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主従関係①
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◆主従関係
「あらあら、兄と妹、それぞれに、みっともないお姿になったわねえ」
伊澄瑠璃子はそう言って冷笑した。可笑しくてしょうがないようだ。
その言葉通り、サヤカは僕が突き飛ばし、渡辺さんは、君島さんの肘鉄で顎を砕かれた。
その結果、渡辺さんの顔が醜く歪み、サヤカは、縮んだ足のせいで、体を動かすことが出来ないでいる。
この状況下では、この二人は僕たちの血を吸うことはできない。
「あれ」の体内寄生型は意外ともろい。そんな事実を確認したような気がした。
この二人は、こんな目に合いにわざわざここに来たのだろうか?
それとも、それほど切羽詰っているのだろうか?
そして、更にこの二人を懲らしめるようなことを伊澄瑠璃子は言った。
「うふふっ、屑木くんが、わざわざ、サヤカさんを突き飛ばさなくても、彼女は私が痛めつけるつもりだったのよ」
伊澄さんは、更にサヤカに何かをするつもりなのか。
伊澄瑠璃子は「サヤカさん」と呼びかけ、
「あなたには、もっと苦しんでもらわないといけないのよ。なぜなら、レミ姉さんは、サヤカさんの数十倍も苦しんだのですもの」と冷酷な口調で言った。
すると、サヤカのもはや顔とも判断がつきかねるような顔が恐怖におののいた。
伊澄瑠璃子は、そんなサヤカを直視した後、静かに目を閉じた。
だが、ものの数秒で伊澄瑠璃子は目を見開いた。
暗闇の中、その切れ長の瞳がカッと光った気がした。何かの思念を放ったような光だ。
同時に、
プシュウッ、と、何かの破裂音がした。
「あがっはああっ」サヤカの慟哭が響く。
サヤカの破れた服の間から、液体が噴き出したのだ。丁度、異様に膨らんだ腹部の辺りだ。サヤカの皮膚、いや、肉が破れたのか、液体は際限なく溢れ出ている。
その様子を見ながら、伊澄瑠璃子は、
「あなたの中にいる、レミ姉さんの体の一部をもっと大きくさせてあげるわ」と言った。
サヤカの中で、「あれ」が更に膨張しているのか。
サヤカは「ひいっ」と叫び声をあげ、身を守るように、その場にうずくまった。腹部を押さえようにも触手のような腕では、何もできない。
渡辺さんがサヤカに駆け寄り、その体を抱擁した。
サヤカの肉が破れたような所から、ドロリとした液体が噴き出て畳に落ちる。
溢れ出し止まらない液体を眺め伊澄瑠璃子は、
「その肉の破れたところを見ると、あなたのお兄さんが、中にいるレミ姉さんの一部を懸命に取り出そうと、頑張ったようね」と言った。
続けて、「でも、お腹の肉を破ってはダメよねえ」と、具体的に言った。
中の「あれ」を取り出す・・そんな場面を想像したのか、神城が「やだ、気持ち悪い」と言った。
そして、伊澄瑠璃子は静かにこう言った。
「でも、無駄よ・・」
取り出そうとしても無駄・・
「無駄」という言葉に、一番ショックを受けていたのは、神城かも知れない。言葉に出さなくてもわかる。友達思いの神城のことだ。佐々木奈々のことを考えているのだろう。
だが、僕はまだ諦めていない。伊澄瑠璃子は言った。間に合う者もいる、と。
「もうやめてくれっ、これ以上、サヤカを苦しめないであげてくれ!」
渡辺さんは、嘲笑し続ける伊澄瑠璃子に言った。
すると、サヤカが「にいさん・・」と小さく言った。
その様子を見ながら、伊澄瑠璃子は「美しい兄妹愛ね」と憐れむように言った。
「けれど、私たち、姉妹は、あなたたち以上に強い愛で結ばれていたのよ」と続けた。
更に渡辺さんに向かって、
「あなたがした間違いは、私の目の前で、屑木くんたちの血を吸おうとしたことね」
そう言った伊澄瑠璃子を渡辺さんは睨んでいる。
妹がこんな目に合って、悔しいのか、それとも、何か策略でも考えているのか?
この渡辺という男・・その妹のサヤカには、伊澄さんの姉を陥れたという罪があるが、渡辺さん自身には何もないのではないだろうか。
ただサヤカの兄というだけのことだ。
だが、伊澄瑠璃子は、決して許さない。彼女には、世間の道理など通用はしないのかもしれない。
すると、神城が、
「体が動くわ」と安堵の声を上げた。それは君島さんも同じだ。
サヤカの催眠の力が弱まったのか。あんな体では催眠の力も、長くは続かないのかもしれない。
「屑木くん、早くここから出ましょう」
そう言った神城に、
僕は、「ちょっと待て」と制し、「外も危ないかもしれない」と言った。
「ええっ、外も危ないの?」
「外の人間たち、ひょっとしたら、吸血鬼かもしれない」
「あのお婆さんたちが」
神城は信じられない、という顔をした。そうでないことを願う。
「あらあら、兄と妹、それぞれに、みっともないお姿になったわねえ」
伊澄瑠璃子はそう言って冷笑した。可笑しくてしょうがないようだ。
その言葉通り、サヤカは僕が突き飛ばし、渡辺さんは、君島さんの肘鉄で顎を砕かれた。
その結果、渡辺さんの顔が醜く歪み、サヤカは、縮んだ足のせいで、体を動かすことが出来ないでいる。
この状況下では、この二人は僕たちの血を吸うことはできない。
「あれ」の体内寄生型は意外ともろい。そんな事実を確認したような気がした。
この二人は、こんな目に合いにわざわざここに来たのだろうか?
それとも、それほど切羽詰っているのだろうか?
そして、更にこの二人を懲らしめるようなことを伊澄瑠璃子は言った。
「うふふっ、屑木くんが、わざわざ、サヤカさんを突き飛ばさなくても、彼女は私が痛めつけるつもりだったのよ」
伊澄さんは、更にサヤカに何かをするつもりなのか。
伊澄瑠璃子は「サヤカさん」と呼びかけ、
「あなたには、もっと苦しんでもらわないといけないのよ。なぜなら、レミ姉さんは、サヤカさんの数十倍も苦しんだのですもの」と冷酷な口調で言った。
すると、サヤカのもはや顔とも判断がつきかねるような顔が恐怖におののいた。
伊澄瑠璃子は、そんなサヤカを直視した後、静かに目を閉じた。
だが、ものの数秒で伊澄瑠璃子は目を見開いた。
暗闇の中、その切れ長の瞳がカッと光った気がした。何かの思念を放ったような光だ。
同時に、
プシュウッ、と、何かの破裂音がした。
「あがっはああっ」サヤカの慟哭が響く。
サヤカの破れた服の間から、液体が噴き出したのだ。丁度、異様に膨らんだ腹部の辺りだ。サヤカの皮膚、いや、肉が破れたのか、液体は際限なく溢れ出ている。
その様子を見ながら、伊澄瑠璃子は、
「あなたの中にいる、レミ姉さんの体の一部をもっと大きくさせてあげるわ」と言った。
サヤカの中で、「あれ」が更に膨張しているのか。
サヤカは「ひいっ」と叫び声をあげ、身を守るように、その場にうずくまった。腹部を押さえようにも触手のような腕では、何もできない。
渡辺さんがサヤカに駆け寄り、その体を抱擁した。
サヤカの肉が破れたような所から、ドロリとした液体が噴き出て畳に落ちる。
溢れ出し止まらない液体を眺め伊澄瑠璃子は、
「その肉の破れたところを見ると、あなたのお兄さんが、中にいるレミ姉さんの一部を懸命に取り出そうと、頑張ったようね」と言った。
続けて、「でも、お腹の肉を破ってはダメよねえ」と、具体的に言った。
中の「あれ」を取り出す・・そんな場面を想像したのか、神城が「やだ、気持ち悪い」と言った。
そして、伊澄瑠璃子は静かにこう言った。
「でも、無駄よ・・」
取り出そうとしても無駄・・
「無駄」という言葉に、一番ショックを受けていたのは、神城かも知れない。言葉に出さなくてもわかる。友達思いの神城のことだ。佐々木奈々のことを考えているのだろう。
だが、僕はまだ諦めていない。伊澄瑠璃子は言った。間に合う者もいる、と。
「もうやめてくれっ、これ以上、サヤカを苦しめないであげてくれ!」
渡辺さんは、嘲笑し続ける伊澄瑠璃子に言った。
すると、サヤカが「にいさん・・」と小さく言った。
その様子を見ながら、伊澄瑠璃子は「美しい兄妹愛ね」と憐れむように言った。
「けれど、私たち、姉妹は、あなたたち以上に強い愛で結ばれていたのよ」と続けた。
更に渡辺さんに向かって、
「あなたがした間違いは、私の目の前で、屑木くんたちの血を吸おうとしたことね」
そう言った伊澄瑠璃子を渡辺さんは睨んでいる。
妹がこんな目に合って、悔しいのか、それとも、何か策略でも考えているのか?
この渡辺という男・・その妹のサヤカには、伊澄さんの姉を陥れたという罪があるが、渡辺さん自身には何もないのではないだろうか。
ただサヤカの兄というだけのことだ。
だが、伊澄瑠璃子は、決して許さない。彼女には、世間の道理など通用はしないのかもしれない。
すると、神城が、
「体が動くわ」と安堵の声を上げた。それは君島さんも同じだ。
サヤカの催眠の力が弱まったのか。あんな体では催眠の力も、長くは続かないのかもしれない。
「屑木くん、早くここから出ましょう」
そう言った神城に、
僕は、「ちょっと待て」と制し、「外も危ないかもしれない」と言った。
「ええっ、外も危ないの?」
「外の人間たち、ひょっとしたら、吸血鬼かもしれない」
「あのお婆さんたちが」
神城は信じられない、という顔をした。そうでないことを願う。
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