56 / 118
吸血鬼バトル①
しおりを挟む
◆吸血鬼バトル
そんな僕らのやり取りを見ながら、男が、
「おい、お前ら。俺たちに催眠をかけたといい気になっているだろ」と言った。
男に合わせて女が、「あんたたち、まだ血があるじゃない」と松村と佐々木を見ながら言った。
松村や佐々木に血がある・・僕と君島さんと同じように・・
僕は松村に「そうなのか?・・血があるのか?」と尋ねた。
「ああ、血はあるさ・・屑木や君島さんとの違いは、俺と佐々木の体の中には『あれ』が入っている・・そういうことだ」
松村の言葉が終わらぬうちに、女が、
「だから、その残りも一滴残らず、全部、私が吸い取ってあげるわ」と叫ぶように言った。
そのまま女は天を仰ぎ見た。月を見るように顔を上げ、そして、口を大きく開けた。
「んあああっ」女の口が大きく開いた。
顎が外れているのではないかと思うくらいに開き切った。
松村が言っていた・・体が柔らかく・・いや、骨がやらかく、と。
あいつら、骨を自由に折り曲げられるのか?
んごっ、んごっ、と女の意味不明の声が洩れたかと思うと、
女の口元に、舌であるはずの部位が垂れ下がり出てきた。
舌の代わりに、女の体の奥底から出てきたのは、さっき楽器のケースから這い出てきたような、『あれ』の小型版だった。
小型と言っても女の口を壊してしまうくらいの大きさだ。しかも、それには小さな蛙のような手が点いている。手は女の口の端を支えにして這い出ようとしている。
「はあああっ」大きな息を吐いたようだ。まるで人間の呼吸のように。
「ひいっ」君島さんの細い声が上がった。「や、やだ・・気味が悪い」
あれが、直接、僕たちの血を吸うのか?
女が、口を使って血を吸うのではないのか? それが本来の吸血鬼というものだと思っていた。
そんな僕の疑問を解消するように、松村が言った。
「あれは、移動体なんだ。あれの本体は屋敷の中だ」
「ケースから這い出てきたのがいたぞ・・あれが本体か?」
僕がそう言うと、
「それは、僕は見ていないが、要するに本体は人間のサイズだ」と松村は答えた。
人間のサイズ・・それは人間のようなもの。
「松村・・お前は、あれが血を吸う、と言っていたよな?」
「そうだ・・あれが血を吸うんだ」
「それなら・・屋敷の大きな奴も、女の口からはみ出ているのも血を吸うのか?」
僕がそう訊くと松村はそこまでは知らないのか、言い澱んだ。
すると今度は、男の方が笑いながら、
「俺たちは、口から血を吸う・・だがな、それだと、けっこう要領が悪いんだ。時間もかかる」と言った。
「ほら・・見てみろ・・『これ』を使えば、まとめて大量の血を吸い上げることができる」
得意気に言う男の口からも、あのねっとりした物が出かかって左右にふるふると動いている。まるで獲物を探しているかのようだ。
「こいつを人間の口の中に差し込めば、ものの数分で血を全部吸い上げることが出来る」と誇らしげに説明した。
「だが、これは小さくて、本体ほどには吸引力がない・・離れている人間の血は吸うことが出来ないんだ。だから、催眠を使って相手を引き寄せるんだよ」
そういうことか、
屋敷で見た白山あかねから飛び出た血も、さっき佐々木から吹き出した血も、強い吸引力があるから出来たということか。
だが、こいつら男女の中にある「あれ」は小さくてそんな芸当はできない。対象の人間の口の中に入れなければ吸えない。
ならば、こっちは催眠にかからないようにして逃げるだけだ。
そんな状況の中、松村は、
「屑木・・早く行け! ここから出るんだ」と叫んだ。「君島さんを頼んだぞ」
「松村、わかった」
仕方ない。本当は松村と佐々木を置いて僕だけが逃げるわけにはいかない。
だが今の僕には君島さんという守らなければならない女の子がいる。
君島さんが僕にすがり、
「屑木くん・・あ、あれ・・」と女から出てくる異体を指した。
女の口から這い出た物は夜の空に昇るように出たかと思うと、今度はズルズルと垂れ下がりながら出続けている。
「君島さん、わかってる・・だから、あれから逃げるんだ。あいつが、僕らの血を吸うんだ」
その時、君島さんの異変を感じた。
「あ、あれ?・・屑木くん・・私、体が動かない」全身をビクビクと震わせながら君島さんが訴えた。
まさか、あれを見たら・・
「君島さん。見ちゃダメだ!」松村が叫んだ。「あれを見ると、体を動かせなくなる」
催眠を仕掛ける本体が、あの異形のものだったんだ。
あれが体内に入っている者、あの男女や、松村、佐々木は他者に催眠をかけることができる。
松村は僕の推測を補足するように、
「あいつらの目・・そして、体内にあるものを見ると、体を動かせなくなったり、相手の言いなりになったりする」
つまり、あれを見たり、あいつらの目を見なければ、催眠にはかかからない。
しかし、君島さんは見てしまった。僕も見たが、僕はかかっていないようだ。
「どうしよう・・屑木くん・・」君島さんが泣くような声で言った。
しかし、何か方法あるはずだ。
そう考えている間にも、男が、
「おまえの彼女を・・俺の女の方に行かせてやるよ」とあざ笑うように言った。
その言葉には嘘はなかったようだ。
「や、やだ・・足が勝手に・・」
君島さんは、僕の体から離れ、女の方に向かって歩き始めた。
僕は「君島さん、行っちゃダメだ!」と手を掴んだ。しかし、想像以上の力で僕の腕は振り解かれた。
まるで、君島さんの体を別の何かが動かしているように。
そんな僕らのやり取りを見ながら、男が、
「おい、お前ら。俺たちに催眠をかけたといい気になっているだろ」と言った。
男に合わせて女が、「あんたたち、まだ血があるじゃない」と松村と佐々木を見ながら言った。
松村や佐々木に血がある・・僕と君島さんと同じように・・
僕は松村に「そうなのか?・・血があるのか?」と尋ねた。
「ああ、血はあるさ・・屑木や君島さんとの違いは、俺と佐々木の体の中には『あれ』が入っている・・そういうことだ」
松村の言葉が終わらぬうちに、女が、
「だから、その残りも一滴残らず、全部、私が吸い取ってあげるわ」と叫ぶように言った。
そのまま女は天を仰ぎ見た。月を見るように顔を上げ、そして、口を大きく開けた。
「んあああっ」女の口が大きく開いた。
顎が外れているのではないかと思うくらいに開き切った。
松村が言っていた・・体が柔らかく・・いや、骨がやらかく、と。
あいつら、骨を自由に折り曲げられるのか?
んごっ、んごっ、と女の意味不明の声が洩れたかと思うと、
女の口元に、舌であるはずの部位が垂れ下がり出てきた。
舌の代わりに、女の体の奥底から出てきたのは、さっき楽器のケースから這い出てきたような、『あれ』の小型版だった。
小型と言っても女の口を壊してしまうくらいの大きさだ。しかも、それには小さな蛙のような手が点いている。手は女の口の端を支えにして這い出ようとしている。
「はあああっ」大きな息を吐いたようだ。まるで人間の呼吸のように。
「ひいっ」君島さんの細い声が上がった。「や、やだ・・気味が悪い」
あれが、直接、僕たちの血を吸うのか?
女が、口を使って血を吸うのではないのか? それが本来の吸血鬼というものだと思っていた。
そんな僕の疑問を解消するように、松村が言った。
「あれは、移動体なんだ。あれの本体は屋敷の中だ」
「ケースから這い出てきたのがいたぞ・・あれが本体か?」
僕がそう言うと、
「それは、僕は見ていないが、要するに本体は人間のサイズだ」と松村は答えた。
人間のサイズ・・それは人間のようなもの。
「松村・・お前は、あれが血を吸う、と言っていたよな?」
「そうだ・・あれが血を吸うんだ」
「それなら・・屋敷の大きな奴も、女の口からはみ出ているのも血を吸うのか?」
僕がそう訊くと松村はそこまでは知らないのか、言い澱んだ。
すると今度は、男の方が笑いながら、
「俺たちは、口から血を吸う・・だがな、それだと、けっこう要領が悪いんだ。時間もかかる」と言った。
「ほら・・見てみろ・・『これ』を使えば、まとめて大量の血を吸い上げることができる」
得意気に言う男の口からも、あのねっとりした物が出かかって左右にふるふると動いている。まるで獲物を探しているかのようだ。
「こいつを人間の口の中に差し込めば、ものの数分で血を全部吸い上げることが出来る」と誇らしげに説明した。
「だが、これは小さくて、本体ほどには吸引力がない・・離れている人間の血は吸うことが出来ないんだ。だから、催眠を使って相手を引き寄せるんだよ」
そういうことか、
屋敷で見た白山あかねから飛び出た血も、さっき佐々木から吹き出した血も、強い吸引力があるから出来たということか。
だが、こいつら男女の中にある「あれ」は小さくてそんな芸当はできない。対象の人間の口の中に入れなければ吸えない。
ならば、こっちは催眠にかからないようにして逃げるだけだ。
そんな状況の中、松村は、
「屑木・・早く行け! ここから出るんだ」と叫んだ。「君島さんを頼んだぞ」
「松村、わかった」
仕方ない。本当は松村と佐々木を置いて僕だけが逃げるわけにはいかない。
だが今の僕には君島さんという守らなければならない女の子がいる。
君島さんが僕にすがり、
「屑木くん・・あ、あれ・・」と女から出てくる異体を指した。
女の口から這い出た物は夜の空に昇るように出たかと思うと、今度はズルズルと垂れ下がりながら出続けている。
「君島さん、わかってる・・だから、あれから逃げるんだ。あいつが、僕らの血を吸うんだ」
その時、君島さんの異変を感じた。
「あ、あれ?・・屑木くん・・私、体が動かない」全身をビクビクと震わせながら君島さんが訴えた。
まさか、あれを見たら・・
「君島さん。見ちゃダメだ!」松村が叫んだ。「あれを見ると、体を動かせなくなる」
催眠を仕掛ける本体が、あの異形のものだったんだ。
あれが体内に入っている者、あの男女や、松村、佐々木は他者に催眠をかけることができる。
松村は僕の推測を補足するように、
「あいつらの目・・そして、体内にあるものを見ると、体を動かせなくなったり、相手の言いなりになったりする」
つまり、あれを見たり、あいつらの目を見なければ、催眠にはかかからない。
しかし、君島さんは見てしまった。僕も見たが、僕はかかっていないようだ。
「どうしよう・・屑木くん・・」君島さんが泣くような声で言った。
しかし、何か方法あるはずだ。
そう考えている間にも、男が、
「おまえの彼女を・・俺の女の方に行かせてやるよ」とあざ笑うように言った。
その言葉には嘘はなかったようだ。
「や、やだ・・足が勝手に・・」
君島さんは、僕の体から離れ、女の方に向かって歩き始めた。
僕は「君島さん、行っちゃダメだ!」と手を掴んだ。しかし、想像以上の力で僕の腕は振り解かれた。
まるで、君島さんの体を別の何かが動かしているように。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
JOLENEジョリーン2・かごめは鬼屋を許さない また事件です『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。
尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
怖いホラーです。残酷描写ありです。
苦手な方は御注意ください。
完全フィクション作品です。
実在する個人・団体等とは一切関係ありません。
ジョリーン・鬼屋は人をゆるさない
の続編になります。不定期連載になる予定、少々お待たせします。
もしよろしければ前作も
お読みいただけると
よくご理解いただけると思います。
応援よろしくお願いいたします。
っていうか全然人気ないし
あんまり読まれないですけど
読者の方々 ありがたいです。
誠に、ありがとうございます。
読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。
もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる