血を吸うかぐや姫

小原ききょう

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変容する町②

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 だが、人間というものは「見るな」と言われると、よけいにその方向に目を向けたくなるものらしい。
 ウェイトレスは、ゆっくりと男の方に顔を向けていった。
「んっ!」という女のくぐもった声が、ここからでも聞こえた。
 女の口が男の口によって塞がれたのだ。
「んぐううふうううっ」苦しそうな声が洩れる。
 男の口から逃れようとする女の頭が右に左にと振られた。
 女が助けを呼ぶように、腕を空に向けて伸ばした。

 僕にはわかる・・男がウェイトレスの口腔に「あれ」を挿入し、血を吸っているのだ。
 ・・あの屋敷で痩せた大学生の男が言っていた。
「俺たちは、口から血を吸う・・だがな、それだと、けっこう要領が悪いんだ。時間もかかる」
 あの男は口から「あれ」を垂らしながら。
「ほら・・見てみろ・・『これ』を使えば、まとめて大量の血を吸い上げることができる」と言っていた。

「ねえ、屑木くん・・何とか助けられないの?」神城が息を荒くしながら言った。
 神城に返事が出来ない・・相手は吸血鬼だ。
 出来ることと言えば、僕らがここから逃げるくらいだ。
 だが、それでいいのか?
 
 誰かが、「あの男・・ウェイトレスに無理やりキスをしやがった」と大きく言った。
「道理でイヤらしい顔をしていたはずだ」
 さすがに黙っていられなくなった男たちが、その男に詰め寄り、
「おい、貴様っ、何をしてる! やめないか」と言って、男の肩を掴みウェイトレスから引き剥がそうとする。加勢するように別の男が片方の肩を掴んだ。
 そして、予想通り、次の瞬間、
 大の男二人が、同時に吹き飛んだ。子供用の商品を並べた棚にぶち当たったかと思うと、入り口の自動ドアにまで転げた。

 この店から出るには、あの男たちを退けながら出ることになる。
 それでいいのか? 人間として・・
 その時、僕は思い返していた。
 松村は、血を吸われ、運動神経がよくなった。
 それは、体内に「あれ」を入れられたからだと思っていた。
 ・・違うのではないか?
 既に僕も力が強くなっているのではないだろうか?
 そして、問題の瞬間移動だ。
 初めて、僕が血を吸われた時・・その相手は黒崎みどりだった。
 あの時の黒崎みどりは、体に「あれ」を入れられる前だった。それなのに、いつのまにか彼女は僕の背後にまわっていた。

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