血を吸うかぐや姫

小原ききょう

文字の大きさ
上 下
93 / 118

主従関係①

しおりを挟む
◆主従関係

「あらあら、兄と妹、それぞれに、みっともないお姿になったわねえ」
 伊澄瑠璃子はそう言って冷笑した。可笑しくてしょうがないようだ。
 その言葉通り、サヤカは僕が突き飛ばし、渡辺さんは、君島さんの肘鉄で顎を砕かれた。
 その結果、渡辺さんの顔が醜く歪み、サヤカは、縮んだ足のせいで、体を動かすことが出来ないでいる。
 この状況下では、この二人は僕たちの血を吸うことはできない。
「あれ」の体内寄生型は意外ともろい。そんな事実を確認したような気がした。
 この二人は、こんな目に合いにわざわざここに来たのだろうか?
 それとも、それほど切羽詰っているのだろうか?
 そして、更にこの二人を懲らしめるようなことを伊澄瑠璃子は言った。
「うふふっ、屑木くんが、わざわざ、サヤカさんを突き飛ばさなくても、彼女は私が痛めつけるつもりだったのよ」
 伊澄さんは、更にサヤカに何かをするつもりなのか。

 伊澄瑠璃子は「サヤカさん」と呼びかけ、
「あなたには、もっと苦しんでもらわないといけないのよ。なぜなら、レミ姉さんは、サヤカさんの数十倍も苦しんだのですもの」と冷酷な口調で言った。
 すると、サヤカのもはや顔とも判断がつきかねるような顔が恐怖におののいた。
 
 伊澄瑠璃子は、そんなサヤカを直視した後、静かに目を閉じた。
 だが、ものの数秒で伊澄瑠璃子は目を見開いた。
 暗闇の中、その切れ長の瞳がカッと光った気がした。何かの思念を放ったような光だ。
 同時に、
 プシュウッ、と、何かの破裂音がした。
「あがっはああっ」サヤカの慟哭が響く。
 サヤカの破れた服の間から、液体が噴き出したのだ。丁度、異様に膨らんだ腹部の辺りだ。サヤカの皮膚、いや、肉が破れたのか、液体は際限なく溢れ出ている。

 その様子を見ながら、伊澄瑠璃子は、
「あなたの中にいる、レミ姉さんの体の一部をもっと大きくさせてあげるわ」と言った。
 サヤカの中で、「あれ」が更に膨張しているのか。
 サヤカは「ひいっ」と叫び声をあげ、身を守るように、その場にうずくまった。腹部を押さえようにも触手のような腕では、何もできない。
 渡辺さんがサヤカに駆け寄り、その体を抱擁した。
 サヤカの肉が破れたような所から、ドロリとした液体が噴き出て畳に落ちる。
 溢れ出し止まらない液体を眺め伊澄瑠璃子は、
「その肉の破れたところを見ると、あなたのお兄さんが、中にいるレミ姉さんの一部を懸命に取り出そうと、頑張ったようね」と言った。
 続けて、「でも、お腹の肉を破ってはダメよねえ」と、具体的に言った。
 中の「あれ」を取り出す・・そんな場面を想像したのか、神城が「やだ、気持ち悪い」と言った。
 そして、伊澄瑠璃子は静かにこう言った。
「でも、無駄よ・・」
 取り出そうとしても無駄・・
「無駄」という言葉に、一番ショックを受けていたのは、神城かも知れない。言葉に出さなくてもわかる。友達思いの神城のことだ。佐々木奈々のことを考えているのだろう。
 だが、僕はまだ諦めていない。伊澄瑠璃子は言った。間に合う者もいる、と。

「もうやめてくれっ、これ以上、サヤカを苦しめないであげてくれ!」
 渡辺さんは、嘲笑し続ける伊澄瑠璃子に言った。
 すると、サヤカが「にいさん・・」と小さく言った。
 その様子を見ながら、伊澄瑠璃子は「美しい兄妹愛ね」と憐れむように言った。
「けれど、私たち、姉妹は、あなたたち以上に強い愛で結ばれていたのよ」と続けた。
 更に渡辺さんに向かって、
「あなたがした間違いは、私の目の前で、屑木くんたちの血を吸おうとしたことね」
 そう言った伊澄瑠璃子を渡辺さんは睨んでいる。
 妹がこんな目に合って、悔しいのか、それとも、何か策略でも考えているのか?

 この渡辺という男・・その妹のサヤカには、伊澄さんの姉を陥れたという罪があるが、渡辺さん自身には何もないのではないだろうか。
 ただサヤカの兄というだけのことだ。
 だが、伊澄瑠璃子は、決して許さない。彼女には、世間の道理など通用はしないのかもしれない。

 すると、神城が、
「体が動くわ」と安堵の声を上げた。それは君島さんも同じだ。
 サヤカの催眠の力が弱まったのか。あんな体では催眠の力も、長くは続かないのかもしれない。
「屑木くん、早くここから出ましょう」
 そう言った神城に、
 僕は、「ちょっと待て」と制し、「外も危ないかもしれない」と言った。
「ええっ、外も危ないの?」
「外の人間たち、ひょっとしたら、吸血鬼かもしれない」
「あのお婆さんたちが」
 神城は信じられない、という顔をした。そうでないことを願う。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

JOLENEジョリーン2・かごめは鬼屋を許さない また事件です『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
怖いホラーです。残酷描写ありです。 苦手な方は御注意ください。 完全フィクション作品です。 実在する個人・団体等とは一切関係ありません。 ジョリーン・鬼屋は人をゆるさない  の続編になります。不定期連載になる予定、少々お待たせします。 もしよろしければ前作も お読みいただけると よくご理解いただけると思います。 応援よろしくお願いいたします。 っていうか全然人気ないし あんまり読まれないですけど 読者の方々 ありがたいです。 誠に、ありがとうございます。 読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。 もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。 大変励みになります。 ありがとうございます。

原典怪飢

食う福
ホラー
食べるのが好きな女の子と怪異のお話 不定期で筆が乗ったら更新します。 ホラーじゃないけどミステリーでもなさそう。 短編じゃないけど長編でもなさそう。

処理中です...