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念ずる②
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「神城、君島さんには、変な声が聞こえないのか?」
「変な声は、渡辺さんでしょ」神城が答えた。
「そうじゃない。頭に入り込んでくるような声だ」
すると君島さんが「確かに聞こえるような気がするけど、何を言っているのかわからないわ」と言った。
言葉として伝わっているのは、僕だけなのか。この声は伊澄瑠璃子なのか、そう思って彼女を見ると、
「お二人とも、兄妹喧嘩は頂けませんねえ・・仲良く、私がくっ付かせてあげますわ」と天井の二人に、嘲笑しながら言った。
くっ付かせる?
そんな疑問と同時に、
男女の激しい叫びが聞こえた。
それは、天井からだ。渡辺さんとサヤカだ。その声は人間でもあり、怪物のような声でもあった。その声はいわゆる断末魔だった。
天井がミシミシと音を立て、垂れ下がってきた。二人の重量が一気に増えたようだ。体の中身が膨らんだのだろうか? パラパラと木屑のようなものが落ちてきて、柱がぐらりと傾いたように見えた。
やがて、眩暈が治まり、元の視界と空気に戻ると、伊澄瑠璃子は、困惑する僕たちを見ながら、
「うっとうしい者たちは、片付けました」と言った。「本当は、もっと早くこうすべきだったのかもしれませんね。けれど、私は、今回のお話を皆さんにした後、こうしたかったのです」
そう話す伊澄瑠璃子に神城が恐る恐る、
「伊澄さん・・片付けたって、まさか、二人とも殺したの?」と訊いた。
伊澄瑠璃子は「ええ、そうですよ。まだ少し息はあるとは思いますが」と笑った。
その目は光り、風もないのに、ふわりと髪が揺れ、その姿には何か神々しいものさえ感じた。
「お二人の肉体は心と共に、御一緒になったと思いますわ」
「一緒って?」そんな疑問を浮かべる神城に僕は、
「伊澄さんは、あの二人に殺し合いをさせたのだと思う」と言った。
「殺し合い?」
そして、二つの体を一つの肉の塊にした、と推察される。
理解できない様子の神城に僕は説明した。そして、神城は理解するにつれ、憤りの表情を浮かべ、何度も「ひどいわ」と繰り返した。
そんな神城に伊澄瑠璃子は、
「だって、あの二人、生きていても仕方ないではありませんか」と言った。
すると神城が間髪入れず、
「そんなの伊澄さんが決めることじゃないわ!・・それに、何でそんなことが伊澄さんにできるのよ。絶対におかしいわ」と怒鳴った。
確かにそうだ。伊澄瑠璃子にそんなことを決める権利はないし、
伊澄瑠璃子の力、あるいは姉のレミの力だけで、そんなことが果たして出来るのか、という疑問もある。
神城は続けて、
「それに、渡辺さんたちは、伊澄さんに助けて欲しくてここに来たんじゃないの?」と言った。
とても、そんな風には見えなかったが、神城なりの正義感なのだろう。
「さあ、それはどうでしょう?」伊澄瑠璃子はそう言って「私を殺めに来られたのではないでしょうか?」と笑顔で返した。
いずれにせよ、その目的を訊こうにも、その二人は口の聞ける状態ではないだろう。
だが、僕はこう思う。
あの二人には、憎しみや、怒りの矛先が、他に無かったのではないだろうか?
感情の持っていき場を見失った行動は、サヤカが伊澄瑠璃子の姉に嫉妬し、邪悪な計画を立てたのと似通っている。
だが、そのどちらも間違った行動だ。
そう思った時、
「違うでしょ!」君島さんが声を上げた。
「伊澄さん、あなたが、あの二人をここに呼んだんでしょう!」
君島さんが言ったことが図星なのか、伊澄瑠璃子は沈思している。
伊澄瑠璃子はわざわざ渡辺兄妹をここに呼んだ。あの不良少女たちの行動を操った彼女ならそれができるのではないか。
君島さんは、「そして、私達と一緒にここに来るように仕向けた・・あんたならそれができるんじゃないの」と続けて言った。
君島さんは伊澄瑠璃子を「あんた」呼ばわりして、「あんたは、いつも教室でそうやって、取り巻きの女子の数を調整していたんでしょ!」と言った。
そう言えば、君島さんが僕達と親しくなったのは、そんな会話がきっかけだった。
・・伊澄瑠璃子は取り巻きの数を調整している。君島さんはそう指摘した。
それは、自分の周囲の環境を保つためだ。つけ加えるなら、そうやって授業中の教師も操っていた。
そんな様々な思考が交錯する中、
突然、天井で「あががががっ」と二人の重なった声がした。
続けて天井でギシギシと軋む音がしたかと思うと、グチャッ、と何かが破裂するような音が聞こえた。そして「んごほおおおっ!」と最期の声が届いた。男女の混ざった声だ。
一つになった肉の塊が破裂したのだろうか?
天井板の隙間からタラタラと血が垂れてきた。大量の血だ。二人分の血だ。おそらく肉が弾け飛んだせいだろう。
次の瞬間、神城が「いやああっ」と悲痛な声を上げた。
その血を見た瞬間、僕はゴクリと喉を鳴らした。
・・血が飲みたい。目の前にこんなに血がある。
「屑木くん、この血を飲みますか? かまいませんよ、ここで飲まれても・・」
伊澄瑠璃子が誘うように訊ねた。
激しい誘惑が襲った。なりふり構わず血が飲みたい。
僕の渇望を察した君島さんが、僕の手をぐいと引き「屑木くん、この血はやめときましょう。私も飲みたいけど、この血は飲んではいけない気がするわ」と制した。
君島さんは続けて「血なら、あとで私の血をたっぷり飲ませてあげる」と言った。
僕は君島さんの「あとでたっぷり」という魅力的な言葉で何とか自制した。
「変な声は、渡辺さんでしょ」神城が答えた。
「そうじゃない。頭に入り込んでくるような声だ」
すると君島さんが「確かに聞こえるような気がするけど、何を言っているのかわからないわ」と言った。
言葉として伝わっているのは、僕だけなのか。この声は伊澄瑠璃子なのか、そう思って彼女を見ると、
「お二人とも、兄妹喧嘩は頂けませんねえ・・仲良く、私がくっ付かせてあげますわ」と天井の二人に、嘲笑しながら言った。
くっ付かせる?
そんな疑問と同時に、
男女の激しい叫びが聞こえた。
それは、天井からだ。渡辺さんとサヤカだ。その声は人間でもあり、怪物のような声でもあった。その声はいわゆる断末魔だった。
天井がミシミシと音を立て、垂れ下がってきた。二人の重量が一気に増えたようだ。体の中身が膨らんだのだろうか? パラパラと木屑のようなものが落ちてきて、柱がぐらりと傾いたように見えた。
やがて、眩暈が治まり、元の視界と空気に戻ると、伊澄瑠璃子は、困惑する僕たちを見ながら、
「うっとうしい者たちは、片付けました」と言った。「本当は、もっと早くこうすべきだったのかもしれませんね。けれど、私は、今回のお話を皆さんにした後、こうしたかったのです」
そう話す伊澄瑠璃子に神城が恐る恐る、
「伊澄さん・・片付けたって、まさか、二人とも殺したの?」と訊いた。
伊澄瑠璃子は「ええ、そうですよ。まだ少し息はあるとは思いますが」と笑った。
その目は光り、風もないのに、ふわりと髪が揺れ、その姿には何か神々しいものさえ感じた。
「お二人の肉体は心と共に、御一緒になったと思いますわ」
「一緒って?」そんな疑問を浮かべる神城に僕は、
「伊澄さんは、あの二人に殺し合いをさせたのだと思う」と言った。
「殺し合い?」
そして、二つの体を一つの肉の塊にした、と推察される。
理解できない様子の神城に僕は説明した。そして、神城は理解するにつれ、憤りの表情を浮かべ、何度も「ひどいわ」と繰り返した。
そんな神城に伊澄瑠璃子は、
「だって、あの二人、生きていても仕方ないではありませんか」と言った。
すると神城が間髪入れず、
「そんなの伊澄さんが決めることじゃないわ!・・それに、何でそんなことが伊澄さんにできるのよ。絶対におかしいわ」と怒鳴った。
確かにそうだ。伊澄瑠璃子にそんなことを決める権利はないし、
伊澄瑠璃子の力、あるいは姉のレミの力だけで、そんなことが果たして出来るのか、という疑問もある。
神城は続けて、
「それに、渡辺さんたちは、伊澄さんに助けて欲しくてここに来たんじゃないの?」と言った。
とても、そんな風には見えなかったが、神城なりの正義感なのだろう。
「さあ、それはどうでしょう?」伊澄瑠璃子はそう言って「私を殺めに来られたのではないでしょうか?」と笑顔で返した。
いずれにせよ、その目的を訊こうにも、その二人は口の聞ける状態ではないだろう。
だが、僕はこう思う。
あの二人には、憎しみや、怒りの矛先が、他に無かったのではないだろうか?
感情の持っていき場を見失った行動は、サヤカが伊澄瑠璃子の姉に嫉妬し、邪悪な計画を立てたのと似通っている。
だが、そのどちらも間違った行動だ。
そう思った時、
「違うでしょ!」君島さんが声を上げた。
「伊澄さん、あなたが、あの二人をここに呼んだんでしょう!」
君島さんが言ったことが図星なのか、伊澄瑠璃子は沈思している。
伊澄瑠璃子はわざわざ渡辺兄妹をここに呼んだ。あの不良少女たちの行動を操った彼女ならそれができるのではないか。
君島さんは、「そして、私達と一緒にここに来るように仕向けた・・あんたならそれができるんじゃないの」と続けて言った。
君島さんは伊澄瑠璃子を「あんた」呼ばわりして、「あんたは、いつも教室でそうやって、取り巻きの女子の数を調整していたんでしょ!」と言った。
そう言えば、君島さんが僕達と親しくなったのは、そんな会話がきっかけだった。
・・伊澄瑠璃子は取り巻きの数を調整している。君島さんはそう指摘した。
それは、自分の周囲の環境を保つためだ。つけ加えるなら、そうやって授業中の教師も操っていた。
そんな様々な思考が交錯する中、
突然、天井で「あががががっ」と二人の重なった声がした。
続けて天井でギシギシと軋む音がしたかと思うと、グチャッ、と何かが破裂するような音が聞こえた。そして「んごほおおおっ!」と最期の声が届いた。男女の混ざった声だ。
一つになった肉の塊が破裂したのだろうか?
天井板の隙間からタラタラと血が垂れてきた。大量の血だ。二人分の血だ。おそらく肉が弾け飛んだせいだろう。
次の瞬間、神城が「いやああっ」と悲痛な声を上げた。
その血を見た瞬間、僕はゴクリと喉を鳴らした。
・・血が飲みたい。目の前にこんなに血がある。
「屑木くん、この血を飲みますか? かまいませんよ、ここで飲まれても・・」
伊澄瑠璃子が誘うように訊ねた。
激しい誘惑が襲った。なりふり構わず血が飲みたい。
僕の渇望を察した君島さんが、僕の手をぐいと引き「屑木くん、この血はやめときましょう。私も飲みたいけど、この血は飲んではいけない気がするわ」と制した。
君島さんは続けて「血なら、あとで私の血をたっぷり飲ませてあげる」と言った。
僕は君島さんの「あとでたっぷり」という魅力的な言葉で何とか自制した。
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