
「ええ。その方が楽しんでいただけるかと」
どういうことだろう……?
謝らない方が……楽しめる……??
疑問符ばかりの僕を前に、エヴァンは何やら頼もしい表情を浮かべた。
それから約一週間後の昼過ぎ。
僕とフレデリクは、領主館の廊下をそろって歩いていた。
「テオドール様……」
「ん?」
僕を見下ろしてくるアクアマリンの瞳に戸惑いが見てとれて、つい口元が緩みそうになる。
「今日の午後は、何もご予定はなかったと思うのですが。どちらに向かっていらっしゃるのですか?」
「知りたい?」
僕は、いたずらっぽい声音で返してみた。
何も言わずに自室から移動を始めたので、フレデリクは不思議で仕方がないはずだ。
……エヴァンのおかげで、フレッドへのサプライズが順調に進んでいるっ!
「今日はね~内緒の予定が入ってるんだよ」
「内緒……ですか?」
「そうですっ!」
戸惑い気味の騎士に笑顔を向けながら、廊下をずんずんと進んでいく。
今にもスキップをしてしまいそうなほどの、軽い足取りだ。
「ちょっとだけ話すとね……僕たちはこの館の、とある部屋に向かっております!」
「どなたかとお会いになるのですか?」
「会いはするけど……謁見の類じゃないよ」
惑わせるような僕の言葉に、フレデリクが小さく笑う。
「謎が深まる一方ですね」
「ふふっ。すぐに謎はとけるから」
並んで階段をおりて左側の廊下に足を向けると、目的地はすぐだ。
「エヴァン! お待たせっ」
多目的に使われる少し広い部屋の前に、侍従が立っている。
声をかけると、榛色の目が優しく細められた。
「もう準備は整っておりますよ」
「本当? じゃあ、もう入っていい?」
「はい。どうぞ、お二人で楽しまれてください」
僕たちの会話を聞いているフレデリクの周りには、疑問符がいっぱい見える。
サプライズは最終段階っ!
フレッド、喜んでくれるかなぁ……?
エヴァンがゆっくりと扉を開ける。
部屋の中に一歩踏み込むと、華やかな空間が僕たちを迎えた。
「第三王子殿下。本日は、ご用命いただきまして、誠にありがとうございます」
部屋の中央辺りに、三人の男女が立っている。
その真ん中にいるのは、ソレル商会ラオネス支店長リヴィオ・ソレル。
彼の挨拶と共に、三人が深く頭を下げた。
両サイドにいる人たちは、きっとソレル商会の従業員だろう。
「リヴィオさんっ! こちらこそ、僕の要望に沢山応えてくださって!」
僕は室内をぐるりと眺めた。
ソファやチェストといった調度品が一切置かれていない部屋の中。
溢れんばかりに、あらゆる商品が並んでいた。
目を引く多彩な服や装飾品に、上品なデザインの食器。
そして、息を飲むほどの輝きを放つ、数多の宝石たち。
目をみはる魅惑の品々が、キラキラと大迫力で視界を埋め尽くす。
「わぁ~! すごいですねっ。どれもこれも素晴らしいものなのが、一目で分かりますよ!!」
興奮気味に話す僕に、リヴィオが嬉しそうに微笑んだ。
「ありがたいお言葉を賜りまして、恐悦至極に存じます。殿下にご満足いただけるように、私どもの総力をあげて商品を取り揃えました。高名な職人の一品ものや、異国の珍しいものなど、希少な品も数多く置いておりますので、どうぞ心行くまでご覧になってくださいね」
「こんなに素敵なものが沢山あると、どれも欲しくなっちゃいますね」
「お気に召したものがございましたら、是非ともよろしくお願いいたします」
僕は勢いよく頷くと、隣にいるフレデリクを見上げた。
「今日はね、リヴィオさんに外商をお願いしたんだよ。驚いた?」
「ええ。素晴らしい品々に圧倒されました。どうして、私に教えてくださらなかったのですか?」
「フレデリクと一緒に楽しみたいなって思って計画したんだ。秘密にしたら、より喜んでくれるかなって」
うかがうような視線を向けると、白皙の美貌が優しくほころんだ。
「驚きと喜びで胸が高鳴っております」
「本当? よかったぁ! リヴィオさんには、わがままなお願いを全部聞いてもらったから、贅沢な時間が楽しめるよ」
「ご要望は多い方が、商人として心が沸き立ちますので。大歓迎ですよ」
笑みを深めたリヴィオ支店長はそう言って、背後の輝く商品たちに目を向けた。
「それでは、早速ではございますが、お品のご説明をさせていただきますね」
「よろしくお願いします!」
うう~!!
わくわくするっ!!
気持ちが高揚して、フレデリクにぎゅっと抱きつきそうになる。
その衝動をぐっとこらえて、リヴィオの背を追った。
「まず、こちらはお召し物でございます。御二方の魅力を引き立てるような意匠の品を、多数ご用意しております。布地も取り揃えてございますので、お好きな色でお仕立てすることもできます」
「どれも素敵ですね!!」
きらびやかな服や装飾品の中で視線を巡らせていると、リヴィオが分かりやすく織物の説明をしてくれた。
遠い異国の伝統的な絹織物なんかもあって、文化財かな? と言いたくなるほどだ。
「そして、隣が食器でございます。ご要望をいただきましたティーカップを中心に、良質なものを並べております」
「きれいなものが沢山っ。今日はお揃いで二客買いたくて」
「はい。どれも一対でお買い求めいただけるものばかりですよ」
支店長は優しく黒曜の目を細めて、ティーカップの窯元について話し始めた。
いわずもがな、一流の職人による品しかなくて、感激するばかりだった。
世界に一つしかない高級な食器を、僕なんかが使っていいのだろうか。
「最後に……こちらが宝飾品でございます。ブローチや指輪、カフスボタン等を置いております。裸石をお選びいただいて、装飾品への加工も可能でございますので。宝石はエメラルドとアクアマリンを中心に。特にアクアマリンは、土地柄もあり取り扱いが多いので、豊富な品ぞろえとなっております」
「土地柄? ラオネスではアクアマリンが人気なんですか?」
「ええ。正確には、湾岸の地域で、と申し上げた方がよいかもしれません。昔から、アクアマリンは海の守護石と呼ばれていて、漁師や船乗りの間では、豊漁や航海の安全を願うお守りとして大切にされてきました。ただの言い伝えと言えばそれまでですが、身につけて航海に出る海の男は多いのですよ」
「へぇ~! 初めて知りました! ラオネスでは、アクアマリンは縁起物なんですね」
「人魚が人間に恋をして流した涙がアクアマリンになった、という伝説もありますよ」
「うう……切ないっ!」
思わず胸に手を当てると、皆が穏やかに笑った。
「これだけの品を準備するだけでも、とても大変だったと思います。ソレル商会さんには、お世話になってばかりですね」
「私どもこそ、殿下には筆舌に尽くしがたいご愛顧をいただいております。本日も、商人として意気揚々とご準備させていただきました。皆で夢中になっておりましたので、手間など感じておりませんよ」
支店長の言葉に、従業員の二人が笑顔で頷く。
どちらも人好きのする笑顔だ。
ソレル商会の人達は、みんな笑顔が素敵だなぁ。
「それでは、ごゆるりとお楽しみください。何がご不明な点がございましたら、そちらのベルでお呼びいただければ、私がすぐに参りますので」
「分かりました。ありがとうございます!」
リヴィオたちは深く頭を下げると、静々と部屋を後にしていった。
エヴァンも一緒に退出したので、部屋には僕とフレデリクの二人きり。
「フレッド~~~」
僕はさっそく恋人に抱きついた。
「まさか、外商を頼んでいるとは思わなかったから、部屋に入った時には本当に驚いた」
「でしょ~? 二人でのんびりと買い物を楽しみたくて」
「対のカップまであって、嬉しいよ」
「僕たちの買い物だからね!」
そう言いながら、澄んだ光をたたえているアクアマリンの瞳を見上げた。
……楽しくてわくわくする買い物を始める前に。
きちんと話しておかないといけないことがある。
「あのね、買い物を始める前に……フレッドに謝らないといけないことがあるんだ……」
サプライズをするために延期していた、ダブルブッキングに対する謝罪。
これを有耶無耶にするわけにはいかない。
「テオから謝罪を受けることは、何もないと思うが」
「あるよ……。前にね、ラオネスの街を一緒に散策しようって約束したでしょ?」
「ああ。騒動が解決する前だったな」
「うん。僕ね、フレッドと約束してたのに、兄上とも約束しちゃってたんだ」
「……俺との約束を忘れてたってことか?」
「う……えっと、その通りです……」
そうだ。僕は大好きな人との約束を忘れていたダメ王子だ。
恋人の目を見ていられず、僕はうなだれた。
「ごめんなさい。不誠実なことをしてしまって……。兄上は、僕と出かける予定を、すでに組んでくれてて……」
「……テオ。顔を上げてくれ」
「…………」
ためいがちに顔を上げると、白皙の美貌が静かに僕を見下ろしている。
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「領主のクロード様が、テオを案内したいと考えるのは当然だからな。テオが不誠実とは思わないさ」
「でも……僕がどっちにもいい顔しちゃったのは事実だし……」
しゅんとする僕の頭を、大きな手がゆっくりと撫でる。
「そんなに落ち込まなくても――」
「だって……」
フレデリクは気づかわし気に微笑みながら、僕をそっと抱きよせた。
「なら、ごめんねのキスをしてくれないか? それで、この件はなしにしよう。な?」
「……この間みたいに?」
「そうだな。この間みたいに」
恋人の甘い視線が唇に落ちてくる。
僕はドキドキしながら、その視線に応えた。
「フレッド……ごめんね……」
つま先立ちをすると、しっかりと抱き支えられて、アクアマリンの目が柔らかく細められる。
瞼を閉じながら愛する人へ静かに口づければ、温かい唇の感触に、心が瞬く間に奪われていった。
「……テオ……」
ゆっくりと角度を変えて、何度も何度も優しく啄み合う。
互いの吐息が混ざり、唇を愛撫して溶けていく。
「ぁ……ん……」
心地よい交わりに、頭の中から色々なものが抜け落ちていって……。
心をとろかせてフレデリクの唇に夢中になっていると、チュっと可愛らしく啄まれて唇が離れた。
「……テオのごめんねは長いな」
「あっ……うう……フレッドとのキス、好きだから……長くなっちゃう……」
ごめんねのキスなのに、つい恋人の唇に酔っていた僕。
フレデリクは嬉しそうに口角を上げた。
「かわいい……」
「わっ……フ、フレッド……っ」
顔中に口づけられて、僕はくすぐったくて笑ってしまう。
「二人きりだと、買い物をしながらキスができていいな」
「ふふっ。キスばっかりしてると、買い物できないよ」
「俺が一番欲しいのはテオだ」
「……僕の全てはフレッドのものだよ?」
「もっと欲しい……」
燃えるような恋情を秘めたアクアマリンの瞳に一心に見つめられて、僕は頬を熱くする。
「欲張りな騎士様だね」
僕はフレデリクの唇の端に口づけると、逞しい腕を引っ張って、ソレル商会渾身の商品に改めて目をやった。
「僕はいつでも手に入るから。今日はこっち! ほら、服から見よう!」
僕たちは、きらびやかな服の前に立った。
「全部きれいだねぇ~。こっちにあるのはフレッド向けの服かな? リヴィオさんが選んでくれたって言ってたね」
銀髪碧眼の美丈夫に似合う、色鮮やかな一揃えが並んでいる。
購入後は、体に合わせて仕立て直してくれるのだろう。
布地だと一から作ってもらえるみたいだし。今更だけど、ものすごく贅沢だな……。
さすがは王子の外商!
なんて、他人事のように思っていると、フレデリクが真剣に僕の服を眺めはじめた。
「フレッドの服はこっちだよ」
「自分のものより、テオの服を選びたい」
はっきりと断言されて、僕は苦笑してしまった。
フレデリクは、自分が身につけるもの対しては割と無頓着だ。
気心地重視で、数がそろっていれば文句はないというタイプ。
普段は、テュレンヌ家ご用達の仕立て屋にお任せしているのだろう。
まぁ、僕もこだわりはないし。
いつも針子さんにお任せだから、同じようなものなんだけど。
「テオには、これがよく似合いそうだ」
しばらく服とにらめっこした後に、フレデリクが選び抜いたのは、ワインレッドの一揃えだった。
深みのある赤地に、金糸で鳥獣模様の刺繍が大胆にほどこされている。
非常に華やかで美しい一品だが、僕には気になることがあった。
……圧倒的なフリルやレース飾りだ。
上着がタイトな作りになっていて、シャツの飾りを最大限に魅せている。
胸元のジャボタイは非常にボリューミーで、その下にはたっぷりのフリル。
袖口には、細やかなレース飾りがこれでもかと重ねられていて。
豪華な人形だって、ここまでのものは着ないだろうという勢いだった。
「フレッド……」
僕はフリフリの服から、恋人に視線を移した。
「こんなにヒラヒラした服を着た男の人、社交界で見たことある?」
「こんなに可愛い服は、テオにしか似合わない」
質問に答えてませんがっ!
フレデリクの好みは非常にシンプルである。
華美な装飾はいらない。良質であればいい。
身の回りの持ち物も、一貫してそんな感じだ。
だけど、僕の服に関してだけは、その真逆。
人形や子供向けのような可憐なデザインの服を僕が着ると、フレデリクはとても喜ぶ。
フリフリでヒラヒラな第三王子を熱く支持しているのだ。
だから、こういった服をすすめてくるのは分かる。
分かるけど……っ!
「でも、さすがにここまでのは……」
「テオは可愛くて華やかな服がよく似合う。リヴィオ殿だってそう思っているから、これを手配したんだろう」
「そ、そうかなぁ……本当に似合う?」
「ああ。盛りすぎに見えるレース飾りも、テオが着れば、目をみはるほどに魅力的になる。テオの愛らしさや無垢な美しさを最大限に引き出すんだ。正直に言うと、俺の前でしか着て欲しくない。テオの可愛らしさは、いつだって俺だけのものにしておきたいから」
ひゃああああああああああっ!!!!!
僕は熱くなった頬を両手で押さえた。
「フ、フレッド……褒めすぎだよ」
服が似合うかじゃなくて、僕への甘い言葉になってるし……!
「思ってることを、素直に言っただけだ。嫌だったか?」
「嫌じゃないよ。嬉しい……」
「なら、この服を選んでくれないか? これを着たテオを夜会でエスコートしたい。皆がテオに見惚れるのは気に食わないが、俺の主君は世界一美しい王子なんだと自慢するんだ。そして、散々見せびらかした後に、ベッドの上でこの服を脱がせて……テオの体を独り占めにする。そこまでが、俺の望みだ」
わあああああああああああっ!!!!!
二人で買い物って、わくわくするだけじゃなくて、こんなにドキドキするの……!?
まだ始まったばかりなのに、心臓が高鳴りすぎて……ううっ……!
「耳まで紅くなってる。本当にかわいい……」
耳たぶを愛おしげに撫でられて、僕の恋心は早々に限界を迎えた。
「フレッドはずるいよっ」
僕は火照った顔を、目の前の分厚い胸に擦りつけた。
「僕のこと、いつもドキドキさせて……」
「それはテオの方だろ?」
「フレッドの方ですっ」
そう言って、ぎゅうぎゅうと強く抱きつくと、フレデリクは優しく笑った。
「……俺の望み、叶えてくれるか?」
「……うん……」
僕はいまだに熱い顔を上げて、白皙の美貌を見つめた。
「その代わり、フレッドの服は僕に選ばせてね」
「もちろん、脱がせてくれるんだよな?」
アクアマリンの瞳が、いたずらっぽく輝く。
「そっ、れは……ま、前向きに……検討し、ますっ」
しどろもどろになって答えると、声を出して笑われてしまった。
「もうっ。すぐ、僕のことをからかうんだからっ」
後半もこんな風にいちゃいちゃと買い物をしています。
二人の絆が深まるにつれ、フレデリクは嫉妬深くなっていて、テオドールは甘えん坊になっています。
ちょっと感情が動くたびに、フレデリクに抱きつくテオドールが可愛いですね!
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