104 / 118
自転車の少女①
しおりを挟む
◆自転車の少女
もう散会の時間だ。町の中を闇が押し寄せている。
神城は、「遅くなったから急いで帰る」と言いながら、君島さんを横目で見て、
「どうせ、私がいなくなったら、屑木くんの血を吸うんでしょ」と嫌味たらしく言った。
君島さんが「悪い?」と対抗するように言って、「何なら、神城さんも私達の仲間に入る?」と問いかけた。
「遠慮しておくわ」神城はそう言って去った。
神城の姿が見えなくなるや否や。僕と君島さんは近くの路地裏に入り込み、互いに血を吸い合った。
先ほど大量の血を見たせいか、体が血に飢えていた。
それは君島さんも同じだ。
互いに吸い合うという行為。それは血を循環させているだけのようだが、不思議と充足感がある。
先に血を吸われている君島さんは喘ぎ声を洩らしながら、
「もうたまらないわ・・」
何が「たまらない」のか・・訊くまでもなく僕にはわかる。
・・もっと血を吸いたいのだ。
けれど、この吸い方では、それほど、体に入ってこない。入ってきても相方の君島さんに吸われる。
まるで慰め合っている行為のようだ。互いの欲求を循環し合っている。
その先には何もない。
あるのは、こんな状態では収まりがつかなくなっているということだ。
体が無意識に「あれ」を欲している。そうすれば・・
その時だった。
どんっ・・ガチャンッ!
激しい音がした。何かと何かがぶつかり、破壊された大きな音だ。
通りを見ると、軽自動車の前に、自転車・・そして、僕らと同年代くらいの女子高生が倒れていた。同じ高校の制服だ。知っている子かもしれない。
急に道に飛び出してきた自転車を車が避けられなかったようだ。そのまま車は自転車に追突した格好のようだ。
「き、君っ、だっ、大丈夫か!」
車から慌てて飛び出てきた中年男が少女に駆け寄った。悲壮な顔をしている。
救急車を呼ばなければならない事態だ。
男は僕達が見ているのを知っているので、まさかひき逃げというわけにもいかない。
少女の方に目をやると、かなりの重傷に見える。
君島さんが、息を飲むような顔で僕の腕を引き、
「屑木くん・・あ、あれ・・」と少女のある部位を指した。
僕は仰向けに倒れている少女を見た。足がおかしな方向に曲がっている。
それよりも異様に映ったのは、その腹部だった。
おそらく自転車のハンドルには、それを覆うグリップが元々無かったのだろうか、
ハンドルが少女の腹部から衣服を突き破り、飛び出していた。折れ曲がったブレーキレバーがあらぬ位置から顔を覗かせている。
じわじわと血が少女の体に溢れ出してきた。ドクンドクンと音が聞こえるようだ。
いかにハンドルにグリップがないとはいえ、人間の体を貫くことはない。そう思う。しかし、現に僕はそんなものを見ている。
つまり・・少女の体が異様に柔らかいのだ。
男もその様子を見たのか、一瞬で顔が凍りついたのがわかった。
「ああっ・・何てことだ。どうしたらいいんだ」男は誰ともなく言った。
男は電話を取り出し、警察や、救急車の手配を始めた。
そんな男の行動とは関係なく、
少女は、体に突き刺さった自転車のパーツからその身を起こし、ゆらりと立ち上がった。更に血がポタポタと足元に垂れ落ちる。よく見ると、少女のふくらはぎに自転車のタイヤのスポークが刺さっている。
男はその様子を見るなり、
「君っ、じっとしっといてくれ。今、救急車を呼んだから・・立つと傷口がひろがる・・」
男の言葉はそこで止まった。
少女が向かってきたからだ。
君島さんが小さく言った。
「屑木くん・・彼女は、吸血鬼よね」
僕は、
「ああ。それも『あれ』が体内に寄生しているタイプだ」と言った。
「あれ」が見えるわけではないが、あの様子は尋常ではない。
この少女がいつ吸血鬼になったのか知らない。今まで何人の血を吸ったのか、それも知らない。
だが、松村や、佐々木奈々よりはるかに時間が経過した状態だと推測される。
まず、少女の顔・・首が曲がっている上に、あちこちが、ひび割れている。少しでも頬を突けば、その皮膚がぺろっと捲れて、落ちそうだ。
それにさっきから一言も発していない。言語機能がないのか。
もう散会の時間だ。町の中を闇が押し寄せている。
神城は、「遅くなったから急いで帰る」と言いながら、君島さんを横目で見て、
「どうせ、私がいなくなったら、屑木くんの血を吸うんでしょ」と嫌味たらしく言った。
君島さんが「悪い?」と対抗するように言って、「何なら、神城さんも私達の仲間に入る?」と問いかけた。
「遠慮しておくわ」神城はそう言って去った。
神城の姿が見えなくなるや否や。僕と君島さんは近くの路地裏に入り込み、互いに血を吸い合った。
先ほど大量の血を見たせいか、体が血に飢えていた。
それは君島さんも同じだ。
互いに吸い合うという行為。それは血を循環させているだけのようだが、不思議と充足感がある。
先に血を吸われている君島さんは喘ぎ声を洩らしながら、
「もうたまらないわ・・」
何が「たまらない」のか・・訊くまでもなく僕にはわかる。
・・もっと血を吸いたいのだ。
けれど、この吸い方では、それほど、体に入ってこない。入ってきても相方の君島さんに吸われる。
まるで慰め合っている行為のようだ。互いの欲求を循環し合っている。
その先には何もない。
あるのは、こんな状態では収まりがつかなくなっているということだ。
体が無意識に「あれ」を欲している。そうすれば・・
その時だった。
どんっ・・ガチャンッ!
激しい音がした。何かと何かがぶつかり、破壊された大きな音だ。
通りを見ると、軽自動車の前に、自転車・・そして、僕らと同年代くらいの女子高生が倒れていた。同じ高校の制服だ。知っている子かもしれない。
急に道に飛び出してきた自転車を車が避けられなかったようだ。そのまま車は自転車に追突した格好のようだ。
「き、君っ、だっ、大丈夫か!」
車から慌てて飛び出てきた中年男が少女に駆け寄った。悲壮な顔をしている。
救急車を呼ばなければならない事態だ。
男は僕達が見ているのを知っているので、まさかひき逃げというわけにもいかない。
少女の方に目をやると、かなりの重傷に見える。
君島さんが、息を飲むような顔で僕の腕を引き、
「屑木くん・・あ、あれ・・」と少女のある部位を指した。
僕は仰向けに倒れている少女を見た。足がおかしな方向に曲がっている。
それよりも異様に映ったのは、その腹部だった。
おそらく自転車のハンドルには、それを覆うグリップが元々無かったのだろうか、
ハンドルが少女の腹部から衣服を突き破り、飛び出していた。折れ曲がったブレーキレバーがあらぬ位置から顔を覗かせている。
じわじわと血が少女の体に溢れ出してきた。ドクンドクンと音が聞こえるようだ。
いかにハンドルにグリップがないとはいえ、人間の体を貫くことはない。そう思う。しかし、現に僕はそんなものを見ている。
つまり・・少女の体が異様に柔らかいのだ。
男もその様子を見たのか、一瞬で顔が凍りついたのがわかった。
「ああっ・・何てことだ。どうしたらいいんだ」男は誰ともなく言った。
男は電話を取り出し、警察や、救急車の手配を始めた。
そんな男の行動とは関係なく、
少女は、体に突き刺さった自転車のパーツからその身を起こし、ゆらりと立ち上がった。更に血がポタポタと足元に垂れ落ちる。よく見ると、少女のふくらはぎに自転車のタイヤのスポークが刺さっている。
男はその様子を見るなり、
「君っ、じっとしっといてくれ。今、救急車を呼んだから・・立つと傷口がひろがる・・」
男の言葉はそこで止まった。
少女が向かってきたからだ。
君島さんが小さく言った。
「屑木くん・・彼女は、吸血鬼よね」
僕は、
「ああ。それも『あれ』が体内に寄生しているタイプだ」と言った。
「あれ」が見えるわけではないが、あの様子は尋常ではない。
この少女がいつ吸血鬼になったのか知らない。今まで何人の血を吸ったのか、それも知らない。
だが、松村や、佐々木奈々よりはるかに時間が経過した状態だと推測される。
まず、少女の顔・・首が曲がっている上に、あちこちが、ひび割れている。少しでも頬を突けば、その皮膚がぺろっと捲れて、落ちそうだ。
それにさっきから一言も発していない。言語機能がないのか。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
JOLENEジョリーン2・かごめは鬼屋を許さない また事件です『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。
尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
怖いホラーです。残酷描写ありです。
苦手な方は御注意ください。
完全フィクション作品です。
実在する個人・団体等とは一切関係ありません。
ジョリーン・鬼屋は人をゆるさない
の続編になります。不定期連載になる予定、少々お待たせします。
もしよろしければ前作も
お読みいただけると
よくご理解いただけると思います。
応援よろしくお願いいたします。
っていうか全然人気ないし
あんまり読まれないですけど
読者の方々 ありがたいです。
誠に、ありがとうございます。
読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。
もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる