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19話
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「今朝早くに出た船です。たっぷりとドラントを積んで帰ってきたようですよ」
「あの箱、全部ですか?」
甲板に積まれている沢山の木箱を指差しながら問うと、工場長が首肯した。
ものすごい量だと感心している僕の目前に、それらが瞬く間に並べられていく。
大きな箱は、どれもドラントが山盛りになっている。
三十センチぐらいの銀白色の魚体が、山になって輝いているのは、圧巻の光景だった。
「フレデリクっ。すごい量だね……!」
僕は後ろに控えている専属騎士に振り返った。
「群れで移動するドラントは、一度で大量に漁獲できると聞いていましたが、ここまでとは驚きですね。シャトワの港でも、この量を見ることはできませんでした」
「これが塩漬けになって、各地に運ばれていくんだね……」
目の前のドラントが、見たこともない遠い地の人々の食生活を支えるのだと思うと、何だか不思議な気持ちになった。
「このドラントは、このまま箱ごと工場に運ばれ、迅速に加工して樽詰めが行われていきます。鮮度落ちが本当に早いので、この辺りは時間との勝負になりますね。それでは、次はあちらの桟橋へお願いできますでしょうか」
僕たちは、先程から視界に入っている広い桟橋へ足を向けた。
大きな樽がピラミッド状に積まれて、ロープで固定してある。
それが桟橋の上にいくつも並んでいた。
「こちらの塩漬けは、全てノイハントに輸出するものですね」
ノイハント王国は、ロベルティア王国の北側に隣接する国だ。
「ここにあるものは、全て工場で加工したものですか? 兄上から、甲板で塩漬けの加工をする船があると伺っていて……」
「殿下はすでにご存知でいらっしゃいましたか。ここにあるものは、全て工場で加工したものですね。甲板で加工できる船はまだ数が少なく、現状では船上で作ったものは、ほとんど流通していないのですよ」
「そうなんですか」
僕は積まれている樽にそっと触れた。
この中には、先程見たドラントがたっぷりと入っているのだ。
「船上では、漁獲直後の新鮮なうちに加工するので、品質もよく味もいいものができます。口にした方々からはご好評をいただいているので、数を増やしていければとは思っております」
「評判は上々なのですね!」
これは、ブランディングの余地がありそうだ……!!!!!
「今後、船を増やして、一般の流通に乗せられるぐらいの加工数を確保できるようになれば、ラオネスの新たな売りとなりますね!」
笑顔で頷いてくれた工場長に、僕は話を続ける。
「漁獲直後の加工は、他の産地のものと明確な差別化になる。そして、この高品質のものをきっかけに、おいしいドラントの塩漬けといえばラオネスだと人々に印象付けることができれば……工場加工のものも含めて、この地の塩漬けの需要はグッと増していく……!」
「……そう、ですね……」
「ちょうど、貿易を強化していく北方の国々へも、この素晴らしい品質を売り込んでいきたいですね! どこの塩漬けでも数が揃えばいいというところを『ラオネス』のものが最高だから絶対に取り寄せたいと思わせる……特別感っ!」
「はい……」
「船上加工のものを先頭にして、この地の塩漬けの人気を高めることは充分に可能ですねっ」
「…………」
「最終的には、どちらの加工にも塩田で作られる塩を使用すれば、完全にラオネス産の塩漬けとなり、より希少価値を高めることができますし!」
ぐっと拳を握りながら周囲を見回すと、ものすごい表情で皆が僕を見ていた。
同じような顔を、少し前に造船場の船の上で見たな……。
ああっ……また、やってしまった!
「……なぁんて、無責任に調子のいいことを言ってみたりして……ははっ!」
「殿下……」
「は、はい……」
工場長が感極まったような顔をした。
「殿下がこんなにも深い理解を示してくださるなんて……私はとても嬉しく……言葉にできないほどです……」
「えっ……深い理解だなんて、そんな……」
「ドラントの塩漬けは、この地の筆頭輸出品であり、出荷量は高い水準で安定していると言えますが、だからこそ、今後のことをしっかりと考えていかねばなりません。殿下のお考えは、ドラント漁や加工に携わる我々にとって、広い展望を感じることのできる素晴らしいものです」
「いや、その……船上加工の塩漬けのおいしさは、僕が言うまでもなく、どんどん広まっていくと思いますので……」
工場長のあまりの持ちあげように、僕はたじたじになってしまう。
「大変恥ずかしいことですが、私どもは、塩漬けを他の地域と差別化していくという考えに至っておら――」
「おいっ! やめろっ!!」
え――!?
男の野太い怒鳴り声が、周囲の空気をぶち破った。
突然のことに、何事かと声の主を探そうとした瞬間。
側に積んであった大量の樽が、嫌な音を立てて崩れ落ち、僕に襲いかかってきた。
一つ一つが岩のように屈強なそれは、到底押し戻せるものではなく――
うそ――……
全てがスローモーションのようにゆっくりと感じる。
そのくせ、全く体は動かなくて。
ぶつかる……っ!
ぎゅっと身を固くすると同時に、樽からかばうようにして、フレデリクが僕の体を抱きしめた。
そのまま崩れる樽に押されて、二人して桟橋から数メートル下の海に落下した。
強く抱かれたまま、フレデリクと共に海面と衝突する。
いくつもの樽が落石のように周りに降ってくるのを、水中で混乱した意識の向こうに感じた。
急展開です……!
「あの箱、全部ですか?」
甲板に積まれている沢山の木箱を指差しながら問うと、工場長が首肯した。
ものすごい量だと感心している僕の目前に、それらが瞬く間に並べられていく。
大きな箱は、どれもドラントが山盛りになっている。
三十センチぐらいの銀白色の魚体が、山になって輝いているのは、圧巻の光景だった。
「フレデリクっ。すごい量だね……!」
僕は後ろに控えている専属騎士に振り返った。
「群れで移動するドラントは、一度で大量に漁獲できると聞いていましたが、ここまでとは驚きですね。シャトワの港でも、この量を見ることはできませんでした」
「これが塩漬けになって、各地に運ばれていくんだね……」
目の前のドラントが、見たこともない遠い地の人々の食生活を支えるのだと思うと、何だか不思議な気持ちになった。
「このドラントは、このまま箱ごと工場に運ばれ、迅速に加工して樽詰めが行われていきます。鮮度落ちが本当に早いので、この辺りは時間との勝負になりますね。それでは、次はあちらの桟橋へお願いできますでしょうか」
僕たちは、先程から視界に入っている広い桟橋へ足を向けた。
大きな樽がピラミッド状に積まれて、ロープで固定してある。
それが桟橋の上にいくつも並んでいた。
「こちらの塩漬けは、全てノイハントに輸出するものですね」
ノイハント王国は、ロベルティア王国の北側に隣接する国だ。
「ここにあるものは、全て工場で加工したものですか? 兄上から、甲板で塩漬けの加工をする船があると伺っていて……」
「殿下はすでにご存知でいらっしゃいましたか。ここにあるものは、全て工場で加工したものですね。甲板で加工できる船はまだ数が少なく、現状では船上で作ったものは、ほとんど流通していないのですよ」
「そうなんですか」
僕は積まれている樽にそっと触れた。
この中には、先程見たドラントがたっぷりと入っているのだ。
「船上では、漁獲直後の新鮮なうちに加工するので、品質もよく味もいいものができます。口にした方々からはご好評をいただいているので、数を増やしていければとは思っております」
「評判は上々なのですね!」
これは、ブランディングの余地がありそうだ……!!!!!
「今後、船を増やして、一般の流通に乗せられるぐらいの加工数を確保できるようになれば、ラオネスの新たな売りとなりますね!」
笑顔で頷いてくれた工場長に、僕は話を続ける。
「漁獲直後の加工は、他の産地のものと明確な差別化になる。そして、この高品質のものをきっかけに、おいしいドラントの塩漬けといえばラオネスだと人々に印象付けることができれば……工場加工のものも含めて、この地の塩漬けの需要はグッと増していく……!」
「……そう、ですね……」
「ちょうど、貿易を強化していく北方の国々へも、この素晴らしい品質を売り込んでいきたいですね! どこの塩漬けでも数が揃えばいいというところを『ラオネス』のものが最高だから絶対に取り寄せたいと思わせる……特別感っ!」
「はい……」
「船上加工のものを先頭にして、この地の塩漬けの人気を高めることは充分に可能ですねっ」
「…………」
「最終的には、どちらの加工にも塩田で作られる塩を使用すれば、完全にラオネス産の塩漬けとなり、より希少価値を高めることができますし!」
ぐっと拳を握りながら周囲を見回すと、ものすごい表情で皆が僕を見ていた。
同じような顔を、少し前に造船場の船の上で見たな……。
ああっ……また、やってしまった!
「……なぁんて、無責任に調子のいいことを言ってみたりして……ははっ!」
「殿下……」
「は、はい……」
工場長が感極まったような顔をした。
「殿下がこんなにも深い理解を示してくださるなんて……私はとても嬉しく……言葉にできないほどです……」
「えっ……深い理解だなんて、そんな……」
「ドラントの塩漬けは、この地の筆頭輸出品であり、出荷量は高い水準で安定していると言えますが、だからこそ、今後のことをしっかりと考えていかねばなりません。殿下のお考えは、ドラント漁や加工に携わる我々にとって、広い展望を感じることのできる素晴らしいものです」
「いや、その……船上加工の塩漬けのおいしさは、僕が言うまでもなく、どんどん広まっていくと思いますので……」
工場長のあまりの持ちあげように、僕はたじたじになってしまう。
「大変恥ずかしいことですが、私どもは、塩漬けを他の地域と差別化していくという考えに至っておら――」
「おいっ! やめろっ!!」
え――!?
男の野太い怒鳴り声が、周囲の空気をぶち破った。
突然のことに、何事かと声の主を探そうとした瞬間。
側に積んであった大量の樽が、嫌な音を立てて崩れ落ち、僕に襲いかかってきた。
一つ一つが岩のように屈強なそれは、到底押し戻せるものではなく――
うそ――……
全てがスローモーションのようにゆっくりと感じる。
そのくせ、全く体は動かなくて。
ぶつかる……っ!
ぎゅっと身を固くすると同時に、樽からかばうようにして、フレデリクが僕の体を抱きしめた。
そのまま崩れる樽に押されて、二人して桟橋から数メートル下の海に落下した。
強く抱かれたまま、フレデリクと共に海面と衝突する。
いくつもの樽が落石のように周りに降ってくるのを、水中で混乱した意識の向こうに感じた。
急展開です……!
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