血を吸うかぐや姫

小原ききょう

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長山公園のブランコ②

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「私、屑木くんの変な説明を聞いている間、笑いを堪えるの大変だったんですよ」
 佐々木はそう言いながら、僕の体を抱き寄せていく。抱き寄せながら笑っている。
 佐々木のこんな高笑いは聞いたことがない。愉快で仕方がないようだ。

 ようやく佐々木は笑うのを止め、
「伊澄さんのお姉さんの体が復活したら、他の人の中の『あれ』が出て行くって・・屑木くん、そんなおとぎ話をよく考えついたもんですねぇ」とバカにしたように言った。
「あくまでも、僕の推論なんだ・・」
うまく声が出ない。自分自身を喪失していくような感覚に襲われた。
「よくいるんですよね。物事を軽く考えて、後先のことを考えない人が」
 そう言って佐々木は「くっ、くっ」と笑い、
「そんなわけないじゃないですかぁ!」
 誰もいない公園に佐々木の声が響き渡った。その口調は、佐々木奈々のものではなかった。
 佐々木は、もうダメだ。僕の知っている佐々木奈々はもういない。
 そんな佐々木は、こう言った。
「何も、死んだ人間は、伊澄さんのお姉さんだけじゃないんですよ!」
 そういうことか。

 その時、僕は理解した。吸血鬼の増殖は止まらない。
 たとえ、伊澄瑠璃子が姉のレミを蘇らせてしまって、ある程度の終焉を迎えたとしても、伊澄レミのような犯罪の被害者はいくらでもいるだろうし、それを蘇らそうとする人間も後を絶たないだろう。
 つまり、第二第三の伊澄瑠璃子が誕生する。
 ・・だが僕は、

「僕は、佐々木を助けたい。それだけなんだ」
 そう言うと、佐々木は「私を助ける、って?」と言って吹き出したように笑い、
「屑木くん、何を正義の味方ぶっているんですかあ?」と言った。
「そんなつもりじゃ・・」
「でも、そんな屑木くん、私、嫌いじゃないですよ」
「だったら」
「でも、今はですねぇ」佐々木はそう言って、僕の頭を掴んだ。
 佐々木の口が開き、ずずッと尖った歯が伸びてきた。
「私は、血を吸いたいだけなんですよ!」と大きく言った。

 佐々木・・
「ぼ、僕の血を吸うのか?」
 血を吸った後、「あれ」を入れられるかもしれない。
「佐々木、誰かの血を吸うのは、初めてなのか?」
 僕の質問に、「そんなわけないじゃないですか」と笑って答えた。
「誰の血だ? まさか、クラスの人間?・・まさか、家族の・・」
 僕が問うと、佐々木は「あははあっ」と大きく高笑いをした。
「両親や弟の血なら、とっくに吸っていますよ!」
 佐々木は、「家族の血は、格別に美味しいんですよぉ」と舌なめずりをした。
 体内に「あれ」の入っている吸血鬼の吸う血の量は、計り知れない。僕と君島さんが吸い合うような量では決してない。

 そして、佐々木は、
「本当に、屑木くんって、面白いですね。私がキスすると言っただけで、動揺するし、変な推論をしたり・・」
 そこまで言うと、何かが弾けたように、「屑木くんの・・」と口を大きく開き、
「ば~か!」
 佐々木は子供みたいに言った。そして、
「バカみたいに、おかしな思い込みをしてるんじゃないですよ!」と叫んだ。同時に牙を剥いた顔が近づいてきた。
 血を吸われる! 隙があれば逃げようと思っていると、
 佐々木は僕から顔を離し、公園の外に向かって、
「松村くん! 出番ですよっ」と言った。
 松村? どうして、松村が公園に・・

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