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番外編
専属護衛騎士は今日もご機嫌
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フレッドが、テオのお尻が痛いのを放っておくわけ……なくない? と思ったので書きました。
本編直前の話で、馬車の長距離移動で痛めている主君のお尻を、いやらしく触診するテュレンヌ卿です。
テオのお尻をなでなでちゅっちゅする描写がありますが、本番行為はありません。
※ギャグ調です※
※ギャグ調です※
「だ、大丈夫だから、そこまでしなくてもいいって」
今日の宿泊地である、とある伯爵家本邸の豪華な客間にて。
僕は専属護衛騎士に捕まっていた。
「これから晩餐会で、着席時間も長いじゃないか。少しでも痛みがマシになるなら、塗っておいた方がいい」
「うう……」
腰を抱きよせられながら正論を放たれて、僕は言葉につまった。
王都からラオネスへと出発して五日目。
僕は全く予想すらしていなかった苦痛と対峙していた。
馬車での移動だ。
車輪の振動や衝撃が全て座面へと響いてきて、それらが速やかに僕のお尻や太腿を痛めつけてくる。
移動中は、ずっとその攻撃が続くものだから、エヴァンが座布団を何枚も準備してくれているのにもかかわらず、僕のお尻の痛みは、少しずつ確実に蓄積していた。
「でも、フレッドの常備薬を使わせてもらうのも悪いし……」
「こういう時のために持っているんだ。気にしなくていい」
ああっ! どうにか断りたいのにっ!!
「清涼感があって、それだけでも痛みが紛れて楽になるから」
「う、あ……けど……」
「けど?」
「…………」
相次ぐ正論でダメ押しされて、僕は完全に返す言葉を失った。
フレデリクが塗った方がいいと言っているのは、鎮痛作用のある軟膏だ。
体が資本である騎士は、各人がそれぞれで選んだ、好みの薬を持ち歩いている。
騎士によって内容は様々なので、隊員に聞いてみると特色があって面白いと、近衛隊長のレオンが言っていたか。
フレデリクも、ご多分に漏れず所持しているので、僕のお尻が痛いことを聞いて、自前の軟膏を塗ろうと進言してくれたというわけだ。
「俺も馬車移動に慣れてない時は、同じように痛めてた。鈍痛が続いて辛いよな」
そう言って、フレデリクは僕のお尻を、ズボンの上から優しく両手で包み込んだ。
温かく大きな手の感触に、不愉快な鈍痛が遠くなっていく。
「食事中に、その辛さが増していったら嫌だろう?」
「う、うん……」
確かに……晩餐会ではずっと座ってないといけないし。フレッドの善意を無下にするのも悪い気がするし……。
「分かったよ……じゃあ、お言葉に甘えようかな……」
「ああ。しばらくは、一日に何回か塗るようにしようか」
「そうだね……」
僕は頷きながら、体の芯にぐっと力を込めた。
塗るからには、ここからが勝負だ。
「……自分で塗るから、かしてもらっていい?」
「塗りにくい場所だろうから、俺が塗ろう。腫れたりしてないか気になるしな」
ほらぁっ!!!
絶対に僕に塗らせてくれないと思ったから、断ろうとしてたんだよっ!!!
「ちょっと痺れたような痛みがあるだけで腫れてないよ。塗り広げるだけだから、見えなくても塗れるし」
強い意志を持って恋人を見上げると、アクアマリンの瞳が『何で断るんだ?』という純粋な疑問に満ちていた。
くぅっ!! フレッドはこういう時に、僕の羞恥を感じとろうとしてくれないんだよなぁ~~~!!!!
わざとなんじゃないかと、最近は少し疑っている。
「その、お尻に塗ってもらうのは恥ずかしいから……」
「俺相手に恥ずかしがることはないだろ?」
「そ、そうかもしれないけど……っ」
そういう雰囲気になって露出するのと、平時にぺろんと見せるのでは、何というか『ジャンル』が違うんだってば!!!!!
きっと、言ったって通じない。
日本のことわざだと、暖簾に腕押しってやつだ。
なら、僕ができることは残り一つしかないっ!!
「僕……自分で塗れないなら、いらないっ!」
断固拒否だ。
「これぐらい、フレッドにしてもらわなくてもできるもん」
「…………」
僕の拒否を受けて、白皙の美貌が、みるみるうちに悲しげに曇っていく。
「……俺に塗られるのが、そんなに嫌なのか?」
「えっ……」
『大好きな散歩直前で大雨が降りはじめた大型犬』みたいな顔をするフレデリク。
……ずるいよっ!
そんな顔されると、僕が悪いことをしてるみたいじゃんかっ!!
気落ちした碧眼に、じっと見下ろされて、僕の拒否の意志がわずかに揺らぐ。
「……嫌じゃないけど、恥ずかしいんだって」
「羞恥を盾にして、俺を避けようとしてないか……?」
「そんなこと、するわけないでしょっ!」
「だったら、俺が塗りたい」
フレデリクが、強い意志をにじませた声で主張する。
何でそんなに塗りたがるのさっ!?
「まだラオネスまで日数がかかるし、心配なんだ」
ささやくように言うと、僕の恋人はそっとお尻を撫でてくる。
「ぁ……フレッド……」
優しい手つきで労られて、アクアマリンの目が気遣わしげに細められる。
う、うう……。
「き、気持ちは嬉しいよ……でも……」
「俺の手で、少しでもテオの痛みを和らげたい」
ぎゅっと抱きしめられて、恋人の心地よい温もりに、拒否の意志が少しずつ溶けていく。
「晩餐会でテオが不快な思いをしないように、きちんと塗るから……。な?」
温かい手で髪を撫でられながら言われると、心がふにゃふにゃと柔らかくなってしまう。
断固拒否……だったけど――
「フレッドがそんなに言うなら……いいよ……」
と、塗ってもらうことを了承した途端に、騎士は笑顔になった。
「なら、晩餐会までそんなに時間はないし、早速塗ろうか」
フレデリクはその場に膝をつくと、僕の体を反転させた。
ちょっ、はやいはやいはやいっ!!!
了承してからの動きが爆速だってっ!!!!!
「ま、待ってよ」
「待たない」
大きな手が無駄のない動きで、僕のズボンと下着を太腿まで引き下げる。
下腹部が外気にさらされる無防備な感触に、頬が熱くなった。
ああっ、もうっ!!!
完全にフレッドのペースじゃんかっ!!!
「……少し赤くなってるな……」
僕の患部を見たフレデリクが、つぶやくように言う。
あうう……恥ずかしい――
お尻を間近で観察されているかと思うと、非常に居たたまれなくなる。
「直接触ると痛いか……?」
「……っ」
馬車の座面に攻撃された尻たぶに、恋人の手がそっと触れる。
「だ、大丈夫だよ……。座って押さえつけると鈍痛がするけど、立ってたら少し痺れた感覚があるぐらいだから」
「ラオネスに着くまで社交も多いし、負担がかかるな」
優しく優しくお尻を撫でられ、強張っていた患部をほぐされる心地良さに、僕はほっと息を吐いた。
「……恥ずかしいけど、フレッドに触れてもらうだけで、痺れが消えていくね」
「本当か? それなら、ずっと触っておこうか」
「いや、そこまでじゃなくって……!」
僕が思わずつっこむと、フレデリクは小さく笑った。
「この赤みも、軟膏で消えてくれればいいんだが……」
「きっと、馬車移動が続くうちは難しいよ」
「痛々しいな……」
心配そうなフレデリクの声と共に、お尻に手ではないものが触れる。
柔らかいそれは、赤くなっているだろう場所を、丁寧になぞっては軽く啄んでいく。
わぁぁぁっ!!
フレッド、僕のお尻にキスしてるじゃんかっ!!!!
「……キ、キスはだめだって……っ」
「痛めてるところがかわいそうで……」
だったら、早急かつ迅速に軟膏を塗布するべきではっ!?
フレデリクは、僕の制止を受け流して、お尻に口づけの雨を降らせてくる。
「もうっ。フレッド! 軟膏っ! 早く塗ってよっ!」
なでなでちゅっちゅが終わらなくて、僕は痺れを切らしてしまう。
「……そうだな。時間がないもんな……」
残念そうな声で言われて、僕は納得しがたいものを感じた。
……時間があったら、ナニをするつもりだったのさ!?
フレデリクは、僕のお尻に唇をすべらせながら、懐から軟膏を取り出した。
「清涼感が強めだから、薄く塗っていくな。もし、ヒリつくようなら言ってくれ」
「うん……」
フレデリクの指が、患部に優しく軟膏を塗っていく。
「わ……本当だね。すごくスースーする」
塗られたところから、冷たく感じるほどの清涼感が広がった。
「俺は好きなんだが、この清涼感を嫌う騎士が結構いるんだ。テオは平気か?」
「うん。僕も好きだよ。よく効いてるって感じがするしね」
大きな手が丁寧に打撃を受けた部分を癒してくれて、痺れや痛みが、爽やかな清涼感に上書きされていった。
「きもちいいね……これなら、晩餐会で痛みを感じずに過ごせそうだよ」
「よかった」
フレデリクは安心したように、僕のお尻に軟膏を揉み込みつづけて……。
ん……んんん!?!?
終わらない……っ!!!!!
「……しっかりと塗れただろうから、もういいよ」
「…………」
わぁっ! 無視されたっ!!
騎士は僕の声が聞こえないふりをして、お尻から手を離さずにいる。
「ひゃっ! フレッドっ!!」
その上、双丘を割り開いて、谷間に唇を這わせ始めた。
非常にデリケートな部分に吐息を感じて、僕は肩を震わせる。
「だ、だめだって……っ!」
「……こんなに可愛くて柔らかいのに、懸命に痛みをこらえて……」
「か、かわいくないよ……ぁんんっ」
谷間の奥底を、フレデリクの舌がいやらしく往復する。
「んんぅ……フレッド……っ」
恋人の愛撫に、淫らな欲望がわきそうになって、僕はぎゅっと目を閉じて気をそらそうとした。
本気で晩餐会の時間は迫っていて、服も正装に着替えている。
こんな状況で、淫行にふけるわけにはいかないっ!!!
「フレデリクっ! はなしてっ!!」
僕は強い声音で騎士に命じた。
「やめないと、晩餐会の同伴を、フレッドじゃなくてエヴァンに頼むからねっ!」
僕の脅しがきいたのか、フレデリクの動きがぴたりと止まった。
その間に、ささっと下着とズボンを元に戻す。
あぶない、あぶない。
いやらしい雰囲気に流されるところだった……!
「軟膏を塗るだけって言ったのに、フレッドは全く僕の言うことを聞いてくれないんだから!」
立ちあがったフレデリクを見上げて文句を言うと、彼は困ったような顔をして、僕を抱きしめてきた。
「可愛いから、触ってるうちについ……」
「ぼ、僕のお尻は、別に可愛くなんかありませんっ!!」
ひとしきり怒ると、騎士は謝りながら僕の頭に頬をよせてきた。
ぐりぐりと頬擦りされると、怒りがすぐにしぼんでいく。
僕は、この子供のような頬擦りに弱いのだ。
「……お尻の不快感は、軟膏のおかげで感じなくなったよ。ありがとね」
治療行為はかなり暴走してしまったが、軟膏を塗ってくれたことはありがたい。
逞しい体を抱き返しながら礼を言うと、白皙の美貌が嬉しそうに微笑んだ。
「少しでも治まったのなら、塗った甲斐があった。明日からも、こまめに塗布していこうな」
イケメンの爽やかな笑顔を前に、嫌な予感しかしない。
「……塗るにしても、自分でするからね?」
しっかりと念を押すと、アクアマリンの瞳が僕をまっすぐに見つめてくる。
「赤みがひどくならないか心配だし、俺が塗りたい」
だぁかぁらぁ!
何で、僕のお尻を自分の監視下におこうとするのさっ!?
ロベルティア王国で指折りの強さをほこる美しい騎士を前に、僕は頭を抱えたくなった。
結局、テオのお尻はフレッドの監視下におかれることとなります!
おかしいな……。二人の日常を書くと、どんどんフレデリクがスケベ騎士になっていく……。
本編直前の話で、馬車の長距離移動で痛めている主君のお尻を、いやらしく触診するテュレンヌ卿です。
テオのお尻をなでなでちゅっちゅする描写がありますが、本番行為はありません。
※ギャグ調です※
※ギャグ調です※
「だ、大丈夫だから、そこまでしなくてもいいって」
今日の宿泊地である、とある伯爵家本邸の豪華な客間にて。
僕は専属護衛騎士に捕まっていた。
「これから晩餐会で、着席時間も長いじゃないか。少しでも痛みがマシになるなら、塗っておいた方がいい」
「うう……」
腰を抱きよせられながら正論を放たれて、僕は言葉につまった。
王都からラオネスへと出発して五日目。
僕は全く予想すらしていなかった苦痛と対峙していた。
馬車での移動だ。
車輪の振動や衝撃が全て座面へと響いてきて、それらが速やかに僕のお尻や太腿を痛めつけてくる。
移動中は、ずっとその攻撃が続くものだから、エヴァンが座布団を何枚も準備してくれているのにもかかわらず、僕のお尻の痛みは、少しずつ確実に蓄積していた。
「でも、フレッドの常備薬を使わせてもらうのも悪いし……」
「こういう時のために持っているんだ。気にしなくていい」
ああっ! どうにか断りたいのにっ!!
「清涼感があって、それだけでも痛みが紛れて楽になるから」
「う、あ……けど……」
「けど?」
「…………」
相次ぐ正論でダメ押しされて、僕は完全に返す言葉を失った。
フレデリクが塗った方がいいと言っているのは、鎮痛作用のある軟膏だ。
体が資本である騎士は、各人がそれぞれで選んだ、好みの薬を持ち歩いている。
騎士によって内容は様々なので、隊員に聞いてみると特色があって面白いと、近衛隊長のレオンが言っていたか。
フレデリクも、ご多分に漏れず所持しているので、僕のお尻が痛いことを聞いて、自前の軟膏を塗ろうと進言してくれたというわけだ。
「俺も馬車移動に慣れてない時は、同じように痛めてた。鈍痛が続いて辛いよな」
そう言って、フレデリクは僕のお尻を、ズボンの上から優しく両手で包み込んだ。
温かく大きな手の感触に、不愉快な鈍痛が遠くなっていく。
「食事中に、その辛さが増していったら嫌だろう?」
「う、うん……」
確かに……晩餐会ではずっと座ってないといけないし。フレッドの善意を無下にするのも悪い気がするし……。
「分かったよ……じゃあ、お言葉に甘えようかな……」
「ああ。しばらくは、一日に何回か塗るようにしようか」
「そうだね……」
僕は頷きながら、体の芯にぐっと力を込めた。
塗るからには、ここからが勝負だ。
「……自分で塗るから、かしてもらっていい?」
「塗りにくい場所だろうから、俺が塗ろう。腫れたりしてないか気になるしな」
ほらぁっ!!!
絶対に僕に塗らせてくれないと思ったから、断ろうとしてたんだよっ!!!
「ちょっと痺れたような痛みがあるだけで腫れてないよ。塗り広げるだけだから、見えなくても塗れるし」
強い意志を持って恋人を見上げると、アクアマリンの瞳が『何で断るんだ?』という純粋な疑問に満ちていた。
くぅっ!! フレッドはこういう時に、僕の羞恥を感じとろうとしてくれないんだよなぁ~~~!!!!
わざとなんじゃないかと、最近は少し疑っている。
「その、お尻に塗ってもらうのは恥ずかしいから……」
「俺相手に恥ずかしがることはないだろ?」
「そ、そうかもしれないけど……っ」
そういう雰囲気になって露出するのと、平時にぺろんと見せるのでは、何というか『ジャンル』が違うんだってば!!!!!
きっと、言ったって通じない。
日本のことわざだと、暖簾に腕押しってやつだ。
なら、僕ができることは残り一つしかないっ!!
「僕……自分で塗れないなら、いらないっ!」
断固拒否だ。
「これぐらい、フレッドにしてもらわなくてもできるもん」
「…………」
僕の拒否を受けて、白皙の美貌が、みるみるうちに悲しげに曇っていく。
「……俺に塗られるのが、そんなに嫌なのか?」
「えっ……」
『大好きな散歩直前で大雨が降りはじめた大型犬』みたいな顔をするフレデリク。
……ずるいよっ!
そんな顔されると、僕が悪いことをしてるみたいじゃんかっ!!
気落ちした碧眼に、じっと見下ろされて、僕の拒否の意志がわずかに揺らぐ。
「……嫌じゃないけど、恥ずかしいんだって」
「羞恥を盾にして、俺を避けようとしてないか……?」
「そんなこと、するわけないでしょっ!」
「だったら、俺が塗りたい」
フレデリクが、強い意志をにじませた声で主張する。
何でそんなに塗りたがるのさっ!?
「まだラオネスまで日数がかかるし、心配なんだ」
ささやくように言うと、僕の恋人はそっとお尻を撫でてくる。
「ぁ……フレッド……」
優しい手つきで労られて、アクアマリンの目が気遣わしげに細められる。
う、うう……。
「き、気持ちは嬉しいよ……でも……」
「俺の手で、少しでもテオの痛みを和らげたい」
ぎゅっと抱きしめられて、恋人の心地よい温もりに、拒否の意志が少しずつ溶けていく。
「晩餐会でテオが不快な思いをしないように、きちんと塗るから……。な?」
温かい手で髪を撫でられながら言われると、心がふにゃふにゃと柔らかくなってしまう。
断固拒否……だったけど――
「フレッドがそんなに言うなら……いいよ……」
と、塗ってもらうことを了承した途端に、騎士は笑顔になった。
「なら、晩餐会までそんなに時間はないし、早速塗ろうか」
フレデリクはその場に膝をつくと、僕の体を反転させた。
ちょっ、はやいはやいはやいっ!!!
了承してからの動きが爆速だってっ!!!!!
「ま、待ってよ」
「待たない」
大きな手が無駄のない動きで、僕のズボンと下着を太腿まで引き下げる。
下腹部が外気にさらされる無防備な感触に、頬が熱くなった。
ああっ、もうっ!!!
完全にフレッドのペースじゃんかっ!!!
「……少し赤くなってるな……」
僕の患部を見たフレデリクが、つぶやくように言う。
あうう……恥ずかしい――
お尻を間近で観察されているかと思うと、非常に居たたまれなくなる。
「直接触ると痛いか……?」
「……っ」
馬車の座面に攻撃された尻たぶに、恋人の手がそっと触れる。
「だ、大丈夫だよ……。座って押さえつけると鈍痛がするけど、立ってたら少し痺れた感覚があるぐらいだから」
「ラオネスに着くまで社交も多いし、負担がかかるな」
優しく優しくお尻を撫でられ、強張っていた患部をほぐされる心地良さに、僕はほっと息を吐いた。
「……恥ずかしいけど、フレッドに触れてもらうだけで、痺れが消えていくね」
「本当か? それなら、ずっと触っておこうか」
「いや、そこまでじゃなくって……!」
僕が思わずつっこむと、フレデリクは小さく笑った。
「この赤みも、軟膏で消えてくれればいいんだが……」
「きっと、馬車移動が続くうちは難しいよ」
「痛々しいな……」
心配そうなフレデリクの声と共に、お尻に手ではないものが触れる。
柔らかいそれは、赤くなっているだろう場所を、丁寧になぞっては軽く啄んでいく。
わぁぁぁっ!!
フレッド、僕のお尻にキスしてるじゃんかっ!!!!
「……キ、キスはだめだって……っ」
「痛めてるところがかわいそうで……」
だったら、早急かつ迅速に軟膏を塗布するべきではっ!?
フレデリクは、僕の制止を受け流して、お尻に口づけの雨を降らせてくる。
「もうっ。フレッド! 軟膏っ! 早く塗ってよっ!」
なでなでちゅっちゅが終わらなくて、僕は痺れを切らしてしまう。
「……そうだな。時間がないもんな……」
残念そうな声で言われて、僕は納得しがたいものを感じた。
……時間があったら、ナニをするつもりだったのさ!?
フレデリクは、僕のお尻に唇をすべらせながら、懐から軟膏を取り出した。
「清涼感が強めだから、薄く塗っていくな。もし、ヒリつくようなら言ってくれ」
「うん……」
フレデリクの指が、患部に優しく軟膏を塗っていく。
「わ……本当だね。すごくスースーする」
塗られたところから、冷たく感じるほどの清涼感が広がった。
「俺は好きなんだが、この清涼感を嫌う騎士が結構いるんだ。テオは平気か?」
「うん。僕も好きだよ。よく効いてるって感じがするしね」
大きな手が丁寧に打撃を受けた部分を癒してくれて、痺れや痛みが、爽やかな清涼感に上書きされていった。
「きもちいいね……これなら、晩餐会で痛みを感じずに過ごせそうだよ」
「よかった」
フレデリクは安心したように、僕のお尻に軟膏を揉み込みつづけて……。
ん……んんん!?!?
終わらない……っ!!!!!
「……しっかりと塗れただろうから、もういいよ」
「…………」
わぁっ! 無視されたっ!!
騎士は僕の声が聞こえないふりをして、お尻から手を離さずにいる。
「ひゃっ! フレッドっ!!」
その上、双丘を割り開いて、谷間に唇を這わせ始めた。
非常にデリケートな部分に吐息を感じて、僕は肩を震わせる。
「だ、だめだって……っ!」
「……こんなに可愛くて柔らかいのに、懸命に痛みをこらえて……」
「か、かわいくないよ……ぁんんっ」
谷間の奥底を、フレデリクの舌がいやらしく往復する。
「んんぅ……フレッド……っ」
恋人の愛撫に、淫らな欲望がわきそうになって、僕はぎゅっと目を閉じて気をそらそうとした。
本気で晩餐会の時間は迫っていて、服も正装に着替えている。
こんな状況で、淫行にふけるわけにはいかないっ!!!
「フレデリクっ! はなしてっ!!」
僕は強い声音で騎士に命じた。
「やめないと、晩餐会の同伴を、フレッドじゃなくてエヴァンに頼むからねっ!」
僕の脅しがきいたのか、フレデリクの動きがぴたりと止まった。
その間に、ささっと下着とズボンを元に戻す。
あぶない、あぶない。
いやらしい雰囲気に流されるところだった……!
「軟膏を塗るだけって言ったのに、フレッドは全く僕の言うことを聞いてくれないんだから!」
立ちあがったフレデリクを見上げて文句を言うと、彼は困ったような顔をして、僕を抱きしめてきた。
「可愛いから、触ってるうちについ……」
「ぼ、僕のお尻は、別に可愛くなんかありませんっ!!」
ひとしきり怒ると、騎士は謝りながら僕の頭に頬をよせてきた。
ぐりぐりと頬擦りされると、怒りがすぐにしぼんでいく。
僕は、この子供のような頬擦りに弱いのだ。
「……お尻の不快感は、軟膏のおかげで感じなくなったよ。ありがとね」
治療行為はかなり暴走してしまったが、軟膏を塗ってくれたことはありがたい。
逞しい体を抱き返しながら礼を言うと、白皙の美貌が嬉しそうに微笑んだ。
「少しでも治まったのなら、塗った甲斐があった。明日からも、こまめに塗布していこうな」
イケメンの爽やかな笑顔を前に、嫌な予感しかしない。
「……塗るにしても、自分でするからね?」
しっかりと念を押すと、アクアマリンの瞳が僕をまっすぐに見つめてくる。
「赤みがひどくならないか心配だし、俺が塗りたい」
だぁかぁらぁ!
何で、僕のお尻を自分の監視下におこうとするのさっ!?
ロベルティア王国で指折りの強さをほこる美しい騎士を前に、僕は頭を抱えたくなった。
結局、テオのお尻はフレッドの監視下におかれることとなります!
おかしいな……。二人の日常を書くと、どんどんフレデリクがスケベ騎士になっていく……。
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