血を吸うかぐや姫

小原ききょう

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景子さんと箱ブランコ①

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◆景子さんと箱ブランコ

 幽霊屋敷に行くという約束の前日、
 学校の帰りに委員長の神城と佐々木と喫茶店に入った。
 神城涼子に誘われたからだ。
「神城の奢りか?」と僕が訊ねると「割り勘よ」と強く言われた。
「だって、今度の金曜のことだからよ」と神城は強く言った。
 喫茶店で神城と佐々木と向い合せに座ると、
 神城が「お母さんに『あんな所に行かない方がいい』って、そう言われたのよ」と言った。
「おい、お母さんとかに言ったのかよ。子供同士でその程度の場所に行くのに親の承諾がいるのか?」そう僕が言うと神城は、
「そうは言うけど・・うちの両親は厳しいのよ」と答えた。
 横の佐々木奈々も「そうなんですよ。涼子ちゃんの家は厳格な家なのですよぉ」と茶化したように言った。
 僕が「じゃあ、神城は行かないんだな?」と問うた。第一、言いだしたのは神城本人だ。
 僕がそう言うと神城は、
「屑木くん。話は最後まで聞いてよ」と剣幕顔で言った。神城が少々怒りっぽい。
「男の人がいるっていうことで、両親とも許可が出たのよ。つまり屑木くんの同行が条件ってこと」
 なんだ、まわりくどい。「僕は行くって言っているじゃないか」
 佐々木が「涼子ちゃんとしては念を押しているつもりなのよ」と冷やかすように言った。

 そんな話をしながら、神城は、
「元々、言いだしっぺは、私なんだけど・・」と言って口ごもり、
「ちょっと・・不気味じゃない? 最近、変なことばかり起きるし」と話を切り出した。
 佐々木も「そうですねえ。物置の件といい、保健室での出来事といい、気味悪いですよ」と声を揃えた。
「奈々から、保健の吉田先生の顔が腐ってた・・なんて変なことを聞かされるし」
 神城の言葉に佐々木が「そうそう」と頷いた。
「実は僕も見たんだ・・」
「ええっ、屑木くんもなの?」
 神城は保険室には行っていない。
「ほんの一瞬だった気がするけど、あの保険の吉田先生・・の顔、確かにおかしい」
 僕の言葉を追うように佐々木が「顔だけではなくて、あの先生、妙に色っぽいんですよ。男が見たら、もう絶対に誘われるっていうか・・」と述べた。
 神城は首を傾げ「あの先生、そんなに色気があったかしら?」と言った。
 そう疑問を投げかけられるとわからなくなるが、吉田先生の顔が腐っているように見えたことは事実だ。

 しかし、その話と今度の金曜日の話とは訳が違う。
「その話と、今度の金曜、あの屋敷に行くこととは関係ないだろ」と僕は言った。
 あの屋敷はただの大学生の部活の物置だ。
 たまたま松村の顔ががらんどうに見えたのが、松村が屋敷に行った翌日だというだけだ。
 それに屋敷には佐々木奈々も行っている。佐々木には何の異常も見られない。元々明るい性格が更に好奇心に満ち溢れた女の子になっているくらいだ。

 神城は「そうよねえ。あの幽霊屋敷と大崎先生のことは関係ないわよね」と自分に言い聞かせるように言った。
 佐々木は「・・ですけど、伊澄さんて、謎ですよね」と切り出し、
「伊澄さんが住んでいる所・・誰も知らないそうですよ」と言った。
 神城は「そんなのありえないでしょ」と応え、神城は
「伊澄さんの信奉者も多いけど、生徒の中には反感を持っている人も多いらしいわよ」と言った。
 僕は「それって、やっかみ・・女の嫉妬じゃないのか? 男子が自分の方を振り向いてくれないことから来る反感だろ」と論じた。
 すると、佐々木が周りの様子を伺いながら小声で、
「クラスの一部の女子が、伊澄さんを懲らしめる」とか息巻いているのを耳に挟みましたよ」と言った。
 神城は「でも、伊澄さんって、何も悪いことはしてないし、その女の子たち、何を怒っているのかしら?」と疑問を呈した。「その子たちが、ただ伊澄さんが綺麗なだけでそう言っているのなら、屑木くんの言う通り、ただの嫉妬よ」

 嫉妬・・
 嫉妬は醜い・・
 そんな感情は不要だ。
 なぜかその時、そんな言葉が浮かんだ。
 そして、伊澄瑠璃子が言っていた言葉・・
「私は・・汚らわしいものが大嫌いなのよ」その言葉が同時に想起された。


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