血を吸うかぐや姫

小原ききょう

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淫行事件のこと②

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「あら、そうかしら?」
 急に話に入ってきたのは、君島律子だ。
 神城が気分を害し、
「何よ、君島さん! 津山さんは大人しい子じゃないの」と突っぱねた。
 だが、君島律子は「そう見えるだけじゃない?」と言って冷笑した。
 その様子を見ていた渡辺さんが、
「君島さんの言う通りかもしれないよ」と言った。「大崎を誘惑したのは、その津山さんだと聞いている」
「ええっ!」神城の顔に驚きの表情が浮かぶ。
 君島さんは「ほら、ごらんなさい」と言いたげな顔になる。
 津山さんのイメージが一瞬で崩れる。だが、それは僕たちが津山さんに勝手に抱いていたイメージだ。
 本当だろうか? だが、何もない所に噂は立たない。
 神城は暫く沈思していたが、
「でも、淫行は淫行でしょ。津山さんがいくら誘惑してきたからって、先生の立場で生徒の誘惑に乗ってはダメよ」と委員長らしいまっとうな意見を言った。
 対して、君島さんは「ふん」とそっぽを向いた。

 渡辺さんは「でも、おかしいな。彼女はそんな子ではなかったということなんだな」と小さく言った。神城が「そうですよ。津山さんはそんな子じゃないです」と念押しした。
 もしかすると、
「これは僕の推測ですけど」と話を切り出した。「津山さんは、何かの催眠術みたいなものにかかっていたんじゃないでしょうか? それで普段おとなしい津山さんが、本意でないようなことをしたんじゃないかと思います」
「催眠術?」
 そう言った渡辺さんのそんな顔を見ると、彼は伊澄瑠璃子の周囲にある結界や、催眠については詳しく知らないと思えた。
 渡辺さんは「誰が、何のためにそんなことを?」と僕に訊ねた。「僕には理解できないな」

 すると、君島さんが横で、話の流れに文句を言うように
「催眠術も何も、津山さんって、そんな女の子よ。過去にも男子が彼女に誘惑されたって、話を聞いているわ」と言った。
「君島さん、その話、本当なの?」と神城が訊いた。
「本当よ。なんで私がそんな嘘をついたりするの」とつっけんどんに君島さんが答える。

 僕の見方が違ったのか。
 ならば、話が全然変わって見えてくる。
 だが、この話には絶対に、伊澄瑠璃子が絡んでいるように思える。
 そして、伊澄瑠璃子は、「不純なものは嫌い」と言っていた。
 それは、体育の大崎先生のことだと思っていた。
 もちろん、彼女から見れば、大崎もその対象だろう。
 しかし、伊澄瑠璃子の本命は、淫行の相手の津山静香だったのではないか。

 僕は神城にこう言った。
「催眠にかかっていたのは、大崎先生の方だったんじゃないか?」
 催眠の対象は逆だった。
 元々性癖の良くない津山さんに、催眠を使って大崎が淫行するように仕向けた。
「ええっ、屑木くん、どういうこと?」
 僕は「これはあくまでも僕の想像だけど」と言って、
「伊澄さんは、不純なもの、いや、不純な人間が大嫌いなんだと思う。だから、津山さんのような女性が標的になった」
 僕はそんな推測を述べた。
「屑木くん、でもそれって、何のためにそんなことをするの?」と神城が言った。
 すると君島さんが「嫌いなのよ。近くにいて欲しくないんじゃない? 誰かさんみたいに」と神城に当てつけるように言った。
「ちょっと、君島さん、それどういうこと? 誰のこと?」と返した。
 そんな二人を見ながら、
「君たち、仲がいいんだね」と渡辺さんが笑った。
 その言葉に、二人の心に火を点ける。
「そんなわけ、ないじゃないですか!」神城が怒り、
「ふん!」と君島さんが更にそっぽを向ける。

 そんな様子を微笑ましく見ていた渡辺さんは、
「話はだいたい見えてきた。君たちに声をかけて本当によかったよ」と言った。

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